TOPページ > 海外競馬情報 > ジョッキークラブ円卓会議、薬物と馬の福祉の問題に焦点(アメリカ)【開催・運営】
海外競馬情報
2009年10月30日  - No.21 - 2

ジョッキークラブ円卓会議、薬物と馬の福祉の問題に焦点(アメリカ)【開催・運営】


 ジョッキークラブ第57回年次円卓会議(Jockey Club's 57th annual Round Table Conference)が8月23日にニューヨーク州サラトガスプリングスのギデオン・プットナム・リゾートで開催された。この円卓会議のメインテーマ は、現在進められている薬物規制統一の実施の問題および最近再燃した競走馬の健康と福祉の改善の問題であった。

 これら2つのメインテーマは表面的には互いに関係が薄いように見えるが、実は、一般大衆が競馬に対して抱いている認識および一般大衆と競馬との間に良い関係を作る活動といった視点から見ると、競馬産業のためには相互に関係のあるテーマである。

 全体的に共通したテーマは、それが競走馬の受け入れ・再利用事業であろうと、競走用馬場の安全性や薬物ルールの統一であろうと、要は一般大衆の認識、すなわち一般大衆が米国の競馬産業をどのように受け止めているかがすべてなのだ。

 デイリーレーシングフォーム紙(Daily Racing Form)の発行人兼会長スティーヴン・クリスト(Steven Crist)氏は、2時間におよぶ会議の最後の“賭事客、大衆、メディアからの視点”と題した講演の中で、「“一般大衆の認識”という言葉を肝に銘じま しょう」と述べた。同氏は、「一般大衆の認識と現実との間には大きなギャップがあり、これが極めて重大です」と付言した。

 円卓会議により、一般大衆の認識と現実との間のギャップについて、その全体像が浮き彫りになった。

 引退競走馬がメキシコやカナダの屠畜場でその生涯を終える実態に関する討議で、サラブレッド引退馬基金(Thoroughbred Retirement Foundation)の専務理事ダイアナ・ピクルスキー(Diana Pikulski)氏は、「実のところ、サラブレッド産業を構成する馬主は、その大部分が資産にゆとりのない人たちです」と述べた。

 インディアナ州競馬委員会(Indiana Horse Racing Commission)の専務理事ジョー・ゴラジェック(Joe Gorajec)氏は、「薬物ルールが不統一なことに多くの人が不満を抱くのはもっともなことです」と述べた。

 2009年の円卓会議では全体的に見て、薬物の問題がはっきりと目立った議題であった。ジョッキークラブ会長のオグデン・ミルズ“ディニー”フィップス (Ogden Mills“Dinny”Phipps)氏は、薬物問題に精通し、その解決に取り組んでいる中心人物の1人であるが、円卓会議には出席できなかった。

 フィップス会長がこの夏の初めに外科手術を受けて養生中であることから、副会長のウィリアム・S・ファリッシュ(William S. Farish)氏が会長に代って先頭に立って議論をリードした。なお、同氏はヴァーサイルスのレーンズエンド牧場(Lane’s End)の所有者である。

 フィップス会長は “競馬産業のために、公正確保の問題、さらには一般大衆の公正確保に対する認識に継続的に気を配る”ということを自らの命題としてきた。会長の姿はなかったが、その姿勢は円卓会議の議論に影響を与えた。

 全米馬臨床獣医師協会(American Association of Equine Practitioners)の元理事長であり長年ニュージャージー州を拠点としているスコット・パルマー(Scott Palmer)獣医師は、「違法薬物により競馬の信頼性が揺らいでいる現実と比べると、現在合法とされているサリックスおよび非ステロイド性抗炎症薬の使 用の問題はそれほど大きくありません」と述べた。

 同氏は、“統一性:改善のための処方”と題した発表において、次のように語った。「私たちの薬物規制は次のように実施すべきです。まず真っ先に、馬の健 康と福祉を保護すべきです。第2に、公平に戦える環境にし、競馬の公正確保を促進すべきです。それは統一性があり一般大衆の信頼を得られるものでなければ なりません」。

 NTRA(全米サラブレッド競馬協会)の安全・公正に関する同盟(Safety and Integrity Alliance)の専務理事マイク・ジーグラー(Mike Ziegler)氏は、オープニングセッションの終わりにこの同盟の進捗状況を発表し、たった1年間で一般大衆の認識がどれだけ変わったか説明した。

 同氏は、「2008年の3冠競走の後にNTRAの顧客調査が実施されました。サラブレッド競馬が、競走能力を高める薬物、人と競走馬の安全性という2つ の重要な分野において深刻な問題に直面していることが明らかになりました。調査報告は、現状を示すのに、1980年代のタイレノール(Tylenol ア セトアミノフェン系解熱・鎮痛剤)と1990年代のボクシングを例に取り上げました。一般大衆の信頼を取り戻すために、私たちは迅速・大胆で透明性があり 本格的な行動を起こす必要性に迫られています」と語った。                       By Tom Law


ルイ・ロマネ氏の円卓会議における基調講演

 IFHA(国際競馬統轄機関連盟)会長のルイ・ロマネ(Louis Romanet フランスギャロの元事務総長)氏は“国際調和の必要性”と題する基調講演を行った。この講演で同氏は、IFHAなどの国際的な取り組みに対してジョッキー クラブその他の米国競馬団体が関与してきた歴史について次の様に概説した。

 私は世界中いたるところで、競馬に関する重要な問題について率直に意見を述べることで有名です。今回、私は北米の競馬関係者に多大なる敬意を表しつつ、北米における薬物の現状について私見を述べようと思います。

 毎年ジョッキークラブ・ファクトブックを受け取ると、私はすぐに1頭当たり年間平均出走回数の図表を見ます。平均出走回数は減少傾向をたどっており、1960年の11.31回から2008年には6.2回と、45%も減少しています。

 その理由として競走馬の大規模厩舎への集中などを挙げる専門家もいますが、私は1番の原因が薬物であると確信しています。北米ではいつになったら、出走回数の減少に歯止めを掛けるつもりでしょうか。

 私たちは皆、薬物なしではアメリカとカナダの平均8頭立て以上で、主にダート馬場で施行される5万5000レースを施行するのは不可能であると分かって います。この図表に見られるように、2008年に北米では重賞・準重賞競走が2182レース施行されました(うち重賞競走は505レースで、全競走の1% 未満)。

 アメリカ・グレード競走委員会(American Graded Stakes Committee)は薬物検査規定を定め、北中米競馬委員会協会(Association of Racing Commissioners International: RCI)の薬物と安全に関する模範ルールを採用しなければ、レースにグレード資格を与えないことにしました。

 IFHAが北米に対して希望しているのは、まず重賞競走そして準重賞競走へ、というように薬物規制を徐々に厳格化していくことです。血統を選抜するレースである重賞競走と準重賞競走はレース全体の4%を占めています。

 すでに講演で説明されたように、サリックスの使用はこれらの競走において最終的に禁止されるべきです。

 ご存じのとおり、私はIFHAの会長として夢を持っています。私の夢は、任期が満了となる2012年10月までに、北米と南米の重賞競走および準重賞競走のすべてにおいて薬物が根絶されることです。

 夢は叶えるにはまず実現を望むことです。この3ヵ月間に、歴史的事件の記念式典が2つありました。1つ目は、数千人のアメリカの若者たちが欧州の自由の ためにその命をささげたノルマンディー上陸作戦の65周年記念式典、2つ目は、2人の米国人による人類初の月面着陸の40年周年記念式典です。

 これらの2つの例は、アメリカの一般大衆はやると決心したらそれを成し遂げることができるという素晴らしい例です。

 これらの偉業と比べれば、薬物の問題は取るに足りないことと思われるかもしれません。しかし、間違いを犯してはなりません。これは世界のサラブレッド産業のイメージを決める最も重要な問題なのです。

 北米の競馬関係者はすでにジョッキークラブのサラブレッド安全委員会(Thoroughbred Safety Committee)と薬物規制標準化委員会(Racing Medication and Testing Consortium)の活動成果をもとに、非常に勇敢に取り組み始めています。私は、アナボリックステロイドに関するRCIの新たな模範ルールの採択と いう、薬物規制に関する大きな変更が2008年にあったことにとりわけ感謝したいと思います。また、ちょうど情報を得たところですが、ブリーダーズカップ 社(Breeders’ Cup Ltd.)の理事会がアナボリックステロイドの禁止方針を拡大して2009年の競走を施行することも評価します。

 結論を言えば、私はこれまでの25年よりもこの12ヵ月間で多くの成果があったことに感謝します。

 したがって、もし本日の円卓会議の参加者が、2012年末までにすべての重賞競走と準重賞競走において薬物を禁止することを目標にこの部屋を出るとしたら、皆様の指導力により現実が変わるものと確信します。

 皆様はこれをもっと早く成し遂げるかもしれませんし、現在メディアが流しているネガティブな見解を払拭できるかもしれません。

 IFHAはもし皆様が必要とし望むのであれば、いつでもお役に立つつもりです。断固として正しい方向に進めば米国のサラブレッド産業には輝かしい未来が開けるでしょう。幸運を祈っております。

 


[Thoroughbred Times 2009年8月29日「Medication, equine welfare in focus」]
[Thoroughbred Times 2009年8月29日「Excerpt of Romanet’s remarks at Round Table」]


上に戻る