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2009年07月17日  - No.14 - 3

調教師、預託馬減少の試練(イギリス)【開催・運営】


 2009年3月の調査によれば、馬を預託してくれる馬主の数が減少に 転じており、管理頭数が減った調教師たちは危機感を強めている。2008年末、英国北部のデヴォンのトニー・ニューコーム(Tony Newcombe)調教師は、サンタクロースの衣装を着用して、12頭の馬主募集中の管理馬(馬代金ゼロ)とともに撮った写真付きという、究極のクリスマ スカードを関係者に配布した。それにしても、これ以上見事な新規馬主獲得策はないだろう。

 彼の仲間のデヴィッド・フラッド(David Flood)氏は、禁止薬物使用のために一度調教師免許を失った経歴の持ち主だが、復活のために必死で、馬を預けてくれる浪費家を求め、欧州の遊び人の集 まるモナコにまで赴いた。フラッド氏は、「もし新たな馬主が見つからなければ、この仕事をそう長く続けることはないと認めざるを得ないでしょう」と告白し た。

 彼らは現在、何かを悟ったようである。

 公式データは、2009年3月中旬に現役馬を有する馬主の数は前年比で3.9%減少したことを示している(表1)。これは注目すべき数字である。この数字を見ただけでも、事態が憂慮すべき状況に入りつつあると分かるだろう。

 現役馬数(競走馬名のない馬を含む)は1万6412頭で前年比わずか1.8%減であるが、平地・障害併用馬に限れば52.6%も減少している(表2)。

 競走馬名のある平地競走馬(障害併用馬を含む)は前年比11.9%減で、そのうち2歳馬は前年比19%減である。年毎の2歳の平地競走馬数は、競馬界の 状況を推測するための合理的な指標である。2歳馬の全頭数は2006年には1967頭、2007年には1993頭、2008年には1929頭、そして 2009年には1563頭となった(表3)。

 2歳馬の減少をめぐり、馬主が困難な状況に陥っているという話が多く聞かれる。つまり、馬主は預託料やその他のコストを賄えず、購買した大事な馬を手放すことを余儀なくされているのだ。

 預託料を支払えない馬主たちは、その代わりに、自身の所有馬を調教師に譲渡しているようだ。それらの馬主に対する預託料補助などの制度はない。そうかといって、馬を処分するには忍びないからだ。

 調教師たちは馬主との関係について公の場で議論することを望まない。これこそまさに調教事業というものであり、他の調教師たちに詮索されたくないのだ。それでも今週内々に調査したところ、英国の調教師は経済不況の打撃を受けはじめ、さらに深刻化する兆候が見られる。

 南東部を拠点とする調教師は、「人々は非常に慎重になり、馬を購入する意欲を失っています。私の馬主たちは資金に余裕がありますが、投資に慎重になっています。彼らは用心深いのです」と述べた。

 他の調教師たちの話では、馬主の預託料の支払いが滞り、不良債権化する恐れが高まっている。このような厄介ごとは好景気にも発生するが、不況期にはいっそう暗い影を投げかける。

 ホームカウンティーズで障害・平地馬の両方を管理するある調教師は、激的な状況変化を目の当たりにしている。「金融危機以前には状況は良かったのです。しかし、金融危機の影響により事態は一変し、実に多くの馬主が所有馬を売却するよう依頼してきました」と述べた。

 「これは私たちに打撃です。代わりの馬主が見つかりません。とても厳しい現状です」。

 中部においては、他の調教師は次のように報告した。「現在状況は非常に厳しく、不幸にもある馬主は私に多額の借金を残したまま最近倒産しました。昔から 馬主が預託料を支払わないことはそう珍しいことではありませんが、今の時期は今後数ヵ月分の干草や飼料を買う資金が必要なので、この倒産は最悪の時期に起 きてしまいました」。

 不良債権が増加する一方で、管理馬が減っていることで資金繰りに窮した調教師はなりふり構わずの状況になっているようだ。飼料と寝藁を節約するという選 択肢はなく、できるのはスタッフのレベルを落とし、以前より調教騎手の数を減らすことぐらいかもしれない。悪影響はまさに業界全体に拡がろうとしている。

 ニューマーケットの調教師が述べるように、馬の福祉は最も重要な問題であり、馬主は調教のために適切な費用を払う義務がある。

 調教師は、「結局のところ、馬主が現役馬を有するのは趣味のためであり、つぎ込める資金には限度があります」と付け加えた。

 これは言わずもがなである。しかし預託料を払うのは馬が勝ってからだと馬主に言われて、それに応じる調教師がどれだけいるだろうか?ニューマーケットの調教師は、「そのようなことが起きては堪りません」と付言した。

 マーティン・マイヤーズ(Martin Myers)氏のマウントグランジ社(Mountgrange)の凄まじい破綻の影響は、45頭の競走馬を巻き込み、多くの調教師に自腹を切らせた。しかし英国の調教師は全般的にまだ持ちこたえている。

 たしかに、厩舎の数には今のところ大きな影響は出ていないが、新たに入厩する2歳馬には顕著な減少が見られる。まだ表面化していないがこの影響は、今後一年間に伝統的に立ち直りが早いとされている調教師の能力を試すことになるだろう。

 全国調教師連合会(National Trainers' Federation)のルパート・アーノルド(Rupert Arnold)専務理事は次のように述べた。「馬主が一部の管理馬を入れ替え新たな馬を購入することを、調教師が当てにしても、今年それは叶わないかもし れません。これから夏にかけては障害競走馬を、そして秋には1歳馬を購買する馬主を探すのは、難しいでしょう。馬の頭数が維持されても、預託料が全額支払 われるどうかは別問題です。劇的とまでは言いませんが預託料の不良債権化が顕著です」。

 アーノルド氏は、「調教事業に何とか踏みとどまっているとか、あるいはいまのところ健闘しているとか、経営状況は様々でしょうが、いずれにせよ2010 年5月時点で調教師数が減少していたとしても全く驚かないでしょう」と述べ、「調教師は一般的に、断固とした態度で調教事業の維持方法を見つけます。たと え経済的あるいは経営的な観点から、馬鹿げていると分かっていても調教事業を続けるものなのです」と付言した。

 英国には調教師免許をもつ調教師が596名いる。2009年のクリスマスに、冒頭で紹介したトニー・ニューコーム調教師のようにサンタクロースの衣装を借りる破目に陥らなくても、今回の危機の打撃を回避する方策を考えざるを得ない調教師が多くなるだろう。


固唾をのむ慈善事業

 馬の慈善団体は、馬主が預託料を支払えなくなった競走馬の受入れ要請が殺到するのを予想し、準備を始めている。しかし、今のところオックスフォード シャー州フォーレーの元競走馬受入機構(Homing Ex-Racehorses Organisation Scheme: HEROS)には大きな変化はない。

 HEROSのグレース・ミューア(Grace Muir)専務理事は次のように語った。「そのような事態が起きかねないと認識しています。まだ要請の増加は見られません。可能な限り多くの馬を受け入れ るつもりです。受入れ待ちを少なくするため、順番待ちリストを作り始めたところです」。

 HEROSは、英国競馬統括機構(British Horseracing Authority)の競走引退馬の福祉のための慈善事業である競走馬再訓練(Retraining of Racehorses)により資金援助されている。

 

表1. 所有馬別馬主数
  2006年 2007年 2008年 2009年3月 前年比(%)
1頭 5751人 5751人 5872人 5463人 −5.5
2頭 1863人 1985人 1956人 1914人 −2.1
3頭 826人 823人 829人 844人 +1.8
4頭 442人 430人 470人 456人 −3.0
5頭 236人 269人 277人 247人 −10.8
6-10頭 469人 458人 483人 470人 −2.7
11-20頭 149人 154人 175人 171人 −2.3
21頭以上 63人 74人 78人 89人 +14.1
合計 9799人 9908人 1万50人 9654人 −3.9


表2. 現 役 馬 数(競走馬名のない馬を含む)
  2006年 2007年 2008年 2009年3月 前年比(%)
平地競走 8757頭 9003頭 9262頭 9262頭 +2.2
障害競走 4896頭 4861頭 4813頭 5558頭 +15.5
平地・障害併用 1870頭 2210頭 2359頭 1118頭 −52.6
ハンター用馬 312頭 275頭 282頭 274頭 −2.8
合計 1万5835頭 1万6349頭 1万6716頭 1万6412頭 −1.8


表3. 平地競走馬数(競走馬名のある馬。障害併用馬を含む)
  2006年 2007年 2008年 2009年3月 前年比(%)
2歳 1967頭 1993頭 1929頭 1563頭 −19.0
3歳 3020頭 2969頭 3288頭 3167頭 −3.7
4歳 1661頭 1801頭 1708頭 1695頭 −0.8
5歳以上 2986頭 3157頭 3390頭 2661頭 −21.5
合計 9634頭 9920頭 1万315頭 9086頭 −11.9



[Racing Post 2009年5月22日「Trying times as trainers feel the pinch」]


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