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2009年03月19日  - No.6 - 3

TOBA理事長レイノルズ・ベル氏の抱負(アメリカ)【その他】


 レイノルズ・ベル(Reynolds Bell Jr.)氏は2008年8月にサラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders’ Association:TOBA)の理事長に選出された。同氏は30年以上サラブレッド産業に関わり、1992年に自身の競走馬売買仲介業者レイノルズ・ベル・サラブレッド・サービシーズ社(Reynolds Bell Thoroughbred Services)を設立している。その前には、同氏は自身の母親アリス・チャンドラー(Alice Chandler)氏とその夫ジョン・チャンドラー(Dr. John Chandler)博士が所有するレキシントン近郊のミル・リッジ牧場(Mill Ridge Farm)の最高経営責任者を務めていた。同氏はまた、ブリーダーズカップ理事会(Breeder’s Cup board of directors)のメンバー、ジョッキークラブの理事、全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association: NTRA)の理事および米国サラブレッドクラブ(Thoroughbred Club of America)の元会長である。ベル氏は2008年12月中旬にブラッドホース誌のダン・リーブマン(Dan Liebman)編集長と対談した。

Q (ダン・リーブマン):一般的な質問から始めましょう。現在サラブレッド馬主と生産者が直面している問題の中であなたが最も重要だと考えるものを2、3挙げてください。
 
A (レイノルズ・ベル氏):私たちの競馬産業は一体となって協力し同じ方向に向かうことが困難な状況にあります。馬主と生産者にとって現在最も重要に思える問題は、エイトベルズ(Eight Bells)の予後不良事故により表面化した馬の安全・福祉問題です。このことにより、私たちが抱える多くの弱点が露呈しました。
 私は“馬を大事にすれば、馬もそれに応える”と教えられ、これをモットーとしてきました。エイトベルズの事故は、それまでの予後不良事故と違いはないのに、一度に最悪の事態を惹き起こしました。観客、そしていろんな意味で競馬関係者も、うんざりしたように思います。

 したがって、馬の安全が私たち馬主および生産者が考慮しなければならない最も重要な問題の1つであるというのが、ご質問に対する答えです。これについてはさまざまな側面があります。確かに馬場の表面、薬物、馬具のすべてが安全性の重要な構成要素です。ジョッキークラブの競走馬安全委員会(Thoroughbred Safety Committee: TSC)は、2006年に安全・福祉委員会(Safety and Welfare Committee)を立ち上げ、タイムリーに問題を把握し、解決することができるようになりました。

 TSCの業績は賞賛に値します。TSCは、科学に基づく適正な勧告で、いくつかの成果を普及させました。

 前肢用トーグラブ(toe grab)を禁止する勧告は、すでになされていた優れた研究と科学的知識に基づいています。アナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)に対する規制は、すでに薬物規制標準化委員会(Racing Medication and Testing Consortium)が薬物問題に取り組んでいましたので、勧告に盛り込むには丁度良い状況であり、タイムリーでした。騎手の鞭使用法は浮上したもう1つの勧告です。最善の成績を挙げようと全力で走る馬を鞭で打つことを、一般の人々は馬を虐待していると感じています。鞭を使用することは競馬の一部であるのに、一般の人々は馬に鞭を使用する必要はないと感じ、抗議しています。エイトベルズの予後不良事故が起きたケンタッキーダービーのあった5月最初の土曜日のあと、この事件が人々の念頭から去らないのです。この一件は競馬産業を金縛りにしました。

 TOBAの使命は、サラブレッド馬主・生産者の経営、公正確保および競馬の娯楽性を改善することです。経営と言えば、それは明らかに競馬産業全体が苦闘している現下の問題であり、見直しと変革のための努力が続いています。公正確保は、薬物、賭事およびセリと関連しているため私たちが議論しています。エイトベルズの予後不良事故は痛ましい出来事でした。TOBAは、サラブレット行動委員会(Thoroughbred Action Committee: TAC)を設立しました。TACを構成するのは、競馬産業の利害関係者のほかに、TSC等の支援組織であるTOBAの活動に貢献するような個人です。組織がとっている手法は、他団体の勧告が確定した場合に、それを支持し実行に移す手助けをするというものです。
 
 
Q:  TOBAはレース映像配信による電話投票賭事(advance deposit wagering: ADW)からのホースマンへの利益配分の増加を要求する交渉において、ホースメンズ・グループ(Thoroughbred Horsemen’s Group:THG)の取組みを支持していました。今でも全面的に支持していますか?
 
A:  TOBAはTHGを全面的に支持しています。私たちは馬主として年間約30億ドル(約3000億円)を投資しており、10億ドル(約1000億円)をめぐって争っています。競馬産業は、基本的に場内で賭事をするスポーツから、次第に場内と場外の両方で賭事をするスポーツに変化しました。私たちは州間競馬法を通して保護を受けています。だから、賭事売上高に対して妥当な水準の賞金を確保するために、ホースマンと馬主は公平な契約を勝ち取るために競馬場とサイマルキャスト収益について交渉しなければならないのです。賭事が場内からサイマルキャストへと移行したこと伴って、サイマルキャスト収益が著しく増大するというパラダイム(枠組み)変化が起きたのです。州間競馬法によって私たちはサイマルキャスト収益をめぐって交渉することが可能となりました。次世代はADWへの動きであり、チャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.)やマグナエンターテイメント社(Magna Entertainment Corp.)のような会社が多数の競馬場ばかりでなく、ADWの会社も所有しています。したがってホースマンがどのような権利を持つのかを理解し、公平な契約をまとめることは一層重要になります。競馬が新規馬主を獲得するためには、意欲をそそるレベルの賞金が必要なのです。
 
Q:  馬主の中で、既存のADW会社を買収することあるいはADWの運営を開始することについての議論はありましたか?
 
A:  はい。数人の間で取り上げられました。しかし、いかなる理由にしろこれまで真剣に議論されたことはありませんでした。私の推測では、それは馬主たちがADWの運営について理解が十分出来ていないのです。また競馬場のように日々この事業に注目していないからです。彼らにとってADWの運営は、投資するほど十分には理解できていないことなのです。
 
Q:  このごろ、セリ取引公正特別委員会(Sale Integrity Task Force: SITF)からの情報があまりないのですが、最新情報を教えてください。
 
A:  年末までに、いくつかの勧告、実施基準およびアナボリック・ステロイド検査手順を実施に移したので、買い手は購買した馬を検査することが出来るようになりました。馬主登録簿も設けました。それらはSITFから出された3つの主要な勧告です。馬主登録簿に関しては、1300人弱の馬主から所有者として掲載するよう申出がありましたが、一歳馬セール全体で登録簿を閲覧した買い手は2人だけでした。アナボリック・ステロイドに関しては、6300頭の1歳馬を売却し、そのうち170頭ほどについての検査依頼がありました。陽性反応が出たのは1頭だけでした。実施基準に関しては、2つのセリ会社に対する調停手続要求はありませんでした。
 
Q:  このことはルール整備の1つの事例になりますが、それだけで不正行為を抑止できますか?
 
A:  多分その他の措置も必要となるでしょう。いずれにしても、不正行為の抑止については一部で指摘されているほどの大きな問題はありません。
 
Q:  フロリダ州で、売主または買主に変更があった場合にセリ会社に対し公表を義務づける法律が発効しました。これは良いことだと思われますか?またSITFもこれを検討しますか?
 
A:  これは良いことだと思います。もし何らかの方法によって現実に市場が操作されているのなら、そのような不正が行われる構造を放置すべきではありません。誰かがある馬に買値をつけて落札をしたのに、実際には購買しないでのであれば、それは不正行為です。
 
Q:  現在、全世界、もちろん私たちの産業においても景気後退の中で事業を営んでいます。馬券の売上げは減少し、セリ売上げも減少し、賞金も減少しました。このように手腕が問われる状況で、TOBAが馬主たちを支援する手立てはありますか?
 
A:  これはTOBAの能力を超えた問題です。TOBAは他の重要な利害関係者とともに、競馬産業がその辿るべき道を進むのを手助けすることはできます。エイトベルズの事故とそれに続いて起きた一般の人々からの抗議について考えるとき、競馬産業の利害関係者と団体の多くが、みずから競馬を見直し、事態を改善するために、協力する方法を模索しているのです。TOBAはその一部を担うでしょう。競馬産業に有益な事柄を各州が実施に移す場合にその手助けをします。その方法はともかく出来ることは何であれ、取組むつもりです。
 
Q:  ここ数年言われていることの1つは、新しい馬主を必要としていることです。いろんな事業が行われたものの、成果は限られていました。この分野でほかに可能なことはありますか?
 
A:  私たちは競馬の経済状態を改善しなければならず、それはTHGの活動に関連します。競走馬を持ち競馬に参加したくなるような賞金体系を守らなければなりません。ボブ・マクナイア(Bob McNair 訳注:アメリカの大事業主で元馬主)氏が競馬を去ったとき、大いに失望し、当惑しました。競馬産業の経済状態全体を改善する特効薬が何かは分りませんが、大まかに言えば馬を大事にすることに焦点を当てるべきだと思います。安全と公正確保に焦点を当てることも大切です。発走後投票のために賭事客が自分たちの賭金が保護されていないように感じるのであれば、競馬のシステムは破綻します。どのようにして競馬に新規馬主を惹きつけるか、それは最高難度の問題であり、私たち全員が取組んでいることです。私たちはもっと競馬を売り込むべきですが、それ以前にジョッキークラブ・ラウンド・テーブル(the Jockey Club Round Table)が認めた非の打ち所のない薬物検査を導入しなければなりません。検査機関は18ヵ所ほどありますが、いくつかは財源不足です。競馬産業が所有しており、研究開発(R&D)や検査品質保証ができると言えるような特別の研究所はありません。
 
Q:  それでは競馬産業の経済状態が回復するまで、多数の新しい馬主を勧誘するのは難しくなりそうですか?
 
A:  そうだと思います。私はこの世界に入ってから多くの馬主をあらたに迎えましたし、彼らの多くは事業に長けていました。しかし、年々多くの新規馬主を惹きつけることが出来なくなってきた現実は、正しいビジネスモデルを持たなければどうにもならないことを物語っています。私たちがそのようなビジネスモデルを導入して、人々が理解し、楽しみ、信頼できるような競馬を売り込めるようになるまで、新規馬主の獲得は困難を極めるだろうと思います。
 
Q:  TOBAが監督するアメリカ・グレード委員会(American Graded Stakes Committee: AGSC)に対して、少々批判があります。それはG1競走が多すぎることやG1昇格には最低賞金を要するために、グレードのない競走や条件競走の賞金を減らして重賞の賞金に回していることです。この件とAGSCが重賞に薬物規制を要請し賞賛されたことについてのコメントを頂けますか?
 
A:  AGSCのピート・ウィルモット(Pete Willmott)委員長によれば、そのプロセスは1973年のAGSC発足時に導入されてから変更はないとのことです。AGSCは、ジョッキークラブから提供された多くのデータを分析して、一定の方法に基づいて、毎年多くの優良馬によるパフォーマンスと競走の質を比較検討しています。ウィルモット委員長が懸念しているのは、格下げするよりも多くのレースを格上げする方向に進んでいるという点だと思います。私は格付けプロセスに参加したことはありませんが、2度意見を述べたことがあります。ウィルモット委員長は2009年中に関連情報を集めた上で、事態を明確に把握するでしょう。AGSCは、これまでの方法を今後も引き続き適用し続けべきかどうか知る必要があります。それはAGSCの理念とその勧告との間に一貫性がなければなりません。薬物規制についての問題は本当に重要で、私はAGSCの姿勢を賞賛します。重賞競走は私たちが所有する血統馬のエリートにより競われていますし、それらレースに信頼性を持たせるのであれば、出来る限り高い水準を維持することが重要です。
 
Q:  ここ数年に浮上したもう1つ問題は、廃用馬の問題です。TOBAは米国サラブレッド・チャリティ(Thoroughbred Charities of America: TCA)と提携した義援金などの取組みをどのように強化しますか?
 
A:  馬主と生産者にとってはもちろん競馬産業にとって深刻な問題であり、TOBAはこの問題への認識をさらに高めるため、率先して取組むつもりです。どのような解決策があるかは分りませんが、競馬産業は一丸となって解決策を見つけ出さなければなりません。TCAは設立されてから今まで、約1250万ドル(約12億5000万円)を150以上の支援団体に分配してきました。ジョッキークラブは20万ドル(約2000万円)相当の資金を用意しています。この問題をさらに理解しなければなりません。TOBAは実施に精を出しますし、TCAとの提携は実現を助けるでしょう。
 
Q:  サラブレッド行動委員会(TAC)に言及されましたが、変化を起こすのにTACはどのように活用されますか?
 
A:  現在まで、TACはジョッキークラブの競走馬安全委員会(TSC)と平行して取組みを行っています。TOBAの会議にはTACの代表が2人出席し、TOBAの会議にもTACの代表が2人出席します。TOBAは努力を重複させたくはありません。TACを支援できる範囲を考えます。TOBAがTSCの支援団体でもあることも考慮したいと思います。何かを実施に移すときには、TOBAは26州にいる2600人のTOBAメンバーに働きかけ、州ごとの基準に従って法律を作ったり、TSCとNTRAの勧告に基づき変革を起こす手助けをすることができます。
 
Q:  馬主と生産者に対して最後に一言ありますか?
 
A:  最後の一言はたぶん、このインタビューを概要するものになります。それは私たち競馬産業が一丸となって取組まなければならないということです。今が最もそれに相応しい時です。忘れてはならないのは、私たちが現在直面している問題です。競馬産業は機能不全に陥っています。それは一夜で改善出来るものでも、方向を定められるものでもありません。私たちは自ら変革の理念を持ち、自ら変革を起こす方法を探さなければなりません。
 私たちは自身の利益より産業全体のことをもっと良く考えなければなりません。競馬産業にはNFL(プロフットボールリーグ)、MLB(メジャーリーグ)、NBA(プロバスケットボール協会)のような豪華さはありません。TOBAは、馬主が寄り集まり競馬の運営方法について戦略を練る組織です。私は若いときにセクレタリアト(Secretariat)が三冠馬となりタイム誌(Time Magazine)の表紙を飾ったことを覚えています。それから35年が経ちます。どのようにして競馬産業がここに至ったかについて段階をたどる時間はありませんが、現状はまさにご覧のとおりです。他のエンターテイメントスポーツの出現によって競馬は外野席に追いやられました。

 しかし全てを通して、私たちが失っていないただ1つのものは馬です。そして私たちはファンに興奮を与えるもの、すなわち1着でゴールするために全力を出す馬という動物に対して湧く愛情を失ってはいません。それらは未だに存在していることを私たちは忘れています。その原点に戻ったうえで、将来像とそれを実現する方法を確立しなければなりません。それによって競馬の価値を高める変革を成し遂げることができるでしょう。
 
[The Blood-Horse 2009年1月3日「Q&A with Reynolds Bell」]


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