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2009年06月19日  - No.12 - 1

ダート馬場と人工馬場、どちらがより安全か(アメリカ)【その他】


 サラブレッド産業最大の課題は、競走馬の安全性の向上にある。敷設費が1000万ドル(約10億円)と言われる人工馬場はその答えになるだろうか。

 メディアがバーバロ(Barbaro)とエイトベルズ(Eight Bells)の死を取り上げて以来、サラブレッド競馬史上かつてないほど、馬の安全性をはじめ、この産業のほとんど全ての側面が公の目に曝されることとなった。

 確かに、ここ5年間における競走馬の安全性向上に関する最も重要な展開は、北米の主要な競馬場に人工馬場が敷設されたことである。

 2007年12月、本誌は人工馬場に関する特集を掲載した。当時最大の問題は“人工馬場はダート馬場より安全か否か”という点であった。この問題は 2007年の時点でも重要であったが、それ以降なお一層重要性を増してきている。そこで本記事では、ダート馬場対人工馬場の論争について最新の分析を示 し、“ダート馬場と人工馬場、どちらがより安全か”という疑問に対する回答を試みた。


人工馬場の種類

 芝馬場は別として、現在北米のサラブレッド競馬場と調教センターに敷設されている馬場の種類は、ダート馬場と人工馬場である。北米では競走の大部分がダート馬場または人工馬場で施行されるので、芝馬場はほとんど論争の対象にならなかった。

 人工馬場は、伝統的なダート馬場に替わる人工素材を使った馬場を言い表す“包括的用語”である。現在、人工馬場には4つの主要ブランド、すなわちポリト ラック(Polytrack)、クッショントラック(Cushion Track)、プロライド(Pro-Ride)およびタペタ・フッティングス(Tapeta Footings)がある。それぞれが天然原料と合成原料を特定の割合で混合した素材でできている。北米にはそれぞれのタイプの人工馬場が存在する。


ポリトラック

 この特許取得済みの全天候型馬場は、合成繊維(カーペット繊維と再生ゴム)を天然ケイ砂に混合し、微結晶ワックスをコーティングした素材でできている。 ポリトラック馬場には、現在のところ、ポリトラック・クラシック(Polytrack Classic)、ポリトラック・エリート(Polytrack Elite)、ポリトラック・プレミアム(Polytrack Premium)という3種類のブレンド法がある(後者2つはクラシックの処方と類似するが、ケーブル被覆材などの混和物を含む)。ポリトラックは 1987年に初めてイギリスで敷設された。キーンランド競馬場(調教馬場)とターフウエイパーク競馬場はそれぞれ2004年と2005年に北米におけるポ リトラック敷設の先陣を切り、その後アーリントンパーク競馬場、デルマー競馬場、キーンランド競馬場(本馬場)、ウッドバイン競馬場が続いた。


クッショントラック

 クッショントラックは、20年以上前に設立されたイギリスを本拠とするグループが製造・敷設する人工馬場で、伸縮繊維、ポリエステルおよびポリプロピレ ンからなる合成繊維を高性能の精製ケイ砂に混合し、特殊ワックスコーティングした素材でできている。メーカーによれば、クッショントラックはキックバック (砂の跳ね上げ)が少なく、足がかり(footing)が良く、蹄をサポートし、毒性はなく、メンテナンスは最小限で済む。芝馬場にも引けを取らない。し かし、サンタアニタ競馬場とハリウッドパーク競馬場はともに2007年にクッショントラックを敷設したものの、サンタアニタでは排水問題が解決せず、特注 のクッショントラック馬場[華氏100度(摂氏37.7度)を超す気温に耐えるように設計されていたのが災いしたとされている]を撤去する事態にいたっ た。


プロライド

 プロライド・レーシング社(Pro-Ride Racing)はオーストラリアの会社である。1998年以来、全天候型の人工馬場プロライドを敷設してきた。プロライドは、砂、特許高分子接着剤、およ び“PR 緩衝材”を混合したものである。同社によれば、“PR 緩衝材”は、緩衝段階と支持段階のクッション技術によって蹄の踏着を安定させ、馬の走り全体を安定させる。サンタアニタ競馬場では、クッショントラックに 代えて2008年に敷設されたプロライドが、人工馬場で初めて施行されたブリーダーズカップ・ワールドチャンピオンシップ(Breeders’ Cup World Championship)を支えた。


タペタ・フッティングス

 タペタ・フッティングスはマイケル・W・ディキンソン(Michael W. Dickinson)調教師が考案した特許全天候型馬場である。砂とゴムに繊維を混ぜ、それを馬場表層を損なうことなく排水するホットワックスでコーティ ングした素材でできている。メーカーによれば、馬場表層は極めて安定的で、馬の前肢の衝撃を緩和する一方で、同時に後肢をサポートし、馬が蹴りだすための 十分な足がかりを可能にする。どの学術誌にもまだ掲載されていないようだが、タペタ・フッティングス馬場の研究が、マサチューセッツ工科大学 (Massachusetts Institute of Technology) 電気工学・コンピュータサイエンス学部名誉教授のジョージ・プラット(George Pratt)博士によって行われた。研究報告によれば、(メーカーのウエブサイト上で報告されているように)馬が受ける衝撃はタペタ馬場ではダート馬場に 比べて50%少ない。カリフォルニア州バークレイにあるゴールデンゲートフィールズ競馬場と、ペンシルバニア州エリーにあるプレスクアイルダウンズ競馬場 がタペタ・フッティングスを敷設している。


なぜ人工馬場に転換するのか

 保守管理不要という触れ込みが、経済的利益の面から人工馬場への転換を決断する際に重要な動機になったことは間違いない。とはいえ、競走馬の安全の方がはるかに大きな原動力であった。

 カリフォルニア州では2003年から2006年にかけて、ダート馬場での予後不良事故率が40%増加する一方で、ターフウエイパーク競馬場では、2005年に北米で初めて本馬場に人工馬場を敷設した後、予後不良事故率が85%減少した。

 カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board: CHRB)馬医療担当理事のリック・アーサー(Rick Arthur)博士の主張によれば、経済性と安全性という2つの要素が、CHRBの2006年2月の決定(人工馬場の敷設を義務づける決定)の原動力で あった。具体的には、CHRBはこの決定において、カリフォルニア州で4週以上連続で開催運営しているすべての競馬団体に、2007年末までに人工馬場を 敷設するよう義務付け、従わない場合は開催させないと宣言した。

 だが、人工馬場は本当に安全なのだろうか。


カリフォルニア州の経験

 人工馬場での競走が本当にダート馬場より安全性が高いと思うかと問われ、アーサー博士は、「はい、絶対的にそうです」と答えた。

 カリフォルニア州で人工馬場を敷設する前と後の競走馬の安全性を比較するために、アーサー博士はカリフォルニア州における競走中の予後不良事故について2004年以降の最新データを示した。

 「カリフォルニア州では競走中の予後不良事故率は、2004年から人工馬場の敷設まで、延べ出走頭数1000頭あたり3.09件でしたが、人工馬場敷設 後は1.87件まで減少しました。しかも、カリフォルニア州では、競走中の予後不良事故率は敷設した人工馬場のブランドにかかわらず低下しました」。

 アーサー博士によれば、このデータは2008年末までの数字である。

 アーサー博士はまた、2008年12月末から2009年2月7日まで、サンタアニタ競馬場では競走中の予後不良事故率がゼロであったことも付け加え、 「ブルーエグジット(Blue Exit)の事故は、サンタアニタの人工馬場で延べ出走頭数が3000頭を超えて起きた初の予後不良事故でした。この事故は米国の全ての競馬場の安全性の 度合いについて強い関心を集めました」と述べた。これは延べ出走頭数1000頭あたり0.33件以下の予後不良事故率に相当する。また、同博士は「この確 率はヨーロッパの水準に匹敵するものです」と強調した。アーサー博士が言及したブルーイグジットは4歳の鹿毛牡駒で、3月7日のサンタアニタ・ハンデ キャップ競走(G1)で故障した後に安楽死処分となった。


ニューヨークはダート馬場安息の地

 カリフォルニア州およびその他の州で人工馬場に切り替えた後、競走中の予後不良事故率が劇的に低下したのを見ると、何故どの競馬場も費用をいとわず人工馬場を敷設しないのだろうか。

 人工馬場がダート馬場より安全性が高いという説は、いまだ確証は得られていない。これがその疑問を解く鍵である。

 ニューヨーク競馬協会(New York Racing Association)の副理事長で競走担当理事のポール・J・カンポ(Paul J. Campo)氏は、本誌に次のような統計数値を示した。

 

  1. 2007年: 延べ出走頭数1万8158頭あたり予後不良事故33件(延べ出走頭数1000頭あたり1.8件)
  2. 2008年: 延べ出走頭数1万8772頭あたり予後不良事故24件(延べ出走頭数1000頭あたり1.3件)
  3. 2009年1月1日〜3月31日: 延べ出走頭数4330頭あたり予後不良事故10件(延べ出走頭数1000頭あたり2.3件)

 この事故率はすべてダートでの競走から計算されたもので、人工馬場で報告されているカリフォルニア州の事故率(2008年、延べ出走頭数1000頭あた り1.87件)に近い。したがって、この数字だけ見れば、これまでのダート馬場も人工馬場と同じくらい安全であるとも考えられる。

 だが、コロラド州立大学の整形外科研究センター(Orthopaedic Research Center)のC・ウエイン・マキルレイス(C. Wayne McIlwraith)博士の意見は異なる。

 「利用できるデータ(母集団)はあまり多くありませんが、収集されたデータを見る限り、人工馬場では予後不良事故率が低下しています。しかし、人工馬場、気象条件、メンテナンス、調教場所など各要因に差異があるので、簡単に分析できないのです」と述べた。


全国版の故障データ

 フロリダ州のコールダー競馬場およびガルフストリーム競馬場の元上級獣医師で、現在はケンタッキー州競馬統括機関(Kentucky Horse Racing Authority)馬医療担当部長のメアリー・スカレー(Mary Scollay)博士は、2007年に30競馬場から収集したデータを、2008年3月レキシントンで開催された競走馬福祉・安全サミット (Welfare and Safety of the Racehorse Summit)で発表した。

 この会議でスカレー氏は、現時点におけるデータから明らかになった予後不良事故率は、人工馬場で延べ出走頭数1000頭あたり1.47件、ダート馬場で延べ出走頭数1000頭につき2.03件であると報告した。

 この結果は、これまでに学術専門誌に公表された予後不良事故率(低いもので延べ出走頭数1000頭あたり0.44件、高いもので延べ出走頭数1000頭あたり2.36件)とほぼ同じ水準である。ただし、この研究では馬場の種類は具体的に触れられていない。

 2008年7月ジョッキークラブ(Jockey Club)は故障報告データベースを引き継ぎ、馬故障データベース(Equine Injury Database)を正式に立ち上げた。ジョッキークラブの企業広報担当副理事長ボブ・カラン(Bob Curran)氏によれば、このデータベースの目標は次の3点となる。

 

  1. 有効な統計が得られるように、統一フォーマットを使い、競走中の故障の頻度、種類、結果を調査すること
  2. 故障のリスクが高い競走馬のもつ特性を突き止めること
  3. 安全性の向上と故障の防止を目的とした研究のためのデータソースとしての役割を果たすこと

 2008年4月、カラン氏は本誌に対して、データは2008年には利用できず、“統計学的に有意な期間”が経過した後に初めて公表されるだろうと述べ た。[訳注:有意とは確率的に偶然とは考えにくく、意味(差)があると考えられること。その際、一定の母集団が必要とされる]

 ほぼ1年後の2009年3月24日、カラン氏は「まだデータを収集している過程にあり、十分なデータが収集されるまでデータの公表はしません」と語った。

 カラン氏はデータがいつ利用できるようになるか推測は差し控えたいとし、代りに、現在北米で施行されている開催日の83%を占める78の競馬場が馬故障データベースに参加していることを強調した。

 参加している競馬場のリストはwww.jockeyclub.com/initiatives.asp?section=2で入手できる。

 スカレー氏は、「ダート馬場と人工馬場の予後不良事故について、正確な最終結論を出すためには、競馬場がデータのすべてを慎重に収集し分析することが肝要です」と述べた。


人工馬場への不満

 “大いなる疑問”に絶対的回答がない状態で、メンテナンス問題だけでなく、人工馬場の事実上すべての面に関して不満が積している。

 カリフォルニア州サラブレッド調教師協会とイアン・ピアース(Ian Pearse)氏(プロライド社の設立者)およびアーサー博士の要請により、2009年3月にサンタアニタ競馬場で開かれた会議で、調教師たちは人工馬場 の安全性の問題に懸念を表明した。数人の調教師は重大な事故もそうでないものも含め、カリフォルニア州に人工馬場が敷設されて以来、故障が劇的に増加した と述べた。その一方で、人工馬場はより安全であり、人工馬場に反対する人たちはダート馬場で発生した故障の数と深刻さを“忘れている”と主張する調教師も いた。さらに、重大な事故もそうでない故障も、件数は変わっていないという意見もあった。

 ミネソタ州セントキャサリン大学(College of St. Catherine)の社会学教授ナンシー・ハイツエグ(Nancy Heitzeg)博士によれば、人工馬場は軟組織と後肢の故障が増加する一因であると示す事例的な証拠が存在するという。

 ハイツエグ教授は、フォー・イネスペラド・トラック・ウォッチ(For Inesperado Track Watch 日常的にあらゆる競馬場の競走チャートを追跡記録し分析するボランティアグループ)の代弁者の役割を果たしている。

 調教師、ハンデキャッパー、反対論者が一様に挙げたこれらの懸念は、北米での人工馬場の敷設が行き詰まり状態になっているという事実によってある程度裏 付けられる。最初の敷設ブームの後、とりわけサンタアニタ競馬場で発生し、いまだ続いている水はけ問題に直面して、熱意は徐々に冷めているように思われ る。

 トロントのウッドバイン競馬場のジェイミー・マーティン(Jamie Martin)上級副理事長は2008年のインタビューで、「最高で1000万ドル(約10億円)の資金が必要なほか、性能の信頼度が低いことが原因と なって、競馬場運営者は模様眺めの姿勢をとっています」と述べた。


予後不良事故以外の故障率

 予後不良事故が減少する可能性があるほかに、事故の全体数も人工馬場では低下しているように見える。

 マキルレイス博士は、「南カリフォルニア馬事財団(Southern California Equine Foundation)理事長のジェフ・ブレア(Jeff Blea)博士と私は、データを集め、馬がダート馬場で競走した時と人工馬場で競走した時の比較を行い、2008年の第2回競走馬福祉・安全サミットに提 出し、ダート馬場で競走した時に比べて、人工馬場で競走した場合の方が手術、骨のスキャン検査、レントゲン写真撮影の件数に減少が見られることを紹介しま した」と述べた。

 それでもなお、人工馬場では後肢跛行の数が増加することを示す事例的な証拠が存在することをマキルレイス博士は認めている。しかし、この主張を検証できるデータは現在のところ揃っていない。

 サラブレッドの予後不良事故以外の故障という問題への対応の一環として、グレイソン-ジョッキークラブ研究財団(Grayson-Jockey Club Research Foundation)は、一群の馬に発生する故障データを収集するための追跡調査研究(マキルレイス博士とブレア博士が指導)に出資したばかりである。

 マキルレイス博士は、「この研究は馬故障データベースから入ってくるデータの価値を高めるでしょう」と説明し、「予後不良事故に関するジョッキークラブ のデータベースは、開催執務獣医師が記録していますが、彼らはその他の種類の故障についてはフォローアップしていません。毎日厩舎にいて治療活動を行って いる開業獣医師が、予後不良以外の事故に関するデータを個人的に収集し、記録しているのです。開業獣医師のデータが加われば、故障率全体の実情が良く分か るようになり、人工馬場のリスク要素が明らかになるでしょう」と続けた。


馬場のテスト:安全性の比較に関する別のアプローチ

 研究者がダート馬場対人工馬場の安全性の問題に対するもう1つの検討方法は、馬場表層をテストし、蹄と馬場の相互作用に焦点を当てる方法である。

 マキルレイス博士はメイン大学(University of Maine)のマイケル・“ミック”・ピーターソン(Michael “Mick” Peterson)教授(機械工学)とともに、馬場を客観的に評価する装置を開発した。

 これまでの馬場テストによって、この装置が競走馬の安全性向上に重要な役割を果たすものと認められた。以上のようなことから、2回目の競走馬福祉・安全サミットのあと馬場委員会が設置された。

 ピーターソン教授は、「私たちのこれまでの研究結果から、馬場の均一性を維持することが競走馬の故障を減らすための第1段階であると考えられます。馬関 係者たちも賛成しているようです。また、馬場の均一性を正確・適切に測定できる生体力学的テスト方法を開発し、これを利用する必要があります。そうするこ とで、最終的には最適な馬場を開発することができ、どのような天候や使用法でも対応できる管理方法が分かるでしょう」とまとめた。

 この目標を達成する努力の一環として、マキルレイス博士とピーターソン教授は5月2日のケンタッキーダービー(G1)に先駆けて、チャーチルダウンズ競馬場に入り馬場をテストする。

 マキルレイス博士は、「競走馬の安全性向上に関係者が全力を挙げて取り組んでいます。今回のテストはチャーチルダウンズ競馬場、そして馬産業全体が安全性の向上に取り組んでいることを示す証しなのです」と述べた。

 究極の目標は、大規模な研究を実施して、馬の競走歴を観察し、馬場の影響と競走能力の消耗・喪失との相関関係を明らかにすることである。

 ピーターソン教授は、「馬場の測定と疫学的研究との関連を解明できれば、この取り組みは真に競馬産業と競走馬の健全性に貢献するでしょう」と語った。


最終集計

 特にCHRBは、保守管理の問題だけでなく、人工馬場が馬の故障(予後不良事故およびその他の故障)に与える総合的影響に関して誤った方向に進んだ可能 性もある。しかしその一方で、カリフォルニア州のデータは人工馬場が進むべき正しい道であることを示しているとも考えられる。

 競馬場管理者のなかには新しい人工馬場に数百万ドルも支払うぐらいなら、保守管理の問題が解決するまで待つのが賢明であると信じている人もいるが、アーサー博士はその考えに反対である。

 「カリフォルニア州での人工馬場に関する経験は、競走中の予後不良事故に関する限り良いものでした。しかし、重傷を負った馬に関するデータだけでなく、 もっと多くのデータが必要です。予後不良事故以外の事故と、競走中だけでなく調教中にも発生している故障についても検討する必要があります。馬場の保守管 理と均一性の問題は、昨年冬にサンタアニタ競馬場の開催を中断して行った馬場交換作業のごたごたも含め、欲求不満がつのるものでした」。

 アーサー博士は続けて、「人工馬場での競走を開始して以来、競走中の予後不良事故が顕著に減少したことを示すデータがあります。しかしながら、まだデー タは完全とは言えません。引き続き、競走馬の安全をさらに高める方法を探す必要があります。競走または調教に関連する予後不良事故以外の故障の実際の数に ついて、適切に調査できているか、確信が持てません。またこうした故障のコストが馬産業にどのような影響を及ぼしているかも分かっていません」と語った。


何故データが必要か?

 サラブレッド競馬の安全性は、一定期間内の競走中に起きた予後不良事故数により測定される。しかし、競馬産業と一般大衆(北米での競馬禁止を要求して戦 う動物愛護運動家を含む)は、現状ではそのような情報をほとんど持ってないので、メディアで報道されたような、誤解を招く不完全で断片的なデータに頼り続 けている。

 格好の例は、ニューヨークタイムズ紙(New York Times)の2009年3月19日付ウィリアム・C・ローデン(William C. Rhoden)氏執筆の「競馬界、改革に着手。合法薬物は依然として問題」という記事である。

 この記事において、ローデン氏は2008年11月14日以降ニューヨーク州のアケダクト競馬場で12頭の馬に安楽死措置が取られ、2008年12月下旬以降サンタアニタ競馬場では7頭の馬に安楽死措置が取られたと述べている。

 ローデン氏のように、データの出所を明らかにせず、また延べ出走頭数1000頭あたり競走中の予後不良事故件数のような既存データとの比較もできないの に、競走馬の予後不良事故はとどまる所を知らないという見解を示すのでは、お話にならない。メアリー・スカレー博士が第2回競走馬福祉・安全サミットで紹 介した故障データおよびニューヨーク州とカリフォルニア州が一緒に提供したデータも全く顧慮していない。

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(1ドル=約100円)


[The Blood-Horse 2009年4月25日「Dirt or Synthetic: Which Is Safer?」]


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