TOPページ > 海外競馬情報 > グランドナショナルは、障害修正でスピードによる危険が増大か?(イギリス)【開催・運営】
海外競馬情報
2012年05月20日  - No.5 - 3

グランドナショナルは、障害修正でスピードによる危険が増大か?(イギリス)【開催・運営】


 過去にグランドナショナルを優勝した騎手は、グランドナショナルのコースを容易にすることは、レースをより危険なものにするかもしれないと述べた。そしてそれは、障害(フェンス)修正によってレースがより速い展開になる可能性があるからであると論じている。

 1978年に騎手としてグランドナショナルを制し、エイントリー競馬場の元馬場取締委員補であるボブ・デイヴィーズ(Bob Davies)氏と、2002年に同レースを制したジム・カロティー(Jim Culloty)騎手は、スピードはグランドナショナルの主要な要素であり、フェンスがそれほど困難でなくなれば出走馬と騎手はフェンスをあまり気にしなくなるだろうと述べた。

 現在はラドロー競馬場のマネージャー兼馬場取締委員であるデイヴィーズ氏は、「重要な問題はスピードであり、フェンス飛越後の着地などではありません。数年前と比べて現在ではフェンスがどのように飛越されているか見ればまるで公園のフェンスを越えているようで、エイントリーのフェンスはそのようなものであってはいけません」と語った。

 そして次のように続けた。「今年は発走に遅れが生じたため、出走馬は普段よりも速いスピードで発進しました。他の年に比べてメリングロード(訳注:スタート地点近くでコースの真ん中を横切る公道。レース施行の際には砂が撒かれてコースとして利用されている)からビーチャーズブルックまで掛かった時間が他の年に比べて速かったことは興味深いことです」。

 「私はフェンス修正がレースをより安全なものにしているとは考えていません。メリングロードに入る前に1号障害を置く議論が持ち上がっています。1号障害までの距離が長いほど、それに到達するときには速いスピードになっているからです」。

 「私は以前ビーチャーズブルックで2頭が予後不良事故に遭ったとき障害の修正に関わりましたが、その際には馬がより真っ直ぐに飛越し着地できるようにしました。私はシンクロナイズド(Synchronised)に何が起こったのか確信が持てませんが、いずれにしても同馬はビーチャーズブルックで骨折したわけではありません。しかしこのことのためにビーチャーズブルックは批判を受けました。私はこれ以上の修正が行われるのを見たくありません」。

 ビーチャーズブルックの着地点に変更が行われたことにより、今年のグランドナショナルはより多くの出走馬が内柵沿いを走る傾向にあった。

 ロバート・パワー(Robert Power)騎手は次のように語った。「私はこれまで騎乗したすべてのグランドナショナルにおいて内側を走り、内柵沿いからビーチャーズブルックに向かいました。今年は7回目のグランドナショナル挑戦だったと思います。これまでは他馬がフェンスの真ん中に向かって移動するので、私はいつも内柵沿いのわずかな間隔を持つことができました。しかし今年は誰も真ん中へ移動せず内側に留まろうとしたので、飛越するのにほとんど隙間が無く、フェンスを見る余裕もありませんでした」。

 ビンダリー(Bindaree)でグランドナショナルを制したカロティー騎手は、このような作戦は以前には見られなかったと述べた。

 同騎手は次のように語った。「以前はビーチャーズブルックに接近している時には誰もが減速し、馬群は馬場全体に広がりました。ビーチャーズブルックを手ごわいフェンスとして扱っていたのでしょう。以前は内柵に寄って内側を行く騎手は多くありませんでした。しかしフェンスの飛越がより容易になったことで、騎手はビーチャーズブルックを気にしなくなりました」。

 そして、「グランドナショナルを40頭の馬と競うことができたのは、フェンスが手ごわいために各馬がばらけたからです。フェンスを飛越しやすくしたために、誰もが内柵沿いを占領してかたまってしまい、飛越時にごちゃついてしまうのです」と付言した。

 BHA(英国競馬統轄機構)のCEOポール・ビター(Paul Bittar)氏は、世界馬福祉協会(World Horse Welfare)のCEOロリー・オワーズ(Roly Owers)氏とグランドナショナルの前から予定されていた会合を4月下旬に持つことになっているが、グランドナショナルが議題の中で最も重要なものとなるだろう。

 オワーズ氏は次のように語った。「私たちはBHAに対し真剣に質問し、エイントリー競馬場が検討を完了すれば彼らとも話合いを持つでしょう。競馬界は、人々がグランドナショナルでほとんど毎回予後不良事故が起きることにもはや我慢できないということを理解しなければなりません」。
  

グランドナショナル1周目の走行タイム
馬場状態 1号障害までの走行タイム ビーチャーズブルックまでの走行タイム ビーチャーズブルックまでの転倒/落馬(1号障害での転倒/落馬)
2005 稍重 28.8 93.96 4(2)
2006 稍重 27.88 93.48 9(5)
2007 29.72 97.92 5(2)
2008 28.04 95.16 9(0)
2009 稍重 28.12 95.12 6(2)
2010 28.2 94.56 4(1)
2011 28.33 93.97 9(1)
2012 27.71 93.94 7(1) 

走行タイムはスタート地点から最初に到達した馬がフェンスを越えた時間。

By Jon Lees

[Racing Post 2012年4月17日「Winning jockeys issue National speed warning」]


上に戻る