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2012年05月20日  - No.5 - 2

グランドナショナルの障害修正の効果を評価するには時間が必要(イギリス)【開催・運営】


 BHA(英国競馬統轄機構)のCEOポール・ビター(Paul Bittar)氏が出した明確なメッセージは、今回のグランドナショナルの結果そのものを云々することよりもこれまでにグランドナショナルに施された変更の効果を評価する必要があるということであった。 

 グランドナショナルにおけるチェルトナムゴールドカップ勝馬シンクロナイズド(Synchronised)を含む2頭の予後不良事故を受け、ビター氏から発表された非常に長い声明では、昨年の再検討に従って施された障害(フェンス)および競走条件の変更には真価を証明する機会が与えられる必要がある、という同氏の信念が強調されていた。

 それにもかかわらず王立動物虐待防止協会(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals:RSPCA)のCEOガヴィン・グラント(Gavin Grant)氏は、この予後不良事故について「全く受け入れられない」と述べ、「私たちはグランドナショナルに対して安全性の改善にも拘わらず馬が命を落とし続けている最難関のビーチャーズブルックを含むフェンスの数などについて緊急調査を実施することを望んでいます」と付け足した。

 BHAのCEOに就任して4ヵ月半となるビター氏は、「安全性を高めるためにここ何年かにわたり行われてきた変更が、グランドナショナルと競馬全般のいずれにおいても、故障と予後不良事故の全体的な減少をもたらしているという数字が示されています」と語った。

 そして次のように続けた。「これらの事柄は時間をかけて判断されることが重要です。2000年からの10年はグランドナショナル史上において最も安全な期間で、予後不良率は1990年代初めの3.3%から1.5%に減少しました」。

 「悲しいことに、この2年のグランドナショナルにおいてそれぞれ2頭の命を奪う予後不良事故が生じました。当然私たちの目標は予後不良事故を無くすことですが、一方でこのような激しい競走上のリスクをすべて取り除くことはできないことも認識しています」。

 同氏は次のように述べた。「昨年11月にBHAは、グランドナショナルのすべての要素に関する包括的で詳細にわたる検討の結果を発表しました。現段階では、私たちはこのコースの修正と他の変更が効果的ではなかった、あるいは今後も効果的ではないだろうと述べるのは時期尚早であると考えています」。

 「検討と修正の実施以来、昨日のグランドナショナル施行に先立って開催された4レースにおいて事故はありませんでした」。

 「シンクロナイズドとアコーディングトゥピート(According To Pete)を予後不良に追いやった事故の調査プロセスは、満足の行く段階に前進しています」。

 「そのプロセスにはなお補完調査の必要はありますが、両馬ともビーチャーズブルックで騎手を落としたものの、シンクロナイズドはその時点では故障はなくその後カラ馬のまま障害を飛越した時に後肢に骨折を発症したようです。また、アコーディングトゥピートは2周目で他馬と接触し転倒しました」。

 各馬のゼッケンに備えられていたラップタイム測定チップによるスピード感知データを含めて、今年のグランドナショナル開催のデータは、今後、昨年の検討からの統計および調査結果と併せて検討される予定である。そして今年のグランドナショナルのみを大がかりに評価することはないことが強調された。

 競馬場オーナーでありチャンネル4の評論家で以前はBHAの理事を務めていたジム・マクグラス(Jim McGrath)氏は、今回のグランドナショナルから早急な結論を出すことは賢明ではないとするビター氏に賛成した。

 同氏は、「沢山の意見と主張があるシナリオを扱うときに生じる問題の1つは、誰もが早急な判断を下したがるということです。したがって、私はビター氏の声明を読み、その意見の多くに賛成です」と述べた。

 そして次のように続けた。「私たちは落ち着いてよく考える必要があると思います。そしてどのようにして馬の故障が発生し、近年馬の福祉について大きな前進を遂げたエイントリー競馬場をこれ以上安全にするために講じることがあるかどうか検討する必要があります」。

 「グランドナショナルは出走頭数もフェンスも多く長距離の競走であるため、馬にとってユニークな試練であり多くのことが要求されるという事実から離れることはできません。しかし人々は、軽薄さや無造作な考えではなしに、1,000頭に対して約4頭の割合で予後不良事故が生じると一般的にとらえてしまいます」。

 「1年前のバラブリッグス(Ballabridggs)のような状況から必然的に出てくる不合理な議論のいくつかは、ばかげた考え方と隣合わせです。そのようになってしまう理由の1つは、繊細で道理に適った議論ではなくその場の過剰反応に陥りやすいソーシャルメディアの出現です」。

 グラント氏も「レース終盤で鞭を過度に使用したようだ」と指摘し、グランドナショナルの勝馬ネプチューンコロンジュ(Neptune Collonges)にダリル・ジェイコブ(Daryl Jacob)騎手が行った鞭使用について疑問を呈した。同騎手は鞭を11回使用したようである。

 しかし、BHAのスポークスマンであるジョン・マキシ(John Maxse)氏は次のように説明した。「少なくともジェイコブ騎手の3回の鞭使用は順手であり、裁決委員によれば、レース全体および終盤においてジェイコブ騎手の鞭を打つ強度も使い方もルール違反となることはありません」。

 昨年のグランドナショナルの後に起きた騒動は、このレースの人気に影響を与えていなかった。エイントリー競馬場には3日間で15万4,000人が来場し、グランドナショナル当日だけで7万441人が来場した。

 

固定障害競走経験10回以下の馬のグランドナショナルでの成績(2005年以降)
出走馬 転倒 落馬 中止 入着 着外
51頭 17頭 11頭 10頭 2頭 11頭 

  

2011年と2012年のグランドナショナル競走において
グランドナショナルと同じコースを使った馬の成績
全出走馬 完走馬 転倒 落馬 落馬/拒止 中止
2011 92頭 47頭 27頭 6頭 4頭 8頭
2012 92頭 47頭 21頭 11頭 4頭 9頭 

  

主な論点(調査されているエイントリー競馬場の問題)


・フェンス(さらなる障害修正は必要か?)

 現在使われているフェンスの中心的枠組みとして構造を整えている木材や防振ゴム以外の物質を使用してデザインし直す可能性は、すでにエイントリー競馬場の役員の念頭にある。1号障害、4号障害および6号障害(ビーチャーズブック)は今年の開催以前に修正されていた。これらの障害ではレース中2回飛越が行われ、5頭の転倒馬があった。

肯定的意見:修正にも拘わらずこれらのフェンスは手ごわいままであり、馬を怖気付かせる。フェンスの高さや構造を修正することは馬が飛越することをより容易にし、踏切面より着地面のほうが低くなっている障害(drop fence)を修正することは、おそらく大きな事故を減らすこととなるだろう。

否定的意見:多くの評論家は、レースの要素が完全に失われ競走距離および出走頭数のユニークさを損なわせることになるような変更には賛同できないと述べるだろう。馬がより速いスピードでフェンスに向かうことになり、より危険に晒されるだろう。


・スピード(1号障害はスタート地点に近づけるべきか、またその反対か?)

 この課題について昨年の検討に参加した団体および個人からほとんど支持はないと言われていたが、レース序盤のフェンス修正の効果が検討されていることから、詳細にわたる見直しは2012年以降に行われるだろうと発表されていた。レース序盤の速度が重要な安全要素と認められているので、今後は速度測定のチップが各馬のゼッケンに埋め込まれるだろう。

肯定的意見:騎手がスタート直後に馬を全速力で走らせることを避けることができ、馬をより遅く安全なテンポに落ち着かせることができる。

否定的意見:狙いどおりになるかは難しく、1号障害までの距離を短くすることは、フェンス前において出走馬を十分に分散させられないかもしれない。


・出走頭数(約30頭にまで削減?)

 レーシングポスト紙に寄せられた読者の意見のいくつかはこの問題を扱っている。この問題は昨年検討グループにより話し合われたが、“変更の必要性は見当たらない”とされた話題の1つであった。

肯定的意見:多頭数のぶつかり合いを減らすことは、転倒やレース序盤のスピードアップにつながる原因を確実に減らすこととなり、一般的に安全性を改善し、さらにレースの質を向上させるだろう。

否定的意見:出走機会を失う10頭の馬の関係者たちは、賞金100万ポンドへの挑戦を諦めなければならない。グランドナショナルは競馬において出走頭数が最多で、このことはこのレースの特質に不可欠なものである。


・出走条件(出走資格ルールを固定障害競走の出走回数にまで拡大するか?)

 レーシングポスト紙で『大レースの傾向』を編集しているクレイグ・サーク(Craig Thake)氏による分析は、2005年のグランドナショナル以来、固定障害競走を10回以下しか経験していない馬はこのレースに優勝しておらず、たった2頭しか入着していない。グランドナショナルのコースでレースに出走できる馬の現行の適格基準は、固定障害競走の出走経験の有無となっており、特定のガイドラインはない。

肯定的意見:固定障害競走に多く経験のある馬は、エイントリー競馬場のフェンスに挑むときにおいても、ほとんど転倒はないように思われる。

否定的意見:怪我がちな馬や若馬にとって不公平であり、このレースへの出走を妨げることになる。



馬場状態(稍重でもスピードが出過ぎるのだろうか?)

 BHAの検討により、エイントリー競馬場が良から稍重の状態の馬場で施行される必要性が認識されている。それは今年のグランドナショナルが施行された土曜日の状態であり、その日の馬場状態は良で、所々で稍重であった。ポール・ニコルス(Paul Nicholls)調教師は“素晴らしい”と評したが、同調教師の管理馬が優勝したわけではない。その状態でもまだ速すぎる馬場なのだろうか?

肯定的意見:馬場が重ければ馬はよりゆっくり走行し、転倒が懸念される場合でもより柔らかい芝馬場は好ましい。

否定的意見:速い馬場が得意な馬にとっては不公平となるだろう。水を撒かれた馬場がいつも安全であるというわけではない。



持ち上がりつつある他の諸問題(カラ馬を扱う方法)

今年カラ馬を捕えるために多くの係員が活躍したが、このカラ馬の問題に対処するためアウトライダーが役立つかについても検討されることになるだろう。そうなればおそらくカラ馬はより迅速に捕捉されることになるのではなかろうか?

 

調教で使用することでの改善

エイントリー競馬場で用いられているようなフェンスの使用を調教センターで展開および促進することは、当然のことながら有益であると考えられるが、費用も掛かる。



レース発走のタイミング

今年は出走馬が極端に早くスタート地点に集まっていたが、レースは二度の不真正発走を経て9分遅れて発走となった。スタート地点のまわりを10分ほど「マロ」する(発走前にスタート地点の付近でぐるぐる回りながら待機する)ことは理想的なことではない。

By Andrew Scutts

[Racing Post 2012年4月16日「Give changes time to prove worth-Bittar」]


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