フランス競馬界が欧州共同体への政治的働きかけを主導(欧州)【開催・運営】
2007年秋パリで、ヨーロッパ競馬界の未来に関する円卓会議が、フランスの競馬関係団体のリーダーの提唱により催された。この流れを受けて、フランスの元司法大臣で欧州議会の議員ジャック・トゥーボン(Jacques Toubon)氏と欧州人民党・欧州民主主義者(Parti Populaire Européen et des Démocrates Européens)の党首であるヨセフ・ダウル(Joseph Daul)氏の働きかけにより、2008年3月6日ブリュッセルで民間会合が開催された。この会合には、ヨーロッパの12の競馬国を代表するおよそ100名が出席した。
この会合では、午前中に行われた討議の末にまとまった共同宣言案が採択された。共同宣言の起草は、決して容易な作業ではなかった。というのは、ブックメーカーと共存することに慣れているイギリス・アイルランドの競馬界のリーダーと、何かにつけてパリミューチュエル制度の利点を強調し、絶対視するフランスおよび北ヨーロッパの競馬界のリーダーが、意見の一致を見ることは常に難しいからである。
フランス2名、ドイツ、イギリス、アイルランド、スイス、スペイン、ノルウェー、スウェーデン各1名の発言によって各国の立場の多様性があらわになった。どの意見も自国の現状を踏まえたもので、議論は多岐にわたった。
ドイツは、ブックメーカーが競馬を衰退させた例である。
競馬の基礎は強固であると確信しているイギリスとアイルランドは、現実的な立場をとり、“賭事を提供する者は誰でも、競馬界に対してその発展と公正を維 持するために利益を還元しなければならない”ということは認めるものの、ブックメイキングとパリミューチュエル制度について良否を判定しようとはしない。
フランスのベルナール・フェラン(Bernard Ferrand)氏とポール・エサルシアル(Paul Essartial)氏の意見は、イギリス・アイルランドとはまったく反対である。フェラン氏は次のように断言した。(1) フランスのモデル(パリミューチュエル)は “競馬界全体の規制、組織、保安、そして資金確保”を確実に実施でき、その規模はどの近隣諸国もうらやむほどである。(2) したがって、“欧州共同体の補完性の原則(註)のもとでは、パリミューチュエル制度を改めて議論する余地はない”。
また、エサルシアル氏の意見は、次の通りである。“ヨーロッパが一定の秩序の下にまとまり、賭事が一定の枠組みの中で行われるという条件が満足されては じめて”、賭事市場を開放することができるのであり、“さもなければ、競馬の伝統は消滅の危機にさらされるだろうし、再び作ることはできない”。
スイスのジャン=ピエール・クラッツァー(Jean-Pierre Kratzer)氏は、“どの競馬団体にも公平な利益がもたらされるような国際協定の必要性”を論じた。
スペインのフェルナンド・メルキオール(Fernando Melchior)氏は、大小を問わず競馬国間の“連帯”を繰り返し主張した。
北ヨーロッパの代表者たちもまた、フランスを模範例としてパリミューチュエル制度を擁護した。
しかし、“問題は地球規模であり、物事はとてつもない速さで進化している”ので、競馬界のリーダーたちはそれに対応して団結しなければならない。
ジャック・トゥーボン氏が結論として“最初のステップである”と述べたように、今回の共同宣言には、枠組みらしきものが現れたにすぎない。また、共同宣言は、イギリス・アイルランドを敵に回さないよう慎重に配慮され、ブックメイキングに対してパリミューチュエル制度を優先させることはなかった。また、この会合の主催者は、出席者全員に“対話の継続”を、フランスにはもっぱらフランス的な考え方に固執しないよう強く勧告した。
会合の終わりに欧州議会の議員たちは、欧州委員会に対して競馬界の特殊性を再認識させるためには、ヨーロッパ競馬界の代表者たちが結束し、主張すべきであると勧告した。互いに譲歩すれば、競馬界と欧州委員会は何らかの合意点に達することができるだろう。
欧州平地競走調教師会の会長であるクリスチャン・ヘッド=マアレク(Christiane Head-Maarek)氏が、この討議を締め括り、採択された共同宣言を読み上げた。共同宣言は以下のとおりである。
私たちは、欧州議会、欧州理事会および欧州委員会に対し、早急に以下のことを保証するため、明確かつ首尾一貫した法的・規制的枠組みをつくる必要性を認めるよう要求します。
1.賭事からその事業を支えている競馬への公平な利益の還元 2.競馬と競馬賭事の公正の保護 私たちは欧州委員会が、ヨーロッパ競馬界と連携し、この観点から確固とした政策を立案することを要求します。 メンバー国に対してその個性を生かした賭事を保証するため、補完性の原則に従った法的枠組みをつくることを要求します。
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(註)欧州共同体は、各加盟国より与えられた権限のみを、欧州共同体条約が定める条件に従い行使しうる。欧州共同体に権限が完全に 委譲していない政策事項について、欧州共同体が権限を行使しうるのは、(1) 各加盟国が実施するのでは欧州共同体の政策目的が十分に達成されない場合、かつ、 (2) 措置の規模または効果の面で、欧州共同体が実施する方がより良い成果が得られると考えられる場合に限られる。これを「補完性の原則」という。
François Hallopé
[Paris Turf 2008年3月9日「Quand la filière hippique fait de la politique」]