南アフリカの馬輸出検疫規制の緩和に香港が動く(南アフリカ・香港)【生産】
南アフリカの競馬産業は、今年のダーバンジュライ開催(南アフリカ最大の競馬イベント)において、厳格な輸出検疫規制を最終的に打開するという重大な目標について真剣に考慮するかもしれない。
南アフリカ競馬界は7月1日のダーバンジュライ開催でシーズンのクライマックスを迎え、その日は国内各地から5万人以上ものファンがグレイヴィル競馬場に駆けつけるだろう。この開催のマーケティングは大成功を収めている。しかし同国の競馬界はずっと以前から、このような気軽さで他国の国際競馬開催に参加できないことに落胆している。
南アフリカのサラブレッド生産・競走界は、アフリカ馬疫(African horse sickness)による輸出検疫規制によって、事実上"がんじがらめ"となっている。それ故、同国の生産、ひいては競走界の発展は、必然的に他国に遅れを取ってしまっている。
南アフリカのサラブレッド当局は長年にわたり、基本的に局地性および季節性の疾患であるアフリカ馬疫に感染していない南アフリカ生産馬の輸出を可能にする計画を主張してきた。この計画における独自の検疫プロトコルを実行することで、発症が確認された馬を迅速に隔離することができ、感染が拡大することはない。しかしこれらの主張は受け入れられることはなく、大変な労力と高額な費用を要する数ヵ月間の輸送と検疫手続を経ることが、サラブレッドを輸出できる唯一の道であり続けた。
他国の競馬コミュニティが当然のことと考えている迅速な馬の空輸は、南アフリカ人にとっては夢物語である。他国と比べて厳格な豪州の検疫プロトコルでさえも、馬の輸送に数ヵ月を要する南アフリカに比べれば、はるか先を行っている。
このような問題の打開策は、欧州や英国などの伝統的な競馬国ではなく、香港によりもたらされようとしている。
香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)は、"世界各地で行われているのと同様に、南アフリカの1歳馬や出走歴のある馬(tried horse)の購買を最終的に可能とする検疫プロトコルを作り上げる"という課題に取り組んできた。
HKJCのCEOウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス(Winfried Engelbrecht-Bresges)氏(以下ブレスケス氏)は最近、こう語った。「私たちは、南アフリカが国際舞台に広く参加できるよう、同国に対して門戸を開放することを強く望んでいます」。
「南アフリカを国際競馬界に引き入れることができれば、競馬界全体は活気づくでしょう。これは私たちの明確な目標の1つであり、今後2年以内に南アフリカの関係者とともに検疫についての打開策を見つけたいと思います」。
香港は他の競馬国に対し、競馬の国際化に伴う様々な問題の解決を強く促している。最近では"競走当日の薬物使用禁止"がその一例である。しかし、馬の調達元として南アフリカを発展させることには、当然ながら香港自身の利益を図る目的がある。
建設が進められているHKJCの広州調教センター(Conghua Training Facility)は、来年7月頃に運営開始予定である。これにより、一定期間にわたって1,500頭の追加が必要となるかもしれない。
大幅な賞金増加に伴い上がりつつある豪州の近年の1歳馬価格を計算し、さらに大規模で人気のあるシンジケート馬主グループから出走歴のある馬を購買しようとすれば、香港が以前ほど馬を容易に調達できない状況がすぐに明らかになる。また、香港が昔から馬の調達元としていた他の地域でも、同様の問題が生じている。
HKJCは昨年後半、2002年から2011年までHKJCに勤務していたブライアン・スチュワート(Brian Stewart)博士を豪州のレーシングヴィクトリア(Racing Victoria)から呼び戻した。同博士は、HKJCの反ドーピング方針・馬の福祉・検疫方針・馬の国際間移動を担当する部局で、獣医学的規制・バイオセキュリティー部門を指揮する。
スチュワート博士はIFHA(国際競馬統括機関連盟)の国際専門競馬獣医師グループ(International Group of Specialist Racing Veterinarians)と馬の国際間移動委員会(International Movement of Horses Committee)の議長を務めている。
そして、南アフリカ当局と国際獣疫事務局(World Organization for Animal Health)の間で、動きが見られる。
ブレスケス氏はこう語った。「昨年12月の香港国際競走開催の後、実際に進展が見られたことで、初めて楽観的になっています。これはアジア競馬連盟(Asian Racing Federation)の目標の1つになるでしょう。HKJCはこれをサポートしたいと思います」。
「サラブレッドの調達元を見てみると、興味深いことですが、世界中で賞金が増加していて、馬は一層高価になっています。また、多くの馬はシンジケートで所有されているため、メンバー全員から馬を売るという合意を得るのはますます難しくなっています」。
「HKJCの見解では、南アフリカは良質馬を生産しており、国際競走に参加すべきだと考えます」。
これらがすべて結実したとき、ニュージーランドが長年培ってきたように、南アフリカは国内競馬産業と協力してサラブレッドの生産・貿易国としてビジネスモデルを改めるべきだろう。
調整期間はあるだろうが、南アフリカの生産者が得意とするもの、すなわち成熟の早い産駒を作り出す配合を採用しつづけることで、成功をつかむことができるだろう。
ニュージーランドは、その強み、すなわち長距離馬の生産を忘れてしまった。しかし、その傾向は揺り戻されつつあり、今年のシドニーオータムレーシングカーニバル(3月・4月)ではニュージーランド勢の大活躍が目の当たりにされた。NZダービー馬ジンジャーナッツ(Gingernuts)はローズヒルギニー(G1)、ジョンスノー(Jon Snow)は豪ダービー(G1)、NZオークス馬ボンヌヴァル(Bonneval)は豪オークス(G1)を制したのだ。
南アフリカ人は、結局また締め出されることにならないことを望んでいる。しかし、彼らは今回のダーバンジュライ開催で、HKJCが1月にケープタウンで開催される1歳セリに参加することを見据えることができ、あまり遠くない将来に南アフリカ産馬が国内外の国際競走へ参加することを期待できる。
世界の競馬界で望むものを確実に手にしてきたHKJCの歴史をあてにするのは、とても安定した勝算のある賭けであると言える。
By Rob Burnet
[Racing Post 2017年6月12日「Hong Kong Jockey Club moves to unlock strict quarantine laws」]