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2011年08月30日  - No.16 - 5

砂漠の中のドバイステーブルの若馬育成(ドバイ 後半)【その他】


 ハムダン殿下はドバイステーブルの施設の多くをデザインし、それはアラビア湾の涼しい風をより良く招き入れるための7つの厩舎の配置方法などの細部にまで至る。そしてハムダン殿下は日常的に調教を指導している。

 ハイド氏は次のように続けた。「殿下は馬をよくご覧になっており、体力をつけるためにトレッドミルに入れるよう命じられます。そして、その指示は正鵠を得ています。殿下は最初のトレッドミルが調教を発展させるための器具として功を奏したことを受けて、トレッドミルの部屋を2つ追加で設置することを命じられました」。

「後肢に何か弱いところが見つけた場合には、トレッドミルに載せて速歩もしくはリラックスした駈足で走らせれば効果が出ます。トレッドミルは馬に調教の遅れを取り戻させ、馬はそこから多くのものを得ます。馬は6ハロン(約1200m)をキャンターで走り、そして5分間歩き、それから5度の傾斜をつけて再び6ハロンをキャンターで走ることができます。これを半年行うと、他の馬を凌駕することもあります」。

 ハイド氏のチームの主要メンバーには、以前アイルランドを拠点とするジョン・オックス(John Oxx)調教師のもとで若馬に馴致と調教を行っていた調教助手のマシュー・エンライト(Matthew Enright)氏、イギリスでバリー・ヒルズ(Barry Hills)調教師の下で働いていた厩舎主任のリサ・スミスソン(Lisa Smithson)氏がいる。ドバイステーブルには50人ほどの厩務員が働いており、その大半が大工仕事、塗装、ガーデニングなどの追加的な技術を持っているため、彼らの才能は常に活かされる。

 このような事業には投資と期待が関係しているが、ハムダン殿下は厩舎を訪れる時、しっかりとした現実主義のみならず、何気ないユーモアのセンスも見せる。

 ハイド氏は、「ある馬についての解説を殿下に頼まれ、“あの馬は大きくて長いストライド(完歩)を使います”と応えたとすれば、“それはつまりのろいという意味だよ”と切り返されるでしょう」とクスクス笑いながら語った。

 さらに2011年の2歳馬には、インヴァソールとジャジルの初年度産駒を含め、ワクワクさせられるような馬が多数いる。ハムダン殿下は、ドバイにジャジル産駒7頭とインヴァソール産駒5頭を送り、サウスキャロライナ州カムデンにある自身の調教センターにインヴァソール産駒5頭とジャジル産駒4頭を送った。

 シャドウェル牧場のニコルス副場長は米国を拠点とする2歳馬について、次のように語った。「今年の2歳馬については非常に満足しています。ジャジル産駒はどちらかと言えばよりスピードのある血統なので、私たちは何が本当に期待できるのか見当がつきません。体高17ハンド(約172.7cm)もあるインヴァソールの牡の産駒が1頭いますが、非常に運動神経が良さそうです。この馬にはいつも目が奪われます」。

 ハイド氏は、「BCクラシック(G1)とドバイワールドカップ(G1)の勝馬インヴァソールの産駒には本当に期待しています」と付け加え、特に牡の産駒インクアド(Inqadh)をはじめとする調教中の3頭を称賛した。ケンタッキー州のシャドウェル牧場で生産されたインクアドの母馬は、フサイチペガサス(Fusaichi Pegasus)を父とし、G1馬シャープキャット(Sharp Cat)を母とし、いくつもの勝利を手にしたセイワーン(Saywaan)である。

 ハイド氏は、「ジャジル産駒には、小柄だが身の締まったタイプや長距離を走ることができるような大きくて均整の取れたタイプなどあらゆるタイプがいます。またジャジルの母系のファミリーは非常に信頼できるため、私はひそかに楽観しています」と述べた。また同氏は、ステークス勝馬アルシャディヤー[Alshadiyah 父:ダンジグ、母:最優秀牝馬シャダイード(Shadayid)]を母とするジャジルの牡の産駒ファーハン(Farhaan)を、“気品を持ち元気で馬格が大きく競走で能力を発揮しそうな馬”であると言い表した 。

 ハイド氏はこのように、ドバイステーブルにおいて2011年に最も有望視される産駒として、インクアドとファーハンの2頭を挙げた。他に彼の目を惹いた馬には、(1) ドバイステーブル出身の優秀な牝馬ラフドゥード(Lahudood)の初仔で、キングマンボ(Kingmambo)を父馬にもつ牝馬アグハリード(Aghareed)、(2) ハードスパン(Hard Spun)を父とし、ドバイステーブル出身で英1000ギニー(G1)勝馬ガナーティ(Ghanaati)の半妹アフラー(Afraah)、(3) ジャジルを父とし、サキー(Sakhee)の父馬で複数のG1を制したバーリ(Bahri)の半妹ムジャンナダ(Mujannada)、が含まれる。

 ハイド氏は、ドバイステーブルで担当した馬の中にはスターに挙げられる馬は多数いるが、G1を4勝し、収得賞金額359万ドル(約3億2,310万円)のネイエフ(Nayef)と、英2000ギニー(G1)勝馬ハーフド(Haafhd)が、記憶の中で最も際立っていると述べた。

 そして、「これらの馬は良い状態に仕向けるのに非常に扱いやすい馬でした。風格やキャンターをする様子で彼らが優秀であることは明らかでした」と語った。

 ハイド氏は自分が夢のような仕事をしていることをよく心得ている。世界で最高級の馬を扱っているが、彼らをレースに出走させる調教師からプレッシャーを受けることはない。夏には、次の1歳馬のグループを受け入れる準備に入る前に、新たな計画に挑む。

 ハイド氏は何よりもハムダン殿下から学んだことを高く評価しており、「馬とその生産に造詣が深く、米国、フランス、アイルランドおよびイギリスの競馬の相違点を認識し、誠実で優れた馬主というものの重要性を、殿下は示して下さいました。所有馬が敗れた時に彼らを向上させるのに何が必要かをこれほど理解している人を私は知りません」と語った。

 その一例としてハイド氏は、ハムダン殿下が2005年に英国のセントレジャー(G1)で3着となったトーキート(Tawqeet)をオーストラリアへ送り出したこと、そしてキングマンボ産駒である同馬がその後コーフィールドカップ(G1)とメトロポリタンS(G1)に勝利し競走生活の最後を飾ったことを挙げた。

「ハムダン殿下はトーキートに強い可能性を感じ、速い馬場が合っているとお考えになっていました。そして殿下は正しかったのです。このことには本当に驚かされました」と、ハイドは語った。

By Michele MacDonald
(1ドル=約90円)

[The Blood-Horse 2011年6月4日「A Crop Rises in the Desert」]


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