ジョッキークラブ、サンタアニタの予後不良頻発を受け報告書を発表(アメリカ)【開催・運営】
米国ジョッキークラブは3月28日、米国競馬産業の包括的改革を要求する公式報告書を発表した。この報告書は"薬物治療・怪我および全競走馬の健康の情報公開度"に言及し、薬物使用の徹底調査・一律の競技外検査などを包括的改革として挙げている。
この報告書『競馬が繁栄するためには包括的な改革が必要(Vision 2025 - To Prosper, Horse Racing Needs Comprehensive Reform)』は「http://jockeyclub.com/pdfs/vision_2025.pdf」でダウンロードできる。さらに情報を求める場合は、ジョッキークラブあるいは競馬公正連合(Coalition for Horse Racing Integrity)のウェブサイトを参照されたい。
カリフォルニア州のサンタアニタ競馬場で3ヵ月弱の間に22頭もの競走馬が予後不良となったことを受けて、この報告書は発表された(訳注:3月31日のサンシメオンS(G3)で故障して予後不良となった馬を含むと合計23頭となる)。ジョッキークラブは「サンタアニタで頻発した予後不良事故を珍しいケースであると考えるのは誤りでしょう。このような事故は他の競馬場でも急増しており、大きな改革が行われることなくそのような事故が続いています」と記している。
ジョッキークラブは競馬産業における薬物使用にとりわけ批判的であり、こう述べている。「不適切な薬物使用は、馬の怪我や死に直結する可能性があります。馬は体調不良でも人間のように話すことはできず、症状として露呈します。その症状が隠されていれば、悲惨な結果となりえます」。
「私たちは不正者や乱用者に出し抜かれており、巻き返す頃には、彼らは別の巧妙な薬物を使用するようになっています」。
ジョッキークラブは、現在提案されている2019年競馬公正法(Horse Racing Integrity Act of 2019, H.R. 1754)に言及し、連邦法として成立することに強い支持を表明した。同法は、民間の独立した競馬反ドーピング機構を設立し、この機関が全国レベルの反ドーピング・薬物規制プログラムを推進し運営する責務を担うことになる。このプログラムは、米国反ドーピング機関(United States Anti-Doping Agency: USADA)により管理されるだろう。USADAは、オリンピックの米国代表チームなどへの同様のプログラムを管理している。
ジョッキークラブの理事長兼COOのジェームズ・L・ギャグリアーノ(James L. Gagliano)氏はこう語った。「不正者はこれまで制度を悪用してきました。大半の場合、馬が苦痛を被ります。特に気掛かりなのは、米国で競技外検査がごくわずかな回数しか行われていないことです。米国競馬界は国際水準に到底達していません。今こそ、米国は競走馬の健康と安全を最良の方法で保護すべく、他の国々の仲間入りを果たすときです」。
薬物の使用・監視方法についての改革に加え、ジョッキークラブは競走馬の健康に的を絞った以下の改革を要求した。
• 馬場の分析の強化
• レース中・調教中に生じた全ての怪我の報告
• レース前の獣医師によるさらに包括的な検査の実施
• 承認済みの薬物のみの使用
• 調教可能な健康状態であるかの確認
• 競馬産業全体による馬のアフターケアへの貢献
ジョッキークラブは報告書にこう記している。「予後不良事故の急増の真の原因は究明できるでしょうか?競馬産業に変化がない限り、おそらく無理でしょう。変化の鍵となるのは、全競走馬の薬物治療・怪我および健康について完全な透明性を要求することです。現在、私たちは馬に生じていることを把握しきれていません。なぜなら、州・競馬場により異なる措置や時代遅れの慣行、それにどの薬品をいつ投与したかについて意図的なごまかしがあるからです」。
ジョッキークラブは北米の血統登録機関である。125年前に創設されて以来、競馬の公正性・健康・安全性を向上させることに重点を置き、サラブレッドの生産とレースの改善に努めてきた。ジョッキークラブは、"薬物の効果が消滅した後でなければ馬は出走できない"との考えを長年持ち続けてきた。
サラブレッド安全委員会、事故の頻発を受けて勧告を早期発表
サラブレッド安全委員会(Thoroughbred Safety Committee:TSC)は3月27日、競走馬の健康・福祉・安全をさらに改善するために、新たに4つの勧告を発表した。
それらの勧告は以下のとおりである。
・ ラベルの説明書と合致しない方法でのビスフォスフォネート(骨吸収抑制薬。骨粗鬆症の治療薬の1つ)使用の回避。現役馬へのビスフォスフォネート使用は馬の年齢にかかわらず中止。
・ 全ての競馬管轄区は常勤の馬医療担当者を雇用。
・ 全ての競馬協会と規制担当理事は、馬の健康に関する追加データを記録。あるいは、それらのデータの収集源を"事故馬データベース(Equine Injury Database)"の分析に役立てられるように提供。
・ 関連資料や緊急時の対応人材一覧など、危機に直面した際の競馬産業に適した最善の対応策の確立。
これらの勧告は、3月19日のTSCの会合を経て結論付けられたものである。勧告全文はジョッキークラブのウェブサイトで閲覧できる。
TSCの会長を務めるブリーダーズカップ協会(Breeders' Cup Ltd.)のクレイグ・フレイヴェル(Craig Fravel)理事長はこう語った。「TSCの勧告は常に、競馬とその公正性、競走馬の福祉・安全を最優先にしています。いつもはジョッキークラブ円卓会議(Jockey Club Round Table Conference)で勧告を発表していますが、カリフォルニア州で生じた最近の事故とそれに対する競馬産業からの反応に対応するため、早期にこの勧告を発表します」。
米国ジョッキークラブの理事長兼COOのジェームズ・L・ギャグリアーノ氏はこう語った。「競馬産業はカリフォルニア州で最近予後不良事故が頻発したことを受けて、積極的な改革を行っています。TSCの勧告はそれを補完するものです。ジョッキークラブは、競馬産業とストロナックグループが取り組んでいる改革を全面的に支持します。3月28日(木)のカリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)の会合では、そのことを表明するつもりです」。
ギャグリアーノ氏は、現在取り組まれているこれらの改革は全て、最近連邦議会に提出された2019年競馬公正法を補完するものだと指摘し、こう付言した。
「実際のところ、最近頻発した予後不良事故の話題でもちきりになったのは、統一された規制構造が切実に必要とされているからです」。
「この法案に基づき設立される機関のもと、しっかりとした全国的な競技外検査プログラムによって、ビスフォスフォネートが乱用されているかもしれないケースが発覚しやすくなると考えてよいでしょう。ただ、その規制構造がまだ確立していません」。
2008年5月設立のサラブレッド安全委員会(TSC)は、馬の健康のあらゆる面を評価し、サラブレッドの健康と安全を向上させるために競馬産業が取れる行動を勧告することを目的としている。TSCは、多種多様な安全問題を検討するために産業内のさまざまな分野の代表者たちを召集する。それには騎手、調教師、獣医師、化学者、血統専門家、ハンデキャッパー、馬主、生産者、装蹄師、競馬統轄機関の理事、競馬場の役員、遺伝学者などが含まれる。
TSCのメンバーは次のとおり。クレイグ・フレイヴェル氏(会長)、ジョン・バー(John Barr) 氏、ジェームズ・ベル(James Bell)氏、ラリー・ブラムラージュ(Larry Bramlage)博士、デル・ハンコック(Dell Hancock)氏、クリス・マッキャロン元騎手、ハイラム・ポーク(Hiram Polk)博士。全員ジョッキークラブのメンバーである。
By Blood-Horse Staff
[bloodhorse.com 2019年3月28日「The Jockey Club Calls for Comprehensive Reforms」、
3月27日「Safety Committee Announces 2019 Recommendations」]