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海外競馬情報
2008年12月19日  - No.24 - 4

マグナ社、金融危機のあおりを受け苦境に(アメリカ)【その他】


 サンタアニタ競馬場は、壊れやすい楽園であり、間違いなく破産寸前の状態である。ガルフストリームパーク競馬場も破産寸前であり、ピムリコ、ローレルパーク、ゴールデンゲートフィールズ、シスルダウンズ、ポートランドメドウズ競馬場も同様である。これら7つのサラブレッド競馬場は北アメリカで最大の競馬場運営会社の1つであるマグナエンターテイメント社(Magna Entertainment Corp.: MEC)が所有している。

 MECの財政は危機的状態を超えている。崖っぷちに指のつめだけでしがみついている様な状況である。その指のつめとは、76歳のMEC創始者フランク・ストロナーク(Frank Stronach)氏自身である。同氏は、MECの会長および暫定最高経営責任者を務めており、破産には慣れておらず、それを認める用意もできていない。

 これら7競馬場とその他の競馬場は1999年から2002年にかけてMECが買収し、競馬場間にテレビ映像と賭事のネットワークを作って資金を得てきた。これらの競馬場は現在出血多量の瀕死状態で、MECの支援を期待しているかも知れないが、それは望むべくもない。たとえストロナーク氏が死亡証明書を出そうとしなくても危機的状況に変わらない。

 MECの2008年前半の決算内容は、憂慮すべきものだった。MECは純損失額677万ドル(約7億4470万円)を出し、これはここ3年の純損失額3億650万ドル(約337億1500万円)に加算される。累積赤字額は5億7780万ドル(約635億5800万円)に達し、資本の欠損は1億5110万ドル(約166億2100万円)となる。決算報告書の備考には、「当社は営業損失の発生が続いている」と記されている。

 MECは今後1年以内に支払期限が来る負債2億2980万ドル(約252億7800万円)を抱え、その資金繰りに苦しむことになる。決算報告書の備考には、「結論として、MECの事業継続能力には大きな疑問がある」と記されている。未払い負債の平均金利は14.5%であり、利子を支払うだけでも大きな負担となる。

 9ヵ月前の2007年9月に、MECは2008年末までに負債総額を返済することを目的とした野心的な負債削減計画を決定した。これは、資産売却および、競馬、賭事、技術事業の分野の広汎な戦略的取引による収入増加策を内容としている。

 MECのこの計画は国際的な金融危機と迫り来る不況によって目標達成がさらに困難になった。2008年8月までに、売却された資産はたった3800万ドル(約41億8000万円)であった。MECの経営陣は、「米国の不動産市場と金融市場の混乱がすでに我が社の負債削減計画の実行に悪影響を及ぼしています。当初のスケジュールどおりに計画が実行できるとはほとんど期待していません」と述べた。

 もはや負債を減らすどころではなく負債が増え続ける事態に陥っている。MECはさらに借入れを増やす必要があり、破産が目前に迫っている。MECの経営陣は、「もし債権者との交渉が失敗に終わったなら、当社は会社更生手続に入らざるを得ず、事業継続能力を失い、MECの株は紙屑になります」と述べた。

 サンタアニタ競馬場でのブリーダーズカップ開催9日前の10月15日、MECは現在の借入契約に関して債権者との交渉を経た修正案を発表した。モントリオール銀行は手数料40万ドル(約4400万円)で与信枠4000万ドル(約44億円)の有効期限を10月15日から11月17日までに延期することに同意した。MECの支配株主であるMIディベロップメンツ社(MI Developments Inc.: MID)の子会社からのつなぎ融資の与信枠は、1億1000万ドル(約121億円)から1億2500万ドル(約137億5000万円)に拡大された[手数料125万ドル(約1億3750万円)]。また、すでに返済した約450万ドル(約4億9500万円)が追加融資に回されることになった。

 つなぎ融資の返済日は、10月31日から12月1日に延期された。最後に100万ドル(約1億1000万円)の手数料[ガルフストリームパーク競馬場の開発に関係する負債1億ドル(約110億円)]の返済日もまた、10月31日から12月1日に延期された。

 もうしばらくの間うまく支払いを延ばすということは、費用(手数料)のかかる行為である。一方、トロント証券取引所ではMECの株価は暴落した。ブリーダーズカップの開催日の終値は1.61カナダドル(約136.85円)であったが、2ヵ月ほど前には、MEC株は8カナダドル(約680円)以上で取引していたし、1年前においては54カナダドル(約4590円)以上で取引されていた。

 このつなぎ融資の拡大や返済期限の延長を知った一部のMIDの株主は、堪忍袋の緒が切れた。MIDのA種株の8.5%を有している民間投資信託ファラロン・キャピタル・マネージメント社(Farallon Capital Management: FCM)は、MIDの理事会に怒りの書簡を送付し、米国証券取引委員会にそのコピーを提出した。

 書簡には次のように記されている。「MIDの経営陣がMECへのつなぎ融資の返済期限を延長したことは、株主から経営を受託した者としての義務に違反していますつなぎ融資の返済期限の延長を経済的に正当化することはできませんし、追い貸しするなどもってのほかです。MECは以前から資金流失の元凶であり、現在もそうであり、これからもあり続けるでしょう。破綻に瀕している競馬事業への融資を是認する理由はありません」。

 FCMはMIDの理事会を、一般株主の利益を無視し、ストロナーク氏の機嫌をとることにしか関心がないと糾弾した。FCMは、経営が拙劣で破産寸前の会社を支援することにうんざりしている。書簡は、ストロナーク氏が暫定最高経営責任者として経営する間に、MECは純資産の95%を失ったと主張した。

 書簡は次のように締めくくられていた。「あなた方は、ストロナーク氏に利己的な策を講じるのは終わりだと伝えなければなりません。今こそあなた方が取締役として経営者責任を果たすときです。もしそれをしないのであれば、FCMは株主として可能なあらゆる法的手段を行使するつもりです」。

 ストロナーク氏を糾弾するとは大胆である。ストロナーク・トラスト社(Stronach Trust)はマグナ・インターナショナル社(Magna International Inc: MII)を管理下においており、MIIの完全な子会社MIDはMECの支配権を有している。

 MECは財政困難のまっただなかにあるが、ストロナーク氏は裕福で意志の強い人である。世界最大の自動車部品製造会社の1つであるMIIは2007年、23ヵ国で8万人を雇用していた。MIIの創始者で会長のストロナーク氏は、合計7000万カナダドル(約59億5000万円)以上の報酬を受け取っている。

 オーストリア出身の起業家であるストロナーク氏は、数々の競馬場を所有し、またそれに見合う規模でサラブレッドを生産し競走させている。同氏が所有する アデナスプリングス牧場(Adena Springs stud)は、オウサムアゲイン(Awesome Again)やエルプラード(El Prado)を含む19頭の種牡馬を繋養している。2007年、同牧場は4年連続で北米最優秀生産者としてエクリプス賞を獲得した。

 ストロナーク氏は馬主として、ブリーダーズカップ競走を5回制しており、オウサムアゲインは1998年に、ゴーストザッパー(Ghostzapper)は2000年にBCクラシックを制している。1998〜2000年のリーディングオーナーである同氏は200頭以上の現役馬を所有しており、今年はすでに100レース以上を勝っており、600万ドル(約6億6000万円)の賞金を獲得している。

 ストロナーク氏はMECの破綻によって自分の名声に傷がつくことを望んではいないだろうが、ただならぬ経済不況のこのご時勢において、いつまで破産せずに持ちこたえられるのだろうか?自動車産業は苦境にあり、MIIも苦しんでいる。1年前にMIIの株はニューヨークの証券取引所で100ドル(約1万 1000円)で取引されていた。ブリーダーズカップ開催日には、それは31ドル(約3410円)となっていた。MECを支え続けることはもうすぐ、ストロ ナーク氏でさえもその費用を都合できなくなるかもしれない。

By David Ashforth
(1ドル=約110円)(1カナダドル=約85円)

[Racing Post 2008年10月29日「Crunch time for Santa Anita as financial turmoil bites deeper」]


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