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2013年11月20日  - No.11 - 2

2歳G1におけるサドラーズウェルズ系の影響力を探る(イギリス・アイルランド)【生産】


 本紙がレーシングポストトロフィー(G1)のスポンサーを務めて25周年となるので、伝説的な種牡馬サドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)がダービーにつながるこの重要なレースに及ぼした影響の深さを熟考したい。

 2011年に死亡したこの輝かしい大種牡馬は、現役時代の管理調教師ヴィンセント・オブライエン(Vincent O’Brien)とロバート・サングスター(Robert Sangster)氏およびジョン・マグナイア(John Magnier)氏が1970年代に創立したクールモア牧場の飛躍的成功に大きく寄与した。

 サドラーズウェルズは5頭のレーシングポストトロフィー勝馬の父で、さらに5頭の祖父であり(モンジュー産駒4頭、ガリレオ産駒1頭)、また3頭のブルードメアサイアーである。また2002年にサドラーズウェルズは、産駒がこのレースの1着〜4着を独占するという偉業を成し遂げた。

 近年のレーシングポストトロフィーのリーディングトレーナーはエイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師であり、1997年のサラトガスプリングス(Saratoga Springs)を皮切りに7勝しているが、この圧倒的な成績はサドラーズウェルズのサイアーライン(父系)の繁栄に基づくもので、7勝のうち最初の1頭以外の6頭はサドラーズウェルズ系である。

 興味深いことに、もしこれまでのレーシングポストトロフィーでオブライエン厩舎の出走馬のすべての馬券を1ポンド(約160円)ずつ買っていたとすると、2.22ポンド(約352円)を失っていただろうが、サドラーズウェルズ系にしぼって1ポンドずつ賭けていれば、9.28ポンド(約1,485円)の利益が得られたことになる。

 またサドラーズウェルズ系のレーシングポストトロフィー勝馬のうち4頭はバリードイル調教場(Ballydoyle)以外で調教されており、仮に厩舎を無視してこの血統の馬券を1ポンドずつ買っていれば、24.28ポンド(約3,885円)の利益になったはずである。

 さらに母系にサドラーズウェルズを含む出走馬は、これまで8頭中3頭(いずれもオブライエン厩舎ではない)が優勝していて、もしレーシングポストトロフィーでこれらの馬にすべて1ポンドずつ賭けていたら12.58ポンド(約2,013円)の利益が得られたことを示している。

 サドラーズウェルズ系は非常に多くのレーシングポストトロフィー勝馬を送り出してきているが、それは、2歳秋のマイル戦で他馬を凌駕できる資質、早熟性および持続性が生まれつき備わっているからである。

 サドラーズウェルズ産駒の多くは成長力があり、クラシック競走を目指して調教される。また一般的にあらゆる馬場に対応できるようで、多くの2歳G1レースが施行される平地シーズン閉幕の10月にありがちな柔らかい馬場でもうまく走れる傾向にある。

 サドラーズウェルズ系の影響力は他の2歳ビッグレースにも及んでおり、下表のとおり、今世紀の英国および愛国の2歳G1レースでこの血統の産駒は非常に活躍している。
 

今世紀の英国・愛国2歳G1レースにおけるサドラーズウェルズ系の成績
レース名 勝馬 - 出走馬 勝率 損益
レーシングポストトロフィー 7 - 31 23% + 12.78
デューハーストS 6 - 19 32% + 12.59
モイグレアスタッドS 5 - 30 17% + 7.36
ナショナルS 4 - 17 24% - 1.35
フィリーズマイル 4 - 19 21% - 0.11
フェニックスS 1 - 2 50% - 0.27
チェヴァリーパークS 1 - 6 17% + 35.00
ミドルパークS 0 - 2 0 - 2 

(注)損益とは、サドラーズウェルズ系のすべての馬に1ポンドずつ賭けた場合の損益の額(ポンド)である。


 サドラーズウェルズ系は、レーシングポストトロフィーで最多の勝利数を誇っているが、デューハーストSでも強く、出走馬19頭中6頭が優勝し、同系統の馬に1ポンドずつ賭けた場合の損益は12.59ポンド(約2,014円)のプラスとなっている。また、モイグレアスタッドSやチェヴァリーパークSにおいても利益はプラスとなっており、その他の4レースでほとんどイーブンである。

 また下記のグラフが示しているように、サドラーズウェルズ系のシェアは今世紀の英国および愛国2歳G1レースにおいて勝馬全体の4分の1(25%)を占め、出走馬全体の12.5%を占めている。仮にサドラーズウェルズ系すべての馬券を1ポンドずつ買っていたとすれば、64ポンド(約1万240円)も手に入れることができただろう。

 このグラフは、影響力のある他の父系を持つ馬の成績と比較することで、この驚くべき記録を浮き彫りにしている。 
 

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(注)棒グラフ上の数字は、それぞれの父系の馬券を1ポンドずつ買ったとした場合の損益の額(ポンド)である。

 

 ダンジグ(Danzig)系の勝馬全体に占めるシェアは27%でサドラーズウェルズ系よりわずかに大きいが、この時期における英国と愛国の2歳G1レースの出走馬全体の30%はダンジグ系であったため、いわば当然の数字である。

 実際のところ、サドラーズウェルズ系以外の4つのサイアーラインは、それぞれの系統の勝馬全体に占めるシェアが出走馬全体に占めるシェアとほぼ一致している。

 対照的に、サドラーズウェルズ系のシェアは、勝馬全体に占めるシェアが出走馬全体に占めるシェアの2倍となっている。

 明日の11頭立てのレーシングポストトロフィーで、サドラーズウェルズ系は4頭である。このうち3頭はオブライエン調教師の管理馬で、ブックメーカーによれば、カラ競馬場の新馬戦を勝ち追加登録されたセンチュリー(Century)が今世紀8頭目のサドラーズウェルズ系勝馬となることが有力視されている。

 センチュリーは出走馬の中で唯一の故モンジュー(Montjeu)産駒で、このレースを目指して仕上げられた。

 しかし、センチュリーはモンジュー晩年の産駒の1頭であり、モンジューが英国および愛国の2歳G1勝馬を送り出す主な種牡馬であったことを考えると、昨年同馬が死んだことはサドラーズウェルズ系の持続に不確実性を投げかけている。

 最後のモンジュー産駒が2歳となるのは2015年なので、2016年のシーズンまでにはガリレオ(Galileo)が、サドラーズウェルズ系のレーシングポストトロフィー勝馬を出す唯一の現役種牡馬となるかもしれない。

 レーシングポストトロフィーを勝ったガリレオ産駒は、昨年の優勝馬キングスバーンズ(Kingsbarns オブライエン厩舎)だけだが、今後より多くのガリレオ産駒が同レースの勝馬として名を連ねることは確かだろう。

 明日は2頭のガリレオ産駒が出走する。ブオナロティ(Buonarroti)はキングスバーンズに続きたいが、ジョン・ムルタ(John Murtagh)騎手の調教するアルトルイスティック(Altruistic)の人気がより高いようだ。

 クールモア牧場はガリレオを繋養しているが、今後のシーズンにおいて、別のサドラーズウェルズ系種牡馬が着実にトップクラス2歳馬を出すことを望んでいる。

 サドラーズウェルズ産駒のハイシャパラル(High Chaparral)は、馬格の良い2歳馬をよく出し、中でも高額で購買されたオブライエン厩舎のヨハンシュトラウス(Johann Strauss)が良い例である。一方クールモア牧場の一連の種牡馬に最近加わった数頭の種牡馬は、良い遺伝子を有し、おそらくモンジューの立派な後継者となるだろう。

 今年初年度産駒が生まれたダービー馬のプールモワ(Pour Moi)と、来年種付けを開始するキャメロット(Camelot)はモンジューの血を引いている。一方リップヴァンウィンクル(Rip Van Winkle)は優秀な競走成績を残したガリレオ産駒の1頭で、その2歳産駒は来年デビューである。

 しかし、最近牧場入りした最も魅力的なサドラーズウェルズ系種牡馬は、クールモア牧場には繋養されていない。すなわち、ガリレオ産駒で一番活躍したフランケル(Frankel)は、カリド・アブドゥラ殿下(Khalid Abdullah)のバンステッドマナースタッド(Banstead Manor Stud)に繋養されており、その初年度産駒のデビューは2016年である。 
 

(参考)2013年レーシングポストトロフィー(G1)結果
着順 馬  名 性齢 騎  手 調 教 師 着  差 オッズ
1 Kingston Hill 牡2 Andrea Atzeni Roger Varian   4.5
2 Johann Strauss ★ 牡2 Ryan Moore A P O'Brien 4 1/2馬身 10
3 Altruistic (IRE) ★ 牡2 John Murtagh J P Murtagh 2 1/2馬身 15
4 Dolce N Karama (IRE) 牡2 Tadhg O'Shea John Patrick Shanahan クビ 201
5 Buonarroti (IRE) ★ 牡2 Paul Hanagan A P O'Brien 3/4馬身 15
6 Chief Barker (IRE) 牡2 Richard Hughes Richard Hannon 3 1/4馬身 9
7 The Grey Gatsby 牡2 Graham Lee Kevin Ryan 1/2馬身 17
8 Snow Sky 牡2 James Doyle Sir Michael Stoute 短アタマ 8.5
9 Somewhat (USA) 牡2 Joe Fanning Mark Johnston 2馬身 10
10 Pinzolo 牡2 Mickael Barzalona Charlie Appleby クビ 5
11 Century (IRE) ★ 牡2 Joseph O'Brien A P O'Brien 32馬身

★:サドラーズウェルズ系 

By James Pyman

[Racing Post 2013年10月25日「Follow bloodline of superb Sadler’s in big juvenile races」]


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