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2012年05月23日  - No.5 - 5

2012年のフランケルの挑戦(イギリス)【その他】


 今年フランケル(Frankel)が敗れることを望むのは卑屈な人々だけだろうが、ブックメーカーもその可能性が高いと見ている。しかしどのようにしてフランケルが敗れるのだろうか?

 フランケルは頂点に立ち同世代馬を寄せつけず、ほぼ間違いなく50年間に1頭の逸材であるので、同馬が3年目のシーズンで無敗を貫くとする現在の7-4(2.75倍)のオッズは、心をそそるかもしれない。しかしこのオッズは薄弱な根拠で導き出されたものではなく、大手ブックメーカーのコーラル社(Coral)はこのオッズに殺到されびっくり仰天することにはなっていない。

 統計的に今年は傑出した競走馬が出現するチャンスはほとんどなく、レーシングポストトロフィー(G1)勝馬キャメロット(Camelot)を除いて、2011年の2歳馬のレベルはごく普通であった。
しかしいずれにしても、3シーズン連続でトップの座を守る優良馬は稀であり、フランケルは4歳にしていろんなリスクが伴う多くの新しい課題に直面する。それはもちろん悪い事ではないが、偉大なチャンピオンも最後には土が付くと歴史は証明している。


1. フランケルは機械ではない

 ニジンスキー(Nijinsky)が無敗記録を失った凱旋門賞(G1)やナシュワン(Nashwan)が唯一の敗戦を喫したニエル賞(G1)にフランケルが挑戦することはほとんどありそうにない。しかし、特にフランケルの馬主カリド・アブドゥラ殿下(Khalid Abdullah)がスポンサーであるという理由で、当然ながらヨーク競馬場のインターナショナルS(G1)が目標とされる。このレースは、40年前にブリガディアジェラード(Brigadier Gerard)が唯一の負けを喫したレースである。このようなことが二度と起こらないと誰が断言できるだろうか?

 確かにインターナショナルSは、ブリガディアジェラードのシーズン6戦目で5週間で3戦目の大レースであった。フランケルはより慎重にローテーションを組んで出走するだろうが、ブリガディアジェラードは自身よりも強い馬に負けたのではなく、軽い負担重量の馬に負けたのである。

 ブリガディアジェラードはダービー馬ロベルト(Roberto)より11ポンド(約5 kg)重い馬齢重量を何の苦にすることなく快勝するはずだったが、その日にかぎって理想的なコンディションにもかかわらず完敗してしまった。これは言い古された文句だが、馬は機械ではなく休日が必要であり、このようなことはいつでも起こり得る。

2. 競走距離の延長が適切であるかは確かではない

 5月19日のニューベリ競馬場のロッキンジS(G1)がフランケルの今シーズンの初出走であると見られており、同世代馬相手に1マイル(約1600 m)を走ることはさほど問題とはならないだろう。しかし今シーズン1年は現役を続ける予定で、古馬のライバルであり現在エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師が管理するエクセレブレーション(Excelebration)はフランケルにとってより手ごわい相手となるかもしれない。

 私たちは、サー・ヘンリー・セシル(Sir Henry Cecil)調教師とジャドモントファーム(Juddmonte Farm)のレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏が今後何を計画しているのかについては憶測しかできないが、彼らがフランケルの競走距離を2000mに伸ばすことを熱望しているとされており、プリンスオブウェールズS(G1)、エクリプスS(G1)あるいはヨーク競馬場の約2100mのインターナショナルS(G1)あたりで実現させるのではないかと想像する。

 スピードのあるフランケルにとって距離の短い1200mのジュライカップ(G1)に出走させるという昨年の英2000ギニー(G1)の後に出された提案は、それほど非常識ではなかった。しかし、セシル調教師がその後まもなくして同馬のダービー出走を回避したことを思い出してみれば、血統がどうであれ距離延長が功を奏するだろうと結論づけることはできない。


3. フランケルはチャンピオンホースに留まるために成長しなければない

 ヨーク競馬場に向かう前にフランケルは調教で成長したことを証明しなければならない。それができない理由はないが、ただ2歳時に驚くべき進化を遂げたフランケルのように早熟な馬には大きな疑問符がつくだろう。

 それに、現状を維持するためにだけではなく、昨年7月にキャンフォードクリフス(Canford Cliffs)が経験したように、たとえばフランケルがグッドウッド競馬場のサセックスS(G1)で3歳牡馬を相手にする場合は8ポンド(約3.6 kg)重い馬齢重量を背負うことになるので、そのための成長も必要となる。また、オーストラリアの傑出したスプリンターであるブラックキャビア(Black Caviar)がロイヤルアスコット開催後に英国に留まるとすれば、牝馬である同馬へのアローワンスは大きいことは言うまでもない。

 さらに、バリードイル勢がフランケルの前に立ちはだかるために全力を尽くすだろうことは絶対確実である。彼らはシーザスターズ(Sea The Stars)を倒すことには失敗したが、“フランケルを倒した馬”という見出し以上に強烈なものはあるだろうか?彼らは最善の努力を払うだろう。

4. チャンピオンズデーの馬場状態の懸念

 アスコット競馬場のチャンピオンズデーが、私たちが英国でフランケルを見る最後の機会となると想像する。すべてがうまく行けば、クイーンエリザベス2世S(G1)よりもチャンピオンS(G1)への出走が本命となるだろう。しかし、今年の10月20日も馬場が良となる見込みはあるだろうか?それが懸念となり得る。フランケルが2歳時に重馬場で優勝したからといって、馬場状態が彼の強さに影響を与えないと考える理由にはならない。

 もう1つ考えられることは、トム・クウィリー(Tom Queally)騎手へのプレッシャーである。同騎手のこれまでの唯一の失策は、フランケルが驚くほどの早仕掛けで勝った後にすっかり消耗した様子でゴールしたセントジェームズパレスS(G1)である。同騎手は現在27歳だが今年はより多くのことが要求され、このような状況での経験はシーザスターズの主戦騎手ミック・キネーン(Mick Kinane)騎手ほどではない。


5. ブリーダーズカップでの最終試験

 グリムソープ氏はないだろうと示唆しているが、もし皆が望むように英国内のレースすべてにフランケルが耐え抜いたとしたら、フランケルをブリーダーズカップへ向かわせたいという誘惑が生じるかもしれない。

 サンタアニタ競馬場ブリーダーズカップ開催競馬場の中では最も欧州馬に合った競馬場であるが、ダンシングブレーヴ(Dancing Brave)は同競馬場で敗れ、もう1頭の素晴らしいチャンピオン馬ジルザル(Zilzal)はブリーダーズカップがガルフストリームパーク競馬場で施行されたときに唯一敗戦を喫した。いつも安定しているわけではないフランケルの気性は、空輸後に異なる環境に置かれて最も脆弱な状態になる可能性がある。またどこで走ろうとも、運も極めて重要となるだろう。

 思い悩んだり非難したりしても、完璧な無敗記録がサンタアニタ競馬場で終わりを迎えるかどうかについての考えを決着させることにはならないが、だからと言ってそれが米国での出走を思いとどませる理由とはならないだろう。それはありえないことだ。

 ブリーダーズカップでの成功は真の世界チャンピオンにとって最高の証であり、私たちが今まで見た中で最も立派なサラブレッドにとって相応しい最後の舞台となるだろう。

それまで幸運を祈る。

By Graham Dench

[Racing Post 2012年3月27日「The challenges facing Frankel」]


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