不利な枠順でも健闘する騎手は誰か?(イギリス)【その他】
5月15日にロンシャン競馬場で施行されたフランス2000ギニー(G1、 3歳牡馬限定)は、同日に施行されたフランス1000ギニー(G1、 3歳牝馬限定)よりも勝ち時計が約3秒速く、この2つのクラシック競走の対照的なレース展開は、コーナーが1つ以上ある競走において枠順とペースがいかに大きな影響を持ちうるかを物語っている。
1000ギニーにおいては、ペースメーカーであるグロリアスサイト(Glorious Sight)がゆったりとしたペースで進んだため、内枠の馬ほど好位置を確保でき、楽なレース運びをすることができた。結果として7着までの馬のうち、6番ゲートだった優勝馬ゴールデンライラック(Golden Lilac)から5着馬までを含む6頭は、発走枠順が一桁の内枠寄りの馬であった。
1時間後に施行された2000ギニーでは、ハイペースでレースを引っ張ったのは外枠のウートンバセット(Wootton Bassett)であった。ポール・ハナガン(Paul Hanagan)騎手はこの1番人気馬に乗り、外枠からの発走の不利を最小限にするために、スタートから積極的な騎乗をしたが、一度鼻に立ってしまうといつものことだが抑えがきかなくなり、最後の1ハロン(約200 m)地点で優勝馬ティンホース(Tin Horse)をはじめとする4頭にかわされた。
英国では、ほぼすべての中距離および長距離のレースが少なくともコースを半周し、また多くの短距離競走でコーナーが一つはあるので、騎手たちはこの手の判断を日常的に下さなければならない。
騎手は、発走枠順が決まると一連の要素を考慮した上でレース戦術を決める。その要素にはコースの広さ、出走頭数、および騎手自身の騎乗スタイルが含まれる。
正確な判断を下すことと選択した戦術を効果的に実行するにはかなりの騎乗能力が必要であり、それが勝ち負けを左右しうる。従ってシーズン中に、発走枠順が不利か有利かで各騎手の成功度合いに差が出るだろうと思うのは妥当と思われる。
別表は、過去5年間において出走頭数が10頭以上のコーナーのある芝レースで内枠あるいは外枠から発走して高い勝率を誇る騎手を明らかにしている。
左回りコースの成績は右回りコースの成績と区別されており、この記事において内枠とは内柵から3番目までのゲートのことを示しており、外枠とは外側から3番目までのゲートのことを示している。
内枠から発走してより良い勝率を上げている騎手を詳しく見てみよう。
右回りコースでは、ハナガン騎手は15%の勝率(136戦21勝)で6位となっている。そして同騎手は最優秀騎手という優れたプロフィールを持っているにも拘らず、その馬券を買うことによる利益は1ポンド(約140円)に対して4.05ポンド(約567円)である。
勝馬のレースぶりは、21勝のうち16勝は積極的に先行する騎乗をし、5勝は始終鼻に立っていたことが明らかになっており、ハナガン騎手の勝利の中心は前に行く戦術により達成されている。それゆえにウートンバセットは、昨年のジャンリュックラガルデール賞の時に3番ゲートからスタートしてハナガン騎手を背に始終鼻に立ったように、2000ギニーでも内枠から発走していれば、どれだけ素晴らしいパフォーマンスを見せていただろうかと思い巡らせてみなければならない。
右回りコースの内枠からの発走で最も活躍する3人の騎手は、20%以上の勝率を誇るジェームズ・ミルマン(James Millman)騎手、リアム・ジョーンズ(Liam Jones)騎手およびフィリップ・ロビンソン(Philip Robinson)騎手である。
このうちミルマン騎手は17戦4勝で24%の勝率を誇っており、3着までに入った馬のうち2頭がオッズ34倍であったことで払戻し利益は1ポンド(約140円)に対して12ポンド(約1,680円)である。この若い騎手はまた、左回りコースの内枠と右回りコースの外枠のいずれにおいてもトップテンジョッキーに入っている。10騎乗のうち9騎乗近くを父親のミルマン厩舎の馬に騎乗する以外は、他厩舎の馬にはあまり騎乗していない。しかしこのデータから判断すると万能で才能があり、より多くの機会を与えられる価値がある。
また、ロビンソン騎手がペースを鋭敏に読み取るという評判には、十分に根拠がある。同騎手は41戦8勝し、そのうち4勝は先行して勝ち、残りの4勝は位置取りを器用に変えながら勝った。また同騎手は、左回りコースの内枠においても50戦9勝であり、そのうち4勝は始終鼻に立っていた。
しかしロビンソン騎手がその優れた騎乗能力を証明したのは内枠からだけではない。左回りコースで挙げた最近の60勝のうち11勝は外枠からのスタートであった。興味深いことは、そのうちの9勝は前に行く騎乗で勝ち取ったことであり、同騎手は難しいゲート番号からスタートして前の位置を取る先行馬の達人である。
もし4月にエディー・アハーン(Eddie Ahern)騎手がチェスターカップにおいてオーバーターン(Overturn)でゲート番号1番から先行した騎乗を見ていれば、同騎手が左回りコースの内枠で60戦15勝し25%の勝率でトップに立ち、払戻し利益が1ポンドに対して29.08ポンド(約4,071円)であることに驚かないだろう。同騎手はチェスター競馬場の出走馬が10頭以上で内枠から発走した最近の7走において、優勝5回、2着と3着が各1回で払戻し利益が1ポンドに対して17.37ポンド(約2,432円)だった。狭くて左回りコースの先行したペースで素晴らしい判断力を持っていると言える。
キーレン・ファロン(Kieren Fallon)騎手は、左回りコースの外枠で最近の38戦のうち7勝し、不利な外枠を乗り越える能力を見せつけた。これらの騎乗の多くが不利な枠順であったと見られることは、7勝のうち3レースの発走前オッズが13倍、15倍、21倍であったことに表れている。そして同騎手を盲目的に支持したとすれば、1ポンドに対して35.25ポンド(約4,935円)の払戻し利益を得ることができたことになり、これはファロン騎手の非常に多くの支持者を考えると驚くべき払戻し総額となる。
しかしさらに注目すべき統計としては、過去5シーズンにおける右回りコース外枠からのライアン・ムーア(Ryan Moore)騎手の騎乗が、1ポンド(約140円)につき36.12ポンド(約5,057円)の払戻し利益をもたらしていることである。右回りコース内枠からの発走(163戦31勝で勝率19%)よりも右回りコース外枠からの発走でより高い勝率(96戦19勝で勝率20%)を誇っている。このため内枠からの発走では人気が集中するようで、払戻しは1ポンドに対して27.28ポンド(約3,819円)の損失となっている。
ファロン騎手とムーア騎手の統計は、優れた騎乗能力はしばしばコーナーのあるレースにおける外枠の不利を無効にすることを証明している。私は今後これらの騎手が騎乗する外枠発走の馬を十分考慮するつもりである。
内枠を得意とする騎手 | 外枠を得意とする騎手 | ||||||
騎手 | 勝利数 | 勝率 | 払戻損益(£) | 騎手 | 勝利数 | 勝率 | 払戻損益(£) |
英国の左回りコース(2007年以降) | 英国の左回りコース(2007年以降) | ||||||
エディ・アハーン | 60戦15勝 | 25% | 29.08 | アダム・ベスチッザ | 13戦4勝 | 31% | 22.75 |
ウィリアム・ビュイック | 58戦12勝 | 21% | 20.25 | エイミー・ライアン | 21戦6勝 | 29% | 25.5 |
パット・ダブズ | 27戦5勝 | 19% | 27.5 | キーレン・ファロン | 38戦7勝 | 18% | 35.25 |
フィリップ・ロビンソン | 50戦9勝 | 18% | -16.1 | フィリップ・ロビンソン | 60戦11勝 | 18% | 11.84 |
ジェイミー・スペンサー | 94戦16勝 | 17% | -15.25 | ジョニー・ムルタ | 17戦3勝 | 18% | -5.5 |
リアム・ジョーンズ | 55戦9勝 | 16% | 37 | ジャック・ミッチェル | 45戦7勝 | 16% | 34 |
マーティン・レーン | 31戦5勝 | 16% | 14 | ジム・クローリー | 116戦18勝 | 16% | 24.85 |
ジェームズ・ミルマン | 13戦2勝 | 15% | 1.5 | タド・オシェー | 79戦12勝 | 15% | -0.04 |
アダム・ベスチッザ | 13戦2勝 | 15% | 6.5 | リチャード・ヒルズ | 54戦8勝 | 15% | -17.17 |
ポール・ハナガン | 156戦23勝 | 15% | 2.73 | アラン・ムンロ | 41戦6勝 | 15% | 13.37 |
英国の右回りコース(2007年以降) | 英国の右回りコース(2007年以降) | ||||||
ジェームズ・ミルマン | 17戦4勝 | 24% | 12 | エイドリアン・ニコルズ | 26戦6勝 | 23% | 17.5 |
リアム・ジョーンズ | 30戦7勝 | 23% | 56.5 | ライアン・ムーア | 96戦19勝 | 20% | 36.12 |
フィリップ・ロビンソン | 41戦8勝 | 20% | 4.6 | P・J・マクドナルド | 38戦7勝 | 18% | -4.45 |
ライアン・ムーア | 163戦31勝 | 19% | -27.28 | ジャック・ミッチェル | 17戦3勝 | 18% | 19 |
キーレン・ファロン | 32戦5勝 | 16% | -8.08 | リチャード・ヒルズ | 39戦6勝 | 15% | 1.95 |
ポール・ハナガン | 136戦21勝 | 15% | 4.05 | ジェイミー・スペンサー | 66戦10勝 | 15% | 11.9 |
ジョニー・ムルタ | 27戦4勝 | 15% | -9.66 | フランキー・デットーリ | 56戦8勝 | 14% | -24.27 |
ミッキー・フェントン | 61戦9勝 | 15% | 23.5 | ジェームズ・ミルマン | 14戦2勝 | 14% | -4 |
セブ・サンダース | 100戦14勝 | 14% | -51.08 | リチャード・ヒューズ | 87戦12勝 | 14% | 1.75 |
ニール・カラン | 93戦13勝 | 14% | -28.75 | セブ・サンダース | 58戦8勝 | 14% | 7.25 |
この統計は出走馬10頭以上でコーナーのある芝レースを対象としている。統計上、10鞍以上騎乗した騎手を対象としている。内枠は内柵から3番目までのゲートを示し外枠は外側から3番目までのゲートを示す。 |
[Racing Post 2011年5月19日「Who’s the best of the badly drawn boys?」]