北米のリーディング・ブリーダー(連載 3)(アメリカ)【その他】
ドルフュス・モリスン氏(Dolphus Morrison)
サラブレッド生産で成功する鍵はこだわり続けることかもしれない。
アラバマ州バーミングハムのSMIスティール社(SMI Steel)の元会長のドルフュス・モリスン氏は、20年以上ハル・ウィギンズ(Hal Wiggins)調教師と組んでいる。
2003年ドルフュス・モリスン氏が生産したロッタキム(Lotta Kim)はチャーチルダウンズ競馬場のゴールデンロッドS(G2 2歳牝)で2着となった。このとき、モリスン氏は同馬が特別な牝馬であると確信した。しかし、3歳になったロッタキムはフェアグラウンズ競馬場のティファ ニーラスS(準重賞)で初勝利を収めたが、次のレース出走前にフェアグラウンズ競馬場の向う正面で放馬した馬に激突され負傷し、競走馬としてのキャリアを 終わらざるを得なくなった。
同馬は下腿部の筋肉を断裂し、278針を縫う大手術を受けた。ロッタキムを治療した獣医師たちは繁殖牝馬にすることに自信を持てなかったが、同馬はなんとか一命を取りとめた。
しかし、モリスン氏の忍耐が報われた。ロッタキムは2頭の仔馬を産み、第1子レイチェルアレクサンドラ(Rachel Alexandra)は2008年のゴールデンロッドS(G2)の勝利によって、ロッタキムの繁殖牝馬としての評価を高めた。
またこの勝利によって、モリスン氏は2008年の“全出走馬に対するステークス競走勝馬の割合ランキング”のトップになった。モリスン氏の出走馬11頭 のうち、4頭がステークス競走を優勝し、勝率36.3%であった。レイチェルアレクサンドラに加えて、アボットホール(Abbott Hall)、ハイブルース(High Blues)、そしてスティープルチェイス競走勝馬ホットスプリングス(Hot Springs)のステークス勝馬がいる。
2008年のシーズン前、モリスン氏は5回G1競走を制したユー(You)の生産者として名を馳せた。2歳時に2度G1競走を制したこのユーアンドアイ(You and I)の牝馬は、エドムンド・ガン(Edmund Gann)氏に個人的に売却された。
またモリスン氏は馬主として、モリスコード(Morris Code)を出走させ8回ステークス競走を制した。
ドルフュス・モリスン氏
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セズフー・サラブレッズ牧場(Sez Who Thoroughbreds)
リチャード・サイモン(Richard Simon)氏のセズフー・サラブレッズ牧場の生産事業は2008年も目覚しい結果を残し、収得賞金ランキングに入った。
ニューヨーク州スティルウォーターの南部のセズフー・サラブレッズ牧場[265エーカー(約106 ha)]が、サイモン氏の事業の本拠地となっている。同氏は主として若馬をフロリダに送り、そこで育成・調教する。この方法は、若馬にニューヨーク州生産 馬という地位を与え高額賞金を得ながら、調教は気候の良いフロリダで行うことを可能にしている。
セズフー・サラブレッズ牧場は収得賞金ランキングで、2007年に2位、2008年は7位となった。
同牧場の2008年の稼ぎ頭は、13万9010ドル(約1億3901万円)を獲得したアヴィーズデスティニー(Ahvee’s Destiny)であった。サイモン氏のニューヨーク州の牧場に繋養されているリッジ(Rizzi)を父とするアヴィーズデスティニーは、サラトガ競馬場 のニューヨーク州産馬限定の芝競走メカニックビルSを優勝した。同馬はまた1000 mを56秒74で走りメドウランズ競馬場のコースレコードを樹立した。
セズフー・サラブレッズ牧場のジュディスワイルドラッシュ(Judiths Wild Rush)は、2003年にカナダのチャンピオン2歳馬、2005年と2006年にカナダのチャンピオンスプリンターとなり、2008年も賞金を獲得し続けた。
同牧場は、シャーリン(Sherine)がアケダクト競馬場のカムリーS(G2)を優勝したことで、重賞勝利を収めた。
セズフー・サラブレッズ牧場は2008年、出走実頭数198頭から112頭の勝馬および6頭のステークス勝馬を出した。
セズフー・サラブレッズ牧場
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ストーナーサイド・ステーブル(Stonerside Stable)
ロバート&ジャニス・マクナイア(Robert and Janice McNair)夫妻が、モハメド殿下(Sheikh Mohammed bin Rashid al Maktoum)にストーナーサイド・ステーブルを売却した2008年に、同ステーブルで生産された競走馬は目覚しい成績を収めた。
ストーナーサイド・ステーブルで生産された2頭の馬がブリーダーズカップの2つの競走を制した。3歳のレイヴンズパス(Raven’s Pass)はBCクラシックを制し、カーリン(Curlin)の現役最後のレースに水を差し、ミッドシップマン(Midshipman)はBCジュヴェナ イルを制し、これによりチャンピオン2歳牡馬の栄誉を確実なものにした。
ロバート・マクナイア氏は2008年9月、ケンタッキー州パリスの1947エーカー(約778.8 ha)の牧場、カリフォルニア南部アイケンの調教センター、80頭の現役馬そして170頭の繁殖牝馬、当歳馬および1歳馬をモハメド殿下に売却した。
1994年にストーナーサイド・ステーブルを創立したマクナイア氏は、全米フットボールリーグのヒューストン・テキサンズ(Houston Texans)に、その創始者として情熱を注ぐ予定である。
ストーナーサイド・ステーブルは2008年、734万9467ドル(約7億3495万円)を獲得し、収得賞金ランキングで2位となった。出走実頭数 100頭以上の生産者のなかで、同ステーブルは全出走馬に対するステークス勝馬の割合が最高の9%で、出走実頭数100頭の中から9頭のステークス勝馬を 出している。そして、1頭の出走馬につき7万3495ドル(約735万円)の賞金を獲得しており、出走馬の平均収得賞金額が1位となった。
モハメド殿下は、ストーナーサイド・ステーブルの生産事業を従来どおり続けると語った。モハメド殿下の生産顧問であるジョン・ファーガソン(John Ferguson)氏は、「現時点で何も変更する予定はありません」と述べた。
「モハメド殿下はこの牧場を買収する機会を得たことに満足しています。ストーナーサイド・ステーブルは過去に偉大な馬を数頭輩出しており、それがこれからも続いていくことを確信しています」。
ストーナーサイド・ステーブルのカウボーイキャル(Cowboy Cal)は、2009年のシーズン開始直後にサンタアニタ競馬場のサンパスカルH(G2)で優勝し、優れた4歳馬としてシーズンを迎える構えである。
ストーナーサイド・ステーブル
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ウィンスター牧場(WinStar Farm)
2頭の優良3歳馬がウィンスター牧場に栄冠をもたらした2008年もまた、上出来なシーズンであった。
2冠馬ビッグブラウンが失速した2008年のベルモントS(G1)で、ダタラ(Da’Tara)が逆転勝利を収め、ケニー・トラウト(Kenny Troutt)氏とビル・カスナー(Bill Casner)氏が所有するウィンスター牧場生産馬はこれで3冠競走のすべてを制することになった。以前、2003年ケンタッキー・ダービー(G1)とプ リークネスS(G1)をファニーサイド(Funny Cide)により制していた。ダタラはその母馬トーチェラ(Torchera)の5頭の産駒で初めてのステークス勝馬である。
ダタラのベルモントSの優勝後、カスナー氏は本誌に「繁殖牝馬の優劣を見極めるのには時として多くの時間を要します。ティズナウ(Tiznow)と交配したことで、トーチェラは危機を脱しました」と語った。
同牧場に栄冠をもたらしたもう1頭の生産馬は、2008年エクリプス賞の最優秀3歳牡馬賞の最終選考にまで残ったコロネルジョン(Colonel John)である。同馬は、2008年にトラバースS(G1)とサンタアニタダービー(G1)を制し、122万8530ドル(約1億2285万円)を獲得 した。
ウィンスター牧場は牡馬ハンデキャップ競走でもG1勝鞍を挙げた。すなわち、スプリングアットラスト(Spring At Last)がガルフストリームパーク競馬場のドンH(G1)を制し、ウェルアームド(Well Armed)がサンタアニタ競馬場のオークツリー開催のグッドウッドS(G1 ハンデキャップ)を制した。スプリングアットラストは現在、種付料1万 5000ドル(約150万円)でウィンスター牧場に繋養されている。
コロネルジョン、ダタラおよびウェルアームドはいずれもティズナウの産駒で、ティズナウは2度BCクラシックを制し、2008年に最優秀種牡馬賞の最終 選考に残り、現在はケンタッキー州ヴァーサイルにある1400エーカー(約560 ha)のウィンスター牧場に繋養されている。
ウィンスター牧場
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By Frank Angst
[Thoroughbred Times 2009年2月7日「Rare bread―Leading breeders of 2008」]