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2019年03月22日  - No.3 - 3

北アイルランド生産界、英国のEU離脱を懸念(イギリス・アイルランド)【生産】


 英領北アイルランドの生産者とコンサイナーは、その産業規模以上の優良馬を生産して市場に送り出している。3月29日の英国のEU離脱を間近に控える中、それぞれに話を聞いたところ、この地域の生産界が健全性を保てるかどうかについて深刻な懸念があった。

 「合意なき離脱」により物理的な国境(ハード・ボーダー)が設けられることは、通過するために長時間待たされた過去の記憶が残る中、最悪のシナリオであるように思われる。

 しかし、北アイルランド産馬はレースで活躍し続けている。2018年コーフィールドカップ(G1)優勝馬ベストソリューション(Best Solution)は、セシル&マーティン・マクラッケン(Cecil and Martin McCracken)両氏により生産された。

 両氏の近くに住むフレッド・マッキー(Fred Mackey)氏は、2018年チェルトナムゴールドカップ(G1)優勝馬ネイティヴリバー(Native River)を生産し、北アイルランドの障害競走馬生産の素晴らしい伝統を継承している。また、他にも以下の北アイルランド産馬がチェルトナムゴールドカップを制している。

  1981年 リトルオウル(Little Owl)

  1982年 シルバーバック(Silver Buck)

  1987年 ザシンカー(The Thinker)

  2000年 ルックスライクトラブル(Looks Like Trouble スティーヴン・リール氏生産)

  2013年 ボブズワース(Bobs Worth ファーマナ州のロイス・イーディー氏生産)

 さらに、グランドナショナル(G3 エイントリー競馬場)優勝の北アイルランド産馬は以下のとおりである。

  1988年ライムンリーズン(Rhyme 'N' Reason)

  1989年リトルポルヴェイア(Little Polveir)

  2002年ビンダリー(Bindaree ノエル・キング氏生産)

 これまで名前の挙がった馬以外に、ボブスリン(Bobsline)、ブレーヴインカ(Brave Inca)、ドランズプライド(Dorans Pride)が、アイルランドサラブレッド生産者協会(Irish Thoroughbred Breeders' Association)の北部賞を受賞している。

生産者:フレッド・マッキー氏

 北アイルランドの2018年の生産頭数はわずか416頭だったが(繁殖牝馬は715頭)、約390名の生産者は次のダービー馬やグランドナショナル優勝馬を送り出すことを目指している。

 これらの数字はアイルランド全体のおおよそ5%の規模だが、北アイルランド生産界は昨年3月に、多少の努力でチェルトナムゴールドカップ優勝という快挙を成し遂げられることを示した。

 ダウン州にある生産者フレッド・マッキー氏とその妻モーリーン氏の家の玄関口には写真が掛けられていて、そこには、囲い放牧地にいるフレッド氏と一緒に繁殖牝馬4頭とその仔馬が写っていた。

 それらの繁殖牝馬は左から順に次の通りである。①スプリームノヴィシズハードル(G1)優勝馬トゥーリストアトラクション(Tourist Attraction)の半妹チャーミングモー(Charming Mo 父カラーニッシュ)、② G2・3着内の障害競走馬ウィングスオブスモーク(Wings Of Smoke)の母である未出走馬グレイモー(Grey Mo)、③チェイス競走5勝馬ログオンインタースカイ(Log On Intersky)の母アークティックモー(Arctic Mo)、④ そしてこの4頭の中で最も重要な2018年チェルトナムゴールドカップ優勝馬ネイティヴリバーの母ネイティヴモー(Native Mo)。

 ネイティヴリバーは、30年間競走馬生産に携わってきた酪農家マッキー氏が初めて送り出したチェルトナムフェスティバル出走馬だった。同氏にとって、ブレグジット(英国のEU離脱)は何よりも不都合なものとなりうる。

 マッキー氏はこう回想する。「以前国境があった頃は、仔馬を連れて行くと、同じように仔馬を積んだ馬運車が5台ほどいたものです。書類に記入・署名して通過するまでに2時間かかることもありました。馬や動物を連れていなくても、気が変になります。順番が来るまでじっと待たなければなりません」。

 「時間の浪費となるので、物理的な国境(ハード・ボーダー)にはうんざりです。生産者は北部には十分な種牡馬がいないので、依然として南部の種牡馬を使うでしょう。ハード・ボーダーが設けられれば不便となり、金銭的な損失があるでしょう」。

種牡馬管理者:ヒュー・サファーン氏

 マッキー氏の牧場から少し車を走らせると、ヒュー・サファーン(Hugh Suffern)氏のタリーレーンハウススタッド(Tullyraine House Stud)がある。そこには北アイルランドで唯一のサラブレッド種牡馬コンデュイットがおり、同馬はこの春のネイティヴモーの相手に選ばれている。

 サファーン氏はブレグジット、そしてブレグジットが北アイルランドの生産界に及ぼす影響について率直に考えを述べた。同氏の生産馬には、G1・6勝馬ドランズプライド(Dorans Pride)、トップクラスのノヴィス競走優勝馬ハーコン(Harcon)、才能あるハードル馬プレミアビクトリー(Premier Victory)などがいる。

 サファーン氏はこう語った。「ブレグジットはアイルランド島にとって恐ろしく面倒な事態です。北アイルランドがEUを離脱すれば、国境が設けられるでしょう。論理的に、それ以外は考えられません」。

 「政治家たちはバックストップ(訳注:英国のEU離脱後も、英領北アイルランドとアイルランドの間に厳しい国境管理を復活させないための安全策)などについて議論していますが、私たちが置かれている状況に論理的な解決策は他にありません。北アイルランドの有権者の過半数は、ブレグジットに反対する投票をしました。私たちはアイルランドの歴史において最も平和な20年間を経験していました。しかしここへきて、再び壁が築かれようとしています」。

 「アイルランドの南北間で、年間7,000頭以上の競走馬が行き来しています。それに、他の馬スポーツのために少なくとも同じ頭数が移動しています。たとえ最も基礎的なチェックが行われることになっても、時間遅延・分断・経済的負担を生じさせるでしょう。それは、現在かろうじて収支を合わせている生産界に困難を強いることになります」。

 スファーン氏は、北アイルランドでは種牡馬管理者が支援を受けていないことについても批判的である。

 「私たちは25年前、年に一度地元馬を宣伝するキャンペーン"ザ・ノーザン・スタリオン(The Northern Stallion)"を発足させました。その当時、北アイルランドの供用種牡馬として25頭が宣伝されていましたが、今は1頭しか供用されていません。これは長年にわたり、サラブレッド産業の育成・維持のために地元政府が財政支援を行う仕組みがなかったことを示しています」。

 コンデュイット(父ダラカニ)は種付料1,500ポンド(約22万円)で供用されている。同馬は、英セントレジャー(G1)・キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)を制したほか、BCターフ(G1 サンタアニタ競馬場)を連覇し、世界を股にかけた華々しい競走生活を過ごした。その後、日本のビッグレッドファームで種牡馬として6年間供用された後に帰国し、現在タリーレーンハウスを拠点としている。北アイルランドにおける初年度産駒は今年2歳である。

 サファーン氏はこう語った。「コンデュイットはとてもタフな競走馬で、2シーズンにわたりG1競走で安定した成績を収めました。産駒の多くはコンデュイットの立派な体格と気性を受け継いでいます。これらの産駒が勝負強さも受け継いでいることを望みます」。

 「これまでのところ、日本においてコンデュイット産駒の勝率は高く、2頭が格上の障害競走を制しており健闘しています。コンデュイットが、優秀なバンパー競走馬や、ハードル競走とポイント・トゥ・ポイント競走で早熟な才能を見せる馬を送り出すと考えています」。

ポイント・トゥ・ポイント競走調教師:コリン・マッキーヴァー氏

 住民の55.8%が英国のEU残留に投票した北アイルランドは、ポイント・トゥ・ポイント(アマチュアジョッキーによる障害競馬)の競走馬を毎年安定して生産しており、高いレベルで成功し続けている。

 コリン・マッキーヴァー(Colin McKeever)氏は、ランモアステーブル(Loughanmore Stables)のウィルソン・デニソン(Wilson Dennison)氏のためにポイント・トゥ・ポイント競走馬を調教している。マッキーヴァー氏は、2010年チェルトナムゴールドカップ優勝馬インペリアルコマンダー(Imperial Commander)を筆頭とする数々の優良馬を手掛けてきた。同氏はゴフス社のセリで同馬を1万9,000ユーロ(約238万円)で購買し、初出走前にエージェントのケビン・ロス(Kevin Ross)氏に個人的に売却した。

 マッキーヴァー氏はこう語った。「ブレグジットが我々にどのような影響を及ぼすかについて述べることはほとんど不可能です」。

 「毎週日曜日にポイント・トゥ・ポイント競走へ馬を出走させるために国境を通過するときに、どのような手順を踏まなければならないのか分かりません。昔は一時出国届だけを出さなければなりませんでした。同様のものが導入されるかもしれません。それが定着するには時間が掛かるでしょう。最初は影響があるかもしれませんが、そのうち慣れるでしょう」。

 「11月と12月のチェルトナムセールのときは、大型トラックを運転してダブリンまで南下し、フェリーで海を渡ってホーリーヘッドに向かいました。今後はどのような経路を辿るのか分かりません。また、フランスからも1歳馬を購買しています」。

 マッキーヴァー氏が手掛けた馬はここ数週間で目覚ましく活躍している。ティレラ競馬場の未勝利戦を制したバーチデール(Birchdale)は、チェルトナムトライアルデーでバリーモアノヴィスハードル(G2)を制した。また、元ポイント・トゥ・ポイント競走馬で昨年パンチェスタウンゴールドカップ(G1)を制したベルシル(Bellshill)は、アイリッシュゴールドカップ(G1)で優勝した。

 マッキーヴァー氏が管理した他のG1馬には、チャンピオンバンパー(G1)を制したバリーアンディ(Ballyandy)とブライアーヒル(Briar Hill)、RSAチェイス(G1)優勝馬ブラクリオン(Blaklion)とレパーズタウン競馬場のG1優勝馬バリーケーシー(Ballycasey)がいる。

容易な解決策はない

 ブレグジットが突きつける問題には打開策はなさそうだが、南北間のアクセスのしやすさが維持され、北アイルランドのサラブレッド産業を支援するような解決策が望まれる。

 アイルランド全体において、この10年間で生産者数は33%減少し、繁殖牝馬数は26%減少した。一方、北アイルランドの生産者数・繁殖牝馬数はいずれも約50%減少し、生産頭数は約48%減少した。

 これらの数字は低迷しつつある産業の実態を示している。しかし、北アイルランド産馬のレースでの活躍は、豊富な成功の伝統のある地域に依然として希望があることを暗示している。

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By Ollie O'Donoghue

(1ポンド=約145円、1ユーロ=約125円)


(関連記事)海外競馬ニュース 2015年No.38「コンデュイット、障害競走の種牡馬として北アイルランドに移籍(イギリス)」

[Racing Post 2019年2月20日「Brexit uncertainty and anger among industry figures north of the border」]


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