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2011年02月25日  - No.4 - 4

スピード重視の種牡馬選びがチャンピオン血統に変化を与える(イギリス)【生産】


 いろいろな議論はあるとしても、ワールドサラブレッドランキング(World Thoroughbred Rankings)は欧州の競馬シーズンの姿を描いた完璧な縮図である。トップレーティングの馬は2年連続で、マイルで卓越していた種牡馬から輩出された素晴らしい中距離馬であった。ダンジリ(Dansili)産駒であるハービンジャー(Harbinger)が、ケープクロス(Cape Cross)産駒のチャンピオン馬シーザスターズ(Sea The Stars)の座を受け継いだのである。

 このようなことは想像するよりも頻繁に生じる。2006年にダンジリ産駒であるレイルリンク(Rail Link)は、ジョージワシントン(George Washington)と一緒に多数の欧州馬のトップに君臨した。それから3年遡れば、その栄誉はウッドマン(Woodman)産駒のホークウィング(Hawk Wing)に与えられていた。そしてもしこのテーマがいつも起こることのように聞こえるならば、それは、今後数年のうちにより一層一般的になる可能性が高い。

 その理由は、競走生活において1マイル前後の距離で卓越していた種牡馬の産駒が、1,800m以上の距離でランキング水準を達成することがますます多くなってきたからである。便宜上、これらの産駒を“異色馬(curio horse)”と呼ぼう。彼らの高まりつつある優越性は、以下に掲げる表に示されている。

 この表はG1馬のみについてのデータであるが、1993年以降のランキングにおいて“異色馬”の着実な伸びを映し出している。1993年において、1,800m以上の競走で優勝した64頭のうち20頭は“異色馬”であった。この数字は、標本全体の31%である。それが2003年には72頭のうち25頭つまり35%に増加し、そして2010年には、85頭のうち34頭つまり40%にまで大きく伸びた。

 このことはほぼ間違いなく、現代の生産者が長距離タイプの繁殖牝馬をどのように交配させているかを映し出している。2000年代以前は、そのような長距離タイプの繁殖牝馬が全くのスプリンターに交配されることは稀なことであった。スピードは一世代以上にまたがって導入されていた。長距離タイプの繁殖牝馬は1,600〜2,000mを得意とする種牡馬と交配し、そしてその次の世代が1,200〜1,600mの得意な種牡馬と交配したものだ。

 しかし、オアシスドリーム(Oasis Dream)とピヴォタル(Pivotal)の産駒である2頭のトップクラス中距離牝馬のミッデイ(Midday)とサリスカ(Sariska)に関して、加速化したやり方が功を奏した。オアシスドリームは特に、長距離系のファミリーにスピードを注入することを熱望していた生産者のターゲットとされた。

 ジャドモント牧場(Juddmonte)所有のダンジグ(Danzig)の孫であるオアシスドリームは、2010年のランキングにおいて他の3頭の“異色馬”を輩出している。イタリアのG1馬ケラリ(Querari)の母馬はアカテナンゴ(Acatenango)産駒であるケテナ(Quetena)であり、フランスのG3を制したサンドバー(Sandbar)の母馬はエルナンド(Hernando)産駒であるシフティングサンズ(Shifting Sands)であり、G3勝馬でありエクリプス賞で2位のスリピュトラ(Sri Putra)の母馬はインザウィングス(In The Wings)産駒である。これらの母馬はすべて、スタミナ系種牡馬の影響を受けていることに気付かされる。

 この考え方は、まったく新しいわけではない。スタミナを持つセントロコン(Centrocon)と短距離馬サリタメール(Saritamer)の交配は、1982年オークスのヒロインであるタイムチャーター(Time Charter)を生んだ。だがこうしたタイプがかけ離れた2頭の組合せは、以前は珍しかったが現在ではありふれたこととなっている。そしてこの重大な考え方の転換において大いに関与している種牡馬が、デインヒル(Danehill)であった。

 晩年においてダンジグ産駒のデインヒルは、スタミナのある牝系から一連のトップクラスの中距離馬を輩出し、またスタミナの素質はそれほど明らかではない系統からも何頭かのトップクラスの中距離馬を輩出した。そしてデインヒルのとどめの一撃は、アスコットのゴールドカップを制した傑出馬ウェスターナー(Westerner)を輩出したことである。

 デインヒル以前の時代において、マイル馬がエプソム競馬場のクラシック競走の勝馬を輩出することは珍しいことであった。しかしキングズベスト(King’s Best)産駒のワークフォース(Workforce)とインティカブ(Intikhab)の牝馬スノーフェアリーというマイル馬を父とする2頭がエプソムのクラシック競走を制した(スノーフェアリーはその後アイリッシュオークスでも優勝)2010年においては、人々はほとんど驚かなかった。

 このように数が増えているのと同様に、“異色馬”の大きな特長は、この上ない特性を有していることである。以下に掲げてある1993年についての表は、数あるG1競走の中で7頭のG1馬を特記している。2003年の表はG1競走11レースの中から8頭の勝馬をリストアップしているが、2010年の表は18レースのうち10頭の馬を特記している。さらに、これらの馬はヨーロッパにおける一流競走を総なめにしている。何例かを挙げれば、それは、エプソムダービーとオークス、凱旋門賞とキングジョージ、チャンピオンSとエクリプスSである。

 このことは決して偶然ではない。従来型の中距離を得意とする種牡馬を繋養することは報われない仕事になってしまったとする種牡馬マスターの見解を裏付けている。現代の生産者が繁殖牝馬を交配させる方法についてのこの根本的な変化を考えると、“異色馬”が年間ランキングの50%を占めるまでにそう長くは時間がかからないだろう。

 以上の考え方はややひねくれているように見える。欧州競馬の名声は2,000m-2,400mの競走を背景に成り立っており、スプリンターは概して重要でないと片付けられている。しかし、生産牧場においては、その反対のことがあてはまる。
 
 表に掲げた3年分のランキングは、米国産馬の影響が消滅していることを際立たせている。米国産馬がランキングの38%を占めていた1993年とその割合が15%にまで低下した2003年との間には非常に大きな減少が生じた。そして米国産馬は、2010年においては全体の12%にすぎない。

 このことはほとんど驚くことではない。1993年の競馬ランキングは、欧州の最強の競走馬が大挙してケンタッキー州に本拠地を移したため、ケンタッキー州の絶頂期における数頭の代表馬が目玉となっていた。その年のランキングは、アレッジド(Alleged)、ブラッシンググルーム(Blushing Groom)、ダイイシス(Diesis)、エルグランセニョール(El Gran Senor)、アイリッシュリバー(Irish River)、リファール(Lyphard)、ミスワキ(Miswaki)、ヌレイエフ(Nureyev)およびトレンポリーノ(Trempolino)の産駒により、豪華に飾られている。

 興味深いことに、このエリート種牡馬グループのうちブラッシンググルーム、ダイイシス、アイリッシュリバー、リファール、ミスワキおよびヌレイエフはすべて、“異色馬”の父馬として地位を得ている。これら種牡馬は全体として評価が高いことから、彼らはもっと多くの“異色馬”を輩出することを期待されていたかもしれない。しかし実際にはそれほど多くの“異色馬”は輩出されず、このことは、長距離が得意の繁殖牝馬をスピードが身上の種牡馬に送ることを生産者たちがいかに避けてきたかを説明する一助となっている。
 

1マイル以下向きの種牡馬が輩出した1マイル以上のG1競走の優勝馬

レーティング

種牡馬

優勝した競走

1993年

アーバンシー
(Urban Sea)

129

ミスワキ
(Miswaki)

凱旋門賞

ハトゥーフ
(Hatoof)

122

アイリッシュリバー
(Irish River)

チャンピオンS

ミシル
(Misil)

122

ミスワキ }
(Miswaki)

イタリアジョッキークラブ大賞

エズード
(Ezzoud)

120

ラストタイクーン
(Last Tycoon)

インターナショナルS

コルナド
(Kornado)

120

スーパーレイティヴ
(Superlative)

メルクフィンク銀行賞

ヴィンテージクロップ
(Vintage Crop)

119

ルシヨン
(Rousillon)

愛国セントレジャー

ナイフボックス
(Knifebox)

118

ダイイシス
(Diesis)

ローマ賞

2003年

ラクティ
(Rakti)

121

ポリッシュプレセデント
(Polish Precedent)

チャンピオンS、イタリア共和国大統領賞

エクラール
(Ekraar)

118

レッドランサム
(Red Ransom)

イタリアジョッキークラブ大賞

インペリアルダンサー
(Imperial Dancer)

117

プリモドミニー
(Primo Dominie)

ローマ賞

ランサムオーウォー
(Ransom O’War)

117

レッドランサム
(Red Ransom)

ダルマイヤー大賞

ウェスターナー
(Westerner)

117

デインヒル
(Danehill)

カドラン賞、ロワイアルオーク賞

フェアミックス
(Fair Mix)

116

リナミックス
(Linamix)

ガネー賞

ヴィンテージティップル
(Vintage Tipple)

116

アントレプレナー
(Entrepreneur)

アイリッシュオークス

ジージートップ
(Zee Zee Top)

115

ザフォニック
(Zafonic)

オペラ賞

2010年

ハービンジャー
(Harbinger)

135

ダンジリ
(Dansili)

キングジョージ6世&クイーンエリザベスS

ワークフォース
(Workforce)

128

キングズベスト
(King’s Best)

エプソムダービー、凱旋門賞

トワイスオーバー
(Twice Over)

125

オブザーバトリー (Observatory)

エクリプスS、チャンピオンS

ベカバッド
(Behkabad)

122

ケープクロス
(Cape Cross)

パリ大賞典

ミッディ
(Midday)

121

オアシスドリーム
(Oasis Dream)

ナッソーS、ヨークシャーオークス、ヴェルメイユ賞

ドビュッシー
(Debussy)

120

ダイイシス
(Diesis)

アーリントンミリオン

スノーフェアリー
(Snow Fairy)

120

インティカブ
(Intikhab)

オークス、アイリッシュオークス、クイーンエリザベス2世S、香港カップ

ケラリ
(Querari)

117

オアシスドリーム
(Oasis Dream)

イタリア共和国大統領賞

カンパノロジスト (Campanologist)

116

キングマンボ
(Kingmambo)

ラインラントポカル、ロット大賞

プリュマニア
(Plumania)

116

アナバア
(Anabaa)

サンクルー大賞

2003年に国際レーティングが初めてワールドサラブレッドランキングの名前で発表されたとき、1マイルよりも短い距離を得意とする種牡馬から輩出された1マイル以上の欧州G1を制した馬は、その10年前より1頭だけ多い8頭であった。しかし、2010年にはその数が10頭に上った。 

By Julian Muscat
 
[Racing Post 2011年1月18日「Modern stallion fashion brings new look to champion pedigrees」]

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