JRAの厳格な馬主登録制度に犯罪者が入り込む隙なし(日本・イギリス)【開催・運営】
日本ではありえないことだ。アメル・アブドゥラズィーズ(Amer Abdulaziz)氏は世界的な出資金詐欺事件で1億ユーロ(約120億円)を盗み取り、マネーローンダリング(資金洗浄)を行ったことが疑われている。現時点で無罪か有罪かは判明していないが、いずれにせよ、この"フェニックス・サラブレッズ社(Phoenix Thoroughbreds)事件"のようなことが日本競馬界を騒がせることはありえない。なぜなら日本競馬界には同社が入り込む隙がないからだ。
アブドゥラズィーズ氏とフェニックス・サラブレッズ社(以下フェニックス社)について書くとき、ジャーナリストには微妙なバランスが求められる。しかしこの記事では一線を越えるつもりも、その必要性もなく、何らかの主張をするつもりもない。明らかになった事実、すなわちフェニックス社が日本で馬主になれないという事実をシンプルに分析するだけで十分である。
フェニックス社の事件に関し11月末に明らかになった新事実を見ると、私たちの国や地域における馬主登録制度について疑問を投げ掛けざるをえない。
私たちは世界中のビッグレースで活躍する日本のスター馬をますます目にするようになってきたが、日本競馬に関する知識は意外にも少ない。12月上旬に本紙(レーシングポスト紙)に掲載予定の日本競馬の神秘性を取り除くことを試みた特別記事は、日本で実施されている驚くべき競馬について明らかにする。しかし簡潔に言えば、日本競馬は全てが公正確保を中心に回っている。そして馬主登録に関しては、これは間違いなく事実である。
日本のほぼ全てのG1競走を統轄するJRA(日本中央競馬会)が日本国外の居住者の馬主登録申請を受け付け始めたのは、つい2009年のことである。しかし選考が行われるのは個人からの申請だけである。すなわち、フェニックス社のような団体は第一関門も突破できない。
個人からの申請しか受け付けない理由は、JRAが馬主となる人物の適格性について十分納得する必要があるからである。そのため日本国外に居住する申請者は、所得・資産状況や直近2年間の納税申告書と納税額を示す書類を提出しなければならない。馬主候補はJRAに対して所有資産すべてを開示して、経営または勤務する会社の詳細について説明しなければならない。また、犯罪歴があってはならず、日本で銀行口座を開く必要がある。さらに、日本に住む連絡責任者を指名しなければならない。
そういう訳で、怪しげな過去を持つ人物がわざわざ馬主登録申請してくることは全くありそうにない。さらに、そのような人物が申請したとしても、約6ヵ月間もの登録プロセスを通過することはなさそうだ。
小冊子『日本国外居住者へのJRA馬主登録申請ガイド』で、JRAは馬主登録まで厳格なプロセスを経なければならない理由についてこうはっきりと説明している。
「JRAは一定のルールの下で競馬を施行しています。そのルールの多くが、貴方が馬主として馴染んできた居住国・地域と異なる可能性が大いにあります。関連書類すべてを集めることがどれほど難しいかは認識していますが、このプロセスは申請書類の厳格な審査を確実に行う上で必要であることをご理解下さい」。
「中央競馬が発展する中で、競馬の公正確保は最重要課題であると考えられてきました。このことは、競馬において極めて重要な役割を担う馬主の方々にも適用されます。登録段階でその適格性を厳しく審査するつもりです。そのため、日本競馬の馬主登録制度が、その開始以来、極めて厳格に適用されていることを理解していただきたいと思います」。
「それゆえ、すでに海外で馬主として活動する方々も日本に住む馬主登録申請者と同様の厳格さで審査されること、その結果として申請が承認されないことがあるとご了承ください」。
英国で提出される馬主登録申請が日本で承認されるかどうか疑問に感じるのは至極当然である。馬主を増やすことが奨励されるのは当然かつ必須であるが、一方で質疑応答をより活発に行い、許容範囲と見なされる水準を引き上げることも必要である。
現在疑惑の渦中にあるフェニックス社は2007年にレーシングクラブとして頭角を現し、それ以来サラブレッド購買のために欧州や米国で大金を費やしてきた。それらの投資資金は、アブドゥラズィーズ氏が"馬投資ファンド"と称するものから供給されていたと言われている。しかし本紙(レーシングポスト紙)は11月下旬、フェニックス・ルクセンブルク・ファンド(Phoenix Luxembourg Fund)が一度も規制されたことがなく、投資ファンドとして機能したことがないこと、さらに現在では清算されていることを明らかにした。この事実が白日の下に晒される前であっても、アラームは鳴り響いていたはずである。なぜなら、アブドゥラズィーズ氏は"ファンド"に投資している人々が"競馬界外の人々"と言うだけでその名前を絶対に明らかにしなかったからである。
多くの主要競馬国で、フェニックス社の馬主登録を防ぐのに十分な対策が取られていなかったようである。それらの競馬統轄機関は、投資資金がいったい何処から、誰から来ているのかもう少し詳しく知ろうとすべきだったのではなかろうか?
BHA(英国競馬統轄機構)のスポークスマンは、フェニックス社の一連の騒動に対する回答として「英国競馬界に関わろうとする人々の適格性を判断する上で多岐にわたる基準を適用しており、これらの基準に合わせて馬主登録が行われています」と述べた。
それでも、馬主登録申請者、すなわち馬に実際に投資する人物の詳細な身元情報を知らずして、その人物が基準を満たすことに確信が持てるだろうか?
シンジケートで馬を所有していたシュプリームホースレーシング(Supreme Horse Racing)の破産も記憶に新しく、馬主登録に関する幅広い課題、より正確に言えば競馬統轄機関が馬主登録を規制する方法は、ますます注目の話題となっている。
競馬界においてたびたび見られるように、投げ掛けられた疑問について十分に議論していない可能性もある。
競馬界は概して、"見て見ないふりをする"という兆候を見せる病気に罹っている。
とりわけ馬主登録に関しては、競馬統轄機関は個人・団体がどのようにして競馬に投資することを計画しているかについてもっと精査すべきである。馬主登録申請者が他の誰かのカモにされていることがあるのでなおさらである。極めて重要なことだが、馬主としての適格性は倫理観ともっと関連付けられるべきである。人物の名前をグーグルで少し検索するだけで疑念が明らかになることもある。疑念が明るみに出た時に、その人物が著名な馬主や影響力のある馬主と結びついているかどうかは全く無関係である。
競馬界は新たな馬主を渇望している。しかし、日本だけではなくどこであろうと、誰もが馬主登録申請できるわけではないことを明確にすべきである。By Lee Mottershead
(1ユーロ=約120円、1ドル=約110円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2019年No.46「フェニックス・サラブレッズ社、資金洗浄とファンド清算の疑惑(国際)」、No.45「BHA、相次ぐシンジケートの破綻をうけて規制強化を検討(イギリス)」
[Racing Post 2019年12月2日「Integrity the watchword for strict ownership regulations in Japan」]