偉大なスプリンターのブラックキャビアが引退(オーストラリア)【その他】
豪州のスーパースターで25連勝を誇る無敗牝馬ブラックキャビア(Black Caviar)が引退したため、この夏ロイを訪れる競馬ファンがキャビアを見られるのはピクニック皿の上だけだろう。 ヤルアスコット開催
4月17日の発表はやや唐突な形で行われ、ブラックキャビアが持っている競馬史上卓越した連勝記録を無傷で保持するために、昨夏ダイヤモンドジュビリーS(G1)で無敗記録を危うく損ないそうになった英国への遠征は取りやめられた。
この発表は、ピーター・ムーディー(Peter Moody)調教師と共同馬主のニール・ウェレット(Neil Werrett)氏が6歳馬ブラックキャビアの将来を話し合った上で行われたもので、その結果、G1レース15勝の豪州新記録となった4月13日のランドウィック競馬場でのTJスミスS(G1)の勝利が同馬の最後の出走となった。
ムーディー調教師は次のように語った。「私はここ2〜3日間、馬主たちと長い話し合いを重ね、本日、25連勝という数字は引退するに十分であると見極めました」。
「ブラックキャビアの調子は良く、アスコットへの遠征についても十分考えましたが、私たちが要求したことはすべて成し遂げられたので、キャリアを終える良い時期です。これ以上に何を達成できるでしょうか?ブラックキャビアに悪い影響を与えることはしたくはありません。“よくやった。すべてを出し尽くした”と考えています」。
競走生活で800万豪ドル(約8億円)近くを獲得したブラックキャビアの購買に21万豪ドル(約2,100万円)を出資した友人グループのスポークスマンであるウェレット氏は、次のように語った。「引退の決断はいつも難しいものですが、出走させ続けて何かが起こったら、決断を誤ったことになるでしょう。今やブラックキャビアは引退し、私たちはブラックキャビアの仔の出走を楽しみにできます」。
ブラックキャビアはスプリンターの世界を支配し、過去3年間ワールドサラブレッドランキングでチャンピオンスプリンターとして君臨した。
海外遠征は、昨年のロイヤルアスコット開催への出走のみであったがそれは世界中のメディアの注意を惹きつけ、アスコット競馬場にとって大成功であった。
しかしこの遠征は陣営にとってかなり残念な結果に終わってしまった。ダイヤモンドジュビリーSでの優勝は間違いないものと思われていたが、鞍上のルーク・ノレン(Luke Nolen)騎手が抑えるのが早すぎ、危うくムーンライトクラウド(Moonlight Cloud)がまさかの優勝に届く頭差まで追撃するのを許してしまった。
ブラックキャビアはその後、肉離れを起こし靭帯を痛めたと報道されたが、休養明けから3勝を挙げ、再びロイヤルアスコット開催に挑戦する期待が高まっていた。
アスコット競馬場のPR担当理事ニック・スミス(Nick Smith)氏は、次のように語った。「ブラックキャビアがロイヤルアスコット開催に出走したことは、これまでで最も素晴らしいことの1つであり、フランケル(Frankel)とブラックキャビアが出走したことは、昨年のロイヤルアスコット開催を間違いなく史上最高にしました。メディアからの注目を浴び、この開催をこれまでなかったレベルに押し上げました」。
ブラックキャビアがどの馬と交配するかについては明らかにされていないが、フランケルとの交配は今年ではなさそうだ。
By Jon Lees
ブラックキャビアのG1勝利 | |||
日付 | レース名 | 競走距離 | 発走前オッズ |
2010年11月6日 | パティナックファームクラシック | 1200m | 9-10 (1.9倍) |
2011年2月19日 | ライトニングS | 1000m | 2-7(1.29倍) |
2011年3月12日 | ニューマーケットH | 1200m | 2-11(1.18倍) |
2011年3月25日 | ウィリアムレイドS | 1200m | 1-11(1.09倍) |
2011年4月9日 | TJスミスS | 1200m | 1-7(1.14倍) |
2011年5月14日 | BTCカップ | 1200m | 3-20(1.15倍) |
2011年11月5日 | パティナックファームクラシック | 1200m | 1-25(1.04倍) |
2012年2月11日 | CFオーアS | 1400m | 1-20(1.05倍) |
2012年2月18日 | ライトニングS | 1000m | 1-10 (1.1倍) |
2012年4月28日 | ロバートサングスターS | 1200m | 1-20(1.05倍) |
2012年5月12日 | グッドウッドS | 1200m | 1-20(1.05倍) |
2012年6月23日 | ダイヤモンドジュビリーS | 1200m | 1-6(1.17倍) |
2013年2月16日 | ライトニングS | 1000m | 1-10 (1.1倍) |
2013年3月22日 | ウィリアムレイドS | 1200m | 1-33(1.03倍) |
2013年4月13日 | TJスミスS | 1200m | 1-7(1.14倍) |
ブラックキャビアは2つの点で歴史に名を刻む
ブラックキャビアには歴史に名を刻む名馬となる2つの理由がある。まず史上最高の短距離牝馬であり、克服した距離に関係なく最高の豪州産牝馬である。
どちらの主張も決定的に証明することはできないが、レーティングは嘘をつかず、同馬に付けられたレーシング・ポスト・レーティングス(Racing Post Ratings: RPR)の133は、RPR発足以来25年間において世界一の牝馬であることを示している。
RPRの歴史において、フランス、英国および米国でトップレーティングが付けられた調教牝馬は、それぞれゴルディコヴァ(Goldikova 131)、ボスラシャム(Bosra Sham 130)、レイチェルアレクサンドラ(Rachel Alexandra 129)であり、これらの牝馬はいずれも素晴らしいが、ブラックキャビアには及ばない。
トニー・モリス(Tony Morris)氏と私がRPRと同じような基準を使用していた『チャンピオンの世紀(A Century of Champions)』という本において、ムムタズマハル(Mumtaz Mahal)、ハビブティ(Habibti)が132でトップレーティングの牝馬であった。アガ・カーン3世(Aga Khan ?)の伝説的な芦毛の牝馬ムムタズマハルは、1924年のナンソープS(G1)で最後の直線をスピードで押し切り6馬身差で制した。そしてムムタズマハルの子孫にあたるハビブティは1983年のヘイドックスプリントカップ(G1)を7馬身差で制した。
タウィー(Ta Wee)は2年間(1969年、1970年)米国最優秀短距離馬となった唯一の牝馬だったが、同馬も1970年代フランスの名牝馬リアンガ(Lianga)も、レーティングでは史上最高の短距離牝馬ブラックキャビアには及ばない。
コックスプレート(G1)2連勝のサンライン(Sunline)および唯一メルボルンカップ3連覇を果たしたマカイビーディーヴァ(Makybe Diva)は豪州の最強牝馬に数えられるが、両馬ともRPRは127にすぎない。ブラックキャビアのRPRはこれらの2頭を6ポンド上回っており、このことは、同馬が牡馬顔負けの歴代牝馬の中で最も偉大であることを示している。
ブラックキャビアの無敗記録25勝は、競馬史におけるすべての無敗馬の中で伝説となっているキンチェム(Kincsem)に次ぐ2位となる。キンチェムは、1876年〜1879年に欧州において1878年グッドウッドカップなど54戦で全勝したハンガリーの牝馬である。
ブラックキャビアの25連勝は豪州調教馬による連勝記録を塗りかえた。世界記録は、1953年〜1955年にプエルトリコでカマレロ(Camarero)により達成された56連勝である。
ブラックキャビアのG1レース15勝は、1979年〜1982年にキングストンタウン(Kingston Town)が打ち立てた14勝を上回った。世界記録は、ジョンヘンリー(John Henry)と障害馬コートスター(Kauto Star)による16勝である。
By John Randall
[Racing Post 2013年4月18日「‘Job done’ as superstar Black Caviar is retired」、「A sprint into history on two counts」]