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海外競馬情報
2015年08月20日  - No.8 - 4

成馬の大きさを決定づけるのは栄養でなく遺伝子(イギリス)【生産】


 著名な栄養学・獣医学の専門家たちが、タタソールズ社(Tattersalls)で開催されたサラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders’ Association: TBA)の年次セミナーに集まった。今年のテーマは、『栄養と生産』であった。

 「環境や栄養などの諸要素が影響を及ぼすのは、成馬になったときの大きさではなく、成長率である」。これは、ケンタッキー州馬研究所(Kentucky Equine Research)のジョー・ペイガン博士(Dr. Joe Pagan)による重要なメッセージである。

 ペイガン博士は、次のように述べた。「母なる自然を弄んではいけません。馬を遺伝的な傾向以上に、大きく成長させることはできないのです」。

 「しかし、サラブレッドは、2歳までに闘志ある競走馬に育つことを期待されます。2歳馬は、成馬の体重の約85%、体高の95%に達しています」。

 米国、英国、インド、豪州において、数千頭の当歳馬と1歳馬の体重と体高が測定された。その結果、当歳馬は生後6ヵ月で体重が成馬の50%、生後1年で75%まで増加することが判明した。

 また、このデータは、通常、馬は生まれた月に関係なく、1歳の春(4月か5月)に急速に成長することを示している。しかし、1月または2月生まれの馬は、遅生まれた馬に比較して生後7日目から30日目までの成長率が低かった。

 ペイガン博士は、「当歳馬は、遅く生まれても成長が追いつきますが、このような代償性発育パターンは好ましくありません。急速に発育しすぎると、発育障害になることがあるからです。発育障害が最小限、かつ一定の年齢時に馬体が望ましい大きさになる成長が理想的です。問題は、当歳馬を無理に大きい1歳馬に成長させることに見返りがあるかということです」と述べた。

 ペイガン博士によると、答えはイエスである。同博士は、キーンランド協会主催のセリ上場前に体重・体高を測定された数千頭の1歳馬のうち、中間価格以上で購買された馬は平均的にかなりの重量があった。一方、主取りとなった馬はかなり軽量であったことを示すデータを提出した。

 同博士は、「このことは、よく発育した1歳馬をセリに上場するインセンティブがあることを示しています」と述べた。


疝痛の発症

 腸内細菌の先駆的研究により、腸内細菌叢の急変が、分娩後の繁殖牝馬における疝痛発症の前兆になり得ることが示された。

 ロスデールス獣医診療所(Rossdales Veterinary Surgeons)のセリア・マー博士(Dr. Celia Marr)は、その研究結果から、出産後間もない繁殖牝馬の疝痛の原因は、一般に示唆されている分娩後の大きな腹囲より、腸内細菌叢の急変である可能性が高いと述べた。

 同博士は、次のように述べた。「分娩後の大きな腹囲より出産に伴う他の変化の方が、疝痛の原因となる可能性が高いと考えられます」。

 「微生物学の発展により、我々の周囲に生息する細菌に関する知識が格段に広がりました」。

 「競馬賭事賦課公社(Levy Board:賦課公社)が一部助成しているリバプール大学は、馬の微生物叢の調査結果は、疝痛発症前に繁殖牝馬の腸内細菌数に変化が生じることを明らかにしています。このことはおそらく、疝痛の原因として、分娩後の大きな腹囲よりはるかに理にかなっています」。

 疝痛の前兆となる変化は、プレゼン全体における共通テーマであった。飼料と管理方法の急激な変化は、疝痛を頻繁に引き起こすと認識されている。一方、一定の水供給や放牧回数の増加が、疝痛発症のリスクを減少させることが認められている。

 また、マー博士は、普通円虫(Strongylus vulgaris)に関して強い警告を発した。通常、この寄生虫は大円虫(large redworm)として知られているが、ベンズイミダゾール系殺虫剤の導入後、絶滅したと考えられていた。しかし、デンマークで実施された研究においては、この寄生虫が再発生する可能性を示唆している。


放牧地のローテーションが鍵である

 マー博士およびその次の演者であるロジャー・アルマン(Roger Allman)氏とポリー・ボナー(Polly Bonnor)氏は、寄生虫の駆除が可能であり、良好な牧草地を維持するためには、放牧地のローテーションが重要であると述べた。

 ケンタッキー州にあるファームクリニック社(Farm Clinic)の副社長であるアルマン氏は、次のように語った。「馬の後に牛を放牧し、その後、牧草の先端を切り取り、牧草地を休ませるのが理想的です」。

 「現在、牧場の利用計画と放牧密度をうまく管理することは、困難になってきています。しかし、化学駆虫剤では効果がないので、この2つは考慮しなければなりません」。

 サラセンホースフィーズ社(Saracen Horse Feeds)の取締役であるボナー氏が、母馬への過剰給餌を避けることが重要であると強調したことも、多くの有益なトピックスの1つであった。

 ボナー氏は、「妊娠7ヵ月〜8ヵ月目頃までのエネルギー必要量は、非妊娠時とほぼ同じです。妊娠第三期では毎日のエネルギー必要量が約30%増加し、母馬が必要とする蛋白質・カルシウム・リンも大幅に増えます」と述べた。

 授乳期間中は、増加した摂取量を持続する必要がある。

 ボナー氏は、「生後1週間の当歳馬が体重を1 kg増加させるために、9 kgの母乳が必要です。1 kg増加に必要な母乳量は、生後1ヵ月目で13 kg、2ヵ月目で15 kgに増加します。したがって、この段階では母馬への給餌量が不足しないようにすることが重要です」と付言した。


遺伝子検査に関する議論

 ニューマーケット馬病院(Newmarket Equine Hospital)のコンサルタントであるジェームズ・クロウハースト(James Crowhurst)氏は、BHA(英国競馬統轄機構)の新しいアンチドーピング方針の概要を説明した。その後、成長分野である遺伝子検査を利用した能力検査(performance profile testing)について紹介した。

 同氏は、次のように語った。「馬の遺伝子検査によって様々な情報を提供する企業サービスを、大勢の人々が利用しています。遺伝子検査は、とりわけ牛などの他の動物に広く利用されており、検査費用は確実に安くなっています。一例をあげると、エクイノム社(Equinome)は、遺伝子検査の中でも、特にミオスタチン遺伝子を用いたスピードや持久力に関する傾向分析を提供しています」。

 「TBA(サラブレッド生産者協会)はエクイノム社と会合をもち、同社が実施する遺伝子検査とその根拠について協議するつもりです。同社が提供するサービスについて、できるかぎり詳細を知ることが重要です。遺伝子検査は、競馬産業に本格的に導入される兆しが見えており、多くの利益をもたらす可能性がありますが、好ましくない面もあるかもしれません。我々はそれを規制することはできないでしょうが、進展状況を注意深く見守っていくつもりです」。

 最近、欧州サラブレッド生産者協会連盟(European Federation of Thoroughbred Breeders’ Association)は、血統登録機関に対し、遺伝子取扱会社が過去に遡って血統登録時に採取されたDNA検体を入手することを許可しないように勧告する決議を採択した。クロウハースト氏によると、ウェザビーズ社(Weatherbys)とウェザビーズ・アイルランド社(Weatherbys Ireland)は、そのDNA検体の法律上の所有者である生産者が、引き続き当該馬を所有している場合にのみ、DNA検体の提供を許可している。


ブタ回腸炎再発生の警告

 ロスデールス獣医診療所のエミリー・ハゲット(Emily Haggett)氏は、賦課公社とTBAが助成しているブタ回腸炎原因菌(Lawsonia intracellularis)に関する研究の最新状況を発表した。キジ、シカ、ウサギなどの野生動物が媒介すると考えられているこの細菌は、馬増殖性腸症、すなわち、主に離乳馬に腸内粘膜層の肥厚を引き起こす。

 研究結果は、生後9ヵ月頃、すなわち、母馬からの初乳抗体が低下し、当歳馬自身の免疫システムが発達途上にある時に、この細菌の感受性がピークに達することを裏付けている。

 ブタ回腸炎の兆候は、発熱、うつ、のど・肢・腹部の腫脹、下痢、疝痛、体調不良および体重減少などである。ブタ回腸炎の早期発見の鍵は、当歳馬と1歳馬の注意深い監視であるが、野生動物による飼料汚染を減少させることが、ブタ回腸炎原因菌への感染リスクを減少させる一助になる。

 ハゲット氏は、ブタ回腸炎の菌株対策用ワクチンの使用により、ブタ回腸炎原因菌からある程度保護される合理的な証拠があると付言した。

By Katherine Fidler

[Racing Post 2015年7月15日「Genes, not nutrition, determine adult size」]


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