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2016年09月20日  - No.9 - 4

競馬に関わる仕事:セリ会社社員(イギリス)【その他】


 競馬界の著名人が百万ポンド以上で馬を落札していく満員状態のセリ場で、正面の鑑定台に立つことに、あなたは魅力を感じるだろうか?セリ会社での仕事がどのようなものか調べてみよう。

 セリ会社社員A氏は、セリ会社に就職するための最も月並みな経路はスポッター(セリの助手)になることだと説明し、次のように続けた。

 「熱意ある若者に経験を積ませるために、スポッターを務めてもらっています。これにより、彼らはセリ会社の業務に触れるとともに、顧客の前に立ちます」。

 「スポッターになるのは難しくありません。1回のセリで12人のスポッターがいれば、2~3回に1回の割合で新人が2~3人入ります」。

 「どのセリ会社でも同じですが、スポッターからの道のりは状況によって異なります。ポストに欠員が出れば、私たちは熱意と適切な知識・技能を持ち合わせた人を探します」。

最初にすべきこと

 スポッターとして経験を積めば、多くの進路が開ける。しかし、セリ会社がセリを開催できるようにするためには上場馬が必要で、セリカタログを満たす最高級のサラブレッドを調達しなければならない。これは社員の説得力に左右される。

 A氏はこう語った。「現在、サラブレッド市場には2つの主要セリ会社、ゴフス社(Goffs)とタタソールズ社(Tattersalls)が存在します。顧客が欲しがっている馬を調達するのは難しくありませんが、それらの馬を巡り他社と競合した時には困難を伴います。まず、それらの馬の所有者あるいは販売者に馬を売るよう説得し、その次に、自身のセリ会社のセリに上場してもらうよう説得しなければなりません」。

鑑定人

 馬を調達し、素質馬でセリカタログを満たせば、次は鑑定人が売り手と買い手とをつなぐ役割を果たすことになる。しかし、双方の利益を考慮しなければならないので、その役割には高い公平性が求められる。

 A氏はこう語った。「鑑定人が落札価格にどの程度の影響を与えるかが問題です。優れた鑑定人が良い影響をもたらすよりも、未熟な鑑定人が悪影響を及ぼすことの方が多いのではないかと、私は考えます」。

 「売り手と買い手の間の有効なパイプとなるのが有能な鑑定人です。一般的に良い鑑定人とは、鑑定台にいる本人やそのわざとらしい仕草にではなく、上場馬に注目が集まるようにします」。

 「自分の個性を仕事に活かしたいと思うのかもしれませんが、最高の鑑定人が最高のエンターテイナーである必要はありません。優良馬がそれに相応しい価格で落札されたときに、"最高の演出がなされた"と考えます」。

 しかし、微妙な違いに大きく左右されるこの役割においては、良いか悪いかの判断はきわめて難しい。

 「私たちは、売り手と買い手の双方の利益の間で綱渡りしています。すべての人々に尽くすだけです」とA氏は述べ、こう続けた。

 「チームには常にそう言い聞かせています。鑑定人であれ、セリ会社であれ、良好な評判を築くのには長い時間を要しますが、適切に振る舞わなかったために一瞬でそれを失ってしまうことがあります」。

取引終了後

 しかしどれだけ上手く綱を渡っても、購買者が馬を競り落としたにもかかわらず支払おうとしない場合が常にある。

 それでは、セリ会社は馬売買に関わる金銭取引にどのように対処しているのだろうか。

 A氏はこう語った。「ハンマーが打ち下ろされたら、代金が売り手の銀行口座に入金されなければなりません。私たちは、セリにおける常連客や信用のおける顧客に対してはできる限り支援するという方針を取っています。誰かがトラブルに巻き込まれた時は、できるだけ支援し気長に待ちますが、その際に重要なのはコミュニケーションです」。

 「私たちが顧客にやや厳しい姿勢で接した場合や、顧客が私たちにいい加減な態度を取ったり、避けたり、正直でなくなった場合には、すぐに打撃を受けかねません。セリ会社は銀行ではないので、すべてのセリ会社の取引条件の中には違約した場合の極めて高い金利が記載されています。しかし、物事には上手くいかない場合があることを十分に心得ています。個々の案件についてはそれぞれのメリットを勘案し、ケースバイケースで対応しています」。

ライフスタイル

 A氏は、セリ会社社員の生活の素晴らしさについても熱心に語った。

 「競馬産業の中でも特殊なこの職業の長所は、その多様性とグローバルビジネスである点です。弊社のセリに人々を連れてくるために、私たちは世界中を飛び回っています」。

 「競馬関係者だけでなく、さまざまな社会階級の人々と取引しています。世界中の王族や大富豪から、競馬を楽しむためにクラブを結成している小規模なシンジケートに至るまで、さまざまな人々に馬を販売してきました」。

 「ありふれた言い方をすれば、これは仕事ではなく生き方です。この産業が好きならば最高の職です。あらゆるサラブレッドを扱い、世界各地の競馬場で調教師や馬主に声をかけて、セリへの参加を説得します」。

 「この職業では資格証明書ではなく実務経験が重視されます。牧場で働いたり、調教師やエージェント(馬売買仲介者)の下で働いたり、この産業のできるかぎり多くの分野で職業経験を積むことを勧めます。そうすれば、最終的に取引することになる人々と関わりを持つことができるでしょう」。

 「情熱と熱意、確固とした労働倫理、そしてサラブレッドへの愛情を持っているならば、上手く行くでしょう」。

セリ会社社員という職業の概要

必要なもの:サラブレッド産業についての全般的な知識と明るい性格。

収入:魅力的な給与だが、経験によって大きな差が生まれる。

長所:世界のサラブレッド産業の中心で働いているという意識が持てる。

短所:セリ会社が少ないため、就職するチャンスが乏しいこと。

By James Thomas

[Racing Post 2016年7月20日「'To use a cliché, it's not a job, it's a way of life'」]


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