北米サラブレッド市場、再びどん底を見る(アメリカ)【生産】
サラブレッドのセリ業界は、世界的な不況の影響が自然な経過をたどってようやく底をついた2009年の終わり頃、楽観的で希望を持っていた。
しかし2010年のセリシーズンは、トレーニングセールにおける数頭の際立った北米2歳馬の好調な価格により極めて安定したスタートを切ったものの、残念ながらそれらの利益では、北米大陸の主要な1歳馬と当歳馬の市場をさらに弱体化させてしまう流れを止めることはできず、繁殖牝馬市場とセリ業界は再びどん底を見た。
セリ業界は2010年、ほぼ全体にわたって打撃を被った。2010年の売上げは、2009年のかつてなかったような下落幅ほど険しいものではなかったが、4年連続の減少で6.4%減となった。
<2009年−2010年北米サラブレッド市場における取引額の変化>の表に示されているように、最も大幅に減少したのは当歳馬と繁殖牝馬であり、前年比でそれぞれ10.7%と11%の減少となった。残りの2つの市場つまり1歳馬と2歳馬の市場は、2009年ほど減少しておらず、このことはセリ業界が慎重ながらも将来を楽観視する理由を確かに与えている。2歳馬および1歳馬の市場が2009年には30%以上減少したことを考えると、たぶんセリ業界は2011年に向けて“慎重ながらも”という言葉をはずすかもしれない。
北米全体のセリによる取引額の推移 |
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購買頭数 |
総売上げ |
増減 |
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1990 |
10,763 |
$355,044,288 (355億 443万円) |
-12.7% |
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1991 |
12,321 |
$339,010,030 (339億 100万円) |
-4.5% |
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1992 |
11,870 |
$285,930,348 (285億9,303万円) |
-15.7% |
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1993 |
10,376 |
$298,068,222 (298億 682万円) |
4.2% |
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1994 |
15,987 |
$416,293,188 (416億2,932万円) |
39.7% |
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1995 |
15,961 |
$464,049,948 (464億 499万円) |
11.5% |
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1996 |
18,708 |
$619,799,282 (619億7,993万円) |
33.6% |
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1997 |
18,698 |
$700,362,250 (700億3,623万円) |
13.0% |
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1998 |
19,653 |
$828,664,233 (828億6,642万円) |
18.3% |
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1999 |
19,970 |
$986,842,275 (986億8,423万円) |
19.1% |
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2000 |
21,209 |
$1,091,345,649 (1,091億3,456万円) |
10.6% |
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2001 |
19,168 |
$846,346,171 (846億3,462万円) |
-22.4% |
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2002 |
18,397 |
$767,048,402 (767億 484万円) |
-9.4% |
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2003 |
18,202 |
$855,123,171 (855億1,232万円) |
11.5% |
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2004 |
20,196 |
$1,054,384,913 (1,054億3,849万円) |
25.1% |
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2005 |
20,739 |
$1,138,751,345 (1,138億7,513万円) |
8.0% |
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2006 |
21,407 |
$1,267,054,866 (1,267億 549万円) |
11.3% |
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2007 |
21,209 |
$1,234,601,872 (1,234億6,019万円) |
-2.6% |
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2008 |
17,931 |
$969,523,493 (969億5,235万円) |
-21.5% |
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2009 |
15,682 |
$659,667,778 (659億6,678万円) |
-32.1% |
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2010 |
14,864 |
$617,430,160 (617億4,302万円) |
-6.4% |
セリによる取引額全体の半分近くを占める北米の1歳馬市場の3億200万ドル(約302億円)強の売上げもやはり、2010年に最低額を更新した。北米の1歳馬セールの売上げと価格の中央値は1996年以来の最低値であり、平均価格は1997年以来の最低値であるが、これらの数値は底をついたという希望がある。平均価格の減少がわずか0.5%であり、価格の中央値が1万ドル(約100万円)で維持されていることを考えると、その見解の妥当性を主張できるかもしれない。
2010年リーディングバイヤーのランキングを一見すれば、特に高価格の市場で何が起こったかに関する疑問への有効な答えを得ることができるかもしれない。ジョン・ファーガソン・ブラッドストック社(John Ferguson Bloodstock)、シャドウェル・エステート社(Shadwell Estate Co.)、ブランドフォード・ブラッドストック社(Blandford Bloodstock)という世界の3大購買者は、2009年に1億ドル(約100億円)近くを支出した。しかし2010年にこれらの同じ購買者が北米において支出したのは、2,600万ドル(約26億円)をわずかに上回る金額である。
2009年−2010年北米サラブレッド市場における取引額の変化 |
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2009 |
2010 |
増減 |
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1歳馬 |
$316,539,879 (316億5,399万円) |
$302,641,564 (302億6,416万円) |
-4.4% |
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2歳馬 |
$121,926,536 (121億9,265万円) |
$115,116,500 (115億1,165万円) |
-5.6% |
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当歳馬 |
$50,652,331 (50億6,523万円) |
$45,212,144 (45億2,121万円) |
-10.7% |
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繁殖牝馬 |
$167,552,996 (167億5,530万円) |
$149,110,144 (149億1,101万円) |
-11.0% |
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その他 |
$2,996,036 (2億9,960万円) |
$5,349,808 (5億3,498万円) |
+78.6% |
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合 計 |
$659,667,778 (659億6,678万円) |
$617,430,160 (617億4,302万円) |
-6.4% |
2010年リーディングバイヤー |
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購買者 |
購買頭数 |
総購入額 |
1 |
ジョン・ファーガソン・ブラッドストック社 |
32 |
$11,145,000 |
2 |
シャドウェル・エステート社 |
29 |
$10,600,000 |
3 |
パトリス・ミラー&EQB社 |
60 |
$7,883,000 |
4 |
アデナスプリングス社 |
21 |
$6,971,200 |
5 |
吉田勝己 |
10 |
$6,340,000 |
6 |
ベシルステーブルス |
4 |
$6,260,000 |
7 |
ストーンストリート・サラブレッド社 |
11 |
$6,185,000 |
8 |
社台ファーム |
5 |
$5,800,000 |
9 |
ベン・グラス |
25 |
$5,237,000 |
10 |
フォックスヒル牧場 |
15 |
$4,459,000 |
モハメド殿下(Sheikh Mohammed)のための主要購買者であるジョン・ファーガソン(John Ferguson)氏は、32頭の馬の購買に1,114万5,000ドル(約11億1,450万円)を支出し、北米において再びリーディングバイヤーのトップに立った。またモハメド殿下の兄であるハムダン殿下(Sheikh Hamdan)所有のシャドウェル・エステート社は再び2位となった。
2011年を見通すと、セリ業界は、市場のいくつかの問題を改善するために自ら採った措置から恩恵を受け続けるだろう。種付料は引き続き下落しているが、商業的な生産者が損益分岐点に近づくことのできる妥当なレベルを維持しつつある。繁殖牝馬の数は2010年に引き続き減少し、産駒数は今後数年にわたって減少すると見込まれるものの、競馬の最善の未来に向けて大きな需要が作り出されることに希望が持たれている。
By Tom Law
(1ドル=約100円)
[Thoroughbred Times 2011年1月1日「Thoroughbred Times 2010 Auction Review−Discovering the new bottom」]