米国調教師、ラシックス使用を批判する欧州競馬関係者に強く反論(アメリカ)【獣医・診療】
ブリーダーズカップ協会(Breeders’ Cup Ltd.)が2014年ブリーダーズカップでのラシックス使用を禁止する措置を後退させ、論争中の問題が再び注目を集める中、米国の一流調教師たちは8月26日、競走当日の薬物使用に関し欧州の名だたる競馬関係者の攻撃は見当違いであると非難した。(訳注:ラシックスはフロセミドの商品名でサリックスとも呼ばれる)
ドバイワールドカップ勝馬アニマルキングダム(Animal Kingdom)を管理したグラハム・モーション(Graham Motion)調教師は、欧州人たちが状況を単純化し過ぎているようだと述べ、偽善的と思われるコメントからブリーダーズカップ協会を弁護した。一方、ウェスリー・ウォード(Wesley Ward)調教師は、競走当日の薬物使用が容認されることは“素晴らしいこと”であると主張した。
ブリーダーズカップ協会は8月23日、2歳競走でのラシックス使用禁止を2014年は解除し、BC全レースにおいて競走当日のラシックス使用を容認すると発表した。今年一杯維持されるこの2歳競走での禁止は、ラシックスの全面禁止につながるものと広く考えられていた。
このニュースは競走当日の薬物使用が認められていない欧州から辛辣な批判を巻き起こしたが、モーション調教師は、米国ではラシックス禁止を実現させない方向への支持があったため以前の制度に戻るほかなかったと主張した。
同調教師は次のように語った。「ブリーダーズカップ協会は運動を起こし、より多くの人々の支持を望んでいましたが、真の支持者を得られず壁にぶち当たり、それが困難になりました」。
「彼らは正しいことをしようとしたのです。これは非常に複雑な問題で、欧州人が考えるほど単純なものではありません。米国の制度は、1つの競馬統轄機関を持つ欧州各国の制度ほど優れていません」。
「調教でラシックスを使用していることを欧州の調教師の口から聞かれることはないです。彼らが表向き何を言うかは構いませんが、どの国にも鼻出血を起こす馬はいます。女王陛下の所有馬の1頭が競走当日に抗出血剤の陽性反応を示したことがあったので、実際ラシックスは使われているのです」。
「ラシックス使用がブリーダーズカップへの出走に影響を与えるだろうとは思いません。実際のところラシックスを禁止することの方がブリーダーズカップに損害を与えると考えています」。
ノーネイネヴァー(No Nay Never)で今シーズンの欧州レースを勝ったウェスリー・ウォード調教師は、ラシックスは馬にとって役立つものなので米国以外の調教師も許可されていれば管理馬に投与して出走させるはずだと考えており、次のように語った。
「ブリーダーズカップは国際的なチャンピオンシップで、チャンピオンを見出すことが目的ですが、そのことは良いことだと思います」。
「欧州人は自身の馬が鼻出血していないことを確認するのにあらゆる注意を払っている。仮に欧州でラシックスを使用して出走させることができるのであれば、必ずそうすると思います」。
「私は欧州の調教師にはサンタアニタに来て管理馬にラシックスを投与するよう助言します。総賞金百万ドル(約1億円)のレースに出走して良い走りをしなかった場合、ラシックスを使用していれば良い走りをしただろうと分かっているので頭をかき、いつも使用したいと考えるはずです」。
今年ノーフォークSを優勝し来年セントジェームズパレスSに挑戦させる予定のノーネイネヴァーは、全力を尽くすのにラシックスを必要としておらず、またそのことでサラブレッドとしての血統の価値が損なわれることはない、とウォード調教師は語った。
「私はイージーアシュレー(Easy Ashley)という牝馬を所有していたことがあり、その父、母、祖母も所有していて鼻出血馬はいませんでしたが、イージーアシュレーは鼻出血を起こしました。しかし、厳しいクレーミング競走で25万ドル(約2,500万円)以上を獲得しました」とウォード調教師は語った。
「ノーネイネヴァーは、これまで一度もラシックスを使ったことがなく、鼻出血を起こすような馬は欧州に遠征させません。ノーネイネヴァーには鼻出血の問題が全くありません。早い段階に馬を内視鏡で調べ、ラシックスが必要かどうか見極めれば問題ありません」。
かつてニューマーケットを拠点とし、現在はカリフォルニアで調教活動を行っているサイモン・キャラハン(Simon Callaghan)調教師は、抗出血剤使用を支持して次のように語った。「年中ラシックスを使用して出走させているのに、ブリーダーズカップではラシックスを投与せずに、ラシックス無しで走ることに慣れている欧州馬と対戦するというのでは不公平と言えるでしょう。誰もが全馬にチャンスが与えられるよう公平な条件を求めています」。
5年間米国を拠点にし、今シーズン英国に戻ってきたオリー・スティーヴンス(Olly Stevens)調教師は、ラシックスを使用して出走させる利点についての欧州人の見解は誇張しすぎだと考えている。
同調教師は次のように語った。「ラシックスは大きな違いを生みません。競走能力の向上につながるかという点では、ラシックスは馬を脱水状態にさせるので、実のところは馬を消耗させてしまいます」。
「鼻出血馬には少しばかり有効ですが、鼻出血の予防にはつながりません。したがって、私の馬がブリーダーズカップに出走したとして、出血しないなら、脱水状態にさせたくないのでラシックスを使うことは無いでしょう」。
4人の著名競馬関係者がラシックス使用に反対する理由
ルカ・クマーニ(Luca Cumani)調教師
「これは大きな問題であり大きなテーマです。米国人はラシックス使用なしで馬が走ることはできないと信じているので、元通り使用できるように圧力を掛けました。このことは世界における統一ルールというお決まりの話に帰着します。おそらく私が生きている間ではないと思いますが、いつか他のスポーツのように世界中でルールが統一される必要がありますが、残念ながらこの夢は後退しました。陸上競技はこのような後退など起こらないのに、なぜ競馬でこのようなことが起こるのでしょうか?私たちが米国に遠征するとき、難問が持ち上がります。投与しなければ不利を被るからと言って、ラシックスを投与して出走させるでしょうか?それとも何も投与しないで走らせるでしょうか?理屈上は、私たちはクリーンな競馬を目指しておりラシックスを使用すべきではありませんが、皆がラシックス使用の方向に向かうと、それと同じ条件でプレーしたくなるものです」。
テディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏(アブドゥラ殿下のレーシングマネージャー)
「ブリーダーズカップ協会は、さまざまな法律のほか出走馬にラシックスを使用したがる人々によって手を縛られていると感じています。薬物についてこのような前向きの進展があったのに全く満足した様子ではありません。アブドゥラ殿下は常にブリーダーズカップの支持者であり、どの馬を出走させるか分かりませんが目標はブリーダーズカップに出走馬を出すことです」。
バリー・アーウィン(Barry Irwin)氏(馬主グループのチームヴェイラーの1人)
「これはまずリーダーシップの欠如、そして資金と勇気の不足の2つに帰着します。残念です。多くの人々は競走当日の薬物使用に反対の立場を取っており、今回の2014年におけるラシックス解禁は大きな後退であり、憤っています。私はブリーダーズカップ協会を少し気の毒に思います。調教師が非常に大きな影響力を持っていることが問題です。被雇用者が雇用主に対して、指図しているようなものです。私は多くのシンジケートを運営しており、ブリーダーズカップに馬を走らせることが仕事です。どのように走らせたいかではありません」。
ジェームズ・ワイガン(James Wigan)氏(オーナーブリーダー)
「非常にがっかりしています。ブリーダーズカップ協会は指針を示し、米国競馬をリードする団体であると思っていました。私が所有するビヴァリーDSの勝馬ダンク(Dank)に関する限り、ラシックスを投与されて出走する他馬を相手にするのであれば、競走上の優位を手離したくないので、それを使用した方がよさそうです。でもラシックスがダンクの競走能力に違いを与えるとは思っていません。鼻出血したことは無く、いつも力強くゴールするやる気のある牝馬なので、最終的にはそれが能力を高めるようには思えません。しかし、ラシックスは血統の価値に影響を及ぼすはずだと考えています。もしラシックスを容認すれば、それはその馬の弱さをかばうことであり、ずっと繰り返されることになると誰もが分かっています。このことは米国のサラブレッド市場に悪影響を及ぼしています。英国の多くの人々はそのために米国での馬の購買をやめています」。
By Peter Scargill
[Racing Post 2013年8月27日「American trainers hit out at opponents of Lasix」]