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2012年03月20日  - No.3 - 1

BHA、鞭使用ルールを抜本的に修正(イギリス)【開催・運営】


 BHA(英国競馬統轄機構)は2月21日夜、論議を呼んできた鞭使用ルールの抜本的修正を発表し、関係者を大いにびっくりさせた。

 騎手協会(Professional Jockeys Association: PJA)に歓迎されたこの急展開の発表は、2011年9月の新しい鞭使用ルールの導入以来4度目の変更となる。この変更案は、BHAの新任CEOポール・ビター(Paul Bittar)氏によってまとめられた。同氏は、3月のチェルトナムフェスティバルでこの問題が新聞の大見出しとなることを避けようと決意し、BHA理事会を引っ張ってきた。

 今回の措置により、馬福祉団体との衝突は避けられないものとなり、王立動物虐待防止協会(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals:RSPCA)から「競馬産業にとって暗黒の日」として強く非難された。

 2月21日のBHA理事会では鞭使用ルールが微調整で済まされると広く考えられていたが、理事は、ビター氏が“根本的に不備がある”と表現したルールの変更提案を承認し、修正を抜本的なものとした。

 平地競走で8回、障害競走で9回鞭を使用した場合に規程違反が自動的に発生するのではなく、その規定されている回数は、単に裁決委員が問題となる騎乗を“精査する”ための引き金となるだけである。

 裁決委員は、定められた鞭使用回数を超過する過程で騎手がどのように鞭を使用したか考慮するよう求められ、違反が生じたかどうか、罰則が与えられるかどうかを決定することになる。

 今回の修正後の新しい鞭使用ルールは3月初めには施行される準備が整うだろうが、2月21日夜の時点で、BHAは、規定を超えた鞭使用がどのような場合に許容されると見なされるかの事例を解説したり、更なる詳細を関係者や大衆に向けて伝達できる状況にはなかった。

 ビター氏は、「見直しを受けて修正された鞭使用ルールが最初に導入されてから4ヵ月以上が経ちました」と語った。

 そして次のように続けた。「ルール自体とそれに伴う罰則に多くの変更がなされたものの、見直しの目的の多く、とりわけ馬の福祉に関連する目的が達成された一方、定められた回数だけに基づいて厳格に鞭の使用を取り締まるルールに根本的な欠陥があるのは明らかです」。

「昨年導入された新ルールに他意はなく、使用回数を明確に設けることにより明確さと一貫性を求める騎手からの要求を踏まえたものでした。しかし、実際には、鞭が使われる方法に考慮がなされなかった例が繰り返し発生し、また騎手たちには犯した違反に対して不釣合いな罰則が与えられました」。

「これまでのルール修正で得られた一定の効果部分は維持する一方で、今回の見直しのポイントである公正さとバランスの確保という目的に合ったルールと罰則を基にしてルール化することが課題です。それは具体的には、重大なルール違反を事実上なくすこと、違反回数を全体的に減少させることなどです」。

 ビター氏は次のように語った。「この提案の目的は、鞭使用回数が大幅に減っている現状と同じ水準で騎乗を続けさせることです。しかし、ある騎手がルール違反を犯したかどうかを判断するときには、これまで以上の裁量権と常識的な感覚が裁決委員に与えられます」。

 BHA理事会はまた、明確な形で修正された罰則制度の導入も認可した。理事会は鞭使用限度を1〜2回超過する事例を軽度の違反として扱う提案を承認し、それによって、1回超過は現状と同じ2日間の騎乗停止処分、2回以上の超過は現在の5日間ではなく4日間の騎乗停止処分となる。

 さらに、軽度でも重度でも累犯により罰則が重くなることはなくなり、それぞれの違反は“個々の違反の内容いかんによって”取り扱われる。しかしながら、6ヵ月以内に5回目の軽度違反あるいは4回目の重度違反があった場合は、懲戒委員会にかけられることになる。

 罰則制度の変更は2月23日に発効し、その時点で科されている騎乗停止処分については過去に遡及適用される。

 ビター氏は、「2011年10月の新しい鞭使用ルールの適用以前、裁決委員は今回の提案と似た原則に基づいて、鞭の乱用事例を取り締まっていました。今回の提案の違いは、騎乗ぶりを事後審査するに当たっての鞭使用制限回数が著しく少なく明確に設定されていることです」と語った。

 そして次のように続けた。「この件のルール作成に関して最も厳しい課題は、ふさわしい罰則と有効な抑止力として機能する罰則とのバランスを見つけ出すことであると分かりました。そして理事会は、この問題が大レースにおいて注目される可能性を認識し、将来更なる見直しを行う権利を留保しました」。

 こうしたBHAの対応に対して、PJAのCEOポール・ストラザース(Paul Struthers)氏は、「PJAは、BHAが鞭使用ルールと罰則の両方に重大な修正を行うという本日の決定に満足しています」と語った。

 そして次のように続けた。「これまでの罰則制度は適切なものではなかったので、今回の修正を歓迎します。しかしより重要なのは、騎手のみならず競馬界全体にとっても最も重要な問題であった、ルールの根本的な構成と適用に関するアプローチ全体に変化があったことです」。

「グレーゾーンの案件は単純に白黒はっきりさせるルールによっては適切かつ公正に取り締まることができないこと、また騎手たちは馬を心から気遣うホースマンであるのに、レースにおいて技術と判断力を存分に発揮することが否定されていることを、このルール変更は気づかせてくれました」。

「もしこのルールが適用されれば、全く故意ではないミスや完全に容認されるはずの騎乗のために騎手たちが罰せられることはもはやないとPJAは考えています。私は、この取組みがどのように実行されるかの指針をBHAがまとめるに当たって、BHAとの対話を続けていきます」。

 ストラザース氏は次のように付言した。「なお微修正の必要はあるかもしれませんが、PJAは進行中のモニタリングの一環として引き続きBHAと緊密に取り組みます。解釈が見直されたルールが発効し、競馬界と騎手についての不確かで不名誉な印象を強めるのではなく競馬界が前向きのことを再び話し合えるようになることを誰もが望んでいます」。

 この発表をうけて、RSPCAは次のような声明を出した。「本日は競馬産業にとって暗黒の日ですが、本当の敗者は馬です。騎手は事実上、罰を受けずに馬を鞭打つ資格を与えられました。私たちはすでに2回譲歩したにも拘わらず、騎手が気に入るようにルールを変更すべきとBHAが考えていたことに非常に失望しています」。


譲歩続きの鞭使用ルール変更の経緯

2011年9月27日

 使用回数が平地競走では7回(最後の200m では5回)、障害競走では8回(最終障害飛越後には5回)に制限されている新しい鞭使用ルールを10月10日に導入することをBHAが発表した。このルールを破った騎手たちに著しく厳格な罰則が科されることも発表された。

2011年10月21日
 騎手がストライキを起こす恐れがある中、BHAは最後の200mと最終障害飛越後の鞭使用に関するルールを撤回した。また罰則が見直され、以前の“3日以上”ではなく“7日以上”の騎乗停止処分を受けた者だけが進上金を没収されることとなった。

2011年11月10日
 軽度の違反に対する罰則の過酷さを巡る騎手からの批判を受けて、さらに譲歩がなされた。平地競走と障害競走のいずれにおいても制限回数はそのままとされたが、制限回数を1回超えたルール違反に対する騎乗停止処分は2日間となった。

By Graham Green

[Racing Post 2012年2月21日「The whip all change」]

 

(参考) 修正後の鞭使用ルールと罰則の要旨

1. 修正後の鞭使用ルールは、3月6日から発効する。裁決委員は、定められた鞭使用回数だけに基づくのではなく鞭がどのように使用されたかにも目を向け、騎手の鞭使用を審査する際に裁量を発揮することができることになる。

2. 裁決委員が騎手の鞭使用方法の審査に入るのは、現行どおり平地競走で8回以上、障害競走で9回以上鞭を使用した場合である。しかし、その使用回数の超過が自動的に違反となるのではなく、裁決委員は騎乗を調査した上で審問を行うかどうか決定する。


3. 裁決委員は審問を行うかどうかを決定する際、レース全体の経過における騎手の鞭使用を調査するが、とりわけゴール前での鞭使用および以下のような要素に着目する。

 a. 鞭の強さの程度を含む鞭使用の状況
 b. 鞭使用の目的
 c. 鞭が使われた距離と使用回数が妥当であり必要であったかどうか
 d. 馬が鞭使用に前向きに反応し続けたかどうか

4. 鞭使用時の使用方法全般を評価する際に、裁決委員は以下のような目的での鞭使用はカウントしない可能性がある。

 a. レース終盤に入る前に馬の競り合いを維持して好位置を保つため
 b. 馬のやる気と集中力を保つため
 c. 著しく頭を垂れた馬の姿勢を修正するため
 d. 馬への鞭がほんの軽い接触に過ぎない場合
 e. 障害飛越でのミスの直後
 f. 障害飛越でスピードの落ちている馬を修正するため

5. 修正された罰則に従い、許容回数を1回超過した騎手には2日間、2回超過には4日間、3回超過には7日間の騎乗停止処分が科され、そしてさらに1回超過するごとに2日間の騎乗停止処分が追加される。

6. 罰則のレベルを決定する際に、以前の違反は考慮されない。2日〜6日間の騎乗停止処分が科される違反は、7日間以上の騎乗停止処分が科される違反と区別して取り扱われる。

7. 修正された手続きに従い、違反を繰り返した騎手は懲戒委員会に送られ、長期にわたる騎乗停止処分が科される。すなわち、2日〜6日間の騎乗停止処分が6ヵ月以内に5回、あるいは7日間以上の騎乗停止処分が6ヵ月以内に4回となった場合、騎手は懲戒委員会に送られる。

8. より高額賞金のレースにおいてルール違反の動機がより大きいことは、一般的に認められる。このため裁決委員は、200ポンド〜1万ポンド(約2万6,000円〜130万円)の幅で過怠金を騎手に科すことができる。そしてこのことは、賞金2万ポンド(約260万円)以上の障害競走および賞金2万7,500ポンド(約357万5,000円)以上の平地競走に適用される。裁決委員は適切な過怠金の額を決定するに当たって、当該レースにおける違反の重大さと騎手の進上金を考慮することになる。

(1ポンド=約130円)

[Racing Post 2012年3月6日「Racing and the whip−Summary of new rules and penalties」]


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