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海外競馬情報
2017年06月20日  - No.6 - 6

競馬界で指導的地位に就く女性は少なすぎる(イギリス)【その他】


 5月17日、ヨーク競馬場において"英国競馬界のジェンダーの多様性"に関する最初の報告書が発表された。これによると、女性たちは英国競馬界の全ての分野で指導的地位に就きにくいというガラスの天井に突き当たっている。

 この報告書は、オックスフォード・ブルックス大学多様性政策研究センター(Centre for Diversity Policy Research and Practice at Oxford Brookes University)と"競馬界の女性(Women in Racing:WiR)"が発表した。そこでは、この問題についてのより深い理解と、競馬界全体が自発的にジェンダーの多様性を高めることを目的とした独立運営団体の設立が提言されている。

 BHA(英国競馬統轄機構)はこれに対して、報告書の提言を検討し、他にどのような措置が必要かを考察するために、競馬界全体から意見を聞くつもりであると述べた。

 報告書は、競馬界においてジェンダーの多様性は増大しているとしつつも、同時にいくつかの問題を特定している。

 それらの問題の1つは、女性がキャリアを高めるチャンスの欠如である。学校を卒業して競馬界に入る女性と男性の割合は70対30だが、プロの女性騎手は少ない。これは懸念すべき重要な分野である。

 BHAによれば、女性は免許取得騎手の12%を占めるが、全レースの出走馬のわずか6%にしか騎乗しておらず、G1レースにおいてはたった1%にしか騎乗していない。

 報告書では、差別的・偏見的な態度やいじめ行為があったことが示されている。調査に協力した394名の中には、年齢・性別・人種差別や同性愛者への嫌がらせなど、とりわけ厩舎地区における"茶化す"文化を報告する者もいた。

 また、上級ポストや理事クラスに就く女性の少なさや、昇進するまでの障壁も報告された。

 競馬界の慈善団体の理事会における女性メンバーの割合は34%だが、競馬運営団体などの理事会においては16%に低下し、5団体の理事会には女性は1人もいなかった。

 また報告書によれば、多くの女性は昇進申請を検討したときに、歓迎されていないと感じたようだ。中には、女性は昇進できないと明確に言われた者もいた。

 さらに、"仕事と生活のバランス"などの面で否定的な体験も報告された。

 シモネッタ・マンフレディ(Simonetta Manfredi)教授とともにこの報告書を作成したケイト・クレイトン-ハスウェイ(Kate Clayton-Hathway)氏は、競馬界は他のスポーツや産業と比較して、ジェンダーの多様性において遅れを取っていると述べ、こう語った。

 「確かに政府から資金を提供されているスポーツは、この課題について少し先を行っています」。

 「私が話を聞いた競馬界の人々は皆、"その通りです。私たちはこの議論について遅れていますが、今や問題としており、急いで取り組みたいと思っています"と語りました」。

 クレイトン-ハスウェイ氏は、競馬界における"女性は思いやりがあり、男性は強い"というジェンダーの役割のステレオタイプ化に驚いたと語った。

 そしてこう続けた。「この分野で沢山の調査を行ってきましたが、これまで調査した産業の中で、唯一競馬界だけが年齢に関係なく女性をしきりに"ガール"と呼ぶ産業であることを指摘しなければなりません。このことには本当に驚かされました」。

 WiRの創設者であり名誉理事長であるサリー・ロウリー-ウィリアムズ(Sally Rowley-Williams)氏は、この報告書は英国競馬界にとって"画期的な"研究であると述べ、こう語った。

 「英国競馬界には優秀な人々がいます。将来にわたり優れた人材が競馬界に魅力を感じ、この世界で成功できるように、一丸となって取り組まなければなりません」。

 BHAはこの報告書を歓迎している。CEOのニック・ラスト(Nick Rust)氏はこれを"手厳しい督促状"だと述べた。そして、年齢・性別・民族・身体の障害・社会的背景に関係なく、人々がチャンスを得ることを確実にするために一層の進歩が必要であると語った。

 そしてこう付言した。「私たちは現在、競馬界における多様性を向上させるために、改めて熱心に取り組み始めています」。

 「この報告書が強調するように、それを成功させるためには産業間の取組みが必要です。私たちは現在、報告書の提言を含め取るべき措置について、競馬場やホースマンと意見交換しようとしているところです」。

英国競馬界に多様性が必要な理由

 この調査は、幸運にも競馬界で働く者がすでに知っていること、すなわちこの業界が多様性に富んだ絶好の就業機会を提供していることを示しています。

 しかし、オックスフォード・ブルックス大学のチームは、これまであまり認識されず、議論されてこなかった問題のいくつかに脚光を当てました。それは、"男性よりも女性の方が多く競馬界に入っているのに、なぜトップの地位は男性が支配しているのか?"という重要問題への取組みに役立ちます。

 この調査により、多様性に関する抜本的な問題にいくつかの答えが提示され始めています。調査結果のほとんどは、多くの人々、とりわけ競馬界で働く数千人の女性にとって、大した驚きではないでしょう。

 その経歴や役割がどうであれ、多様性は競馬界の誰にとっても重要な問題であるはずです。

 多様性を高めることは、組織の業績や財務実績を高めるのに役立つと同時に、英国競馬界に恩恵をもたらすと考えられる顧客維持と改革の推進にも役立ちます。

 この調査の発表は始まりにすぎません。

 今重要なのは、競馬界がこれらの調査結果にどのように対応するかです。BHAは競馬統轄機関として指導的役割を果たすことができ、その最初の反応は励みとなるものでしたが、これは競馬界に参加するすべての団体と個人がそれぞれの役割を果たすべき事柄です。

 この調査の発表で、多くの事例が挙げられ、現実が明らかとなりました。今や有言実行で何らかの措置を取らなければなりません。そうすることにより、今後、英国競馬界は有能な人材を確実に引き付け、支援し、昇進させることになるでしょう。競馬界の女性(WiR)の創設者であるサリー・ロウリー-ウィリアムズ氏はこの調査の開始に際して行ったスピーチの中で、「勇気を出して、戦いましょう!」と述べました。

 最後にWiRを代表して、私はこの調査を可能にしてくださった皆様と、この調査を立ち上げ、WiRの6回目の年次総会を成功させたヨーク競馬場のチームに感謝いたします。

競馬界の女性(WiR)理事会メンバー

スザンナ・ジル(Susannah Gill)

By Bill Barber

[Racing Post 2017年5月17日「Females under-represented across leading roles says report」]


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