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海外競馬情報
2015年05月20日  - No.5 - 1

ジョッキークラブ、重賞出走馬の診療記録公開システムを強化(アメリカ)【開催・運営】


 米国ジョッキークラブは、競馬の透明性を高めるため、馬主あるいはその代理人が、重賞出走馬の診療記録をアップロードできるシステムの強化および自動化を図った。

 ジョッキークラブのマット・ユリアノ(Matt Iuliano)専務理事は、「このシステム強化により、診療記録のアップロードが簡素化されるため、モバイル端末やコンピュータを通じた操作が、迅速かつ便利になります」と述べた。

 このシステムは、ホースレーシングリフォーム(Horse Racing Reform: HRR)のウェブサイト(horseracingreform.com)で、4月24日に施行される重賞競走からアクセスが可能となる。

 馬主が、このサイトで所有馬の診療記録を閲覧可能にすることを誓約すれば、その名前は、“所有馬の診療記録を公開した馬主一覧”に、直ちに加えられる。そして、関係する厩舎名やパートナー名などを選択するよう指示される。

 これら関係先の一つに関わる馬が重賞競走に出走する際は、その都度、診療記録をアップロードするように馬主に通知するEメールが自動的に作成・送付される。馬主は、この注意喚起メールを代理人が受信するように指定できる。

 診療記録は、重賞競走の発走予定時刻までに、PDFあるいは判読可能なJPEGの写真で、出走通知にアップロードできる(JPEGの写真は、スマートフォンで撮ったものも添付可能である)。

 診療記録の透明性を向上させるイニシアティブの発端となったのは、2013年8月に、ジョッキークラブのサラブレッド安全委員会(Thoroughbred Safety Committee)が発表した“すべての診療記録の電子蓄積の推進”を柱とした提言である。

By Blood-Horse Staff


診療記録公開システムは発展するか

 「それを造れば、彼らは来る」という人気のある幻想的な野球映画『フィールド・オブ・ドリームス(Field of Dreams)』に通ずるこの方針は、競馬界において1年以上前に採用された。重賞競走への出走登録馬の診療記録公表を誓約することが、馬主たちに要求されたのだ。

 このコンセプトは、28の競馬統轄州が獣医師に対し、全レースの出走登録馬の診療記録の提出を要求する既存州法を発展させたものある。しかし、ケンタッキー州などのいくつかの州では、これらの記録は部外秘扱いとされている。

 2014年、米国では重賞競走455レースが施行され、3,699頭が出走した。年末までに、馬主の任意により、その診療記録がウェブサイトで公開されたのは13件であった。

 ドニゴールレーシング社(Donegal Racing)のマネージャーであるジェリー・クロフォード(Jerry Crawford)氏は誓約書に署名したが、診療記録は未公開である。同氏は、次のように語った。「崇高なる目標ですが、それに付随する明確な手続きがないように思います。いくつかの障害もあります。例えば、馬主は診療記録を入手できないため、それを公開できません。これは誰の責任になるのでしょうか?調教師、それとも獣医師でしょうか?さらに、人々が診療記録と見なすものと、馬主自身が診療記録と見なすものには、相違があるかもしれません」。

 昨年の反応が乏しいものであったことから、ジョッキークラブは振り出しに戻った。マット・ユリアノ専務理事によれば、ジョッキークラブは馬主に連絡を取って意見を徴し、従来は必要であった多くの手作業を除外して手順を改良した。

 今や、スマートフォンで撮影した診療記録の写真を公開できる。調教師が馬主の代理人として診療記録を公開することも可能である。また、レース前に記録公開ができなかった場合、診療記録を“要求があれば、公開可能”とするオプションが加えられた。

 「重賞競走の登録馬をモニターし、注意喚起メールにより、診療記録公開システムへの参加を促す仕組みを作りました。このEメールには、診療記録を適切に公開させるリンク先が記されています。さらに、登録スタッフが、全プロセスにおいて馬主や調教師への案内を実施します」。

 改善されたウェブサイトは、ケンタッキーオークス(G1)およびダービー(G1)に所有馬を出走させる馬主に、診療記録を公開させるためのアピールを含め、4月後半に立ち上げられた。

 5月3日、オークス出走馬であるインクルードベティ(Include Betty)の診療記録が公開された。同馬は、エアドリースタッド(Airdrie Stud)のブレレトン・C・ジョーンズ(Brereton C. Jones)氏とティム・ソーントン(Tim Thornton)氏の共同所有馬である。同牧場のサービスマネージャーであるブレット・ジョーンズ(Bret Jones)氏(ブレレトン・ジョーンズ氏の息子)によれば、オークス優勝馬のラブリーマリア(Lovely Maria)の診療記録は、連絡ミスによって公開されなかった。その週末は、チャーチルダウンズ競馬場のみで134頭が重賞競走に登録し、23人の馬主が診療記録の公開を誓約していた。

 ブレット・ジョーンズ氏は、次のように語った。「いずれは、このシステムが適切な行動方針になることを確信しています。発足時はやや複雑ですが、確立されて習慣となれば、診療記録を公開しない理由がなくなるでしょう。隠し事を可能な限りなくす取組みは、競馬産業にとって良いことです」。

 クロフォード氏は、このシステムには価値があると述べたが、より強い牽引力をもたせるためには、さらに確実な取組みが必要であると考えている。また、全重賞競走に対象を拡大することより、ブリーダーズカップにおける“試行”を提案している。出走登録手順に診療記録の提出を含めるとともに、提供情報の正確さを保証するため、調教師と獣医師は宣誓供述書への署名が要求されるかもしれない。

 ブリーダーズカップ協会の副理事長を務めた経験をもつクロフォード氏は、「ブリーダーズカップは、このシステムを定着させるために利用できるイベントです。ブリーダーズカップは、すでに競技外検査(OCT:out-of-competition testing)を開始しており、この検査は貴重な一歩でした。確実な公正確保の達成を目指しているイベントですので、診療記録の公開システムを採用することになるでしょう」と語った。

 今や、最新式の通知方法と診療記録の取得手順は整っている。したがって、クロフォード氏のブリーダーズカップを利用する提案は、良識のあるものである。参加者に診療記録の公開を義務付けることにより、すべての情報が収集できるようになれば、任意的な公開によって孤立感をもつ馬主はいなくなるだろう。

 良いアイデアには、肥沃な土壌が必要である。診療記録の公開システムを、ブリーダーズカップという肥沃なイベントによって樹立できれば、この素晴らしいアイデアは成長するであろう。

By Eric Mitchell

(関連記事)海外競馬ニュース 2014年No.16「ジョッキークラブ会長、三冠出走馬の診療記録公表を要求(アメリカ)

[bloodhorse.com 2015年4月21日「Jockey Club Enhances Vet Record Reporting」]
5月12日「What's Going On Here―Nurturing Transparency」]
 


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