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海外競馬情報
2018年07月20日  - No.7 - 4

英国競馬界が人員不足に取り組む上での3つの柱(イギリス)【その他】


 「チームワークを発揮することで夢のような仕事が実現できる」。BHA(英国競馬統轄機構)の業務担当理事であるウィル・ランブ(Will Lambe)氏にとって、この言葉は金言である。

 競馬界は深刻な人員不足に悩まされている。競馬界の舵取りを担うリーダーの1人であるランブ氏は、競馬産業全体に向けてチームワークの重要性を呼び掛けている。

 ランブ氏は、「人員不足は極めて重大な課題だと考えています。危機的状態とも言えるかもしれません。競馬界では主要労働者が不足しており、今年、そして今後数年間にわたって最優先事項の1つとなるでしょう。この問題については、チームとして取り組まなければなりません」と述べた。

 20175月に発足した同氏の役職の優先事項には他に、英国のEU離脱後の協定、賦課金制度改革の最終決定、賭事産業との関係、全体的な戦略・方針、取り組むべき任務の優先順位の検討がある。ランブ氏のチームはまずこの人員不足という問題に取り組む。

 同氏はこう語った。「私はこの再編成において、競馬産業の人員不足対策チームを率いることになりました。少人数ですが、熱心で献身的なチームであり、三部門に分かれています。キャリア・マーケティング・採用部門、研修日程とBHAが交付する専門職の資格認定を監督する部門、そして人材維持・保護を担当する部門です」。

 BHAが人員不足に取り組む上での3つの柱は、人材の「採用」・「育成」・「維持」である。

 ランブ氏は、「英国競馬の多くの課題において、横断的なチームワークが必要です」と述べる。

 同氏はこう続ける。「BHAはリーダーシップを発揮するでしょうが、500以上の中小事業所のために人材を採用する責任を負っているわけではありません。それは不可能です。それでも、私が競馬界、そしてこの役職で目の当たりにしてきた最も勇気づけられることの1つは連帯感です。これは、馬主協会(Racehorse Owners Association)の年次総会でも大きなテーマとなりました。競馬界が挑戦を要する領域があれば、私たちは一丸となって取り組まなければなりません。単独で少し行動してみるという考えは間違っています」。

 全国調教師連合会(National Trainers Federation)、英国厩務員協会(National Association of Stable Staff)、サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders' Association)などの団体はすでに人員不足の問題に着手していると、ランブ氏は強調する。

 「各団体には競馬専門家がいます。しかしこの任務を快く引き受けて、戦略を一緒に考案するために話合いの席についてくれる人物が必要です。全国各地で様々な方策が提案されるかもしれませんが、皆が参加しなければ、成功する見込みも低いです」。

 成功の定義は移ろいやすいものなのかもしれない。現在国内の厩舎を悩ましている500人~1,000人の人員不足を満たすだけで済む問題だろうか?既存のスタッフの定着率を向上させること、欧州経済圏の居住者が働く権利を確保することも重要ではなかろうか?

 ランブ氏は、「競馬産業の採用人数は増えていますが、指標によれば、昨年は退職者がその数を上回っていました。私たちは定着率を高めなければなりません」と語る。

 BHA本部では、退職理由をより深く理解するために、退職時のインタビューを導入する計画が進行中である。

 ランブ氏は、「厩舎スタッフの退職には、ただ賃金・労働時間・一般条件・評価に不満があるというだけではなく、複雑な理由がいろいろあると思われます」と述べた。

 これらの要因に個別的に取り組むことは、スタッフを引きとめるために重要なことであるが、BHAの権限に該当するのはそのうちいくつかだけである。BHA2019年競馬開催日程のいくつかの詳細を明らかにした。そして勤務終了時間の引延しに繋がらないように、薄暮開催の最終レースを午後830分までとすると発表した。一方で、ゴドルフィン牧場・厩舎スタッフ賞(Godolphin Stud and Stable Staff awards)は、年を追うごとに盛り上がりを見せている(訳注:ゴドルフィン牧場・厩舎スタッフ賞は競馬産業を支える献身的で勤勉なスタッフを表彰する。英国・アイルランド・豪州・フランス・米国で実施)。

 しかし、2週間に13½日働き、しばしば最低賃金しか支払われない状況を改める権限は、調教師にしかない。"すでに長時間化していることを考えれば、今さら労働時間を短くすることは不可能である"と述べる調教師もいる。一方、より短い労働時間はこの職業を魅力的なものとし、労働人口を増やすだろうという反論もある。結局のところ、調教師がより多くのスタッフにより多くの賃金を支払うべきではなかろうか?

 ランブ氏はこう述べる。「これに見合ったビジネスモデル(訳注:事業で収益をあげるための仕組み)を構築すべきです。競馬界には様々な業種がありますが、レジャー産業でもあります。人々が競馬場に行き馬券を購入したいときに、競馬を施行しなければなりません。これを実行しながら、スタッフが競馬界で働き続けられるように重労働を無くすには、どのようにしたらいいのでしょうか?」

 議論された1つのアイデアは、一時的な人員不足を補うための、NHS(国民医療サービス)の非常勤看護師の資格登録と同じような"非常勤労働者プール"である。しかし、NHSとほぼ同様に、英国競馬界の人員不足は英国のEU離脱のために深刻化するかもしれない。ランブ氏は「資格をもつワークライダー(攻馬手)と厩舎スタッフを"人員不足職業リスト"に再び入れるべきだ」と主張し、競馬界の事例を移民諮問委員会(Migration Advisory CommitteeMAC)に提出した。MACの決定は9月に下されるだろう。この主張が却下されるという最悪の事態が起こるなら、どのような代替案があるだろうか?

 ランブ氏はこう語った。「私たちの要望が受け入れられなかったとしても、ただちに代替案を採用するようなことはないでしょう。将来の移民政策それ自体は、人員不足の解決策とはなり得ません。国内の取組みでは、あらゆる方面を対象としなければなりません。まだ着手していない各地域や、軍隊などのさまざまな社会層、転職を考えている人々に対して採用を試みるつもりです」。

 「私たちは今年、前科者を対象とすることにも取り組んでいます。ドンカスター地区で刑務所職業訓練サポート基金ノーバス(Novus)と会合を持ち、北部競馬学校(Northern Racing CollegeNRC)とも会合を行いましたが、とても勇気づけられるものでした」。

 NRCと英国競馬学校(British Racing SchoolBRS)は、ナショナルスタッド(National Stud)と同様に、人材の採用・育成・維持に重要な役割を果たす主要チームメンバーである。これらの名高い2校の実績から、他の競馬学校も競馬産業にとって有益な成果をもたらすかもしれないと考えるのは、それほど見当違いではない。BHAはレーシング・トゥ・スクール(Racing to School)と連携して、キャリア相談や校外学習のような広範なプログラムを提供している。それらは競馬界に触れる最初のステップとしては分かりやすいものである。

 2018年の初めには、英国全体で80万人もの人員不足があった。馬・競馬部門に限らず、競争は激しい。低失業率は経済にとっては良いものだが、雇用主にとっては必ずしも良いものではない。一方、より多くの選択肢のある雇用者は引く手あまたとなる。それは雇用主に賃金水準を上げることを強いる。

 「賃金水準を向上させ続けましょう。競馬界がこの分野にいっそう投資すれば、スタッフを競馬界に引きとどめるために行ってきた取組みに見合う結果が得られるかもしれません」とランブ氏は語る。

 さまざまな方面から投資が行われている。競馬福祉協会(Racing Welfare)と競馬財団(Racing Foundation)は、人員不足危機回避チームの正式メンバーである。一方、ランブ氏が前職のときに成し遂げた賦課金改革は、人材育成に今年一層多くの資金を保証している。

 ランブ氏は、「賦課金改革に続く最優先事項は、特に格下レースにも十分な賞金を行きわたらせるための資金投入でした。しかし、私たちは人材育成に充てられる100万ポンド(約15,000万円)弱の追加的資金を確保できました」。

 目に見える投資は、競争力を保つ上で不可欠である。また、有効性が十分に精査された戦略は人員不足を解決する主要な手掛かりとなるだろう。しかし、それらは最も魅力的なセールスポイントではない。なぜ新人スタッフが競馬産業に入ろうと思うのだろうか?

 ランブ氏はこう付言した。「私たちは競馬界が素晴らしい就業チャンスをもたらすと確信しています。競馬界は、素晴しい動物とともに働く機会と、英国で2番目に大規模なスポーツに参加して競争する機会を提供します。しかし、スタッフの犠牲を利用していては成功しないでしょう。競馬界が提供する報酬について検討しなければなりません。それが競馬産業で欠けているものです。競馬産業は人々の人生を変える力があります」。

 「そして、ビッグレース開催日の主役は調教師と騎手だけではありません。競馬はチームスポーツです。それこそが競馬界に入って働くもう1つの理由となります」。

BHAが人員不足に取り組む上での3つの柱

採用

雇用プログラムへの登録:BRSNRC5週間にわたる合宿課程。その後、競馬界でのキャリアを理解する手掛かりを与えるために、競馬学校の学生を対象とした職業紹介が行われる。

育成

騎乗指導プログラム:経験豊富なスタッフを訓練し、"レベル1騎乗指導者"という全国認定資格を取得させる。これにより、経験の浅いメンバーに指導でき、全体的な騎乗能力を向上させることができる。

維持

労働衛生スキーム:面談と健康診断を通じて、健康と福祉を向上させるためのプログラム。競馬基金が資金提供。

By Katherine Fidler

1ポンド=約150円)

Racing Post 2018年75日「Staffing crisis: how racing can pull together to combat the falling numbers」]


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