最も多額の賞金を稼いだのはどの競走馬か?(国際)【その他】
馬が現金を手元に残しておくことができるならば、世の中には大富豪とも言うべき馬がいるだろう。
馬は純粋に走ることが好きで競走して馬房で暮らし続けるが、馬を出走させる者はとてつもなく裕福になる可能性がある。それにトップクラスの競走馬の馬主は、すでに大金持ちである場合が多い。しかし"ちりも積もれば山となる"である。よく稼ぐ競走馬が、見るからに満足げな関係者の銀行口座を一杯にしてきたのは確かである。
最強馬がいつも最多賞金獲得馬になるとは限らない。たとえばフランケルはかなりの額、すなわち299万8,302ポンド(約4億1,976万円)を獲得したが、それはアロゲートが獲得した競馬史上最多賞金の4分の1にも満たない。アロゲートは世界最高賞金レースのうち3つを制したが、フランケルが制した最も賞金の高いレースは2012年英チャンピオンS(G1)であり、その優勝賞金は73万7,230ポンド(約1億321万円)であった。しかしこのレースは当時も今も、賞金額の面では他のレースに負けている。
以下の表は「世界最多賞金獲得馬ランキング」である。欧州勢では欧州最多賞金獲得馬すらも含まれていない。賞金獲得額はすべて、そのレースが施行された当時のレートでポンドに換算されていることに留意してもらいたい[訳注:日本馬については、レートの変動やボーナス(褒賞金)を含むか含まないか等で、実際の獲得賞金と差異が生じているが、本翻訳記事ではレーシングポスト紙の数字をそのまま掲載した]。
第1位:アロゲート(2013年4月11日生)
世界最多賞金獲得馬のアロゲートはもちろん、米国最多賞金獲得馬でもある。
さらに、2016年と2017年には世界最高レーティングを獲得した。カリド・アブドゥラ殿下のジャドモントファームの所有馬であるアロゲートは、"ビッグマネー・マイク"の異名をとるマイク・スミス騎手を背に、4ヵ月間のうちに世界最高賞金レースのうち3つを制した。それは、BCクラシック[G1 優勝賞金:224万ポンド(約3億1,360万円)]、ペガサスワールドカップ[G1 優勝賞金:569万ポンド(約7億9,660万円)]、ドバイワールドカップ[G1 優勝賞金:488万ポンド(約6億8,320万円)]である。
第2位:ウィンクス(2011年9月14日生)
競馬界で2番目に多い賞金を獲得したウィンクスが優勝した最高賞金レースは、優勝賞金がおよそ176万ポンド(約2億4,640万円)の2018年コックスプレート(G1)である。
これは、アロゲートが制したペガサスワールドカップには到底及ばない。しかしアロゲートのピークが短い間だったのに対し、ウィンクスは数年にわたり絶好調を保っている。また、大半の米国人がアロゲートのことを耳にしたことがないのに対し、ウィンクスは豪州において超有名なスターである。2018年にはなんとコックスプレート4勝目を達成した。そしてこの勝利により、同馬の連勝記録は29勝にまで伸びた[訳注:ウィンクスは2月16日のアポロS(G2)で優勝し連勝記録を30勝まで伸ばした]。
第3位:ガンランナー(2013年3月8日生)
大器晩成のガンランナーは、アロゲートと同様にペガサスワールドカップを制したおかげでこのランキングに入った。2018年ペガサスワールドカップ優勝により、同馬の関係者には519万ポンド(約7億2,660万円)相当がもたらされた。ガンランナーは2歳で勝利を挙げ、3歳では見栄えはしないものの堅実な成績を残した。重賞を3勝し、G1・3着内を数回果たして、シーズン最終戦ではG1初勝利を挙げたのだ(同馬は引退までにG1・6勝を達成)。
2017年の4歳シーズンにBCクラシックを優勝したことで、獲得賞金は268万ポンド(約3億7,520万円)追加された。その年、同馬は他にもG1・3勝を果たしたが、皮肉にも3番目に高かった獲得賞金はドバイワールドカップでアロゲートに敗れたときに獲得した2着賞金163万ポンド(約2億2,820万円)だった。
第4位~10位
日本の競走馬は世界最多賞金獲得馬の上位ランキングの常連である。そして今回のランキングも第4位~8位、そして第10位が日本調教馬により占められた。
ジェンティルドンナはジャパンカップ(G1)連覇、ドバイシーマクラシック(G1)と有馬記念(G1)の優勝を含むG1・8勝、そして数々のG1・3着内により1,222万4,036ポンド(約17億1,137万円)を獲得し、このランキングで第4位を確保した。
欧州最高賞金レースである凱旋門賞の勝利にわずかに届かなかったオルフェーヴルは、高額賞金の有馬記念を2勝し、三冠達成を含むG1・6勝を果たし、1,218万5,908ポンド(約17億603万円)を獲得した。
キタサンブラックとブエナビスタはそれぞれ1,145万4,079ポンド(約16億357万円)と1,026万2,876ポンド(約14億3,680万円)を獲得した。そして975万7,292ポンド(約13億6,602万円)を獲得したゴールドシップがこの2頭に続く。
惜しくも米国三冠を達成し損ねたことが世界中で話題となったカリフォルニアクロームは、世界を舞台に安定した成績を残した。ドバイワールドカップを制して400万ポンド(約5億6,000万円)を獲得し、BCクラシックでアロゲートの2着となり70万ポンド(約9,800万円)を獲得した。
2000年に世界最多賞金獲得記録を打ち立てたテイエムオペラオーは今や10位にまで後退した。同馬は3シーズンの現役生活で、845万9,582ポンド(約11億8,434万円)を獲得した。優勝した最高賞金レースは優勝賞金150万ポンド(約2億1,000万円)のジャパンカップ(G1)である。
次に示す表は、欧州の最多賞金獲得馬ランキングである。
欧州第1位:エネイブル(2014年2月14日生)
アブドゥラ殿下は世界最高賞金獲得馬アロゲートだけではなく、欧州最高賞金獲得馬エネイブルを所有する。
エネイブルは凱旋門賞を連覇したことでこのランキングの首位に輝いた。なお、同馬がデビュー戦(ニューキャッスル競馬場での未勝利競走)を勝っていなければ、獲得賞金額は800万7,026ポンド(約11億2,098万円)ではなく、800万4,114.95ポンド(約11億2,058万円)となっていただろう。
欧州第2位:ハイランドリール(2012年2月21日生)
バリードイルの屈強馬ハイランドリールは多くの賞金を稼いだが、とりわけ頻繁に遠征したことで関係者にかなり多くのマイレージポイントをプレゼントした。同馬は拠点としたアイルランドだけでなく、米国・豪州・香港・ドバイ・フランス・英国で出走した。
世界を股にかけて活躍した競走生活のハイライトは、2017年の香港ヴァーズ(G1)2勝目と、優勝賞金150万ポンド(約2億1,000万円)の2016年BCターフ(G1)優勝などである。
欧州第3位:サンダースノー(2014年3月24日生)
サンダースノーはモハメド殿下が所有した最高馬でも、サイード・ビン・スルール調教師が管理した最高馬でも、クリストフ・スミヨン騎手が騎乗した最高馬でもない。しかし同馬がこの三者に多くの賞金をもたらしたのは確かである。
このゴドルフィンのタフな馬がチャーチルダウンズ競馬場でロデオのように跳ね上がり、競走中止となってしまう不運もあった。しかしメイダン競馬場では、2018年ドバイワールドカップなどで4勝を挙げている。冬場にドバイで調教されることで、"本当に欧州調教馬なのか?"という疑義が挟まれる。評価は分かれるところだが、些細なことにはこだわらないでおこう。
競馬以外のスポーツではどうなっているか
スポーツ界の最多賞金獲得者ランキングを見てみよう。これらの目もくらむような金額には、CM出演料や投資が含まれていることに留意しなければならない。マイケル・ジョーダンは、バスケットチームのシャーロットホーネッツの買収・売却により、金庫に大金を収めた。一方ジャック・ニクラスは、相変わらずゴルフで大金を稼いでいるが、最近ではプレーよりもゴルフ場の設計で収入を得ている。
優秀な馬はレースで強くても商才はなく、ジレットやナイキなどとスポンサー契約を結ぶこともない。それでも、優秀な馬の牧場での稼ぎは、現役時代の獲得賞金を大きく上回ることがある。アロゲートの2018年の初年度種付料は7万5,000ドル(約825万円)だったが種付頭数は143頭に上った。2019年種付シーズンには現役時代に獲得した賞金額を上回る収入を得ると見込まれている。
一方エネイブルのような牝馬が、競走引退後に繁殖牝馬となり子孫を繁栄させ続けるのであれば、その価値を金額にするのは大変難しく、おそらく不可能だろう。それでも競走引退後の数年間は、売却でもされないかぎり、繁殖牝馬としての獲得賞金(仔の獲得賞金)が現役時代の獲得賞金額を上回るにはしばらく時間が掛かる。なお、繁殖牝馬の世界最高落札価格は、ベターザンオナー(Better Than Honour)の1,400万ドル(約15億4,000万円)である。
By Lee Mottershead
(1ポンド=約140円、1ドル=約110円)
[Racing Post 2019年1月17日「Which racehorses have won the most money in sporting history?」]