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2012年01月20日  - No.1 - 3

サリックス投与の影響を考察(アメリカ)【獣医・診療】


 ウィンスター牧場(WinStar Farm)の共同オーナーとして、ビル・カスナー(Bill Casner)氏は、ケンタッキーダービー(G1)、ベルモントS(G1)およびドバイワールドカップ(G1)を優勝した。今や、成功した個人馬主で生産者でもある同氏は、北米における競走当日のサリックス(頻繁に以前の商品名「ラシックス」と呼ばれるフロセミド)の投与を撤廃することに照準を合わせている。

 多くのサラブレッド生産者がこの利尿剤は米国産馬の国際的名声を汚す可能性があると信じて投与に反対している中で、カスナー氏が競走当日のサリックス投与が禁止されるべきだとする根拠は、運動誘発性肺出血(exercise-induced pulmonary hemorrhage: EIPH)の治療効果があるとの理由でサリックス使用の継続を支持するホースマンを説きふせるための絶好の機会をもたらすかもしれない。

 カスナー氏が主張する根拠は、その副作用が北米サラブレッドの出走回数を毎年少なくする原因となっているからである。一方ホースマンは、馬にサリックス投与をしなければ出血の症例は増加し、深刻化すると主張している。カスナー氏は、この利尿剤の副作用は投与後に起こる脱水状態および電解質不均衡からの回復を難しくさせる原因となると強く主張している。

 カスナー氏は、「すべての薬物には治療的恩恵と同時に副作用がある、という冷酷で厳然たる事実があります。もしそれを信じないのであれば、ただテレビのコマーシャルを鵜呑みにしているだけです。どうしてそれらの薬物を服用したがるのか不思議になるほど、すべての薬物には一連の副作用があります」と語った。

 完全に根拠が解明されているわけではないが、サリックスはEIPHの症状を治療するのに効果的であると認められている。しかしながらこの利尿剤は、その症状を完治させることはなく、深刻な水分喪失を引き起こす。カスナー氏は、これらの脱水症状は競走馬に負担をかけ、1シーズンおよび競走生活全体における出走回数を減らす傾向を引き起こしていると確信している。

 ジョッキークラブの統計によれば、米国とカナダにおいて出走したサラブレッドの半数以上にサリックスが投与された(EIPHを治療するための補助的な薬剤の微量の投与も含む)最初の年は1992年で、この年にはサラブレッドの平均出走回数は年間8.03回であった。2010年には米国とカナダで出走したサラブレッドの94.8%がサリックスを投与されて競走し、平均出走回数は年間6.11回まで減少した。

 つまり、1992年から年間の平均出走回数は23.9%減少したことになる。サリックスが北米で使用されていなかった1960年には、年間の平均出走回数は11.31回であり、現在の倍近い回数であった。


独自の研究を開始
 競走当日にサリックスを投与された競走馬は、自身の体にエネルギーを与え、水分を補給し、電解質平衡を保つことに四苦八苦し、このことにより次の出走までの体力回復により長い時間を要する、とかつて調教師であったカスナー氏は確信している。広範囲にわたる科学的な研究を実施する立場にはないものの、自身の小規模な牧場から情報を収集することは興味深いことである、と同氏は考えている。

 2歳馬3頭を出走させる前に、カスナー氏は自身の調教師であるオウエン・ハーティー(Eoin Harty)氏に会い、この3頭については競走や調教においてサリックスの効果に頼らないように依頼した。世界中で調教活動を行い、サリックスの投与なしでウィンスター牧場のウェルアームド(Well Armed)で2009年ドバイワールドカップを制したハーティー調教師は、この考えを支持した。

 カスナー氏は、サリックスを投与されて競走することに慣れた古馬に対するこの利尿剤の投与をやめることは賢明ではないと考えている。これらの馬はサリックスを投与され続けるだろう。

 サリックスを投与されている馬とされていない馬の能力と回復力をただ視覚的に評価するだけでなく、カスナー氏は自身の各厩舎に体重計を購買した。そして サリックスなしで出走した2歳馬とサリックスを投与されて出走し続けている古馬の馬体重を記録した。

 サリックスを投与されて出走した馬に関して、カスナー氏はレース翌日に16ポンド〜100ポンド(約7.26 kg〜45.36 kg)の馬体重の減少があることを立証した。

 カスナー氏は次のように語った。「私たちは7月に、1頭の牝馬をキーンランド競馬場からアーリントン競馬場に輸送しました。馬運車に乗せる前にその馬の馬体重を量りました。同馬はティズナウ(Tiznow)産駒の大型馬で、競走前に3立方センチメートルのサリックスを投与されました。同馬はレースで勝ち、クールダウンし、バケツ数杯の水を与えられました。そして午後4時に馬運車に乗せられ、午後10時にキーンランドに到着しました。私たちは体重計まで同馬を歩かせ、馬体重が100ポンド(45.36 kg)減っていることに気付きました。その後同馬は体重を戻しましたが、それには2週間を要しました」。

「この牝馬が、体重を量った馬の中で最も体重を減らした例です。大半の馬は、翌日の朝に量れば16ポンド〜50ポンド(約7.26 kg〜22.68 kg)の体重を減らしています」。

 カスナー氏は、レース翌日に馬体重が記録されるが、その間に馬は通常バケツ2杯半の水を飲むと述べた。この量の水の重さは大体100ポンド(約45.36 kg)である。

「私たちはいつも、レース前に馬が最大25ポンド(約11.34 kg)排尿すると聞いており、それはそのとおりですが、ラシックスはレース後にも利尿効果を持ち続けます。それにレースのストレスや暑さも加われば、25ポンド(約11.34 kg)以上の体重を失います」。

 サリックスは1960年代後半にEIPHを治療するために初めて使用されたが、カスナー氏は、自身がイリノイ州のクレーミング競走に出走する馬を調教していた1970年代にはあまり幅広く使用されていなかったと述べた。その当時はどの調教師も2週間に1回の割合で馬を出走させる予定を立てており、コンディションブック(競馬番組上のルール)に明記されていれば、週1回のペースで出走させることもできたと同氏は述べた。


三冠馬の欠如
 サリックスがより広く受け入れられるようになるにつれて、調教師は次のレースまでにより多くの時間を要することを認識するようになった、とカスナー氏は述べた。そして、1978年以来三冠馬が出ていないのは、サリックス使用と結びついていると考えている。

 カスナー氏は、「3つのレースが5週間の間に集中していることが馬に負担を掛けており、これらの日程はもっと分散させるべきであると多くの人々が言うのを耳にしますが、アファームド(Affirmed)、セクレタリアト(Secretariat)あるいはシアトルスルー(Seattle Slew)はこのことを苦にしたようには思えません」と語った。

 そして、「今日では年間の平均出走回数が6回であることをデータは示しています。その当時は年間平均で11回〜12回出走していました。1970年代前半において、競馬界は6年間に3頭の三冠馬を出しました。ラシックスの使用開始以降、1頭の三冠馬も出していません。もう33年にもなります。どうしてこのようなことが起こったのでしょうか?相関関係はあるのでしょうか?」と付け足した。

 カスナー氏によれば、サリックスが今日の競馬界を形作っている。同氏は、サリックスなしで6回出走して1回優勝し、2回2着となり、3回3着となった2歳馬と、サリックスを投与して出走している古馬と比べれば、このことは明らかであると述べた。

 カスナー氏は次のように語った。「私たちはレースの翌朝に2歳馬の体重を量っており、馬体重は明らかに同じであり減少していません。そして馬体内も汚されていません。体重も減少せず、体内も汚されていないのです。私は、大半の馬主や調教師も同じ様に考えていると思います。馬体重を量るようになって初めて、サリックス投与が馬にどれだけ代謝的にストレスを与えてきたかを本当に理解するようになりました。これらの馬がどれだけ水分を失っているかが分かると、私たちは出走のたびに馬を回復させるのにどうして長時間を要するか、そしてなぜ暑い日に馬が熱中症を起こすのかが解明できるのです」。


2012年のルール変更
 2012年ブリーダーズカップは、2歳限定レースにおいて競走当日のサリックス使用を認めない。そして、サラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders’ Association)の支配下にあるアメリカグレードステークス委員会(American Graded Stakes Committee)は、2歳限定競走はサリックス使用を認めるのであればグレード競走の資格を与えないと発表した。このことは、サラブレッドの競走に与えるサリックスの影響を他の馬主にも考えさせる機会を与えるだろう。

 カスナー氏が自身の考えを発表した11月14日のケンタッキー州競馬委員会(Kentucky Horse Racing Commission)の理事会において、同氏は、出走回数の減少が新しい調教方法に結び付いているという調教師の意見を聞いた。また理事会メンバーであるアラン・リーヴィット(Alan Leavitt)氏は、フランス調教馬はサリックスを投与されて出走していないのに出走回数が特に多くないのはなぜかと質問したが、米国に比べて競馬シーズンが短いことが統計上関係しているのだろう。

 カスナー氏は、北米における出走回数の減少とサリックス使用との相関関係について人々は説得させられるはずだと考えている。同氏は、疑い深い人々が2011年に何を目の当たりにしたか認識できることを望んでいる。

 カスナー氏は次のように付言した。「私はラシックスを投与されずに出走した翌日の馬を観察しています。それらの馬はすべてエサを付けた馬房に入れられていますが、彼らは後ろ肢を蹴り上げて遊んでいます。統計的にごくわずかな例ではありますが、ある馬を体重計に乗せて体重が100ポンド(約45.36 kg)減っていることを確認した上でレース後の様子を見ると、彼らは無気力な様子をしており、エサも少しずつしか食べていません。これらの馬の代謝に異常があることは明らかです」。

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By Frank Angst

[Thoroughbred Times 2011年11月26日「Weighing the Salix consequences」]


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