2011年後半のセリが好成績で、米国生産界は安堵（アメリカ）【生産】

　4年連続の生産馬の価格下落がホースマンに失職、破産申請および牧場売却をもたらした北米のサラブレッド市場は、恐怖で私たちの息を止まらせた。2011年にやっと、生産事業が良好な方向にはっきりと前進したことで、安堵のため息をつくことができた。ファシグ・ティプトン社（Fasig-Tipton）のボイド・ブラウニング（Boyd Browning）社長は、「私の印象は、最も酷い嵐の時期を乗り越え、上り調子に戻りつつあるというものです。見たほぼ全てのセールにおいて需要は高まっており、2011年後半にはとりわけ顕著でした。人々はサラブレッド馬主になることに再び信頼を持ち始め、馬を獲得することに強い欲望を持っています」と語った。

　本誌は、競走馬のセリの4つの主要カテゴリー、つまり当歳馬、1歳馬、2歳馬および繁殖牝馬のセリの結果からセール運営の財政的健全性を分析した。2011年におけるこれらすべてのカテゴリーを合わせた結果は、総売上げは7億2,231万3,612ドル（約577億8,509万円）で、売却頭数は1万3,735頭であった。そして平均価格は5万2,589ドル（約421万円）であった。

　総売上げと平均価格は、2010年からそれぞれ20.9％と26.9％増加した。これらの統計が前年比で増加を示したのは、総売上げ12億2,591万2,327ドル（約980億7,299万円）と平均価格5万9,707ドル（約478万円）であった2006年以来である。

　売却頭数は、2006年に史上2番目に多い売却頭数2万532頭に到達してから、5年連続で減少していた。しかし、直近の2011年における売却頭数の減少は、需要を上回って馬が上場され過ぎたことが主因であるため、一般的には肯定的にとらえられている。

　セリ事業は、供給の減少に加えて大不況に打ちのめされていた米国経済が改善の兆しを見せ、その恩恵をうけた。また、馬主への税の優遇措置もまた、1歳馬を中心として新しい馬を獲得することを促した。

　レースの賞金額に関する明るい傾向も、サラブレッド市場の強化に役立った。エクイベース社（Equibase Company）によれば、2011年10月の賞金額は前年比で5.3％増加し、1月〜10月では前年同期比で1.1％増加した。

　いくつかの主要な競馬管轄区において、賞金額は2012年以降も成長し続けると予想されている。

　長い遅延の後、10月後半にニューヨーク州のアケダクト競馬場にスロットマシンカジノ施設がオープンした。これが実現する数日前に、ニューヨーク生産・開発基金（New York Breeding and Development Fund）は、2012年の生産者賞において全体的に50％増加させることを発表した。いくつかの予測によれば、カジノ収入によって最終的にNYRA（ニューヨーク州競馬協会）の3競馬場の賞金は年間3,000万ドル（約2億4,000万円）以上引き上げられるだろう。

　2012年にカリフォルニア州で“ゴールデンステートシリーズ（Golden State Series）”が設立される。このシリーズは、カリフォルニア州で生産あるいは種付けされた2歳馬および3歳馬限定のステークス競走に、賞金額232万5,000ドル（約1億8,600万円）を追加で提供する。既存のステークス競走の賞金は引き上げられ、6つのステークス競走が新設される。

　ブラウニング氏は、「2011年はサラブレッド市場の熱が高まりましたが、2012年はその高まりから利益を享受すると思います。私の考えでは、近い将来に2006年の水準までは取り戻すことは期待できないでしょうが、それでも楽観視できます」と語った。

　繁殖牝馬と当歳馬は、2011年のセリで最大の利益をあげた。

　繁殖牝馬セールでは3,003頭が購買され、総売上げは2億3万8,509ドル（約160億308万円）であった。平均価格は6万6,613ドル（約533万円）であり、中間価格は1万1,000ドル（約88万円）であった。2010年と比較すれば、売却頭数は8.7％減少したが、総売上げは48.7％増加し、平均価格は63％、中間価格は10％増加した。

　当歳セールでは、1,227頭が購買され総売上げは3,441万8,577ドル（約27億5,349万円）であった。平均価格は5万2,501ドル（約420万円）であり、中間価格は1万7,000ドル（約136万円）であった。売却頭数は9.2％減少したが、総売上げは42.5％増加し、平均価格は57％、中間価格は70％増加した。

　1歳セールでは、総売上げ、平均価格、中間価格においてそれぞれ11.5％、20.3％、50％増加した。売却頭数は7,010頭で総売上げは3億3,727万5,263ドル（約269億8,202万円）であった。平均価格は4万8,113ドル（約385万円）であり、中間価格は1万5,000ドル（約120万円）であった。売却頭数は2010年から7.4％減少した。

　一方、2歳セールの結果はさほどなものではなかった。売却頭数が13.2％増加し2,495頭となったが、総売上げはわずか4.8％増の1億2,058万1,263ドル（約96億4,650万円）であった。平均価格は7.4％減少し4万8,329ドル（約387万円）となり、中間価格は同水準にとどまった。中間価格は5年連続で2万ドル（約160万円）であった。

大きな資産処分による売却があり、セリが活性化

　ヴァージニア州のスプリングヒル牧場（Spring Hill Farm）のオーナーであったエドワード・P・エヴァンズ（Edward P. Evans）氏は、2010年後半に亡くなった。同氏は2009年と2010年にサラブレッド馬主・生産者協会（Thoroughbred Owners and Breeders’ Association：TOBA）の全米最優秀生産者となっており、同氏の逝去によりその生産馬が上場され、2011年のサラブレッド市場に大きな影響を与えた。

　ウィル・ファリッシュ（Will Farish）氏のレーンズエンド牧場（Lane’s End）がエヴァンズ氏の遺した馬を取扱い、これらの馬はキーンランド協会の9月1歳セールと11月繁殖牝馬セールに上場された。2つのセリで売却されたサラブレッド220頭（216頭の馬と4つの種牡馬株）の総売上げは6,234万7,000ドル（約49億8,776万円）で、サラブレッドの財産売却において世界記録を打ち立てた。11月セールの総売上げ5,582万ドル（約44億6,560万円）だけで、ニューステッドファームトラスト（Newstead Farm Trust）が以前資産処分で打ち立てた記録を超えた。ニューステッドファームトラストの資産処分は1985年にケンタッキー州中部のファシグ・ティプトン社のセリ施設で行われ、42頭と種牡馬株20株が上場されて4,698万8000ドル（約37億5,904万円）の総売上げを挙げていた。

　キーンランド協会（Keeneland Association）の11月セールに上場された23頭のうち12頭は1頭当たり100万ドル（約8,000万円）以上で購買され、これらはエヴァンズ氏の資産処分により上場された馬であった。その中には、420万ドル（約3億3,600万円）で購買された、現在バーナーディニ（Bernardini）の仔を宿しているG1勝馬クリスマスキッド（Christmas Kid）と、北米の一般セリにおいて今までに売却されたサラブレッドの当歳牝馬の中で260万ドル（約2億800万円）の最高額をつけた、2005年の年度代表馬セントリアム（Saint Liam）の仔を宿したメダグリアドロ（Medaglia d’Oro）の半妹がいた。

　エヴァンズ氏の資産処分以外の馬も上場したレーンズエンド牧場は、371頭の馬を上場して6,622万500ドル（約52億9,764万円）を売上げ、キーンランド11月セールのトップコンサイナーとなった。この売上げは、サラブレッドのセリにおける1人のコンサイナーの売上げの世界記録を打ち立てた。

　しかし、一般セリで世界最高額で購買された馬は、エヴァンズ氏の1頭ではなかった。それは、故サウド・ビン・ハリード殿下（Saud bin Khaled）のパリデスインヴェストメント社（Palides Investments）の資産処分の1頭、スター牝馬のロイヤルデルタ（Royal Delta）であった。同殿下が所有したケンタッキー州中部のシャンテクレア牧場（Chanteclair Farm）が、キーンランド11月セールでコンサイナーを務めた。ロイヤルデルタは、競走馬または、繁殖牝馬として上場され、11月4日のBCレディーズクラシック（G1）を優勝した4日後に850万ドル（約6億8,000万円）で購買された。同馬は、ほぼ確実にエクリプス賞の2011年最優秀3歳牝馬に選出されるとみられている（訳注：2012年1月16日に同馬は見事に同賞を受賞した）。

　この落札額は、2007年キーンランド11月セールにおいて1,050万ドル（約8億4,000万円）で落札されたプレイフルアクト（Playful Act）に次ぐ高額であった。またこれまでの11月セールで3番目に高額であった。キーンランドセールの記録では、ロイヤルデルタは現役馬の中で最も高額であったことを示していた。

　南カリフォルニアの医療界の大物ベンジャミン・レオン（Benjamin Leon Jr.）氏が、妻シルヴィアへの誕生日プレゼントとして、ベシルステーブルス （Besilu Stables）名義でロイヤルデルタを購買した。エンパイアメーカー（Empire Maker）産駒の鹿毛の牝馬ロイヤルデルタは、2012年も現役を続行する予定で、競馬殿堂入りを果たしたビル・モット（Bill Mott）調教師の厩舎で引き続き管理される。
2011年の戦績はBCレディースクラシックに加え、アラバマS（G1）、ブラックアイドスーザンS（G2）を制し、8戦5勝で、169万4,600ドル（約1億3,557万円）獲得している。

　ロイヤルデルタの落札額とエヴァンズ氏の資産処分がキーンランド協会の11月セールを盛り上げ、前年比で総売上げにおいて41.1％、平均価格においては62.1％、中間価格においては38.2％増加させたことになる。
  

 By Deirdre B. Bile
（1ドル＝約80円）

［The Blood-Horse 2011年12月24日「A Sigh of Relief」］