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2011年07月22日  - No.14 - 1

国際的成功を収めるドイツ血統(ドイツ)【生産】


 ドイツ産のサラブレッドは勢いに乗っている。アニマルキングダム(Animal Kingdom)がケンタッキーダービー(G1)を優勝しプリークネスS(G1)で2着に健闘したことは、比類ない優良遺伝子の拡大という一連の国際的大成功の中で最も新しい例である。

 アニマルキングダムにより、ドイツ血統の波がその特質をほとんど理解されていない米国に打ち寄せた。アニマルキングダムを所有するチームヴェイラー社(Team Valor International)のオーナーであるバリー・アーウィン(Barry Irwin)氏は、ホースマンの中で、薬物の問題が検討課題として持ち上がっている現状に際し、母なる自然の温かい抱擁を受けて育成され競走するドイツ産馬についてそれとなく言及した。

 アニマルキングダムを所有しているチームヴェイラー社の社是はまさにそのとおりである。ドイツのホースマンは長年にわたり薬物使用を憂慮する欧州において純粋主義者であった。レース当日に体内残留が消えるのであればためらわず薬物を投与する他の欧州諸国の態度に困惑する者もいる。

 ドイツは種牡馬入りする馬に対しては、確かに生真面目な方針を取っている。ドイツで新たに供用されるどの種牡馬も、ドイツ産のサラブレッドの血統を活性化するために設定された一連の基準を満たさなければならない。最も厳格に強制されている事柄は、薬物を投与されて走っていたドイツ産種牡馬の産駒は国内において“生産者賞”を受け取る資格がない。

 ドイツでは、薬物を投与されてレースに出走した馬が種牡馬入りすることが全面的には禁止されてはいないものの、それらの馬を繋養することを望む牧場はほとんどない。稀な例は、ドイツでG1競走を2勝し、2004年にカリフォルニア州のボブ・バファート(Bob Baffert)調教師の厩舎に転厩したサビアンゴ(Sabiango 父:アカテナンゴ)である。バファート調教師はサビアンゴがハリウッドパーク競馬場でチャーリーウィッティンガム記念H(G1 芝)を優勝した時、フロセミド(furosemide降圧利尿剤。競走馬の運動性肺出血の予防及び治療に使用される。ラシックスという製剤名で知られている)を使用していた。

 その結果、サビアンゴの産駒は2歳馬および3歳馬のレースの賞金の24%、古馬のレースの賞金の20%を占める生産者賞を受け取ることができなかった。したがってこのような馬を繋養する生産者の意欲をくじく要因は明白である。

 国際的な顧客を持つドイツのサラブレッド売買仲介業者であるアクセル・ドナースターク(Axel Donnerstag)氏は、「これらの種牡馬は利益を出さないことで、人気を落としています」と述べた。

 薬物投与に関するルールはドイツ国外のレースにまで広がっており、ドイツ人の中には米国のブリーダーズカップを疑念の目で見ている人たちもいる。

 レーマーホーフ牧場(Gestüt Römerhof)を所有するミヒャエル・アンドレイ(Michael Andree)氏は、「米国の調教師が薬物を使用できるのであれば、ドイツの調教師は闘う上で最初から不利を受けていると感じるでしょう」と語った。薬物使用の厳しさ加えて、ドイツで種牡馬となるためには、いわゆるカケス(訳注:上下切歯が正しく噛み合わず、上切歯が下切歯の前方に突き出ているもの)であってはならない。またドイツの種牡馬は、IFHA(国際競馬統轄機関連盟)が編集しているワールドサラブレッドランキングにおいて少なくとも110のレーティングを与られていなければならない。また、オープン重賞を制していなければならない。

 去勢が不完全に行われた馬や先天的に片方が陰睾の馬は種牡馬になることはできず、睾丸は両方とも陰嚢に降りていなければならない。種牡馬になるための条件は、最終的に生産委員会が馬体を審査することになるが、ドナースターク氏によれば、これまでにこの審査に通らなかった馬はないとのことである。

 ダンジグ(Danzig)は重賞競走に出走したことがないため、これら規制によってドイツ国内では種牡馬として受け入れられないだろうと考えると面白い。いずれもカケスであったダンシングブレーヴ(Dancing Brave)やエルグランセニョール(El Gran Senor)についても同じことが言える。また先天的に停留睾丸であった片方を摘出したエーピーインディ(A.P. Indy)もドイツの種牡馬に合格できないだろう。

 だがこれらの基準が厳しいと聞こえるならば、それこそがドイツ産馬に多くのアイデンティティーを与えているものである。そしてドイツ産馬の近年の実績から、彼らの人気は急激に上昇している。昔から伝わる牝系には、他の国ではどこにでも存在するノーザンダンサー(Northern Dancer)とミスタープロスペクター(Mr. Prospector)の血統が入っていない。

 ドナースターク氏は、「このことから、ドイツ産の繁殖牝馬は完全な異系交配を提供します。そのうえ、健全であり持久力を持つことで知られ、それゆえ好まれていると言って良いでしょう」と語った。これらの確かな質は、アーウィン氏にアニマルキングダムの母馬であるダリシア(Dalicia 父:アカテナンゴ)を40万ユーロ(約4,800万円)で購買することを納得させた。この購買額は2005年のバーデンバーデン現役馬セールにおいて最高額であった。

 アーウィン氏は翌2006年、後にデーヴロン(Daveron)と名付けられることになる1歳馬を10万ユーロ(約1,200万円)で購買した。ダリシアの半妹であるダーウィニア(Darwinia)を母とする同馬は、アニマルキングダムがケンタッキーダービーを制する数時間前にベルモントパーク競馬場のボーゲイS(G3 芝)を優勝した。

 主要なサラブレッド生産国の生産者たちはその繁殖牝馬リストをスピードのある牝馬ばかりで満たそうとするが、ドイツはしっかりした理由でこれらの国から超然としている。ドイツ産の馬はサラブレッドに限らずあらゆる品種が、馬場馬術や障害飛越をはじめとする一連の馬術においても優良である。

 しかし、(GER)という国名略字が付されるサラブレッドは、必ずしもドイツ産を暗示するものではない。ドナースターク氏によると、ドイツで所有されている繁殖牝馬は2年間国外で過ごすことができ、それでもなおその産仔は重要な(GER)という国名略字が付される資格を有するためだ。

 ドナースターク氏は、「国外で2年過ごした牝馬はドイツに戻って1年を過ごさなければならず、その後ようやくクールモア牧場やダーレーの種牡馬を自由に訪れることができるようになります。このような規制を設けることは馬鹿げています。生産者は彼らが選んだ種牡馬を自由に使えなければなりません」と語った。

 ドイツ産のサラブレッドがゆっくりと成熟する血統であることは偶然ではない。持久力は高く評価される特質となっており、それはドイツの生産者たちが12ハロン(約2400m)以上の価値ある国内クラシック競走に相応しい競走馬の生産に全身全霊を傾けるからである。彼らは近年まで、ドイツの最高レースが海外の出走馬に開放されていなかったことからそのやり方を続けてきた。

 しかしこの締め出し状態は、ドイツの生産者がより早熟な非ドイツ血統馬を導入するために行った努力が実り、1990年代初めに緩和された。この方針は着実に利益を生んだが、健全に積み重ねられたドイツ血統の馬が米国において成功を手にしていることを認識しているのは、情熱的な血統の信奉者だけであろう。

 2005年BCターフ(G1 芝)の勝馬シロッコ(Shirocco 父:モンズーン)はその一例である。1997年BCターフでは、世界各国に遠征した牝馬ボルジア(Borgia 父:アカテナンゴ)がチーフベアハート(Chief Bearhart)の2着となり、2002年にはフラウライン(Fraulein 父:アカテナンゴ)がE・P・テイラーS(G1 芝)を優勝した。1993年BCクラシック勝馬のアルカング(Arcangues)も、その父サガス(Sagace)はシュワルツゴールド(Schwarzgold)を送り出しているドイツで最も貴重な牝系血統の出身である。

 シュワルツゴールドは、1985年エプソム競馬場でオーナーブリーダーであるハワード・ド・ウォルデン卿(Lord Howard de Walden)所有で英ダービー(G1)を制したスリップアンカー(Slip Anchor)の祖先である。同卿は所有するサラブレッドの血統を発展させるために、ドイツの牝馬に投資していた。スリップアンカーの母サヨナラ(Sayonara)はウォルデン卿の購買馬の中の1頭であり、別の1頭であるグリムポーラ(Grimpola)は2009年愛ダービーを制したフェイムアンドグローリー(Fame And Glory)の祖母となった。

 今日最も傑出したドイツのファミリーは疑いようもなくアレグレッタ(Allegretta)の子孫からなるファミリーである。頑健なドイツの種牡馬ロンバード(Lombard)を父とする牝馬アレグレッタは、英2000ギニー(G1)の勝馬キングズベスト(King’s Best)の母であり、送り出した牝馬の中には、仏ダービー(G1)の勝馬アナバーブルー(Anabaa Blue)の母であるアレレトロワ(Allez Les Trois)や、凱旋門賞(G1)勝馬となり同競走を優勝したシーザスターズ(Sea The Stars)や英・愛ダービーを制したガリレオ(Galileo)をはじめ驚くべき才能のある仔を生んだアーバンシー(Urban Sea)が含まれている。

 今まで15頭のアレグレッタの直系の子孫が欧州のクラシック競走を制している。アーバンシーの娘であるオールトゥービューティフル(All Too Beautiful)を母とするワンダーオブワンダーズ(Wonder of Wonders)が6月3日の英オークスに出走すれば16頭目になるかもしれない(訳注:結果は2着だった)。

 ドイツ産馬の国際的快挙の目録を作れば、同じ名前が不意に現れる傾向がある。 その中で最も顕著な例は、アニマルキングダムの母父であり、サンクルー大賞(G1)での勝利を含む13勝を果たしたアカテナンゴ(Acatenango)である。

 アカテナンゴは、恐るべき父馬であるスルム(Surumu)と同じく、独ダービー(G1)を制した1985年から3年連続で年度代表馬となった。1993年から2011年の間、5回最優秀種牡馬となったアカテナンゴは、現在繋養されている、著名な牧場の1つであるフェールホフ牧場(Gestüt Fährhof)に発展をもたらした。フェールホフ牧場はジェイコブズ一族(Jacobs family)が所有し、御曹司であるアンドレアス・ジェイコブズ(Andreas Jacobs)氏が英国のニューセルズパーク牧場(Newsells Park Stud)や南アフリカのメインチャンス牧場(Maine Chance Farm)で行っている一族の事業を監督している。

 歴史的にこれまでで最も傑出しているのは、オッペンハイム一族(Oppenheim family)により1869年に創立され、ドイツで38回最優秀生産者となったシュレンダーハン牧場(Gestüt Schlenderhan)である。アレグレッタは同牧場の出身であり、また欧州のエリート馬の仲間入りをしたドイツの種牡馬モンズーン(Monsun)も現在繋養されている。

 モンズーンの最も優秀な産駒は、前述したシロッコとマンデュロ(Manduro)である。マンデュロはプリンスオブウェールズS(G1)およびジャックルマロワ賞(G1)を制した2007年、欧州の最も傑出した競走馬であった。その後ダーレーに購入され種牡馬入りし、今年初年度産駒が出走する。

 マンデュロの血統はドイツにおける現代の流行を反映している。同馬は、父系は3代前までドイツ産馬であるが、母マンデルリヒト(Mandellicht)は米国のビーマイゲスト(Be My Guest)を父としている。したがって、マンデュロはケンタッキーダービーを制したアニマルキングダムに見られるのと同様の血統のブレンドから生まれている。

 裏を返せば、ドイツ血統は海外では繁栄しているが、国内では盛り上がりに欠けると言える。競馬場入場者数は、近代化されていない競馬場が小頭数レースを施行していることで減少している。小頭数のレースは、ドイツ国外で賭事を運営する海外インターネット賭事業者の急増によりただでさえ主流から取り残され減少している賭事売上げに追い打ちを掛けている。そのうえ、海外インターネット賭事業者はドイツ競馬界に資金を還元するよう法律で求められていない。その結果として、優秀なドイツ産馬は海外で競走する傾向にある。

 このような具合で、絶望の連鎖が始まっている。しかし、バーデンバーデンとベルリンのホッペガルテンにあるドイツの伝統的な競馬場が個人投資家の後ろ盾を得て復興する望みはある。潤沢な資金というものは必要としていても手に入らないものの一つであるとドナースターク氏は言うが、新しい世代の競馬運営者たちは進んで困難と闘おうとしている。

 ドナースターク氏は次のように語った。「ドイツには様々な娯楽選択肢があり、それと比較すれば競馬界が提供しているものは魅力に欠けます。賞金額も、繁殖牝馬も、現役馬も減少しています」。

「私は、老齢の生産者が亡くなったり生産事業を辞めてしまうことを非常に心配しています。誰も彼らの後を継がず、遺族は彼らの繁殖資源を売ってしまいます。アニマルキングダムの血統に注目すれば、牝系は純粋なドイツ血統ですが、今やドイツ国内にはほとんど残されていません」。

 ドナースターク氏の見方によれば、ドイツの苦境は崩れかかった城を維持するために家宝の銀食器を質に入れることを余儀なくされた英国の貴族の苦境に酷似している。もしこれまで根気強く集められてきたドイツ特有のサラブレット資産がよそ者によって利用されてしまうとすれば、それは非常に残酷なことだろう。

By Julian Muscat
(1ユーロ=約120円)

[The Blood-Horse 2011年6月4日「German Exports on the Rise」]


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