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海外競馬情報
2009年01月23日  - No.2 - 1

ソブリンシリーズに“ノー”を突きつけた放送会社(イギリス)【開催・運営】


 地上テレビ放送会社がG1平地競走10レースによるソブリンシリーズ (Sovereign Series)の放映権に殺到し、入札合戦を引き起こすと思われていたが、実際には起きなかった。

 英国競馬統括機構(British Horseracing Authority)とレーシングUK(Racing UK:イギリスの主要競馬場からレースを放映する会員制有料放送会社)が2008年7月にソブリンシリーズ[放映権料を見込んだ賞金総額1000万ポンド (約17億円)の競馬シリーズ、2010年5月開始予定]の構想を発表した。当時レーシングUKはこのソブリンシリーズが2010年からの地上波テレビ競 馬放映権の争奪戦に放送会社を引きつける金の壷となるものと大いに期待していた。参加が予想されていた放送会社は、競馬の既存の協力者であるBBC(英国 放送協会)とチャンネル4(公共放送会社)のみならず、ITV(大手民間放送会社)、そしてファイブ社(Five: 商業放送会社)であった。

 実際ソブリンシリーズの構想が発表された当時、この狙いは実現性が十分あった。レーシングUKは公然と、1つの放送会社に絞って取引するほうが望ましい という姿勢を明らかにしていた。ブックメーカーのパディパワー(Paddy Power)は、そのような放送会社は見つからないことに9倍のオッズを提示し否定的な考えを明確にしたが、レーシングUKの当時の会長サイモン・バルザ ルゲット(Simon Bazalgette)氏は、単一のパートナーに放映権を売却することは、“最も可能性がある”と述べ、放送会社はソブリンシリーズに“興味をかきたてら れる”であろうと付け加えた。

 しかし、どの放送会社もソブリンシリーズに営業上の興味を示さず、ソブリンシリーズの放映に関して1社も入札しなかった。

 レーシングUKは放映権の交渉を、ソブリンシリーズに参加する関連競馬場から委任された。ソブリンシリーズへの関心を集めるために、スポーツ権の専門家 デーヴィッド・コーガン(David Kogan)氏を起用したが、それでも放送会社は興味を示さなかった。BBCとチャンネル4の意向は既存の放映権の延長であった。ファイブ社からは何の反 応もなく、またいっそう決定的であったのはITVからの反応がなかったことである。

 チャンネル4とBBCは多額の放映権料を支払ってくれる地上波競馬放映のパートナーである。したがって、入札合戦が起きるには、ITVがソブリンシリー ズに関心を持つことが不可欠であった。しかし、ITVは今週レーシングポスト紙に、競馬に関心がない理由を最大限平易な言葉で強調した。

 同社の広報担当者は、「ITVは、多数の視聴者向けにスポーツを生中継する民間放送会社です。残念なことに、グランドナショナルと英ダービーは別として、競馬はITVで放映するほどの視聴者数がありません」と述べた。

 ここに問題がある。多い年には視聴者が1000万人に達するエイントリー競馬場のグランドナショナルおよび300万人に達する英ダービーを除き、競馬は 地上波テレビ放映で視聴者を多く引きつけることはない。チェルトナム・ゴールド・カップのように事前に大々的に報道されたデンマン(Denman)とコー トスター(Kauto Star)の一騎打ちでさえもわずか200万人のお茶の間の視聴者を引きつけただけである。

 たとえば、先週土曜日(11月22日)にテレビ放映された競馬を考えてみよう。コートスターが出走したベットフェア・チェイス(3マイルの障害競走)の BBC2による放映は平均でわずか50万人が観ただけであり、チャンネル4が午後に放映した競馬番組も同様であった。他方、同じ日にBBC1とBBC2に よって生中継されたラグビー・ユニオン(rugby union:イギリスのアマチュア・ラグビーチームの連盟)の国際試合は、210万人および190万人が観戦したが、これは競馬を観た人数のおよそ4倍で ある。

 簡単に言うと、競馬の地上波テレビの視聴者は、固定客であるが、絶望的なほど数が少ない。加えて、地上波テレビの視聴者は年配者が多く、競馬番組で確認 のために着順の公式発表を見ているだけと考えられており、したがって民間パートナーにとっては魅力に欠ける。制作コストの点から見ても、地上波テレビ放映 は、競馬を放映するのに費用がかかりすぎる。

 このような事態について、競馬というスポーツを売り込む責任者たちにもとりわけ金融危機という情状酌量の余地があった。ジョッキークラブ(Jockey Club)専務理事のバルザルゲット氏は今週、次のように述べた。「民間の地上波テレビ放送会社は現在、重大な危機に立たされており、また程度の差はあ れ、BBCも同様の危機状況にあります。率直に言って、6ヵ月後には現在よりもはるかに悪い状態に陥ると思われます」。

 「競馬のテレビ放映が拡大し、より多くの収入を得ることができれば、結構なことなのですが、事態が期待通りになるとは到底思えません」。

 状況は、次のようになると思われる。現在と同じように2010年に競馬は、BBCとチャンネル4によって放映される。しかし重要な相違が1つある。 BBCは、2009年夏以降の競馬放映計画で、放映の対象となるイギリス競馬を27日間から最悪の場合13日間に削減する。どうにか放映が保証されている のは、グランドナショナル開催、英ダービーおよびオークスの3日間であり、そのほかアスコット競馬場からの王室開催、キングジョージ6世&クイーンエリザ ベスS開催、クイーンエリザベス2世Sのカードとおそらくシャーガーカップの5日間である。他方、アスコット競馬場の全障害競走の放映は打ち切られ、また BBCが長年にわたりヘイドック競馬場とチェプストウ競馬場から行っていたすべての放映もおそらく終了すると思われる。

 BBCによる放映が削減される結果、チャンネル4については、ドバイ・ホールディングス(Dubai Holdings)がスポンサー契約を継続するか、または代わりの後ろ盾が見つかると仮定して、BBCがこれまでに放映していた人気ある開催のいくつかを 選んで、1年に約80日間引き続き競馬を放映するであろう。チャンネル4にとって競馬は引き続き唯一のメジャースポーツであり、商業的価値を超えた恒常的 なショーウィンドーとなる。また競馬界は競馬番組のかなりの内容を供給する義務を果たすことになる。この関係は、双方にとって利益となる。

 BBCとチャンネル4それぞれの放映契約は、年末までに調印される予定であるが、BBCとの契約が最初に合意されるという期待が高くなっている。 2012年にアナログ地上波放映が終了するので、競馬放映権の次期交渉では、ITV4(スポーツ用ネットワーク)といったチャンネルが役割を担うことにな るだろう。

 ただし、もしこれが起こるべきであるならば、何かが変わらなければならない。テレビ放送業界の上級幹部の1人はレーシングポスト紙に、競馬放映権を販売する競馬界は放送会社を“競馬から利益を搾取しようとする敵”であると見ている感じがすると語った。

 他方、ソブリンシリーズの構想が発表された当時、多くの人が、競馬界は放送会社から利益を搾取しようとしていると考えていた。競馬がそのようなことを目論んでいたとしたなら、競馬は現実の世界の厳しさを思い知らされたことになる。

 [関連記事:海外競馬情報2008年16号「G1競走10レースによる“ソブリンシリーズ”計画(イギリス)」]

 


[Racing Post 2008年11月27日「AUNTIE CLIMAX」]


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