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2018年09月21日  - No.9 - 5

産駒登録証明書、デジタル化により利便性が格段に向上(アメリカ)【生産】


 リック・ベイリー(Rick Bailey)氏は30年間、米国ジョッキークラブ(The Jockey Club:TJC)の登録課に勤務しており、2004年からはTJCの登録責任者を務めている。これまで"あったはずのハードコピーの産駒登録証明書が見当たらない"といった問合せ電話に、数えきれないほど対応してきた。

 問合せ者は、産駒登録証明書がないために馬が競走から除外されたり、馬をセリへ上場しようとして断られた末に電話してきているので、大抵の場合取り乱している。

 「郵送された証明書が予定どおり届かなかっただの、郵送中に紛失しただの、馬を馬運車に乗せるとき運転手に違う証明書が渡されただのと、言ってきます」とベイリー氏は語った。

 TJCが発行するこの証明書の正式名称は"産駒登録証明書(Certificate of Foal Registration)"。俗に"馬の書類"と呼ばれている。そこには血統・特徴・毛色・生年月日・生産者・産地などが記載されている。

 TJCの登録審査が完了すれば、この証明書は馬主またはエージェント(馬売買仲介者)に発給される。

 しかしこの頃は、ベイリー氏がこういったパニック状態の問合せ電話を受けることはあまりないはずである。

 TJCは5月、ウィンスターファーム(WinStar Farm)で2月19日に生まれた仔馬(父パイオニアオブザナイル、母Mildly Offensive)に、史上初のデジタル産駒登録証明書が発行されたと発表した。7月31日現在、3万1,789頭にデジタル証明書が発行されている。2016年8月のジョッキークラブ円卓会議において、証明書のデジタル化が初めて発表された。それに伴うソフト開発は、ジョッキークラブ・テクノロジーサービス会社(Jockey Club Technology Services Inc.)が実施した。

 ベイリー氏はこう続けた。「登録審査は基本的に、ハードコピーの証明書とほぼ同じプロセスで行われます。ただし新たなシステムでは、"デジタル証明書マネージャー"が馬の移動があったときにTJCが管理するデータベースに記録します。デジタル証明書を利用したい場合は、TJCが無料で提供する"双方向登録(Interactive Registration)"のアカウントを最初に取得しなければなりません」。

 双方向登録のアカウントは以下のサイトで取得できる。

 https://www.registry.jockeyclub.com/registry.cfm?page=signUpBreakdown

 TJCは証明書のデジタル化による利点を、以下のように述べている。

・ 証明書の管理者は、パソコンやモバイル機器を通じてデジタル証明書にいつでもアクセスすることができる。

・ 馬主とエージェントは今後、証明書の紛失や破損を心配しなくて済むだろう。双方向登録のアカウントを取得して"登録状況(Registration Status)"というオプションを利用すれば、各馬の最新の証明書の保有者を確認できる。

・ 馬を海外輸送するとき、あるいは馬を個人売買するとき、その関連業務を厩舎事務所でもセリ場でも効率的に行うことができるようになる。

・ デジタル証明書はTJCにより管理されるので、偽造される危険性がなくなる。

 ベイリー氏はこう述べた。「現時点において、セリ会社が秋の当歳セールまでにデジタル証明書を入手できるように、登録申請プロセスをできるかぎり円滑かつ迅速に進めるよう努めています」。

 生産牧場・セリ会社・競馬場の代表者がデジタル証明書に慣れ親しむように、TJCは数ヵ月にわたって啓蒙活動を行った。主導したのは、副登録担当者のロリ・ジョンソン(Lori Johnson)氏である。

 ジョンソン氏は、ケンタッキー州レキシントンのTJC本部に生産牧場のスタッフを招いた。それに加え、ハギャード馬診療所でサラブレッド馬主・生産者協会(TOBA)メンバーに向けて、またオカラブリーダーズセールでスタッフに向けて、デジタル証明書についてのプレゼンを行った。さらに、その他の生産者や馬主に対しても同様のプレゼンを行った。

 同氏はこう語った。「セミナーの出席者は最初は驚いて目を丸くしますが、その仕組みを見聞きすれば安心し、期待感さえ抱いています。デジタル化により産駒登録証明書が扱いやすくなることを実感しているようです」。

 ジョンソン氏は、テキサス州サラブレッド協会(Texas Thoroughbred Association)の1歳・混合セール(ロンスターパーク競馬場)の前日の8月26日、生産者と馬主に向けてデジタル産駒証明書についてプレゼンを行う予定である。同氏は「このセリの当歳馬の取引では、初めてデジタル証明書が利用されるでしょう」と述べた。

 ジョンソン氏はどのセミナーでも、TJCのウェブサイトで視聴できる指導用ビデオ(約3分間)を見るように勧めた。このビデオはマイクロチップ埋込みと登録審査プロセスの両方について説明している。

 ベイリー氏はこう語った。「デジタル証明書はスムーズに周知されてきました。誰がこの新技術を一番評価しているかはすでに分かっています。今回のデジタル化を最も歓迎しているのは、産駒登録証明書を管理する任務にあたっている人々です。彼らの負担は軽減されます」と語った。

 クレイボーンファーム(Claiborne Farm)の記録係であるメリッサ・グルックザ(Melissa Grucza)氏もその1人である。毎年推定130頭~145頭の産駒登録申請をしている同氏は、こう語った。「7月上旬にデジタル証明書を初めて受け取りました。デジタル化によって時間をかなり節約できるとすでに実感しています。馬をセリに上場するために調教師から"馬の書類"を返してもらう際に、大変便利です」。

 セリ会社もこの新しいシステムに満足しているようだ。

 キーンランド協会(Keeneland Association)の競走・セリ担当副理事長であるボブ・エリストン(Bob Elliston)氏は、こう述べた。「テクノロジーが著しく進歩している時代に、これまでのシステムは旧態依然としていました。ハードコピーの証明書を『馬主→コンサイナー→セリ会社→新しい馬主』と移行させるのには手間が掛かりました。デジタル化は時間の問題でした」。

 今年生まれた仔馬は2歳になる2020年まで出走しないが、デジタル証明書は、各競馬場の個体識別の業務も楽にするはずである。

 エリストン氏は、「馬は昔よりもあちこちに移動しています。証明書のデジタル化により、馬の売買が盛んになり、馬の移動も頻繁となります。完全に定着する日を楽しみにしています」と語った。

 2004年からサンタアニタ競馬場とロスアラミトス競馬場で馬の識別業務を担当するジェニファー・ペイジ(Jennifer Paige)氏も同じ意見である。

 「産駒登録証明書の偽造や紛失に対処するのに、多くの時間を奪われてきました。デジタル化はその苦労を緩和するはずです。私たちは馬を確実に出走させるために、できる限りのことを行っています。しかし、初出走のときにハードコピーの証明書が見当たらなければ、裁決委員はその馬を除外するでしょう。ステークス競走では、誰かが証明書をスキャンして私たちに送信すれば、その馬は出走可能となるかもしれませんが、調教師には過怠金が科されるかもしれません」。

 サンタアニタ競馬場の競走担当副理事長兼競走役のリック・ハンメル(Rick Hammerle)氏はこう語った。「誰かがハードコピーの証明書を提出してきたとき、私は面倒になって放ったらかしにしてしまいます。最近は何もかもがデジタル化されオンライン化しています。したがって、産駒登録証明書がデジタル化されることは理に適っています」。

 TJCは将来に向けて、いくつかの改善を計画している。

 ベイリー氏はこう語った。「デジタル産駒登録証明書に"証印"を加えたいと考える第三者機関との連携が次のステップとなるでしょう。それは州産馬組織のロゴ、ブリーダーズカップ指定の記号、サラブレッド競馬保安協会(TRPB)が認可した実在証明印、あるいは "サラブレッドコネクト(Thoroughbred Connect)"の連絡先情報となるかもしれません」。サラブレッドコネクトは、引退馬の受入れ先を見つけることを助けるために考案されたTJC のサービスである。

 TJCの上級顧問であり、サラブレッドコネクト設立の立役者の1人であるクリスティン・ワーナー・レシュニー(Kristin Werner Leshney)氏はこう語った。「サラブレッドコネクトは、デジタル証明書が一般化すれば、馬を受け入れたい人々、馬を譲渡したい人々によって一層頻繁に利用されるようになるでしょう。人々はデジタル証明書を見れば、どのような馬がサラブレッドコネクトに登録されているかすぐに把握できるようになるでしょう。また馬の受入れ先を見つけようとしている人々にとっても、馬についての情報をより多く提供するための選択肢の一つとなるでしょう」。(2011年5月に設立されたサラブレッドコネクトには、現在1,400以上の連絡先が登録されている)。 

 ベイリー氏はと言えば、TJCの登録課は今後も時折"馬の書類"の紛失について問合せを受けるだろうと考えている。しかしほぼ全てのことは、パソコンあるいはタブレッドを何度かクリックするだけで迅速かつ効果的に解決することが分かっているので、気持ちが楽になっている。

By Bob Curran Jr.

(関連記事)海外競馬情報 2017年No.12「2018年からハードコピーの産駒証明書をデジタル化」


[The Blood-Horse 2018年8月18日「No Paper Trail―Digital foal certificates make horsemen's lives easier」]


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