水耕システムにより馬の飼料用の発芽マットを生産(アメリカ)【その他】
熱心な馬の生産者は、今後の時流になると信じる者もいる水耕システムのおかげで、種を蒔いてから6日間で馬の飼料を生産することができる。
オーストラリアの企業であるフォダーソリューションズ社(Fodder Solutions)は、馬や他の家畜の飼料として供するために穀物や種子を発芽させて作る“発芽マット”を生産するために水耕を利用する。革新的なシス テムにより生産された栄養価の高いこの“ビスケット(発芽マットのこと)”は、乾草と穀物飼料以外の選択肢あるいはそれらを補完するものとして利用されて いる。
同社は、その水耕システムである“ダウンアンダー”(Down Under)を2004年に商品化し、近年その販売網は米国にまで拡大し始めた。
マサチューセッツ州ハーバードでサラブレッドを所有するパトリシア・ハーター(Patricia Hurter)氏は、「私はフォダーソリューションズ社の水耕システム装置を大変気に入っており、これはまったく素晴らしいものです。美しく青々とした牧 草を作り出します。根がしっかり絡み合っているので、簡単にちぎれません。馬は好んで食べています」と語った。
フォダーソリューションズUSA社のテリー・コレス(Terry Colless)社長は、「私たちは馬にとって健康的であること、費用効率を上げることのいずれにおいても、実質的に成功を収めています」と語った。
同社長は、ガットンのクイーンズランド大学(University of Queensland)において行われた研究において、実際に馬の飼料用に水耕によって発芽された大麦の栄養価値が実証されたと述べた。この研究により、 水分量が多く繊維が長いこの飼料製品は、馬がむ時間をより長くし、厩舎にいる馬に大きなメリットを与えていることが分かった。食む時間が長いことは、胃潰 瘍の発症率を減少させるのに効果的である唾液の分泌の増加に結びつく。研究期間において、この製品を摂取していた馬の行動ぶりと毛並みは、飼料が乾草と穀 物に限定された馬に比べて改善した。
コレス社長は、ビジネスーパートナーであるフラヴィオ・ラッカネーロ(Flavio Raccanello)氏と一緒に、オーストラリアでこのシステムを開発した。同社長は、「私たちは約6年前に輸送可能な栽培室(growing chamber)を開発しました。オーストラリアでは初めは徐々にでしたが、その後は飛ぶように売れました」と述べた。
また、この商品の人気は、2006年にクイーンズランド最優秀農業発明品に選ばれた後に急上昇したと述べた。
フォダーソリューションズ社は、オーストラリアのほかアイルランド、南アフリカ、韓国および中東において、この商品を400ユニット以上売り上げた。
フォダーソリューションズUSA社は2009年、このシステムをカリフォルニア州で売り出し、その後全米にこれを行き渡らせた。現在ではカリフォルニア州をはじめ、アリゾナ州、モンタナ州、ニューメキシコ州およびテキサス州にも販売業者がいる。
2009年に世界農業展示会(World Ag Expoトゥーレアで開催)とカリフォルニア州フェア(California State Fair サクラメントで開催)においてこの商品が展示されたときに、多くの人々がこの特許システムに興味を示した。フォダーソリューションズ社の米国における初め ての顧客は、カリフォルニア州中部の有機酪農場である。その後、サラブレッド馬主や肉牛農場を顧客にしていった。
配管工で航空技術者でもあったコレス社長は、システムはカリフォルニア州オクスナードで生産されたと述べた。自動化されたシステムは、4つのサイズが利 用可能である。最も小さいシステムは1日6頭の馬の飼料を作り出し、価格は9,900ドル(約99万円)からである。コレス社長は、「最も小さいシステム は、1日5ドル(約500円)で借りられます」と付言した。
最も大きいシステムは1日最高で63頭分の飼料を作り出し、定価は3万4,000ドル(約340万円)である。「最大のシステムは1日に15ポンド(約 6.8 kg)の“ビスケット”を15セット作り出します。そして1日14ドル(約1,400円)で借りられます」とコレス社長は述べた。
また同社長は、「ユニットはすべて注文製です。標準モデルはありますが、私たちは顧客に選択肢を用意しています」と述べた。それは、電子装置を左側ある いは右側のどちらにつけるか、あるいは、扉を1つ又は2つのどちらにするかなどである。同社はそのユニットを設置し、技術的支援も行う。
システムが設置されれば、馬主は大麦やアルファルファのような穀物やマメ科の植物を1種類発芽させるか、あるいはさまざまな作物を混ぜ合わせて飼料をカスタマイズすることができる。
コレス社長は、「サラブレッドにおいては、レースを終えてまた次のレースを控えている現役馬を繋養しているのであれば大麦だけを与えると良いでしょう。もし厳しい調教を施す必要のある馬がいるならば、ブレンドした飼料を与えると良いでしょう」と語った。
フォダーシステムは、種子率、灌漑システムおよび温度を管理する。ユニットは屋内でも屋外でも設置可能であるが、コレス社長は、このシステムを風雨から保護するために厩舎の中に設置することが好ましいと述べた。
そして同社長は次のように付言した。「米国においては、華氏マイナス10度(−23℃)から最高で120度(48℃)までの極限的な気温に対応できるよう技術的に進歩させたシステムを市場に出しています」。
ハーター氏は、自身のシステムはマサチューセッツ州の零下の気温に耐えるよう設計された原型モデルであり、2頭のサラブレッドを含む4頭の所有馬に飼料 を与えていると述べた。同氏は数年前に、ベルギーの有名な温血種(馬術競技用馬)で国際的なグランプリを制してカナダのスポーツ殿堂入りを果たしたビッグ ベン(Big Ben)についての記事を読んだことで、所有馬に水耕の牧草を与えることに興味を持った。ビッグベンは、慢性的に患っている疝痛を治癒するために非常に消 化しやすい飼料を与えられていた。
ハーター氏は、「1日に12時間放牧していたら元気であるものの、もしそうでなければ疝痛を起こしてしまう馬を飼っています。彼が肢を怪我したので、持 病である疝痛が悪化してしまうのではないかと心配しました。そこで私は調査をし、オーストラリアのフォダーソリューションズ社を見つけたのです」と説明し た。
同氏のサラブレッドは、障害馬術馬として第2のキャリアをはじめた元競走馬である。同氏は厩舎の通路において、発芽大麦を生産している。
同氏は、「仕様書によれば、1日に約80ポンド(36.3 kg)の牧草を得ることができ、したがって各馬に1日約20ポンド(9.1 kg)の飼料を与えることができます」と語り、20ポンド(9.1 kg)は大体、“ビスケット”1.5個に相当すると説明した。
またハーター氏は、マサチューセッツ州では乾草が比較的高価であり、寒い冬の間不足するほか、同州では地価が高く、多くの馬主は十分な牧草地を得ることができないので、このシステムは同州で馬を飼育するにはぴったりであると述べた。
同氏は、「もしヴァージニア州に住んでいて、牧草の生えた緩やかな丘陵があちこちにあれば話は別ですが、マサチューセッツ州においては、乾草は高価で す。干ばつがあったり、寒すぎたり、土地が不足している地域において、このシステムは素晴らしい解決策であると思います。あまり高価ではなく、牧草は美し く、馬にとっては好ましいです。コストを削減しながら、より良い質の飼料を得ることができるなんてそうありません」と語った。
アリゾナ州ウィリアムズのトロイ・モーテンセン(Troy Mortensen)氏は、フォダーソリューションズ社のシステムに満足している。
「私はこのシステムにより大麦および燕麦の飼料を与えています。馬は、アルファファを残してもこれらを食べるでしょう。私たちは昨年、これをショーに出す豚にも飼料として与えましたが、豚もこれを食べていました」。
モーテンセン氏は、器具の中にスライドさせて入れるトレイに種を蒔くだけなので発芽マットを育てることは簡単であると述べた。「とても分かりやすいです。無理だと思う人もいるかもしれませんが、私にとっては簡単です。子供でさえも育てることができるでしょう」。
また同氏は、馬や家畜に乾草や穀物を与えるよりも発芽マットはコスト効率が良いと述べ、「馬においては、おそらく約35−40%の節約をすることができ ます。まず大麦は1ポンド約22セント(約22円)で購入できます。システムを作動するための電気代に加えて、2年のうちにシステムが故障するとしても1 日1頭につき約66〜70セント(約66〜70円)しか掛からないでしょう。つまり2年すれば元がとれます」と語った。
ケイティ・コックウィット(Katie Cocquyt)氏は、カリフォルニア州ムーアパークのサラブレッド馬主で、フォダーソリューションズ社の馬部門であるグリーン・ストライド・エクワイン (Green Stride Equine)の代表である。同氏によれば、フォダーソリューションズ社は、アルファファを与えられている馬と比較して健康へのメリットを究明するという 目的で、水耕で育てた牧草を馬に与える研究を行っている。
「私たちは、これをいろいろなレベルの多くの競技馬への事例研究に利用しました。それには、競走馬、障害馬術馬および他の競技馬が含まれます。このシステムを使った発芽マットを与えられている馬においては、跛行、胃潰瘍および貧血はすべて回復しました」。
同氏は次のように付言した。「発芽マットの水分含量は馬にとっては魅力的であり、有益です。発芽マットは全体が水分を維持できるので、馬は発芽マット自 体から水を摂取することができます。彼らはそれを好んでいます。発芽マットは非常に繊維質が多いので、消化管をきれいにします。そしてそれは、とても消化 しやすいので、馬房が尿や糞の匂いで臭くなることはありません。この発芽マットは、とりわけ競技馬向けに関しては、今後の時流になるものと確信していま す」。
By Robyn Rominger
(1ドル=約100円)
[The Blood-Horse 2010年8月21日「Growing Your Own」]