制裁加重ルール改正、BHAと騎手協会がほぼ合意(イギリス)【開催・運営】
免許停止処分の加重ルールは、騎手と競馬施行者の間で議論が続いてい る問題だが、英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)の大幅な修正案に、騎手協会(Professional Jockeys’ Association: PJA)も好意的な反応を示しており、この件は間もなく決着を迎えるだろう。
リチャード・ヒューズ(Richard Hughes)騎手とエディ・アハーン(Eddie Ahern)騎手はいずれも、過去12ヵ月間に犯した不注意騎乗による騎乗停止日数が24日に達したため、8月27日午前BHAの懲罰委員会から長期にわ たる騎乗停止処分を受けることになった。
しかし、PJAの最高経営責任者ケヴィン・ダーレー(Kevin Darley)氏は、ロビー活動によって、BHAから妥協的な提案を引き出した。現行の加重ルールを批判していたのは、ヒューズ騎手と、現在このルールに より14日間の騎乗停止処分が課されているジェイミー・スペンサー(Jamie Spencer)騎手である。
スペンサー騎手と同様に、平地競走の優秀な騎手であるマーティン・ドワイヤー(Martin Dwyer)氏、ポール・マルレナン(Paul Mulrennan)氏、デーン・オニール(Dane O’Neil)氏およびフレデリック・ティリキ(Frederik Tylicki)氏にもこの夏、かなり長い騎乗停止処分が課された。
現行ルールでは、騎手が12ヵ月間に、不注意騎乗や鞭の使用違反によって騎乗停止処分を受けた日数が24日を超えた場合に、競馬場の裁決委員から懲罰委員会への申立てにより、本則による処分期間に加重ルールによる処分期間を加えた期間の騎乗停止処分が言い渡される。
不注意騎乗の加重ルールの適用要件に関するBHAの改正案は次のとおりである。
(1)累計期間(不注意騎乗による騎乗停止日数を累計する期間)を6ヵ月間(現行12ヵ月間)とする。
(2) 不注意騎乗による騎乗停止日数の累計が20日以上((1)に応じて、現行24日以上の半分の12日以上ではない)となった場合に加重ルールを適用する。
(3) 加重する騎乗停止処分の標準日数(訳注:標準的な処分日数であり、加重または軽減要素を考慮して、処分日数を加減する)を21日(現行14日)とする。
鞭の使用違反の加重ルールには大幅な変更はない模様である。
加重ルールは、2010年度の平地芝競走シーズンまでに改正される見込みである。PJAは BHAの提案を歓迎しているが、合意に至るにはBHAの一層の譲歩が必要となろう。
ダーレー氏は、「BHAの提案をベースに微調整を試みています。両者の意見はさほどかけ離れていません。PJAとしては、さらに1日や2日の騎乗停止処分が加重ルールの適用対象から除外されれば大きな前進だと考えます」と語った。
同氏は次のように付言した。「加重ルールを適用された騎手の多くは、1日〜2日の騎乗停止処分を課されています。これらの1日〜2日の騎乗停止処分は最も軽度のルール違反に課されるもので、加重ルールの対象に加えるべきではないと思います」。
「BHAには、騎手が強い競争心を持って騎乗できないと、レースで隙間を求めて進路を取ることなく、ただ乗っているだけになると説明しました。これでは競馬の面白さは味わえません」。
BHAの広報担当ポール・ストラサーズ(Paul Struthers)氏はBHAの立場を説明し、次のように語った。「加重ルールは抑止力として働いているだけではなく、競馬施行規程を常習的に破っている者に対する懲罰にもなります」。
「加重ルールによる騎乗停止処分を課された騎手の再犯(再び加重ルールを適用されること)はほとんどありません。加重ルールの適用を受けそうな騎手の数もわずかです」。
「しかし、PJAの見解の中に賛成できる部分があります。累計期間(不注意騎乗による騎乗停止日数を累計する期間)を12ヵ月から6ヵ月にすることです。また軽度の違反が加重ルールで累計されることに対する騎手の懸念にも、同情の余地があります」。
同氏は次のように付言した。「1日の騎乗停止は本質的に、軽度の違反に対して課されますので、加重ルールの趣旨に照らして検討しています」。
「しかしそのような修正により特にG1競走において軽度のルール違反が増えるのではないかという懸念もあります」。
現行の加重ルール
►► 過去12ヵ月間の走行妨害あるいは鞭使用違反による騎乗停止日数の累計が24日以上となっている騎手であって、さらにこれらの反則行為を犯した者について騎乗停止処分を相当と認めるときは、競馬場の裁決委員はBHAの懲罰委員会に審理を申し立てるものとする。
►► BHAの懲罰委員会は騎手を召喚し、審理を行う。加重ルールによる騎乗停止日数は10日〜28日間とし、最後に競馬場で犯した違反行為による騎乗停止日数 に加算して言い渡す。加重する騎乗停止処分の標準日数(訳注:標準的な処分日数であり、加重または軽減要素を考慮して、処分日数を加減する)は14日間と する。騎乗停止期間は分割することができる。
リチャード・ヒューズ騎手の言い分
私は本日加重ルールにより3〜4週間の騎乗停止処分を受けるでしょう。この処分がなければ、3万ポンド(約510万円)は稼げます。これは莫大な金額です。
加重ルールは、鞭の使用違反に関しては鞭の使用が何度許されるか明らかになるので、悪いものだとは思いません。違反を重ねたら、このルールで罰を加重されるのは当たり前です。
しかし不注意騎乗については事情が異なります。たまに走行妨害が起きるのは仕方がありません。競馬は接触を避けることができないスポーツだからです。しかし、最近では最も軽いケースでも1日〜2日の騎乗停止処分を受けます。
もし騎手が誰かを落馬させたのであれば、裁決委員は存分に厳しい決定を下すべきでしょうが、最近では被害を受けたとされる馬の騎手が一完歩控えただけで2日間の騎乗停止処分を受けます。
私は騎乗回数が多く、今シーズンは100勝以上を挙げ、2・3着も120回を超えています。たえず懲罰委員会に召還され、騎乗停止処分をくらっていますが、これは避けようがありません。しかし、今までに危険な違反行為を起こしたことは1度たりともありません。
加重ルールによって、私たちは同じ反則行為に対して2度制裁を受けることになります。
裁決委員たちはスローモーションでレースを見て、騎乗停止処分を課します。しかし私たちはスローモーションで騎乗しているわけではなく、時速35マイル(約56.3 km)で騎乗しているのです。
騎手は勝つつもりで騎乗しているのであり、もしレーンで仕切られた馬場を走ることになれば、競馬には何の面白みもなくなってしまいます。
By Lee Mottershead
(1ポンド=約170円)
[Racing Post 2009年8月27日「BHA and Jockeys close to agreement on totting up」]