2013年英ダービーの結果と種牡馬ガリレオの影響力(アイルランド)【生産】
2013年英ダービーは、100年前のダービーほど大きな話題を呼ぶものとはならなかったし、ダービー史上最も納得のいくレースでもなかった。(訳注:1913年英ダービーでは婦人参政権運動の活動家エミリー・デービソン(Emily Davison)氏がイギリス王ジョージ5世の所有馬アンマー(Anmer)の前に飛び込むという事件があった。)
優勝したルーラーオブザワールド(Ruler Of The World)は立派なダービー馬と見なされなければならないのだが、私たちの期待したような形で展開せずに前半重苦しいスローペースとなった結果、答えを出すよりも多くの疑問が提起されるレースとなった。今回の第234回英ダービーについては、多くの"たられば"があった。
それでも英ダービーはいくつかの点において頂点のレースであり、やはりすべての産駒にとって最高の夢である一方、それ自体によって馬の優秀さが決められることは稀である。ダービーはむしろ、私たちがその後の展開を見て判断を下せるようにする目印を書き込む。私たちは、6月の第1土曜日にもたらされるダービーの結果だけを基に、最高の馬を決めるわけではない。
ルーラーオブザワールドは、英国とアイルランドの3歳中距離馬の一時的なリーダーに過ぎない。地位を確実にし続けるかもしれないし、挫折するかもしれないが、それまでの間、同馬が欧州においてガリレオの最高産駒であるかどうか私たちは確信できないし、エイダン・オブライエン(Aidan O'Brien)厩舎の最高の馬であることさえ確信できない。アンテロ(Intello 父ガリレオ)はシャンティイ競馬場での白熱した仏ダービーの立派な勝馬であるが、この他にもバリードイル勢(Ballydoyle)にはすでに実績のある馬マジシャン(Magician 父ガリレオ)や、これから本領を発揮するであろうマーズ(Mars父ガリレオ)、復帰が遅れているG1勝馬キングスバーンズ(Kingsbarns父ガリレオ)などがいる。
まだ定かではないが他のガリレオ産駒が台頭したとしても全く驚くに値しないくらい、ガリレオの3歳産駒の層の厚さには定評がある。ルーラーオブザワールドは2ヵ月前にはまだ無名で競走生活を始めていなかった。
ガリレオの登場は全くの事件であり、彼自身が世界支配者(a ruler of the world)であり、地球上で最も優れた種牡馬であることは広く認められている。しかしこのことは、2002年にガリレオがクールモアで種牡馬入りするときには予測されておらず、サドラーズウェルズ(Sadler's Wells)のサイアーオブサイアーズ(種牡馬の父)としての記録は決して傑出したものではなかった。この当時種牡馬として成功していた馬は、ケンタッキーの種牡馬のランキングにおいてスター種牡馬として台頭し、驚きよりも衝撃として受け止められたエルプラド(El Prado)やそれ以外では、インザウィングス(In The Wings)とバラシア(Barathea)くらいであった。
私たち評論家は、サドラーズウェルズを考えられる最高の賛辞で数年間にわたり称え、彼に匹敵する種牡馬に出会うことは無いだろうと表明していたが、今や、ガリレオがあらゆる点で父サドラーズウェルズと同じくらい支配的で十分な種牡馬としての資質が備わっており、破られることはないと見なされていたサドラーズウェルズのすべての記録と偉業を超えるかもしれないと認めなければならない。
ガリレオはもちろん素晴らしい競走馬であった。多数のトップクラスのサドラーズウェルズ産駒の中では、昨年亡くなって非常に惜しまれたモンジュー(Montjeu)に及ばなかっただけだろう。ガリレオは英ダービーと愛ダービーで同世代の馬に圧倒的な差をつけ無敗を守り、古馬相手のキングジョージ(G1)の優勝でその地位が確立されたが、無敵であったわけではなく、2敗を喫して競走生活を終えた。
最初の敗戦は、ゴドルフィン所有のファンタスティックライト(Fantastic Light)に頭差で敗れたレパーズタウン競馬場での愛チャンピオンS(G1)である。その後ガリレオは賢明ではないと思われたBCクラシック(G1)への挑戦で、"サドラーズウェルズ産駒はダートでは好走しない"というずっと認識されてきた事実を単に証明しただけで引退した。
ガリレオの供用1年目の種付料は5万愛ポンド(約815万円)であったが、それまでサドラーズウェルズ産駒が大きな影響を残したことがないという事実が生産者に躊躇させることにはならず、初年度の種付台帳には157頭の繁殖牝馬がリストアップされた。その後、最初のガリレオ1歳産駒がセリに上場されると、61頭が平均価格13万7,854ギニー(約2,171万円)で購買され、可能性への信頼が証明された。
しかし、初年度の2歳出走産駒にはあまり大きな期待が掛からなかった。ガリレオ自身2歳時の戦績は、10月末にレパーズタウン競馬場の1600mの未勝利競走で14馬身差で優勝した1戦のみだったので、同馬の産駒は2歳戦向きではないだろうと評価されていた。このことは実際に証明され、同年に種牡馬入りしたモーツァルト(Mozart)、バートリーニ(Bertolini)、メディシアン(Medicean)、オブザーヴァトリー(Observatory)、マルオブキンタイア(Mull Of Kintyre)およびファンタスティックライトは全て、2005年2歳産駒ランキングでガリレオを上回っていた。ガリレオのどの産駒もパターン競走レベルを制することは無かった。
しかしこれらの産駒はその後の3歳シーズンで立派な実績を残す。ナイタイム(Nightime)が愛1000ギニー(G1)で初のクラシック優勝馬となり、2006年シーズン終了までに、ガリレオは確実にトップ種牡馬への道を歩んでいた。そして英国・アイルランド種牡馬ランキングで4位となった。セントレジャー(G1)の1〜3着馬シックスティーズアイコン(Sixties Icon)、ザラストドロップ(The Last Drop)およびレッドロックス(Red Rocks)を送り出し、その後レッドロックスはブリーダーズカップ(BCターフ)で勝利した。さらに、現在ではテオフィロ(Teofilo)がカルティエ賞の最優秀2歳牡馬に選出され、優良2歳馬を出すことができるという裏付けも備わった。
ガリレオはどの年齢・競走距離でもスター馬を出せるとすぐに評価され、種付料が15ポンド(約2,250万円)に高騰したにもかかわらず、有力生産者の誰もが希望する馬となった。予測通り成功が成功を呼び、ニューアプローチ(New Approach)、リップヴァンウィンクル(Rip Van Winkle)、ケープブランコ(Cape Blanco)がガリレオの偉大さを証明した。
フランケル(Frankel)の並外れた偉業がガリレオの種付料を30万ポンド(約4,500万円)まで上昇させる前でさえも、名門牧場の牝馬へ年間200頭もの種付けが期待でき、ガリレオは継続的に優位性を確保してきた。ガリレオは今や5回目のリーディングサイアーが確実で、産駒の欧州パターン競走勝利数は146勝に到達している。
デインヒル(Danehill)牝馬との産駒が目立って活躍し、フランケル、テオフィロ、チマデトリオンフ(Cima De Triomphe)、稀な短距離馬キュイスゲール(Cuis Ghaire)、ゴールデンライラック(Golden Lilac)、ロデリックオコナー(Roderic O'Connor)、メイビー(Maybe)、ノーブルミッション(Noble Mission)、ロマンティカ(Romantica)およびアンテロはすべてこの交配の結果であるが、ガリレオは幅広い血統背景の繁殖牝馬とも成功を収めている。ルーラーオブザワールドは、キングマンボ(Kingmambo)牝馬との産駒で初のクラシック勝馬である。ルーラーオブザワールドの母ラブミートゥルー(Love Me True)は、1999年のサラトガセールでクールモアが、キングマンボ1歳産駒中で最高落札額となる135万ドル(約1億3,500万円)で落札した馬である。
ラブミートゥルーはバリードイル勢のもとで全15戦の競走生活を送ったが、落札額に見合う結果は残せなかった。3歳時にネース競馬場での1600mの未勝利戦のみが勝鞍で、より高いレベルのレースにおいては2歳時のキラヴァランS(G3)3着以上の成績を収めなかった。唯一出走したG1競走の愛1000ギニーでは、オッズ100-1(101倍)で最下位の16着に終わった。
ラブミートゥルーは出走産駒5頭全てが勝馬となったことから、自身の購買額をほとんど3倍にして返したので、今や違った見方をすることができる。ルーラーオブザワールドの貢献は今までのところ、2008年の4歳時にキングジョージでの勝利を含むG1競走5勝を達成したデインヒル産駒デュークオブマーマレード(Duke Of Marmalade)の半分以下にとどまっている。
ラブミートゥルーに100万ドル(1億円)以上もの値がついたのか理解するのは簡単である。レイズアネイティヴ(Raise A Native)の3×3で、同馬の産駒ミスタープロスペクター(Mr Prospector)とアリダー(Alydar)を経由しており、ラブミートゥルーは、アメリカの競走馬生産において最高レベルの血統を持っている。また、エーピーインディ(A.P. Indy)、レモンドロップキッド(Lemon Drop Kid)、サマースコール(Summer Squall)、ウルフハウンド(Wolfhound)など多くの一流競走馬を出した牝系の出身である。
ガリレオとラブミートゥルーの組み合わせのルーラーオブザワールドの5代血統表には重要な馬名が複数回表れており、その結果、5代血統表に本来であれば62あるはずの異なる祖先が53のみとなっている。すなわち、レイズアネイティヴとその父ネイティヴダンサー(Native Dancer)は3回登場し、ノーザンダンサー(Northern Dancer)、ミスタープロスペクター、スペシャル(Special)、ゴールドディガー(Gold Digger)、バックパッサー(Buckpasser)およびレイズユー(Raise You)はそれぞれ2回登場する。
私たちはこれらの複数のクロスがルーラーオブザワールドの競走馬としての実力に作用しているのか知る由もないが、サイアーオブサイアーズ(種牡馬の父)およびブルードメアサイアーとしてすでに群を抜いて成功している父ガリレオほどに重要な血統上の影響を与えている祖先がいないことは確かだろう。サドラーズウェルズはこれらの役割で目立つ特徴を現わすのにかなり長い年月を要した。
ルーラーオブザワールド栗毛牡2010年3月17日生 | ||||
Galileo 鹿1998 |
Sadler's Wells(USA) 鹿1981 |
Northern Dancer(CAN) | Nearctic(CAN) | Nearco(ITY) |
Lady Angela(GB) | ||||
Natalma(USA) | Native Dancer(USA) | |||
Almahmoud(USA) | ||||
Fairy Bridge(USA) | Bold Reason(USA) | Hail to Reason(USA) | ||
Lalun(USA) | ||||
Special(USA) | Forli(ARG) | |||
Thong(USA) | ||||
Urban Sea(USA) 栗1989 |
Miswaki(USA) | Mr. Prospector(USA) | Raise A Native(USA) | |
Gold Digger(USA) | ||||
Hopespringseternal(USA) | Buckpasser(USA) | |||
Rose Bower(USA) | ||||
Allegretta(GB) | Lombard(GER) | Agio(GER) | ||
Promised Lady(GB) | ||||
Anatevka(GER) | Espresso(GB) | |||
Almyra(GER) | ||||
Love Me True 栗1998 |
Kingmambo(USA) 鹿1990 |
Mr. Prospector(USA) | Raise A Native(USA) | Native Dancer(USA) |
Raise You(USA) | ||||
Gold Digger(USA) | Nashua(USA) | |||
Sequence(USA) | ||||
Miesque(USA) | Nureyev(USA) | Northern Dancer(CAN) | ||
Special(USA) | ||||
Pasadoble(USA) | Prove Out(USA) | |||
Santa Quilla(FR) | ||||
Lassie's Lady(USA) 鹿1981 |
Alydar(USA) | Raise a Native(USA) | Native Dancer(USA) | |
Raise You(USA) | ||||
Sweet Tooth(USA) | On-and-On(USA) | |||
Plum Cake(USA) | ||||
Lassie Dear(USA) | Buckpasser(USA) | Tom Fool(USA) | ||
Busanda(USA) | ||||
Gay Missile(USA) | Sir Gaylord(USA) | |||
Missy Baba(USA) |
> > 今年のダービー出走馬の中で唯一ステイヤー資質がありスタミナを見せつけた。
> > まだキャリア3戦目で、今後の伸びしろが見込める。
> > 実績ある3歳産駒を出している並外れた種牡馬ガリレオにとって新たな名声である。
By Tony Morris
(1ポンド=約150円、1ドル=約100円)
[Racing Post 2013年6月6日「Derby winner may not even be the best three-year-old son of Galileo in his stable」]