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2011年04月08日  - No.7 - 3

未勝利高齢馬の問題(アメリカ)【その他】


 12月初めの2日間に、競馬は無情だという認識につながりかねない気まぐれで時に悲惨な事態も起きることの極端な例として、競走馬2頭について述べたい。

 12月4日、フィンガーレイクス競馬場の4,000ドル(約40万円)のクレーミング競走で、オッズ54−1(55倍)の6歳牝馬フォートデラウエア(Fort Delaware)が優勝馬から12馬身差で7着に終わった。生涯75戦で勝ち星がない。

 フォートデラウエアは、ニューヨークのフェリックス・モンセラーテ(Felix Monserrate)調教師の管理馬である。同調教師は、100戦したものの一勝も挙げることなく2004年に13歳で引退した不運なせん馬ジッピーチッピー(Zippy Chippy)の調教師でもある。

 フォートデラウエアは、2010年に15戦するも3着以上の入着はなく6歳シーズンを終えた。15戦中で最も成績が良かったのは、夏に2度4着に入ったことである。出走レースはすべてフィンガーレイクス競馬場での競走であり、7,500ドル(約75万円)の競走で2度7着だったことを除き、同馬は最下級レベルの競走である4,000ドル(約40万円)の未勝利牝馬クレーミング競走での出走にとどまった。

 モンセラーテ調教師は2011年には、同馬が競走できるどこか他の場所を探さなければならないだろう。フォートデラウエアは1月1日に7回目の誕生日を迎えたが、フィンガーレイクス競馬場は7歳以上の未勝利馬の出馬登録を認めていない。このため、モンセラーテ調教師は2月1日、フォートデラウエアをビューラーパーク競馬場の競走に送るつもりだと語った。

「あそこは賞金額の低い競馬場なので、フォートデラウエアは未勝利を脱することができるでしょう。そうすればフィンガーレイクス競馬場に戻ってくることができます。彼女は出走するたびに、“ジッピーチッピーの花嫁が来た”と言われます」とモンセラーテ調教師は述べた。

「私には悪い癖があります。競走馬を持つと、何があっても挑戦し続けなければ気が済まないのです。競走馬なのですから、牧場へ追いやって忘れてしまうことなどできません。少なくとも、私は挑戦を続け、もし未勝利を脱することができれば、それは結構なことですが、そうならなくとも、彼女が健康で元気な限り出走させます」。


出走資格の差

 フォートデラウエアが75回目の敗退を喫した翌日、レモンアーバー(Lemon Arbor)という名前の8歳せん馬が12月5日にマウンテニア競馬場でデビューした。しかし競馬中継において発走時に一瞬放送画面に映っただけで、その後画面に姿が現われることは二度となかった。

 レモンアーバーは5,000ドル(約50万円)未勝利馬クレーミング競走で、道中他馬から引き離された末に競走中止し屈腱炎を発症していたために救急車で運ばれた。このことにより、同馬が再び出走するのは難しいようだ。

 8頭立てでオッズ9.10-1(10.1倍)の4番人気で出走したレモンアーバーであるが、デイリーレーシングフォーム紙(Daily Racing Form)には“年老いて動きが悪くなった”と書かれた。オーガスティン・ブラチョ(Augustin Bracho)騎手は、ホームストレッチに入ったところでレモンアーバーのスピードを落とし、直線半ばで下馬した。

 レモンアーバーは、フィンガーレイクス競馬場とは違い競走馬に競走前獣医検査を義務づけていない管轄区域で競走するという不運もあった。ウエストバージニア州は、現在強制的な競走前検査の規則導入を検討しているところである。

 レモンアーバーの元馬主ユージーン・メリニク(Eugene Melnyk)氏の牧場管理者フィル・フォロニック(Phil Hronec)氏は、このせん馬は過去に2回屈腱炎を発症したことがあると述べた。その後二度と競走に出ない、そして障害競走馬または乗用馬となるために再調教されるという了解の下、2009年5月に調教師に委ねられた。

 出走資格のルールは競馬場によって異なり、一般的に各場に委ねられているが、フィンガーレイクス競馬場で7歳以上の未勝利馬向けに実施されているような出走資格制限のルールがあれば、北米の多くの競馬場においてレモンアーバーが出走するのを阻止できたであろう。ケンタッキー州は、レモンアーバーには適用されなかっただろうが、未勝利高齢馬の参加を制限する州規則がある数少ない州のひとつである。

 ケンタッキー州では、6歳以上の未勝利馬はすでに5回以上出走していれば出走資格が認められない。

 フォートデラウエアにとって可能性のある行き先であるビューラー競馬場では、6歳以上の馬は若馬に対する優先権がないものの、どの馬齢の未勝利馬でも出走できる。

 ウエストバージニアにあるもうひとつのサラブレッド競馬場であるチャールズタウン競馬場は、6歳以上の未勝利馬の出走を認めていない。

 同じ中部大西洋沿岸地域にあるメリーランドジョッキークラブ(Maryland Jockey Club)は10年以上前に、ローレルパーク競馬場とピムリコ競馬場において馬齢で制限するルールを廃止している。

 メリーランドジョッキークラブの競走役助手のクレイトン・ベック(Clayton Beck)氏は、「この規則は、ディーン・ゴーデット(Dean Gaudet)ルールと呼ばれていました。その理由はゴーデット調教師が自身の管理馬を出走させるのに非常に長い時間を要したため、我々がそのルールを変えたからです」と、著名な馬主イズレイル・コーエン(Israel Cohen)氏に長年にわたり仕えたゴーデット調教師に言及しながら述べた。「同調教師は一度も出走したことのない6歳と7歳の競走馬を管理していましたが、いずれも見事な良血馬でした」。

 ウッドバイン競馬場では、勝鞍を挙げずに1万2,500ドル(125万円)以下の競走に出走した10歳以上の馬を排除している。ただし、競馬場の競走責任者スティーブ・リム(Steve Lym)氏が、成文規則を超えてケースバイケースで判断することもある。

「技術的には許可できたとしても、私なら8歳の未勝利馬をここで走らせることはしなかったでしょう。マウンテニア競馬場を責めるべきかどうか、私には分かりません。ここでも私たちの目をすり抜けて出走した馬が数頭いますが、私はいつも取り締まるよう努めています。それは故障を防ぐためだけではなく、10戦して一度も掲示板に載ったことのない7歳未勝利馬にどれだけの人が賭けたいと思うか分からないからです。馬に競走能力がなければ、委員会を通じて出馬登録を拒否する権限を私は持っています。言ってみれば馬を保護するためには必要なことです」とリム氏は語った。

 

出 走 資 格
馬齢に基づく出走資格について採用している競馬場/州とその規則
競馬場/州 規則
ビューラーパーク競馬場 6歳以上の未勝利馬は若馬に対して優先権がない。
2,500ドル(約25万円)以下の譲渡価格で出走した後に、直近8レースで1〜3着に入っていない馬には出走資格がない。
チャールズタウン競馬場 6歳以上の未勝利馬は不可
フェアグラウンズ競馬場 6歳以上の未勝利馬は不可
フィンガーレイクス競馬場 7歳以上の未勝利馬は不可
ガルフストリームパーク競馬場 6歳以上の未勝利馬は不可
ケンタッキー州 6歳以上で出走回数5回以上の未勝利馬は不可
ローレルパーク競馬場
ピムリコ競馬場
12レース連続で1〜4着に入っていない馬は不可。譲渡価格4,000ドル(約40万円)以下で出走した未勝利馬は不可。
ローンスターパーク競馬場
サムヒューストンレース競馬場
6歳以上の未勝利馬は不可
ルイジアナダウンズ競馬場 6 歳以上の未勝利馬は不可。前年に優勝していない11歳以上の馬は不可。
マウンテニア競馬場 競馬委員会から承認がない限り、13歳以上の馬は不可。
オークローンパーク競馬場 6歳以上の未勝利馬、または12歳以上の馬は不可。
ニューヨーク競馬協会 7,500ドル(約75万円)以下に出走した未勝利馬は不可。7歳以上の未勝利馬は不可
パークス競馬場 6歳以上の未勝利馬は不可
ペンナショナル競馬場 7歳以上の未勝利馬は不可
サンタアニタパーク競馬場 2010年-2011年に5,000ドル(約50万円)以下に出走したことがあり、6,250ドル(約62万5,000円)以上で優勝したことがない未勝利馬は不可。または5,000ドル以下に出走して以来、6,250ドル以上で5着以上に入ったことがない未勝利馬は不可。
サンランドパーク競馬場 6歳以上の未勝利馬は不可
タンパベイダウンズ競馬場 当競馬場に入厩する馬については5歳以上の未勝利馬は不可。出走回数10回以上で、6歳以上の未勝利馬は不可
シスルダウン競馬場 譲渡価格4,000ドル(約40万円)以下で出走して以来、直近8レースで1〜3着に入っていない馬の出走は不可
ターフパラダイス競馬場 14歳以上の馬は不可
ウッドバイン競馬場 前年に勝利を収めたことがなく、1万2,500ドル(約125万円)以下に出走したことのある10歳以上の馬は不可 



ステークス競走のルール

 キーンランド競馬場の役員は、2007年トヨタブルーグラスS(G1)において初出走するオリンピックチーフ(Olympic Chief)の出馬登録を拒否した。その代わりに、同馬はオークローンパーク競馬場で同日に施行されるアーカンソーダービー(G2)への出走を許可されたが、その年の年度代表馬カーリン(Curlin)に負け、9頭中最下位となった。

 NYRA(ニューヨーク競馬協会)は同様に、2010年にアケダクト競馬場で開催されたウッドメモリアルS(G1)への未勝利牝馬ニッキーボーイ(Nicky Boy)の出走を拒否した。

 裁決委員は問題があると思われる登録に対して最終フィルターとなり得る。ケンタッキー州の裁決委員は2009年11月にチャーチルダウンズ競馬場の5,000ドル(約50万円)のクレーミング競走の発走前に、パドックにいた12歳の元繁殖牝馬の登録を抹消した。同競走は同馬にとって9年ぶりの出走になるはずであった。

 オンタリオ州の裁決委員はこれとは反対の決定を下していた。7歳のクレーミング競走馬リックスナチュラルスター(Ricks Natural Star)について、1996年BCターフ(G1)へ出馬登録がされたときのことである。出走を認められた同馬は、公式記録99¾馬身差で最下位に終わったが、差はそれ以上であったことは明らかで、記録表には“大差”という注釈がついた。

 ブリーダーズカップ社(Breeders’ Cup Ltd.)は、それ以来最低登録資格を設けて、直近に下級のクレーミング競走に出走した馬の出走を制限している。

 ケンタッキー州の裁決委員であるブッチ・ビクラフト(Butch Becraft)氏は、「馬が肉体的に競走することができるか。問わなければならない問題は、そこです。調教を受けて毎年7戦〜8戦している多くの馬は、10歳〜12歳まで現役を続け、競走能力を示すことができるので、現役を続けています。それはちょうど、活動を続け常に仕事をしている人間と同じです。高齢馬は他の馬より少し遅いかもしれませんが、肉体的にはまだ現役馬として通用します。それはちょうど私と同じです。私は何年も騎乗していませんので、もう一度騎乗するのはキツイでしょう」と語った。

 ウッドバイン競馬場は2010年6月、衝撃的な悲劇に見舞われた。カナダの2002年度代表馬ウェイクアットヌーン(Wake At Noon)が調教で故障し、13歳で安楽死処分となったのである。オーナーブリーダーのブルーノ・シュケダンツ(Bruno Schickedanz)氏は、種牡馬として生殖能力の問題が明らかになったことを受けて、数週間前に同馬を調教に戻したところであった。

 

2010年北米における年齢別初出走馬の頭数
年齢 初出走馬 勝利数
2歳 10,646頭 978勝
3歳 10,264頭 766勝
4歳 2,089頭 157勝
5歳 378頭 18勝
6歳 68頭 2勝
7歳 11頭 1勝
8歳 4頭 0勝
9歳 1頭 0勝
10歳 3頭 1勝
11歳以上 0頭 0勝 

 

 ウッドバイン競馬場は、出走資格ルールに基づきウェイクアットヌーンを出走させるべきではなかったとし、シュケダンツ氏の免許を永久に剥奪し、同氏の馬房を閉鎖した。オンタリオ州競馬委員会(Ontario Racing Commission)は1年間の期限で禁止措置を支持した。同競馬場は調教を監督していたトム・マリノ(Tom Marino)調教師も追放した。

 オンタリオ州競馬委員会はその決定において、「馬の保護が細心の注意を払った目に見える形で行われない場合には、競馬は衰える。競馬場で馬が予後不良となることは、競馬産業にとって重大問題である。ウッドバイン競馬場は、敷地内で馬の虐待を容認しているという世間の誤解から身を守らなければならない。この件についての厳しい世間の反応は、有効な保護への要求を実証している」と述べた。  

 

2010年北米での最高齢勝馬
年齢 馬名、性別 父馬 競馬場 勝利日 競走条件
13歳 Motel Staff
         (せん馬)
Falstaff ゴールデンゲート 6/9 クレーミング
($6250)
  Eagle Time
         (牡馬)
Light of Morn リバーダウンズ 6/19 クレーミング
($4000)
  Eagle Time
         (牡馬)
Light of Morn リバーダウンズ 7/26 クレーミング
($5000)
12歳 Forty Si
         (牝馬)
Roar マウンテニア 3/13 クレーミング
($5000)
  Power and Achase
         (せん馬)
Regal Classic リバーダウンズ 4/27 クレーミング
($3500)
  Power and Achase
         (せん馬)
Regal Classic リバーダウンズ 5/7 クレーミング
($4000)
  Kid Rigo
         (せん馬)
Summer Squall デルタダウンズ 2/17 クレーミング
($5000)
  Kid Rigo
         (せん馬)
Summer Squall デルタダウンズ 3/4 スターター競走※
アローワンス
  Hez Comin Thru
         (牡馬)
North Prospect フォートピアース 4/25 クレーミング
($1500)
  Romeos Wilson
         (せん馬)
Jack Wilson アルバカーキ 8/22 C. ダーネルポニーエクスプレスS
  Romeos Wilson
         (せん馬)
Jack Wilson サンレイパーク 6/18 アローワンス
  Lookn East
         (せん馬)
Eastern Echo サンディーダウンズ 7/25 アローワンス
  Pass Bye
         (牝馬)
Schossberg プリーザントン 7/17 クレーミング
($4000)
  Pass Bye
         (牝馬)
Schossberg プリーザントン 8/14 クレーミング
($4000) 

 

※スターター競走はクレーミング競走に出走したことのなる馬だけによって行われる下級条件競走


By Jeff Lowe
(1ドル=約100円)

[Thoroughbred Times 2011年2月12日「Age-old questions」]
 


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