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2011年08月05日  - No.15 - 4

砂漠の中のドバイステーブルの若馬育成(ドバイ 前半)【その他】


 シュロの木が柔らかな風にそよぎ、フラミンゴが砂漠の太陽に照らされてきらきら輝くピンクの羽を広げる一方で、目がくらむような摩天楼のそばで競馬の未来が開花し始めようとしているところを想像してみて欲しい。

 まさにそうしたオアシスが、ドバイの異国情緒豊かなスカイラインの真下に横たわっており、アラビア砂漠の砂が人のあふれる街と調和し、多くの前途有望な若い競走馬が栄光に向かって第一歩を踏み出す異民族の居住地に隠されている。

 ハムダン殿下(Sheikh Hamdan)の所有する優秀な2歳馬100頭 は、ロイヤルアスコット開催を皮切りに最終的には多くの国々のレースに競走馬として旅立つ前に、ここドバイステーブル(Dubai Stable)で馬主の鋭い監視の下に初期調教を受ける。ハムダン殿下は、英国でリーディングオーナーに4度輝き、2007年にはアメリカで傑出した馬主としてエクリプス賞を受賞しており、副首長を務める本拠地ドバイはもとより、フランス、アイルランド、オーストラリア、南アフリカでもトップレベルの成績を残している。

 2011年にドバイステーブルを卒業するグループは、このユニークな調教拠点に入るよう殿下自らが選んだ、将来スターになる可能性のある2歳馬を目玉としている。これらの馬は過去10年間にわたりここの入厩馬を管理しているアイルランドの元リーディング見習い騎手ジョン・ハイド(John Hyde)氏の調教を受ける。同氏の広範にわたる騎乗と調教の経歴には、米国、オーストラリアおよび日本での活動が含まれる。

 ある朝、フラミンゴが羽繕いをしている湖を取り囲む厩舎の1マイル(約1600m)のダート馬場をギャロップで走る30頭の若馬のグループを眺めながら、ハイド氏は、「他のどこに行っても、ハムダン殿下のような馬主や我々が管理している良質馬には巡り会えません」と打ち明けた。世界一高い超高層ビル、ブルジュ・ハリーファがそびえ立ち、西の地平線にはドバイを象徴するブルジュ・アル・アラブ・ ホテルがキラリと輝いた。東のほうでは、斑毛の若馬たちが軍隊のような正確さで、ハムダン殿下の青と白の服色に身を包んだ乗り手の調教を受けていた。

 2011年の2歳馬には、2010年北米のセリにおいて最高価格で購買された2頭のバーナーディニ(Bernardini)の牡の産駒が含まれているだけでなく、ハムダン殿下所有の2006年度代表馬インヴァソール(Invasor)とベルモントS(G1)勝馬ジャジル(Jazil)の初年度産駒もいる。自家生産されたG1馬の半弟や半妹も多数おり、そのすべてが揺るぎない力を持った種牡馬または将来有望な若い種牡馬から送り出された。

 ハイド氏は、「血統を見れば、その特性が成功を収めつつあることが分かります」と述べた。

 近くの砂丘で野犬が徘徊し、ウサギを追って馬場の近くにまでやって来ていたのはそんなに昔のことではない、と同氏は振り返った。ドバイが成長するにつれ、砂漠の多くはビルと道路へと姿を変え、調教センターも同様に、馬専用のトレッドミルや獣医科の診療所を含め最も近代的な設備が整えられた。

 この調教センターはアル・クォズと呼ばれるドバイ地区にあるゴドルフィンの本社に近接しており、世界で最も重要なサラブレッドのための施設の1つでありながらも、おそらく全く知られていない施設の1つだろう。

 ドバイの首長でゴドルフィンを所有する派手な弟モハメド殿下(Sheikh Mohammed)に比べて、ハムダン殿下の競馬への取り組みは地味ではあるが、350頭以上が調教されていると言われるサラブレッド帝国のあらゆる側面を寡黙ではあるが熱心に監視している。

 ドバイステーブルのサイクルは毎年9月、ハムダン殿下が自身の欧州の牧場を訪ね、キーンランド9月1歳馬セールに参加し、ケンタッキー州レキシントン近郊のシャドウェル牧場(Shadwell Farm)で自家生産の1歳馬を視察することから始まる。殿下はこれらの若馬の中から、冬の間ドバイの太陽の下での調教するのが効果的であると思われる馬とじっくり仕上げたいと思う馬を選び出す。

 アイルランドのコーク州出身のハイド氏は、「ほとんどの人は知らないと思いますが、殿下は育成事業に深く関わっています。」と語った。アラブ首長国連邦の最優秀調教師4度に輝いたキアラン・マクローリン(Kiaran McLaughlin)氏は、ドバイで調教活動を始めようとしていたハイド氏を雇用した。マクローリン氏が2003年にドバイの活動から完全に撤退しアメリカに戻った際に、ハイド氏はドバイステーブルの管理を引き継いだ。

 同氏は、「殿下は自ら注意深く馬を選びます。殿下とシャドウェル牧場のリック・ニコルス(Rick Nichols)副場長は、米国の馬を視察し、9月中旬から下旬にかけてドバイに輸送します。またアイルランドの若馬は、背中に日光を浴びて筋力を鍛えるために、ここにやって来ます」と語った。

 年間を通じて雇用されている10人の乗り手が、初期の馴致を担当する。秋になると大半が欧州から来る季節労働者である乗り手20人がチームに加わり、半年ほど滞在する。

 騎手時代に欧州の見習い騎手チャンピオンシップで優勝したハイド氏は次のように続けた。「クセのある馬にはそれを得意とする乗り手を起用します。そして、どの馬にも騎乗できる乗り手は常に少なくとも2人おいています。優れた乗り手を採用することが重要です。手を緩めるべき時や馬の調子が良い時を教えてくれます」。

 ハムダン殿下は、1歳馬が2歳馬になり調教方法が強化される時にしばしば成長状況をチェックする。殿下が各馬の管理調教師の決定を開始する段階には、殿下の欧州の出走馬を管理しているマイケル・スタウト(Michael Stoute)、ジョン・ゴスデン(John Gosden)、バリー・ヒルズ(Barry Hills)、エド・ダンロップ(Ed Dunlop)、ジャン-クロード・ルジェ(Jean-Claude Rouget)を含む調教師16人の中でドバイを訪れる調教師もいる。マクローリン調教師もドバイステーブルを最近卒業した馬の管理を任されている。その中には、ストームキャット(Storm Cat)を父とし、最優秀牝馬ゴールデンアップルズ(Golden Apples)を母とするG3勝馬ハバヤ(Habaya)の全妹ハゼアー(Hatheer)が含まれており、同馬は重賞競走で入着している。

 ハイド氏は、「ハムダン殿下は自身の若馬をご覧になるのを好まれ、よく管理されます。そして、すべての管理馬の特徴を覚えておられます。殿下はかつてセリで購買された誘導馬を4年の間見ておられませんでしたが、ある日ここにいらっしゃった時に、エリザベス女王のために走ったこの馬の経歴をすぐに思い出され、“あれはクィーンの馬だね”とおっしゃいました」と語った。

By Michele MacDonald
(1ドル=約90円)

[The Blood-Horse 2011年6月4日「A Crop Rises in the Desert」]
次号(16号)には「砂漠の中のドバイステーブルの若馬育成(ドバイ 後半)」を掲載


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