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2016年06月20日  - No.6 - 3

競馬産業に浸透しつつある遺伝子検査(イギリス・アイルランド)【生産】


 ガリレオゴールド(Galileo Gold 父パコボーイ)は英2000ギニー(G1・約1600m)を圧倒的な強さで制した。同馬の関係者はこの3歳馬を英ダービー(G1・約2400m)に出走させるかどうかを決定するにあたり、アイルランドのエクイノム社(Equinome 現プラスビタール社)のサービスを利用し、新たな分野に踏み出した。

 ガリレオゴールドはC:C型(短距離適性)で、2400mを持ちこたえる可能性は1%にも満たないと推測された。それを受けて、アルシャカブレーシング社(Al Shaqab)をはじめとする同馬の陣営は、スピード遺伝子検査を基にして英ダービーを公に回避した最初の競馬関係者となった。

 2010年のエメリン・ヒル(Emmeline Hill)博士とジム・ボルジャー(Jim Bolger)氏によるエクイノム社の創立は、"300年の競走馬生産史における最も重大な出来事"と称賛されたが、この遺伝子革命は競馬産業にまだ完全には受け入れられていない。

 エクイノム社の当初の遺伝子検査では、将来の競走馬が特定のスピード遺伝子的特徴、すなわち短距離・中距離・長距離の適性を持つかどうかを確かめられるかもしれないとされていた。

 2015年8月には、第2の遺伝子分析が開始された。この遺伝子分析は、遺伝子型を調べるために提出された各馬の7万個の遺伝子変異体を精査することで、これまでの分析の精度を向上させた。



障害

 遺伝子検査の利用は増加しつつあるが、これまで数々の障害があった。欧州サラブレッド生産者協会連盟(European Federation of Thoroughbred Breeders' Associations: EFTBA)は2015年5月、全ての血統登録機関に対し、DNA検体で能力分析を行う者が過去に遡ったDNA検体を入手することを許可しないように勧告した。

 EFTBAは、採取されたDNA検体は個体識別と親子判定のためにしか使用しないように定めている。そして、能力分析のためにDNA検体を入手可能にすることは、これまで血統・馬格・競走成績をベースにしてきた競馬産業に影響を及ぼしかねないとしている。

 さらに、EFTBAは遺伝子検査が馬の可能性を評価する1つの方法として進展していることを認識しながらも、その進展は段階的でなければならず、監視およびコントロールされなければならないと主張する。

 遺伝子検査はその導入以来、大半がひそかに実施されてきた。しかし、ガリレオゴールドの英ダービー回避に関する議論により、注目の的となっている。

 アルシャカブレーシング社のレーシングマネージャーであるハリー・ハーバート(Harry Herbert)氏は、エクイノム社のサービスを利用したことについて、ガリレオゴールドにとってダービー制覇が実現可能であるかを予測する際の新たなツールであったと考える。

 ハーバート氏はこう語った。「馬をどのレースに出走させるべきかを決めるのに、役立つことはすべて利用しています。遺伝子検査は、私たちの意思を固める一助となる新しい科学であり現代技術です」。

 「私もヒューゴ・パーマー(Hugo Palmer)調教師も、ガリレオゴールドをダービーホースだと考えていなかったと言ったほうが正しいでしょう。断固として統計に従わないこともできたでしょうが、ガリレオゴールドの場合、2400mを持ちこたえることはとてもできないと遺伝子検査結果は示唆していました」。

 「例外があることも確かです。ガリレオゴールドとは違う馬格で違う走り方をする馬であれば、検査結果に従わなかったかもしれません」。

 エクイノム社のCOO(最高執行責任者)であるドナル・ライアン(Donal Ryan)氏は、同社が創立以来大きな発展を遂げてきたと考えている。

 「弊社は創立当時、この種の遺伝子検査を実際に提供する世界初の企業でした。また、初めて遺伝子マーカーをサラブレッドの運動能力に結び付ける試みを行いました」。

 「人々に遺伝子がどのようなものかを説明して分かってもらうのに、多くの時間を費やしました。これは、成功を保証する魔法の杖ではありません」。



武器の1つ

 ライアン氏は、遺伝子検査は調教師や生産者にとってむしろ出走計画や交配計画を立てる際の武器の1つであるべきだと述べた。

 同氏はこう語った。「遺伝子検査は馬の本質を洞察するツールです。競走馬をより良く出走させる一助となり得ます。しかし、それだけを単独で利用することはできません。私たちはこれまで採用してきた方法をすべて排除するように助言しているわけではありません」。

 「血統を検討するのと同様に遺伝子検査を利用できるとも言いません。だいたい、血統を検討しただけで、調教メニューを決めたり、購買馬を選んだり、交配計画を立てる人はいません」。

 「遺伝子検査は利用できるツールの1つにすぎません。それでも、人々が血統について話すということは遺伝子について話しているということです。遺伝子検査はあらゆる決定について従来の方法と同じように役立てられるべきであり、我々が開発したものは血統よりもさらに多くのことを予測すると認識しています。しかし、どれだけ多くのことを予測するかについては、まだ限界があります」。

 「遺伝子検査は他の方法では手に入れることのできない情報を与えますが、その情報が全てを語っているわけではありません。したがって、人々が遺伝子検査をより気軽に考え、他のいかなる方法とも併用できるツールだと理解すれば、利用者増加につながると考えています」。

 「遺伝子検査は、競馬関係者が昔から採用してきた方法を補完するのであって、それに取って代わるわけではありません」。



科学的メリット

 スピード遺伝子検査は、極めて有効なツールとなり得るかもしれない。だが、サラブレッド生産界には、科学的メリットを認識しながらも、それを利用しないことを選択する人々もいる。

 ホワイツベリーマナースタッド(Whitsbury Manor Stud)では、スイススピリット(Swiss Spirit)、ショーケーシング(Showcasing)、デューディリジェンス(Due Diligence)が供用されている。同スタッドのマネージャーであるエド・ハーパー(Ed Harper)氏は、彼らが生産しようとする馬のタイプははっきりしているので、産駒のスピードを決める遺伝子検査は必要ないと考えている。

 同氏はこう語った。「科学にはある程度メリットがあると確信しています。これは氷山の一角であり、今後10年~20年間で、あらゆる事柄が目覚ましく発展するでしょう」。

 「スイススピリットのような馬は、その血統と競走成績がスピードを持つことを十分に示しているので、私たちをワクワクさせます。彼の遺伝子がまったく異なる結果を示すとは考えられません」。

 「いつもやってきたように、セリカタログを参考にしたり、競走をじっくり見るのと同じような手段を取るだけで満足です。我々の牧場はスピードのある馬を生産する傾向にありますが、遺伝子検査に関わったことはなく、必要性を感じたことはまだありません」。

 ベアーストーンスタッド(Bearstone Stud シュロップシャー州)は、種牡馬とその遺伝子型の一覧をエクイノム社のウェブサイトで公表している英国で唯一の牧場である。豪州では多くの牧場が種牡馬とそのスピード分析の一覧を公表していることと比べれば、かなり控えめである。

 同スタッドのオーナーであるテリー・ホールドクロフト(Terry Holdcroft)氏は、スピード力のある種牡馬を供用していることを誇りに思っている。それは、サファイアS(G3)優勝馬ファウンテンオブユース(Fountain Of Youth)、香港マイル(G1)優勝馬ファイアーブレイク(Firebreak)、重賞3勝馬メジャーカドー(Major Cadeaux)である。

 これら3頭はすべてC:C型、すなわち短距離適性との検査結果であった。ホールドクロフト氏は常に科学に興味を持っており、こう語った。「12~15年ほど前から遺伝子検査に注目し、何度か実施してみましたが、今ほどは進化していませんでした。この30年間で、遺伝子検査やDNAに関する研究は信じられないほど進化しました」。

 競馬における遺伝子検査の利用がどれだけ長い道のりを歩んできたかは、英国で種牡馬の遺伝子型を自由に閲覧できるようにした牧場がたった1つであることからも明らかだろう。



科学への関心の欠如

 ホールドクロフト氏は「2010年から、生産界では科学への関心が欠如している」と指摘したが、英国の多くの牧場が遺伝子検査をひそかに利用していると考えている。

 そしてこう付言した。「生産者は新しいものを取り入れることに関して、ゆっくりしすぎています。多くの生産者は『これまでも上手くいっていた。どの馬がスプリンターでどの馬がステイヤーか自分が一番よく分かっている』と考えたいようです」。

 「証明することはできませんが、多くの牧場が遺伝子検査を利用し、繁殖牝馬にも検査を受けさせていると考えます。しかし、どういうわけか、彼らはそれを公表しない傾向にあります」。

 「このことについて数人の調教師に話しましたが、あまり関心があるとは言えず、礼儀上耳を傾けているだけでした。遺伝子検査については、向うから聞いてこないかぎり、こちらからは話しづらいです」。

 遺伝子検査を基にして2000ギニー優勝馬をダービーに出走させないという重大な決定がなされた今、生産界は現代科学のもたらす利益に注目すべきであると、ハーバート氏は考えている。

 同氏はこう語った。「エクイノム社が創立されたときに、競馬コミュニティーが眉をひそめたのは分かっています。しかし、彼らが遺伝子検査を一層意識するようになったのは確かです。ただ、その事実や数字に耳を傾けるかどうかは個人的な選択です」。

 「今後、遺伝子検査に注目しなければなりません。理解しようとすれば、より興味がわいてくるでしょう」。

 「遺伝子検査について詳細に学ぶ機会はありませんでしたが、魅力的であることは確かです。生産馬がどのような馬であるかを理解するために人々がこれを利用しないことに驚いています。私たちは必要であれば、再び遺伝子検査を利用するでしょう」。

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By Zoe Vicarage

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[Racing Post 2016年6月1日「Genome test is extra tool in question of stamina」]


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