競馬界、人工授精論争に身構える(オーストラリア)【生産】
豪州のサラブレッド競馬界と競走馬生産業界はともに、人工授精(artificial insemination)に関する連邦裁判所での訴訟において議論を戦わせる準備を進めており、1年間にわたる法的戦いを予定している。
数年にわたりオーストラリアの競馬界で最も議論を呼んでいる問題の1つであり、国際的に非常に大きな影響力を持つと思われる問題である人工授精に関する 論争は、シドニーターフクラブ(Sydney Turf Club)の前会長ブルース・マックヒュー(Bruce McHugh)氏が、競走と公正な取引を促進するために取引慣行法(Trade Practices Act)に基づく要請書を提出した時に表面化した。マックヒュー氏は、人工授精で生まれた馬の出走を禁止するオーストラリア血統書(Australian Stud Book)のルールは競争阻害行為であると訴えた。
法廷での戦いは、馬産業界の特殊な性格の故に複雑かつこれまで争われたことのない法律を双方の弁護士が良く頭に入れる必要があるため、今後数ヵ月間続く予定である。
オーストラリア競馬評議会(Australian Racing Board)、オーストラリア血統書を管理しているオーストラリア・ジョッキークラブおよびヴィクトリアレーシングクラブ(Victoria Racing Club)は、2月下旬に連邦裁判所に提訴する予定である。次の段階は、起訴人による証拠開示手続となるだろう。起訴人は、人工授精を禁止するルールに従 うことによっていかなる競争阻害行為も見当たらないかどうかを決定するため、オーストラリア・ジョッキークラブとオーストラリア競馬評議会によるすべての 内部文書を開示することになる。
訴訟の最終段階は、2010年後半に連邦裁判所での本格的な審理において展開するだろう。双方の鑑定人の見解は、裁判所がオーストラリア血統書とオース トラリア競馬評議会のルールの水準と公正性を判断する一助となるだろう。双方ともに自身の立ち位置に確信を持っているようだ。
オーストラリア・サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Australia)のCEOであるピーター・マクゴラン(Peter McGauran)氏は、人工授精の導入は世界におけるオーストラリアの地位に悲惨な結果を招き、血統を大きく弱めてしまうだろうと述べた。
マクゴラン氏は、次のように語った。「競馬産業の大多数の人々は、競走馬生産の国際市場で豪州が急成長しているときに、人工授精で受胎した豪州産馬が国 際的に禁止されることになってしまう可能性があることやさらには意図しない結果がもたらされるかもしれないことから、人工授精に反対しています。生産者 は、現在トップ種牡馬20頭は150頭〜400頭の繁殖牝馬に種付けするほどになっているので、人工授精によって遺伝子プールを狭めてしまうことを深刻に 憂慮しています」。
人工的に生産された馬は、枠内に掲載されているアメリカ血統書(The American Stud Book)の主要登録規程および要件(Principal Rules and Requirements of The American Stud Book)の第5節のルール1-Dにおいて、米国、カナダ、プエルトリコでのレース出走および生産活動の資格がなく、また北米外で人工的に生産された馬に もその資格がない。
ジョッキークラブの声明は、「ジョッキークラブはサラブレッドの生産と競走の向上に尽力している組織として、私たちのルールが短期および長期のサラブレッド生産の福祉とサラブレッド競馬に大いに役立っていることを確信しています」と述べた。
ジョッキークラブのルール 登録資格を得るには、仔馬は種牡馬の繁殖牝馬への種付(繁殖牝馬へ種牡馬が直接乗って、生殖器官に陰茎を挿入し精子を射精する)の結果でなければならな い。生殖の補助として、その交配の間に種牡馬により作り出された精液の一部は種付される繁殖牝馬の子宮にすぐに注入される。自然な妊娠が生じるべきであ り、出産は仔馬を受胎したのと同じ繁殖牝馬の馬体からもたらされるべきである。いかなる人工授精、胚移植、クローニングあるいはその他の形態で生産された 馬は、産駒登録の資格を有さない。 出典元:アメリカ血統書の主要登録規程および要件の第5節ルール1-D |
By Shane McNally
[Thoroughbred Times 2010年2月13日「Australia prepares for artificial insemination」]