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2011年01月14日  - No.1 - 1

競馬場と競馬協会、会員制賭事サイトの設立を検討(アメリカ)【開催・運営】


 非営利団体である主要な競馬場と競馬協会は、場内馬券発売所のように控除金を公平に分配する会員制の賭事サイトを設立する可能性について検討している。

 デルマー・サラブレッド・クラブ(Del Mar Thoroughbred Club)、キーンランド協会(Keeneland Association)、NYRA(ニューヨーク競馬協会)およびオークツリー競馬協会(Oak Tree Racing Association)の理事たちは、9月後半に、会員制賭事(advance-deposit wagering: ADW)のウェブサイトの立上げについて話し合うためにケンタッキー州レキシントンで会合を行った。当初の構想は、現在他のADW業者が手に入れている馬券売上げからの取り分を撤廃し、ホースマンと競馬場に対して賞金の形で、またおそらく賭事客にはリベートの形でより高い割合を還元することである。

 オークツリー競馬協会の上席副理事長であるシャーウッド・チリングワース(Sherwood Chillingworth)氏は、近年において競馬産業の数少ない成長分野の1つとして証明されているADW賭事には新しいビジネスモデルが必要であるということで競馬場の代表たちは一致していると述べた。同氏はまた、新しいビジネスモデルを作り上げるためにしばらく時間が掛かるのは明白であると述べた。

 立上げ費用や顧客獲得のほか、既存のADW業者と一緒に取り組むのか、ADWの基盤となるシステムを全く新しく確立するのかの検討などが乗り越えるべき課題として挙げられる。チリングワース氏は、このような共同事業を立ち上げるための資金を確保することは難しいかも知れないが、一旦設立されれば、非営利団体により運営されるサイトは有利な立場を得るだろうと述べた。

 チリングワース氏は、「私たちには対応しなければならない株主はいません。私たちには理事会がありますが、理事たちの関心は競馬をサポートすることです。私たちは競馬産業を救うために行動を起こすでしょう」と語った。

 新設されるADWサイトは、オークツリー競馬協会の運営するサイト(OakTreeBets.com)やデルマー・サラブレッド・クラブが運営するサイト(DelMarBets.com)で提供されているモデルに近いものとなるだろう。これらのサイトは、MIディベロップメンツ社(MI Developments Inc. : MIDI)のADW基盤システムを有しているエクスプレスベット社(XpressBet)と連携して構築されたもので、収入を競馬場とホースマンで平等に分けている。これと同じモデルである新しいADWサイトは、4競馬団体の支援を得て、他の競馬場を惹きつけるだろう。

 キーンランド協会の理事は、今はコメントをするには早すぎる段階であると述べた。一方NYRAとデルマー協会の理事は、このサイトについてコメントしなかった。

 現在ADW業界の主要企業であるTVG社(Television Games Network)、ツインスパイアーズ社(TwinSpires.com)およびエクスプレスベット社は、映像権料について各競馬場と交渉している。これらADW業者は、馬券売上げの控除金の一定割合を自分の懐に収めた上で、賭事の対象となる競馬を施行した競馬場に対して手数料を支払い、競馬場はその金を賞金を通じてホースマンに分配している。

 当初ADW業者に控除金の一部を懐に入れることを許容したのは、ADW業者はそれによって追加的な馬券売上げを創出すると考えられたからであった。ADW業者に対する賭金の割合が近年増加している一方で、全体的な馬券売上げは減少している。このことは、ADW事業の大半は常連賭事客がインターネット賭事に移ってきたことによって成り立っていることを示している。

 場内および場外の馬券発売と比較すると、ADW賭事は最も少ない割合しか競馬への資金提供を行っていない。以前ホースメングループ(Thoroughbred Horsemen's Group)のために控除金の分配協定について研究したウィルソン・シャーリー(Wilson Shirley)氏は、場内馬券売上げからの控除分の90%以上が競馬に還元され、競馬場とホースマンの間でほぼ平等に分配されます。そして残りは、税金、生産者基金そして他の財源に充てられますと述べた。

 同じ賭事がサイマルキャストを通じて場外で提供される場合、約67%が競馬に還元される。シャーリー氏は、場外馬券の多くは他の競馬場あるいは競馬場と提携した場外馬券発売所において購入されていると指摘した。これらのケースにおいて、競馬を開催した競馬場と顧客が賭事を行った競馬場に控除金が還元されることとなっており、ホースマンにも分配される。

 これらの構図の中にADW賭事が入ってきた場合には、競馬場とホースマン以外の第3者が控除金から大きな割合を手に入れることになる。このため、ADW賭事の売上げの控除分から競馬に還元される割合は約40%であるとシャーリー氏は見積もっている。

 シャーリー氏は、「競馬場とホースマンにとっての問題は、全体的な馬券売上げの減少だけではなく、ADW賭事の売上げの割合が増加していることです。競馬に還元される割合が最も少ない賭事が一番成長しているのです」と述べ、2010年の北米の馬券売上げの約20%〜25%はADWのサイトを通じて創出されたと見積もっていると付言した。

 チャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc. : CDI)の2009年の年間報告は、同社のADW基盤システムを有するツインスパイアーズ社の行ったインターネット事業が、7,089万1,000ドル(約70億8,910万円)の収入から1,394万9,000ドル(約13億9,490万円)の純利益をあげたことを明らかにしている。競馬運営が3億444万ドル(約304億4,400万円円)の収入から3,502万ドル(約35億200万円)の利益しか出していないことを考えると、これは魅力的な数字である。

 非営利団体のこのグループは、現在検討中のADWサイトのビジネスモデルを、控除金の90%を還元している場内馬券発売所のモデルに似たものにしたいと考えている。

 以前全米ホースマン共済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective)の理事長を務めていたジョン・ロアーク(John Roark)氏は、数年前に、現在この非営利団体グループが話し合っているモデルに近いADWサイトを提案していた。

 ADW業者は、第3者への控除金支払いを正当化できるほどには競馬界への資金還元をしていない一方、ADW賭事を立ち上げたCDIやMIDIのような競馬場所有者は、競馬に還元されるべき利益を搾り出すためにこれらのADWサイトを活用しているのである、とロアーク氏は確信している。同氏はまた、数年前の案が現実のものとなっていないことに不満であるが、その時の案によって競馬の運命が転換されることを信じつつ、現在の努力が報われることを望んでいる。

 ロアーク氏は、「数年前のあの案は、成し遂げる力のある人によって検討課題の先頭に戻されるべきです。それはずいぶん前に成し遂げられるべきでした」と語った。

 チリングワース氏は、競馬界のリーダーたちは、最も重要なパリミューチュエル賭事の改革に尽力しないで、それに代わるゲームを競馬場に設置するのに時間とコストを掛けすぎていると述べた。

 チリングワース氏は次のように語った。「私たちは、パリミューチュエル賭事の改革が競馬と競馬場と賞金を救うものだと考えています。カリフォルニア州にすぐにスロットマシンが設置されるとは考えていませんので、中心をなす商品に目を向ける必要があります。」。

 新たなサイトに向けてのチャレンジは、賭事客を惹きつけるものである。CDIは、アメリカタブ社(AmericaTab)を2007年に買収し、2010年にユーベットコム社(Youbet.com Inc.)を買収したことによって、既存のADWの顧客を獲得した。またCDIが所有するツインスパイアーズ社のサービスを売り込むために、顧客リストを提供した競馬予想情報提供業者のブリスネット社(BrisNet)を2007年に買収した。

 ベットフェア社(Betfair)は、米国のもう1つのトップADW業者であるTVG社を買収するために5,000万ドル(約50億円)を費やし、この買収により競馬テレビチャンネルを得るという利益も得た。ツインスパイアーズ社、TVG社、ユーベット社およびMIDIのエクスプレスベット社は、ADW業者全体の90%を占めている。したがって、新しいADWサイトを設立しようとする場合には、顧客獲得のための莫大な費用を要するのは確実である。

 定期的に競馬賭事を提供していたADW業者の元オーナーであるジョー・リッデル(Joe Riddell)氏は、立ち上げられるかもしれない非営利団体によるADWサイトは、普段ADW業者が懐に収めているお金の賭事客への還元を約束することで賭事客を惹きつけることができるだろうと確信している。またそのリベートは、海外賭事業者の提供する賭事に移っていた賭事客を含む多くの賭事客を惹きつけることができるだろうと述べた。この取り組みは、ADW業者が約束したものの実現できなかった馬券売上げの増加をもたらすだろうと同氏は確信している。

全体の馬券売上げは減少し、ADW賭事の売上げは増加

競馬場とホースマンは北米の馬券売上げが減少し続けていることで危機感を持っている。そして更なる問題は、競馬に最も少ない割合の資金しかもたらさないADW賭事が近年確実に成長していることである。

馬券総売上げ
売 上 げ 前年比増減
2006 155億5,000万ドル(約1兆5,550億円)
2007 154億5,000万ドル(約1兆5,450億円) -0.06%
2008 143億3,000万ドル(約1兆4,330億円) -7.2%
2009 129億7,000万ドル(約1兆2,970億円) -9.5%
2010* 120億4,000万ドル(約1兆2,040億円) -7.2%

ADW賭事売上げ
(3大ADW業者であるTVG社、ツインスパイーズ社及びエクスプレスベット社への賭金の合計)
売 上 げ 前年比増減
2006 8億1,628万ドル (約816億2,800万円)
2007 8億7,167万ドル (約871億6,700万円) +6.8%
2008 9億5,006万ドル (約950億600万円) +9.0%
2009 10億6,400万ドル (約1,064億4,000万円) +12.0%
2010* 13億2,100万ドル (約1,321億円) +24.2%

北米の馬券売上げにおけるTVG社、ツインスパイアーズ社及び

エクスプレスベット社の3社合計のシェア

シェア
2006 5.2%
2007 5.6%
2008 6.6%
2009 8.2%
2010* 11.0%
*これらの数字は予測であり、2010年上半期からの見積もりに基づいている。
備考:ツインスパイアーズ社の数字は2006年と2007年はアメリカタブ社の数字を合わせたものである。

By Frank Angst

(1ドル=約100円)

[Thoroughbred Times 10月23日「Not-for-profits consider launch of account wagering site」]


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