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2016年10月20日  - No.10 - 5

競馬に関わる仕事:ピンフッカー(イギリス)【その他】


 ピンフッカーの技能を身につけることは簡単なように思われる。すなわち、当歳で購買した馬が1歳馬になったとき、あるいは1歳で購買した馬が2歳馬となったときに再びセリに上場し、利益を得ることである。

 しかし、サラブレッド産業の多くの役割と同様に、ピンフッカーの役割は思われている以上に複雑であり、ずっと多くのリスクを伴う。私たちは当事者の見解を聞くために2人の熟練ピンフッカーと話した。

 一番必要とするものは、セリで素質馬を購買するための資金である。しかし、サラブレッド市場が移ろいやすいことは有名だ。あるセリで素晴らしい馬を適切な価格で購買したと思っていても、転売する頃には時代遅れとなっている可能性がある。

 ピンフッカーA氏はこう語った。「完璧な馬などいません。すべてのリスクは織り込み済みです。例えば父馬について妥協できても、健康状態については妥協できません。馬は病気や怪我を発症しやすいので、その兆候がある馬は購買しないようにします」。

 「しかし、エージェント(馬売買仲介者)は産駒があまり走らない種牡馬をさっさと対象外としてしまうため、そのような種牡馬の産駒を購買したとすれば転売が困難になることがあります。馬を仕上げるまでの10ヵ月は短期間と思われるかもしれませんが、物事が思い通りに進まない場合、苦しい立場に立たされます」。

 そして"素材"を購買して"完成品"に仕上げるために求められる技術レベルに関しては過小評価すべきではない。

 ピンフッカーB氏はこう語った。「ホースマンとしての究極の挑戦は、1歳馬をブリーズアップセールに向けて仕上げることです。この間の馴致を行う人々はおそらく最高のホースマンでしょう。この仕事には、人知れぬ血と汗と涙の物語が常にあります」。

 「しかしピンフッカーの仕事を学ぶには、その血と汗と涙を経験するしかありません。この仕事に就いて20年以上になりますが、悲しいかな、多くの間違いを犯してきました」。

 購買馬の価格に加えて、購買馬の維持費や為替レートの変動など多数の要素が初期費用に影響を与え、ピンフッカーの利益をかなり左右する。

 ピンフッカーは、"素材"である購買馬から最大の利益を生み出すことを目指し、必要な専門知識を活かす。その後、その馬を自ら上場するか、あるいは名声が確立したコンサイナー(上場人)に委託するかの決断を迫られる時期が来る。

 A氏はこう説明した。「有名コンサイナーに委託すれば、人々が馬の購買を検討しに来てくれるチャンスは高まるでしょう。しかし当然のことですが、コンサイナーには落札価格から手数料を支払わなくてはなりません」。

 「どちらの選択肢にも良し悪しはありますが、いつかは自立しなければなりません。自身のブランドを確立して、優秀で丈夫な馬を販売しているとの評判を得ようとすることは良いことです」。

 B氏はこう説明した。「その次に、どのセリに上場するかの選択が利益に大きな影響を与えることがあります。適切なセリを選ぶことに、勝利するか惨敗するかが掛かっています」。

 「普段は馬を購買する前でさえも、どのセリがどの馬に適しているか把握しています。しかし毎年、後になって考えてみると、"他のセリに上場すれば良かった"と思う馬がいます」。

 どの上場馬も大きな利益にも大きな損失にもなり得る。しかしA氏は、どちらになっても、現実的に割り切った見方をするように助言する。「素晴らしいと考えていた馬が、セリで思っていたほど高く評価されなかった途端、現実の世界に引き戻されます。それを受け入れるのは難しいかもしれません。良い日よりも悪い日の方が多いのですから、良い日が訪れた時にはそれを楽しむべきです」。

 しかし、ピンフッカーとしてのキャリアが軌道に乗れば、より持続可能なビジネスモデルの構築に向けて、馬の購買・売却に関し長期的な決定を下せるようになるだろう。

 B氏はこう続けた。「このビジネスを開始するときはあまり高い目標を持たないでください。ビジネスモデルとして、小さな利鞘を安定して稼ぐことができれば、大成功したり大失敗したりするよりも健全です」。

 「購買馬の所有権を100%持ったことはありませんが、私が学んできたことは、所有割合を小さくしすぎるのは間違っているということです。なぜなら、とりわけ持っている全ての専門知識を注ぎ込みその馬の売却に成功しても、生活にそれほど大きな変化をもたらさないからです」。

 しかしA氏が説明するように、専門知識のレベルに関係なく、リピート客が付くようになることは稀にしかない。

 「生産者が優秀な馬を生産すれば、顧客は戻ってきます。しかしピンフッカーが誰かに優秀な馬を売ったとしても、その顧客が戻って来るという確証はありません。なぜなら、ピンフッカーは毎年白紙の状態でセリシーズンに臨んでいるからです」。

 しかし、適切な馬を購買し、高水準の然るべきセリに上場できるような馬に育てあげれば、莫大な報酬を受け取れるチャンスがある。

 A氏は次のように語った。「最悪の時は、期待していたような価格で馬が売れなかった時です。けれども、自分が育てた馬が出走するようになって、勝利を目にする時は最高です」。

 「優秀な馬を売却して、"この馬に関わった"と言えるのは素晴らしいことです。私にとって、馬に付いた価格よりもそのことが大事です」。

 B氏はこう述べた。「購買希望者がいないと分かっているセリの2分前が、最悪の時間です。その一方、購買したがっている人がいると分かってアドレナリンがあふれてくる時が、最もワクワクする時間です」。

 「馬は潜在的に高い利益を生む資産と同じように、高いリスクを伴うことは避けられません。それでも、サラブレッドのように短期間で高い利益をもたらせるものはそう多くはありません」。

 私たちが調べた全ての競馬に関わる職業と同様に、ピンフッカーという職業から引き出される教訓はこうである。"投資のための資金を十分確保できて、きつい労働と悪いニュースを我慢できれば、それらのリスクを償う大きな報酬がある"。

ピンフッカーという職業の概要

必要なもの:当歳馬/1歳馬を購買するための資金。若馬を仕上げるための専門知識。

収入見込み:固定収入はなく、セリへの上場馬の落札価格とその所有割合次第である。

長所:比較的短期間で大きな利益が得られる可能性がある。優良馬の成長において重要な役割を担うことができる。

短所:予測不可能な市場に投資することによる金銭的リスク。

By James Thomas

[Racing Post 2016年7月22日「'No horse is perfect so it's all a calculated risk'」]


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