賦課金収入減で2010年度の賞金600万ポンド減少(イギリス)【開催・運営】
2008年度(訳注:年度は4月1日から翌年3月31日まで)にブックメーカーおよびトート社(Tote)が支払った賦課金は、この6年間でもっとも少ない9160万ポンド(約155億7200万円)にまで落ち込む。これにより、2010年度の競馬賭事賦課公社(Levy Board: 賦課公社)からの賞金補助金は少なくとも600万ポンド(約10億2000万円)減少し、賞金総額は1900万ポンド(約32億3000万円)減少する見込みだ。
賦課公社からの補助金は競馬界にとっては中核的な資金であり、これが大幅に削減されようとしている。しかも賭事市場に占める競馬賭事のシェアは依然として減少傾向にあり、大口馬券購入者に対する発売金が大幅に減少するという逆風も吹いている。
7月15日に公表された賦課公社年次報告書(2008年度)によれば、ベッティングショップとトート社からの賦課金収入は、2007年度に1億1530万ポンド(約196億100万円)という記録的な水準に達したが、2008年度は対前年度比20.55%減少した。ただし例外的に大口賭けに係る賦課金を除いた場合、減少率は8%となる。
すでに合意済みの2009年度補助金予算が減額修正されることはないようだ。これは競馬産業にとっては朗報である。
しかし、確固たる予測は何も発表されてはいないものの、消息筋によれば2009年度の賦課金収入はさらに10%減少する可能性がある。賦課公社の最高経営責任者ダグラス・アースキンクラム(Douglas Erskine-Crum)氏は、「2010年には必ず落込みが生じます」と警告した。
2010年度の獣医科学と教育に対する補助金は25万ポンド(約4250万円)削減されて200万ポンド(約3億4000万円)となった。アースキンクラム氏は、「2008年度から2009年度にかけて300万ポンド(約5億1000万円)増加した賞金総額は反転して、2010年は少なくとも600万ポンド(約10億2000万円)減少する可能性があります」と強調した。
アースキンクラム氏は、6月に行われた賦課公社の戦略会議においてこれらの問題の検討が始まったことを明らかにした。2010年度の予算案はBHA内での検討を終え、ほぼ完成している。
競馬産業内での主な議論は、2010年度予算に状況の変化を反映させるか、それとも経済状況が改善するのを待つかが焦点となっている。
賦課金収入の推移(1966年度〜2009年度)(単位は百万ポンド) | ||||
年度 | ブックメーカーから | トートから | 合 計 | 対前年度比 |
1966 | 2.3 | 0.76 | 3.06 | − |
1971 | 5.0 | 0 | 5.00 | +16.2 |
1976 | 9.9 | 0.24 | 10.14 | +22.0 |
1981 | 17.0 | 1.00 | 18.00 | +2.8 |
1986 | 24.7 | 0.69 | 25.39 | +16.6 |
1991 | 36.0 | 1.10 | 37.10 | −3.9 |
1992 | 46.9 | 1.40 | 48.30 | +30.2 |
1993 | 50.9 | 1.50 | 52.40 | +8.5 |
1994 | 50.7 | 1.90 | 52.60 | +0.4 |
1995 | 48.0 | 2.00 | 50.00 | −4.9 |
1996 | 53.7 | 2.30 | 56.00 | +12.0 |
1997 | 55.5 | 3.00 | 58.50 | +3.9 |
1998 | 51.5 | 4.50 | 56.00 | −4.3 |
1999 | 53.9 | 5.50 | 59.40 | +6.1 |
2000 | 55.2 | 5.10 | 60.3 | +3.1 |
2001 | 67.0 | 5.90 | 72.9 | +20.9 |
2002 | 74.5 | 5.40 | 79.9 | +9.6 |
2003 | 102.0 | 8.68 | 110.68 | +38.5 |
2004 | 97.3 | 8.30 | 105.60 | −3.6 |
2005 | 91.1 | 8.20 | 99.3 | −6.0 |
2006 | 90.5 | 8.7 | 99.2 | −0.1 |
2007 | 106.1 | 9.2 | 115.3 | +16.2 |
2008 | 82.84 | 8.76 | 91.6 | −20.55 |
ただし例外的に大口賭けに係る賦課金を除いた場合、減少率は8%となる。
アースキンクラム氏は、「2008年度の業績は散々でしたので、支出への影響は避けられません。とはいえ、この流れを変えるために出来るかぎりのことをします」と付言した。
2008年度半ばから賞金への直接補助金がかなり引き上げられ、他方ベッティングショップからの賦課金収入が減少した結果、賦課公社は2008年度の総収入額9371万ポンド(約159億3070万円)と総支出額1億197万ポンド(約173億3490万円)の間の隔たりを埋めるために、積立金のうち775万ポンド(約13億1750万円)に手を付けなければならなかった。2007年度には賦課公社は685万ポンド(約11億6450万円)の剰余金を出していた。
アースキンクラム氏は、「賦課公社は2007年度の例外的・偶発的な賦課収入を受けて蓄積された剰余金を減らすために、2008年度においては赤字予算を立てました。2009年度と2010年度も同様です」と説明した。
賭事産業のほぼ全分野で賦課金支払いが減少した。最も大きな減少はトート社の電話投票事業であり、原因は大口馬券購入に係る賦課金支払いが52%減少したことによる。
アースキンクラム氏は、賦課公社の戦略的目標に変更を加えたことを明らかにした。
賦課公社は、これまでのような賦課金制度を通じて資金を集めて使うという制度依存の姿勢を改めて、“マーケティングミックス(訳注:マーケティング戦略において望ましい反応を市場から引き出すために、製品、価格、流通、販促に分類されるツールを最適に組み合わせること)を全面的に展開し、競馬への賭事を奨励・促進し”“英国競馬が世界一であるという理念を支持しよう”としている。
販売へのアプローチを強化しながら、賦課公社はレーシング・エンタープライズ社(Racing Enterprises Ltd.: REL)の競馬のブランド再建を含む、競馬および競馬を対象とした場外賭事の奨励と販売促進のために共同戦略を検討する意向である。
アースキンクラム氏は、「私たちはこの方針に自信を持っておりますし、それを実現するために手段を尽くすつもりです」と述べた。
同氏はまた、戦略的目標に新たに関連項目として、賦課手続および一般的賭事の近代化に関する政府への要請を4項目加えたことを付け足した。
それには次の項目が含まれている。(1) 小規模賭事業者の賦課金支払い免除条件を見直すこと、(2) 賦課金支払い義務(個人)の履行状況を調査すること、(3) 英国の賭事運営者が海外の賭事運営者に比べて不利になっている競争条件を公平にする方法の検討を支援すること。
賦課公社の年次報告書の主要ポイント(2008年度実績)
- ブックメーカーからの賦課金収入は2007年度の1億610万ポンド(約180億3700万円)から21.9%減少し8284万ポンド(約140億8280万円)となり、トート社(Tote)からの賦課金収入は2007年度の920万ポンド(約15億6400万円)から4.8%減少し876万ポンド(約14億8920万円)となった。合計の賦課金収入は最高額を記録した2007年度の1億1530万ポンド(約196億100万円)から20.55%減少し9160万ポンド(約155億7200万円)となった。
- 上記のほかの賦課金収入には、海外遠隔賭事業者[ベットフェア社(Betfair)が大部分を占め、ブルースクエア社(Blue Square)も貢献している]からの2008年度が初めてとなる任意拠出金135万2000ポンド(約2億2984万円)が含まれている。
- 賦課金総収入額は、2002年度以来最も低い額であったが、10年前の1998年度よりも63.6%高い水準である。
- 総収入額は、2007年度の1億1851万4000ポンド(約201億4738万円)から20.9%減少し、9371万5000ポンド(約159億3155万円)となった。
- 総支出額は、2007年度の記録的な1億1185万ポンド(約190億1450万円)から8.8%減少し、1億197万5000ポンド(約173億3575万円)となった。
- 賞金補助額は4.9%増加し、総支出額に占める割合は2007年度の50.6%から58.3%となった。
- 原価項目のなかには、チャンネル4の競馬番組への拠出額45万8000ポンド(約7786万円)が含まれている[これまで87万9000ポンド(約1億4943万円)、73万4000ポンド(約1億2478万円)、26万7000ポンド(約4539万円)と推移]。
2007年度と2008年度における競馬賭事賦課公社の収支 (単位は百万ポンド) | ||
収入元、支出先 | 2008年度 | 2007年度 |
収 入(単位は百万ポンド) | ||
賦課金(Levy income) | 90.531 | 117.068 |
海外賭事業者の任意賦課金 (Voluntary levy from offshore operators) |
1.352 | − |
利息(Interest) | 1.832 | 1.446 |
合 計 | 93.715 | 118.514 |
支 出 (単位は百万ポンド) | ||
馬主(Owners) | ||
2008年度 | 2007年度 | |
賞金(Prize-money) | 56.646 | 54.204 |
出走奨励金(Appearance scheme) | 1.443 | 1.557 |
レース分割奨励金(Divided races) | 0.876 | 0.705 |
賞金奨励金(Premium scheme) | − | 0.181 |
開発基金(Development fund) | 0.457 | − |
合 計 | 59.418 | 56.647 |
競馬場(Racecourses) | ||
開催日割奨励金(Fixture Incentives) | 5.918 | 5.892 |
競馬開催中止手当(Abandoned fixtures) | 1.040 | 0.760 |
合 計 | 6.958 | 6.652 |
公正事業(Integrity services) | ||
競馬開催費補助(Fixture fees) | 10.988 | 11.422 |
公正費補助(Integrity fees) | 5.45 | 5.889 |
監督事務局(Regulatory head office) | 4.347 | 4.317 |
HFL禁止薬物検査サービス等(HFL drug-testing service, etc) | 4.407 | 4.509 |
BHA年金拠出および繰越金 (BHA pension; contribution&future provision) |
(609) | 9.392 |
合 計 | 24.978 | 35.529 |
その他(Others) | ||
ポイント・トゥ・ポイント競走(Point-to-points) | 0.312 | 0.309 |
厩舎/牧場のトレーニング(Industry training) | 0.973 | 0.964 |
研究開発(R&D) | 0.033 | 0.026 |
独立賭事仲裁機関(IBAS) | − | 0.070 |
生産者賞(Breeders’ prizes) | 1.745 | 1.673 |
生産者の団体(Breed Societies) | 0.172 | 0.172 |
獣医学(Veterinary science) | 2.633 | 2.364 |
管理費(Administration) | 3.614 | 3.631 |
ブックメーカー委員会(Bookmakers’ Committee) | 0.264 | 0.253 |
チャリティーへの寄付(Charitable payments) | 0.084 | 0.084 |
国立種馬所への基金助成金(National Stud endowment grant) | − | 1.250 |
チャンネル4競馬番組(Channel 4 Racing) | 0.458 | 0.879 |
その他の競馬の費用(Other horseracing costs) | 0.333 | 1.347 |
支出合計(単位は百万ポンド) | ||
101.975 | 111.850 | |
課税前の収支の差額 (Operating surplus/ (deficit) before taxation) |
(8.260) | 6.664 |
繰越余剰金(Surplus transferred to reserves) | (7.750) | 6.856 |
総準備金(Total reserves) | 71.573 | 79.302 |
- 管理費は0.5%減の361万4000ポンド(約5億3788万円)となったが、その割合は支出額の3.2%から3.6%に増加した。
- 公正事業費[独立の競馬法医学研究所(Horseracing Forensic Laboratory Ltd.: HFL)の事業費を含む]は、2007年度比3.6%減で2億2519万2000ポンド(約428億2674万円)となった。
- 8つの競馬場の投資計画に対して、総額1420万ポンド(約24億1400万円)の無利子融資を行った。対象競馬場および内訳は、フォスラス競馬場とフォントウェル競馬場にそれぞれ400万ポンド(約6億8000万円)、カーライル競馬場に220万ポンド(約3億7400万円)、エクセター競馬場とマッセルバラ競馬場にそれぞれ150万ポンド(約2億5500万円)、チェプストウ競馬場、ニューキャッスル競馬場およびユートクシター競馬場にそれぞれ100万ポンド(約1億7000万円)であった。このほか競馬場改善計画に770万ポンド(約13億900万円)の助成金が交付された。
2007年度と2008年度におけるブックメーカー&トート社収入(単位は百万ポンド) | |||
支出先 | 2008年度 | 2007年度 | % +/- |
場 外 | |||
現金投票(Cash) | 61.8 | 69.8 | −11.5 |
電話投票(Telephone) | 12.8 | 26.6 | −51.9 |
インターネット(Internet) | 6.5 | 7.6 | −14.5 |
ベッティングエクスチェンジ(Exchanges) | 6.2 | 7.1 | −12.7 |
場 内 | 0.4 | 0.4 | − |
スプレッドベッティング(Spread betting 後先当て) | 0.1 | 0.1 | − |
その他(Others) | 3.8 | 3.7 | +2.7 |
合 計 | 91.6 | 115.3 | +20.55 |
ベッティングショップ&競馬場 | 62.2(67.9%) | 70.2(60.9%) | |
他の賭事収入源 | 29.4(32.1%) | 45.1(39.1%) |
*トート社は今回初めて含まれる。
2008年度における競馬賭事賦課公社の経費割合(単位は百万ポンド) | |||
支 出 先 | 合 計 | % | 2007年度 |
賞 金(Prize-money) | 59.418 | 58.3 | 56.647 |
公正事業と競馬開催費補助 (Integrity services, inc fixture fees) |
24.978 | 24.7 | 35.529 |
その他の競馬の費用(Other racecourse spending) | 7.729 | 7.6 | 7.877 |
運 営(Administration) | 3.614 | 3.6 | 3.631 |
獣医学(Veterinary) | 2.633 | 2.6 | 2.364 |
品種改良(Improvement of breeds) | 1.917 | 1.9 | 1.845 |
訓 練(Training) | 0.973 | 0.9 | 0.964 |
改善のためのその他の経費 (Other improvements) | 0.449 | 0.4 | 2.740 |
ブックメーカー委員会(Bookmakers’ Committee) | 0.264 | 0.2 | 0.253 |
合 計 | 101.975 | 111.850 |
►► 公正事業に434万7000ポンド(前年:431万7000ポンド)の監督事務局費が含まれるのは3年目であり、440万6000ポンド(前年:422万1000ポンド)のHFL禁止薬物検査サービス等が含まれるのは2年目である。
►► 年間平均採用従業員数は18人(前年度:21人)であった。賭事運営費と人件費は23万ポンドの解雇手当も含め178万6000ポンド(前年度:169万8000ポンド)であった。
►► 2008年2月4日の任命後、ダグラス・アースキンクラム氏の最高経営責任者としての初年度の一括報酬は22万665ポンドである。
►► ロブ・ヒューズ(Rob Hughes)氏への一括報酬は8万315ポンドで前年度よりも3.16%増加している。
By Howard Wright
(1ポンド=約170円)
[Racing Post 2009年7月16日「Prize-money to be cut by £6m as levy crashes」]