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2018年04月20日  - No.4 - 3

欧州でサンデーサイレンスの牡系の基盤がようやく築かれる(欧州)【生産】


 サンデーサイレンスが傑出した種牡馬として国際的に認められたのは、何十年も前のことだ。また、その産駒ディヴァインライトは無名の種牡馬だったが、予想に反して英1000ギニー(G1)優勝馬ナタゴラ(Natagora)を送り出したのも10年前のことだ。ディープインパクトがサンデーサイレンスの確固たる後継種牡馬として浮上したのも古いニュースである。

 それにもかかわらず、サンデーサイレンスのサイアーライン(牡系)の基盤が欧州で築かれたように見えるのは、ようやく最近になってからだ。ディープインパクトの牡駒サクソンウォーリア(Saxon Warrior)はレーシングポストトロフィー(G1)を制し、英2000ギニー(G1)と英ダービー(G1)の最有力馬として見られている。また、ディープインパクトの牝駒セプテンバー(September)はチェシャムS(L ロイヤルアスコット開催)を制したほか、G1競走で3回3着内となったことで牝馬クラシック戦線の有力馬の1頭となっている。

 その一方で、ハットトリック(父サンデーサイレンス)の産駒ダビルシム(Dabirsim)は欧州において最も人気ある若い種牡馬の1頭である。というのも、昨年2歳に達したダビルシムの初年度産駒の中には、アルバニーS(G3)を制しチェヴァリーパークS(G1)で2着となったディファレントリーグ(Different League)がいるからだ。この牝駒は昨年12月のタタソールズ社のセリにおいて、クールモア&パートナーズに150万ギニー(約2億4,413万円)で購買され、現在エイダン・オブライエン調教師に管理されている。



逃してきた機会

 たしかに、生産者たちは90年代後半から日本の伝説的なサンデーサイレンスのサイアーラインを試しに使ってきた。しかし、サンデーサイレンスやディープインパクトは数千マイルも離れている地球の反対側の日本で十分な需要があるため、アクセスは限られてきた。私たちは欧州でこれらの種牡馬の産駒を見ることはほとんどなかった。

 しかし、欧州でサンデーサイレンスの有効性を初めて垣間見てからすでに20年近く経っていることを考えなければならない。1999年には、社台ファームの牝馬サンデーピクニック(父サンデーサイレンス)がアンドレ・ファーブル調教師に管理されてクレオパトル賞(G3)を制し、英オークス(G1)でラムルマ(Ramruma)の4着となっていた。その時期に、サンデーサイレンスの影響力をうまく取り入れる機会を逃したのかもしれない。

 モハメド殿下は、サンデーサイレンスのサイアーラインを比較的早く採用していた。2000年代初めに、数頭のサンデーサイレンス産駒が殿下の勝負服を背負って殊勲を立てた。サイレントオナー(Silent Honor)は2001年に チェリーヒントンS(G2)で優勝した。その2年後、今度はサンドロップ(Sundrop)がフィリーズマイル(G1)で2着となり、その翌年の2004年に英1000ギニーでアトラクション(Attraction)の2着となった。またそのシーズンに2歳の牡駒レイマン(Layman)がモルニー賞(G1)で2着となり、ジャンリュックラガルデール賞(G1)では惜しい3着となった。

 ヴェルテメール兄弟(Wertheimer brothers)も優良牝馬のダンジグアウェイ(Danzigaway)とパドレポンス(Pas De Reponse)をサンデーサイレンスと交配させるために日本に送り、成果をあげている。というのも、この2頭の繁殖牝馬はこの交配により、BCマイル(G1)3着のサイレントネーム(Silent Name)とロンシャンのリステッド競走(準重賞)の優勝馬サンデーダウト(Sunday Doubt)を誕生させたからだ。



種牡馬となったサンデーサイレンス産駒の需要

 レイマンは現役引退後、モハメド殿下のフランスの生産拠点であるロジス牧場(Haras du Logis)で種牡馬入りし、ボルドグザグ(Boldogsag)、ガマルト(Gammarth)、メアリーポップ(Marypop)などの重賞勝馬を送り出した。一方、サイレントネームは、カナダのアデナスプリングス社(Adena Springs)で有用な種牡馬となった。

 吉田ファミリーはサンデーサイレンスを所有し、現在はディープインパクトを繋養している。吉田照哉氏の協力者であるエージェント(馬売買仲介者)のパトリック・バルブ(Patrick Barbe)氏は、異国風の名前をもつサンデーサイレンス産駒を2000年代にフランスの種牡馬群に導入するのに一役買った。それはアグネスカミカゼ、ボーンキング、ディヴァインライト、グレイトジャーニー、レゴラス、ミレニアムバイオ、ローゼンカバリー、サムソンハッピーなどである。

 これらのサンデーサイレンス産駒の評価と成果にはばらつきがあった。ディヴァインライトがフランスで最初に出した世代の産駒には、チェヴァリーパークSと英1000ギニーを制したナタゴラがいた。その後、ディヴァインライトはトルコに売却され2014年にそこで死んだ。

 グレイトジャーニーの輸入もまずまずの結果を残している。その産駒マックスダイナマイト(Max Dynamite)がロンスデールカップ(G2)で優勝し、2015年と2017年のメルボルンカップ(G1)でそれぞれ2着、3着となったからだ。なお、サンデーサイレンスの孫デルタブルース(父ダンスインザダーク)は、2006年メルボルンカップを制している。

 フランスに種牡馬として輸入されたもう1頭のサンデーサイレンス産駒はペールギュントである。ペールギュントは、サンタアニタ競馬場のG2を2勝したフランボワイヤン(Flamboyant)と、3月22日(木)にオムニウム2世賞(Lフォンテーヌブロー)を制してクラシック競走の有力候補に浮上しているフランシスコベレ(Francesco Bere)などを送り出している。

 英国もしくはアイルランドで供用されたサンデーサイレンス産駒はほんのわずかである。ナタゴラのクラシック制覇を受けて、ヴィータローザがランウェイズ牧場(Lanwades)、シックスセンスがブリッジハウススタッド(Bridge House Stud)で供用された。しかし種牡馬としての需要は乏しく、それほど長く供用されなかった。



国際的な賛辞

 その間、サンデーサイレンスの影響により日本の遺伝子プールが改善されたことで、日本調教馬が海外のレースで活躍し始めた。2001年にはステイゴールドがドバイシーマクラシック(当時G2ナドアルシバ競馬場)を制した。また、牝馬トゥザヴィクトリーが同日施行されたドバイワールドカップ(G1)でキャプテンスティーヴ(Captain Steve)の堂々2着となった。

 ステイゴールドは現役引退後、種牡馬として凱旋門賞(G1)2着のナカヤマフェスタとオルフェーヴルを送り出している。

 他に国際舞台で活躍したサンデーサイレンス産駒は次のとおりである。2003年オーストラリアンオークス(G1)を制したサンデージョイ(Sunday Joy)、2005年英インターナショナルS(G1)でエレクトロキューショニスト(Electrocutionist)にわずか首差の2着となったゼンノロブロイ、ドバイシーマクラシック(G1)で優勝しキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)でハリケーンラン(Hurricane Run)の3着となったハーツクライ。そして日本の三冠馬ディープインパクトはおそらく最も強烈な印象を残しただろう。同馬は、凱旋門賞に1番人気で挑み、ロンシャンに殺到した大勢のファンの前で3位入線した。

 ハーツクライのG1優勝産駒7頭の中にはドバイデューティフリー(G1)を制したジャスタウェイがいる。しかし、サンデーサイレンスから日本のトップに君臨する種牡馬のバトンを受け継いだのはディープインパクトである。同馬は数え切れないほどのG1馬を送り出し、その中にはフランスでG1勝利を挙げたエイシンヒカリ、ドバイワールドカップナイトで優勝したジェンティルドンナ、リアルスティール、ヴィブロス、そして豪州でG1優勝を果たしたリアルインパクト、トーセンスターダムが含まれる。

 ウィルデンシュタイン家(Wildenstein)は早くから牝馬を日本に送って、ディープインパクト産駒を手に入れてきた。ディープインパクトの供用初年度と2年目に社台に送られた牝馬の中には、バステット(Bastet 父ジャイアンツコーズウェイ)がいる。バステットは、リステッド勝馬バロッチ(Barocci)と仏1000ギニー(G1)優勝馬ビューティパーラー(Beauty Parlour)を送り出した。また、アレフランス賞(G3)優勝馬アクアマリーヌ(Aquamarine 母アンジェリータ)もディープインパクトの初年度産駒である。

 サンデーサイレンス産駒のサイレントネームを生産したヴェルテメール兄弟も、ディープインパクトをサポートしてきた。昨年はディープインパクト産駒のアキヒロ(Akihiro)がリステッド競走(準重賞)を制し、コンセイユドパリ賞(G2)の2着に入るという成果を収めた。なお、アキヒロは最近売却され、香港に移籍した。



深まる影響

 おそらくディープインパクトは、そのファミリー(牝系)ゆえに、父サンデーサイレンスよりも欧州競馬との相性がさらに良いかもしれない。ディープインパクトは、英オークス(G1)2着のウィンドインハーヘア(父アルザオ)を母とするので、ナッシュワン(Nashwan)やネイエフ(Nayef)と近親である。

 クールモアは、サドラーズウェルズやデインヒル(あるいはそれらの産駒)の牝馬を多く繋養する。そのために優れたアウトクロス(異系交配種)を切実に求めているので、この時流に乗ったのは当然である。

 2013年と2014年、クールモアはG1馬のメイビー(Maybe)とピーピングフォーン(Peeping Fawn)、そしてデビュー戦でG3を制したチェロキー(Cherokee)をディープインパクトのもとへ送った。最初に生まれた仔であるパヴレンコ(Pavlenko)とウィスコンシン(Wisconsin)はそつなく勝馬となったが、ディープインパクトの影響を欧州にしっかりと根付かせそうなのは、その次の世代である。パヴレンコの全弟サクソンウォーリア(母メイビー)はエイダン・オブライエン調教師に管理されて3戦3勝しており、ウィスコンシンの全妹セプテンバー(母ピーピングフォーン)は、チェシャムSで優勝し、フィリーズマイルで鼻差の2着だった。

 クールモアは今年、いずれも父をガリレオとするG1馬マインディング(Minding)とウィンター(Winter)をディープインパクトと交配させるために日本に送る。

 その間、グランカン牧場(Haras de Grandcamp)のダビルシムの種付料は3万ユーロ(約405万円)に引き上げられ、一連の優良牝馬に種付けする予定である。それは、ディファレントリーグが今年のスプリント戦線そしておそらくマイル戦線においても、強豪馬として目されているからだ。

 サンデーサイレンスとディープインパクトを欧州の生産者が本気で受け止めるまでに、長い年月を要した。しかし、この驚くべき才能の源が最終的に遺伝子プールを拡大し活気づけるのであれば、"遅くても何もしないよりはいい"。

By Martin Stevens

(1ポンド=約155円、1ユーロ=約135円)

(関連記事)海外競馬ニュース 2012年No.26「サンデーサイレンスの血統が欧州に与える影響(欧州)

[Racing Post 2018年3月25日「Saxon Warrior ensuring Sunday Silence is finally taken seriously in Europe」]


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