ガリレオとサドラーズウェルズ、どちらのほうが偉大か?(アイルランド)【生産】
種牡馬として優れているのは一体どちらか?ガリレオかその父サドラーズウェルズか?今やこの父子はそれぞれ、世界で73頭のG1優勝産駒を出している。それでも、もしかするとクールモアの傑出したこの2頭の種牡馬は、それぞれの祖父・父にあたるノーザンダンサーの域には達していないのだろうか?
最初に、競馬史における種牡馬の比較は、競走馬の比較と同様に、根拠が不確かで推定的なものになってしまうことを認めなければならない。
相対的な種付頭数で種牡馬としての影響力を対比することはとりわけ難しい。およそ100年前、近代の血統に最も大きな影響をもたらした種牡馬ファラリス(Phalaris)は、初年度にわずか16頭の産駒しか送り出さなかった。
ガリレオとサドラーズウェルズを比較するに当たり、もちろんそれは問題とはならない。この父子は、その優秀な牡系の創始者ともいえるノーザンダンサーの商業的影響力が注目され需要が高まったことで、欧州生産界に支配的影響をもたらしてきた。その波に乗って、サドラーズウェルズは父ノーザンダンサーの約4倍の産駒を送り出したが、ステークス勝馬率は結果的に伸び悩み、基準も信用できないものとなった。
重賞勝馬率もまた、その対象となるレース自体が変化する。つまり重賞レースには昇級もあれば降級もある。したがって、この父子がそれぞれ73頭のG1優勝産駒を送り出して表向きは同レベルに達していても、その評価には穴だらけの要素があるだろう。
種牡馬としてリーディングタイトルを獲得した回数による比較においても、さまざまな異なる基準が議論されている。
サドラーズウェルズは15年間において、英国&アイルランドで過去最多の14回リーディングタイトルを獲得した。しかし、父ノーザンダンサーは米国でもリーディングサイアーとなっているので、誰もサドラーズウェルズのほうが優れているとは強く主張できないのではなかろうか?
ガリレオは、産駒が海外に分散しなかった点でサドラーズウェルズに似ている。両馬は生粋のターフサイアーとして評価されており、持久力という強みを持ち、欧州で勢力基盤を築いている。一方で、両馬のトップクラスの産駒は北米に遠征あるいは移籍して、芝のビッグレースを制している。
北米のサドラーズウェルズの傑出した後継種牡馬エルプラド(El Prado)だけが、父サドラーズウェルズから受け継いだ能力を完全に異なる環境に注ぎ込むことができることを証明した。エルプラドの産駒にはアーティシラー(Artie Schiller)、孫にはアスターン(Astern)、ボビーズキトゥン(Bobby's Kitten)のようなスプリンターがいる。また、産駒のメダグリアドロは現役時代トップクラスのダート馬であり、種牡馬となってからはレイチェルアレクサンドラやソングバード(Song Bird)のようなダートのスター馬をたくさん送り出している。
このエルプラドの牡系に力強い性質が備わっていることを考慮すれば、同馬の父サドラーズウェルズとガリレオを比較して、それらの産駒について最終的な質的判断を下すのは早過ぎるようだ。また、ガリレオの種牡馬生活は大詰めを迎えているが、サラブレッドの血統により大きな痕跡を残すかもしれないと考えることはできるだろう。
サドラーズウェルズとガリレオの種牡馬成績の折れ線グラフは、同じように推移してきたわけではない。サドラーズウェルズは初年度産駒からG1優勝産駒6頭を送り出し、その後17年間にわたり少なくとも年に1頭のG1優勝産駒を送り出してきた。しかし、長年にわたり、サドラーズウェルズは本当に優秀な後継種牡馬を出せずにいた。そして今や、この懐疑論の本質は、多くのサドラーズウェルズ産駒が示す傾向によって推し量ることができる。キングズシアター(King's Theatre)、カイフタラ(Kayf Tara)、オールドヴィック(Old Vic)、ミラン(Milan)、イエーツ(Yeats)、ドイエン(Doyen)など多くが障害種牡馬ランキングに入っているのだ。
比較的遅く生まれたサドラーズウェルズ産駒2頭、すなわちモンジュー(11年目の産駒。1996年生まれ)とガリレオ(13年目の産駒。1998年生まれ)がその認識を変えるだろう。興味深いことに、モンジュー(2012年没)も長い間優秀な後継種牡馬に恵まれずにいた。しかし最高記録タイで英ダービー優勝産駒を送り出した同馬は、全ての希望をキャメロット(Camelot)に託したようだ。
モンジューは現役のときは父とは反対に強靱さよりも卓越性で評価される競走馬だったが、頑丈な特徴を伝える血統により、障害種牡馬の父としても成功したかもしれないと評価されている。
一方、ガリレオは初年度産駒3頭が最終的に英セントレジャーS(G1)の1着~3着を占めることになったものの、父サドラーズウェルズとは対照的に、種牡馬として控え目なスタートを切った。2年目の産駒からは最優秀2歳牡馬テオフィロ(Teofilo)が出てきた。そして、その後すぐに、ガリレオ産駒は父の名声を高めるべく好成績を挙げるようになり、質と量の両方で向上した。
偉大なフランケルは、ガリレオの6年目の産駒である。今やフランケル産駒はセリにおいて、ガリレオ産駒と張り合っている。フランケルと同世代のナサニエル(Nathaniel 父ガリレオ)は、初年度産駒から欧州年度代表馬エネイブル(Enable)を送り出した。この2頭がデビューするまでには、テオフィロとニューアプローチ(New Approach)はすでに種牡馬となっていた。その間に、他の一連のガリレオ産駒が父のレガシー(遺産)を受け継ぐために、種牡馬入りした。インテロ(Intello)、オーストラリア(Australia)、グレンイーグルス(Gleneagles)が種牡馬となり、ユリシーズ(Ulysees)やチャーチル(Churchill)もそれに加わった。
ガリレオは今や20歳であるものの、その種牡馬成績に箔をつける要素が2つある。時が経つにつれて、スピードのある牝馬はガリレオが産駒に伝える持久力を希薄にできる、ということが徐々にはっきりしてきた。フランケルの例に続き、チャーチルとウィンター(Winter)は昨年、この原則に従い、マイルのクラシック競走を制した。そして今やベテランのガリレオは、チャーチルの全妹クレミー(Clemmie)が昨年チェヴァリーパークS(G1 約1400m)を制したことで、初めての短距離G1優勝産駒を出した。
また、ガリレオは、ブルードメアサイアー(母父)という面でも成績を伸ばしている。この成績は種牡馬を引退してからもしばらく伸び続けるだろう。私たちは現在でもサドラーズウェルズのブルードメアサイアーとしての活躍を目にしている。これもまた、他の馬には真似できない偉業である。
ガリレオがこれから何年産駒を送り出し続け、リーディングタイトルを獲得し続けるかは、現時点では不明である。20歳となって、同馬の種付頭数はこれまでよりも抑制され、おそらくクールモアの繁殖牝馬が相手として優先されるだろう。供用されているクールモアでは、代わりの価値を提供する種牡馬(父ガリレオ)に不足しているわけではない。また、フランケルが種牡馬としても偉大であることは誰しもが認めるところなので、これからも多くの繁殖牝馬を引き付けるのは間違いないだろう。
しかし、「ガリレオとサドラーズウェルズのどちらのほうが偉大か?」について最終的な判断を下すには、まだ何年も待たなければならないだろう。いろいろな意味で、この父子を"種牡馬の父"という面で判断を下すのは馬鹿げたことであることははっきりしている。フランケルをガリレオ産駒だというだけで評価するのは難しく、祖父がサドラーズウェルズだという要素が加わってその信頼性は高まる。それはガリレオを考えるときに、サドラーズウェルズ産駒であるだけでなく祖父がノーザンダンサーであることを加味するのと同じである。
それでもなお、これらの種牡馬の影響力がその3頭の母馬によって形成されているのは明らかである。ノーザンダンサーの母ナタルマ(Natalma)、サドラーズウェルズの母フェアリーブリッジ(Fairy Bridge)、ガリレオの母アーバンシー(Urban Sea)は、交配した種牡馬が血統に与える影響力にさらに名声をもたらしているに違いない。
いくつかの点で、ガリレオは優勢であるようだ。しかし、たとえガリレオ産駒が種牡馬として着実なスタートを切っていたとしても、モンジューが出した英ダービー馬4頭(モティヴェイター・オーソライズド・プールモワ・キャメロット)に比肩するためには、切磋琢磨して種牡馬成績を伸ばしていかなければならないだろう。それに、ガリレオもサドラーズウェルズも、ノーザンダンサーのように地理的に広い範囲に産駒を送り出すことはできない。
この条件では、ガリレオはサドラーズウェルズ産駒の中ではエルプラドに敵わないことはほぼ間違いない。しかし、当時は誰もエルプラドが遂げたような躍進を予期することができなかった。したがって近い将来、ガリレオ産駒が父から受け継いだレガシーをさらに変容させるかもしれないと、誰が予想できよう?
By Chris McGrath
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