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2013年06月20日  - No.6 - 3

来る英ダービーの結果でスピード遺伝子テストの有効性が明らかに(イギリス)【生産】


 ドーンアプローチ(Dawn Approach)は持ちこたえるのだろうか?5月中になされた最も熱い議論の1つは、6月1日の英ダービー(G1)の結果で明らかになるはずである。ドーンアプローチが2400mで持つかどうかについての意見は分かれていて、問題は、従順な性格と父ニューアプローチ(New Approach)から受け継いだ血統が、牝系のよりスピードに偏った特性を乗り越えるのに十分かどうかである。

 公正な立場で言うならば、この質問が投げかけられるべきダービー出走馬はドーンアプローチだけではない。マーズ(Mars)はガリレオ(Galileo)産駒だが母が1200mの準重賞勝馬であり、オコヴァンゴ(Ocovango)はモンズーン(Monsun)産駒だが母はゴーンウエスト(Gone West)の牝馬で、その母はフィリーズマイル(G1)勝馬である。

 牝系の研究や馬体の評価を行ったとしても、馬はいつも私たちを翻弄する。ドーンアプローチが血統面での不安があるにも拘わらず、6月1日にジム・ボルジャー(Jim Bolger)調教師のためにこの予想を完全に覆して勝利することも想像しうる。

 しかしこれに加えての筋書きとしては、ドーンアプローチの生産者でもあるジム・ボルジャー氏が共同創立者となり社長を務める遺伝子会社エクイノム社(Equinome)の研究結果があるが、それによれば、ドーンアプローチが2400mで勝つ見込みはほんのわずかであるとされている。エクイノム社は、2009年の英2000ギニー勝馬シーザスターズ(Sea The Stars)がダービーに優勝するための持久力を持つのかどうか疑問符を付けられた6ヵ月後の2010年1月に、スピード遺伝子テストを開発した。

 遺伝子テストは2009年に遡って賭事客の勝馬予想に役立つことはなかったが、その後のテクノロジーの急速な発展により、今年の英ダービーは、持久力を決定づける手段として遺伝子テストが参考とされる最初のレースとなる。もしスピード遺伝子テストが今回ドーンアプローチのケースで正しいと証明されるのであれば、私たちはこの馬の馬券を今破棄しても差支えないだろう。

 エクイノム社のスピード遺伝子テストは、筋肉量を増加させるもとになっている遺伝子を特定することで、馬の距離適性を予測するものである。馬はC:C、C:T、T:Tの3つの遺伝子タイプの1つに当てはまる。そしてC:Cタイプは1000m〜1600mを適距離とするスプリンターの傾向があり、C:Tタイプは1400m〜2000mが適距離であり、T:Tタイプは最も持久力を発揮する。ドーンアプローチはC:Cタイプと特定されており、エプソム競馬場で施行される英ダービーには明らかに不向きである。

 ボルジャー氏は次のように語った。「ドーンアプローチはC:Cタイプですが、その父ニューアプローチはC:Tタイプでした。また私はドーンアプローチの才能豊かな母馬を管理していましたが、その父はスプリンターなので、英ダービーの競走距離はドーンアプローチには向いているとは思えません」。

 同じく共同創立者のエメリン・ヒル(Emmeline Hill)氏が着手した研究は、5年間に179頭の重賞・準重賞勝馬から採られた検体を基にしている。エクイノム社のホームページによれば、C:Cタイプの98%が1000m〜1600mの競走距離で勝利し、T:Tタイプの80%以上が2000m以上の競走距離で勝利している。ボルジャー氏によれば、英ダービーを制するのに理想的な馬はC:Tタイプであり、それはまさにニューアプローチの属するタイプである。

 調教技術を離れ科学を拠り所とすることは、ボルジャー氏に大いに役立っているようである。ボルジャー氏は、ガリレオを最高の種牡馬とし、またテオフィロ(Teofilo)、ニューアプローチおよびソルジャーオブフォーチュン(Soldier Of Fortune)のようなスター馬を生産、調教するのに重要な役割を果たした。その後テオフィロやニューアプローチが種牡馬生活を送るにあたっても早くからサポートした。昨年エクイノム社がどのように役に立ったか聞かれ、ボルジャー氏は次のように語った。「エクイノム社は私にとって大きな前進でした。10年前にエクイノム社が誕生していたのであれば、私は繁殖牝馬をガリレオのもとに送り高い種付料を支払うことはなかったでしょう。なぜならば、エクイノム社のスピード遺伝子テストによれば、それらの繁殖牝馬はガリレオの遺伝子には適切ではなかったからです。それは大きな損害でした。適切な種付けを行えば、より速く走れる産駒となったものもあるかもしれません。未出走の繁殖牝馬がいたとしてそのレースぶりを知らない場合、持久力の強すぎる種牡馬と交配させてしまう可能性がありますが、そうすると産駒はマイルから中距離であまり良い成績を残すことができないでしょう」。

 6月1日にドーンアプローチは、書類 上での自身の血統を超えて挑戦しなければならないだろう。そのとき、大きな葛藤が存在する。負ければ同馬のイメージを傷つけるだろうが、もし圧倒的勝利を収めたならば、それはエクイノム社のイメージを傷つけることになるだろう。どちらにしても、遺伝子テストへの信頼度に関しては、まだ始まったばかりと考えるのが安全である。

(訳注:6月1日の英ダービーで、ドーンアプローチは最下位の12着であった。なお、オコヴァンゴは5着、マーズは6着で、優勝はアイルランドのA.オブライエン調教師のルーラーオブザワールド。その後、ドーンアプローチは6月18日のセントジェームズパレスS(G1 1600m)に優勝した。)

By Nancy Sexton

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