明らかになった賭事市場開放に関する法案(フランス)【開催・運営】
賭事市場開放に関する法案が3月25日に大統領臨席の閣議に提出され、エリック・ヴォルト(Éric Woerth)予算大臣の説明があり、そのあと公表された。この法案を読むと、すでに競馬界には明らかにされていた基本原則に加え、いくつかのことが分かる。
- この法律により市場開放の対象となるのは、インターネット賭事であり、その範囲は賭事客の技量(savoir-faire)の影響を受ける(予想をともなう)賭事に限定される。インターネットを利用した宝くじ、スロットマシンなどは対象外となる。(*)
- インターネット競馬賭事の営業は、パリミューチュエル方式で、対象レースの発走前に賭事受付を締め切るものに限り許される。また、営業の対象は規則によりリストアップされたレースとする。
- この法律により新たに独立の規制機関としてインターネット賭事規制機構(l'Autorite de regulation des jeux en ligne: ARJEL)を設立する。(*)
- ARJELに、理事会(college)、懲罰委員会および諮問委員会ならびに必要に応じ専門委員会を置く。
- 理事会は政府と国会が任命する7人の理事で構成する。(*)
- 懲罰委員会は、違反行為の重大性を判定し、警告、賭事免許の有効期間の1年短縮、3ヵ月以下の賭事免許停止、賭事免許の取消しの制裁を科すことができる。
- 諮問委員会は、免許を有するインターネット賭事業者、競馬統括機関(フランスギャロとシュヴァルフランセ)および競馬界の諸団体の代表者で組織する。
- 免許の有効期間は5年間であり、更新できる。免許を取得できるのは欧州連合加盟国内で設立された事業者とする(域外の事業者に支配されているものを除く)。(*)
- インターネット賭事の営業免許をARJELに申請する場合には、事業主(法人にあっては経営者)の住所と身元証明を提出しなければならない。また、刑事罰ないし行政処分に関する経歴情報を提出しなければならない。
- 新規免許申請の手数料は、2000ユーロ(約26万円)以上1万5000ユーロ(約195万円)以下の範囲内で、規則で定める。免許の発行時また は更新時には、1万ユーロ(約130万円)以上4万ユーロ(約520万円)以下の範囲内で規則で定める免許税を支払わなければならない。
- インターネット賭事を運営するには、“fr”で終わるファーストレベルのドメイン名をもつ専用インターネットサイトを設立しなければならない。
- 免許を受けたインターネット賭事業者は、平均払戻し率が国庫納付金[訳注:賭事売上高の7.5% 現行約12%]と運営費を賄えない場合には、顧客に賭事サービスを提供してはならない。
- 免許を受けずに賭事のためにインターネット通信サービスを提供しまたは提案した者は、禁固刑3年および罰金4万5000ユーロ(約585万円)に処する。組織化された集団が違反行為をしたときは、刑を禁固刑7年および罰金10万ユーロ(約1300万円)まで引き上げる。
- 競馬統括機関(フランスギャロとシュヴァルフランセ)は、自身が責任を負っている専門分野(駆歩/速歩)で競馬界全体に対してその義務を果たす。 競馬統括機関は自身が専門とする競馬の施行規程を制定・変更するときは、行政当局の認可を受けなければならない。また、競馬統括機関は行政当局が定めた規 則により免許・登録を行い、薬物規制により競走馬の生産を保護し、競馬の公正を確保するものとする。
[訳注:(*)の付いた段落は、別に発表された予算大臣の説明を当該記事に補足したもの]
言葉の使い分け
3月25日の閣議に、スポーツ賭事および競馬賭事の市場開放に関する法案が提出された。シャンティイ市長で国会議員でもあるエリック・ヴォルト予算大臣 がこの法案作成に取組んだ。出席した閣僚は全員、主として2つの理由でこの法案が競馬界に有利に作用すると認めた。つまり、(1) 競馬賭事についてはパリミューチュエル方式のみが認められること、(2) 財政的な仕組みが現行のものよりも競馬界にとって有利になることである。結果として一部の馬券種類では払戻率を引き上げることが可能になるだろう。
一方、欧州の主要なインターネット賭事業者たちが結成しロビー活動を行っている欧州ゲーミング・賭事協会(European Gaming & Betting Association:EGBA)は法案に驚き、直ちに「スポーツ賭事においては固定オッズ賭事が認められるのに、競馬賭事においてはパリミューチュエ ル方式だけを“フランスの伝統”として認め、固定オッズ方式を禁止しているのは納得できない」と批判した。EGBAはまた、「払戻率に上限を設定すること による賭事客保護効果は証明も是認もされていない」と主張した。
この点については、フランス政府は実際に、賭事客への払戻率すなわち儲けというかたちで再分配される賭金の割合は、賭事依存症や賭事中毒の防止に大きな 効果があると評価している。ということは、払戻率は80〜85%の範囲内で設定しなければならなくなる。現在、フランス場外馬券発売公社(Pari Mutuel Urbain: PMU)の払戻率は78%である。
金融危機が去れば、PMUを含む競馬賭事業者は払戻率の引上げが可能になるだろう。競馬の賭事客にとっては嬉しいことだが、それでは賭事依存症のリスク は軽減しない。それは、「国家が金銭による賭事・ゲーミングに介入する目的は、その需要と供給を制限して、依存症を予防することにある」とする法案第1条 に反している。
単式馬券(単勝・複勝)の払戻率が81.5%から85%に引き上げられたとき、このカテゴリーの馬券は文字通り急成長し、現在PMUの売上げの30%を占めている。この高い払戻率が、頻繁にもっと賭けるよう誘引することになるだろう。
しかしエリック・ヴォルト予算大臣は、政府が減税を行う一方でこのさきも賭事を掌握していくことが適当であると考えている。「結局のところ、より多くの 賭事を受付けなければならない」ということだろう。フランス政府は明らかに、現状どおり競馬賭事を通じて50億ユーロ(約6500億円)の間接収入を得る ことを望んでいる。
政府は今後、免許制度によって違法賭事業者を規制し、透明性を十分に確保し、また新規業者の参入を可能にする制度運営を行い、より多数の賭事業者が存在 する市場を目指している。賭事業者はこれからは広告、販売、コストおよび商品の質という面で競争することになる。だが、売上げ増加の手段をみつけ、賭事客 を惹きつけるための戦略は、賭事依存症の危険性を和らげるものではない。
政府は、賭事市場の開放以外に選択肢がなかったにせよ、この選択に責任を持ち、誠実でなければならない。フランス人の賭けはますます盛んになる。これは 間違いない。さまざまな団体、賭事客、国家および賭事運営業者の間で利害のバランスが取れることだけが望まれている。それは国家と賭事業者の利益のことば かりではない。
By Francois Hallope
(1ユーロ=約130円)
[Paris Turf 2009年3月29日「Des articles a decouvrir」]