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2019年05月22日  - No.5 - 5

サラブレッド産業が中国から投資を引き付けるための提言(イギリス)【生産】


 中国からの投資が行われる。それも極めて大きな規模で。しかしそれは、英国とアイルランドのサラブレッド産業がその投資を促進するために本質的な変化を遂げた場合にかぎる。

 ハッとさせられるような前提条件である。しかしこの前提条件は、英国とアイルランドでサラブレッドの生産・売買に関わりたい素振りを見せる人々の関心をかき立てるに違いない。香港に本社を置くベンチャーキャピタル(投資会社)、グローバルグループ(Global Group)の創設者兼会長であるジョニー・ホン(Johnny Hon)氏は、英国競馬界で馬主として頭角を現しつつある。同氏は、「市場は拡大しうるが、変化なしでは実現しない」という確固たる理論を持っている。

 香港生まれのホン氏は、英国で教育を受け、ケンブリッジ大学ヒューズホールカレッジで精神医学の博士号を取得した。同氏の黒・黄・赤の勝負服は、主戦のジェラルド・モッセ騎手がよく着用しており、英国の競馬場において次第に馴染のあるものとなってきている。

 現在、ホン氏の所有馬は30頭に上り、以下の馬が含まれる。

・グローバルスペクトラム(Global Spectrum 父ダッチアート)

 ガイ・ケルウェイ(Gay Kelleway)調教師が管理する3歳牡馬。ケンプトン競馬場で2勝した後、2月にカタールのアルビダーマイル(芝1600m)を制した。

・グローバルプロスペクター(Global Prospector 父スキャットダディ)

 クレイヴン・ブリーズアップセールにおいて80万ギニー(約1億1,760万円)で購買。ウォルヴァーハンプトン競馬場でデビュー戦を圧勝したが、4月19日のバース競馬場のレースで早くにスタート地点に向かったところ、発走が遅れて30分待たされるという不運に遭った。

 極東出身だが英国と英国競馬にただならぬ情熱を持つホン氏は、文化的な相互作用に細やかな注意を向けている。そして中国の富裕層顧客からの資本流入をせき止めていると考えられる要因として、以下の2点を挙げている。

 ホン氏は第一に、サラブレッド産業の古い習慣と、投資家からの信頼を確かなものにするための近代化の必要性を指摘した。同氏が古い習慣と考えるものは改善されつつあるとは言え、その動きは遅い。

 ホン氏は第二に、顧客の感じ方に関する文化的相違を引合いに出した。そして、顧客を不快にさせかねないほどの馬売買仲介業者の熱心さが、もっとさりげない環境で商取引を行うことに慣れている人々を遠ざけてしまいかねないことについて巧みに言及した。

 「金融行為規制機構(Financial Conduct Authority)が投資市場に対して行っているように、サラブレッド産業も規制されるべきだと考えます。何においても情報公開性を高めなければならず、売り手と買い手の双方に適切な配慮をすべきです」。

 「潜在的馬主に開示する情報に対して、各自が一層責任を持たなければなりません。そして情報開示はもっと規則に従ったものであるべきです。価格のつり上げを防ぐために、誰がその馬に入札しているかを知る必要があります。たとえば、従来の入札方法を継続しながら電子入札も導入することは、やってみる価値のある補強となるでしょう」。

 「そして馬売買仲介業者側にも、情報公開性を高めることが求められています。購買者はその馬の正しい市場価値に対してお金を支払っていると確信する必要があります」。

 「また、潜在的購買者に対して適正評価がもっと行われるべきだとも考えています。英国で銀行口座を開く場合、あるいは株を購入する場合、資金拠出元に対して適正評価が行われます。競馬界では同様のことが行われておらず、それは馬売買のシステムに危険をもたらす可能性があります」。

 「金融市場のようにするためにシステム全体をグレードアップする意思があることは分かります。情報公開性が高まれば、より多くの人々に対して市場を開くことができます」。

 ホン氏は馬売買仲介業者のアプローチについて、こう語った。「英国に馬を購買しに来る友人は、馬売買仲介業者は彼らをターゲットすることに積極的すぎると感じています。多くの外国人の顧客は、あまりにも積極的に馬を売ろうとする人々にターゲットとされることを快く思っていないようです」。

 サラブレッドを自ら生産することを心の底から願っているホン氏は、8月に3つのレーシングクラブを立ち上げて目下の関心の対象を広げる計画である。同氏は、潜在的な中国人投資家と英国・アイルランドの競馬産業・生産界の間の双対関係を明らかにしながら、2つの主題について話し続けた。

 そして、中国市場における英国の文化遺産の魅力に言及し、英国の魅力をもたらし続けるより広い領域にアクセスするための媒体として、競馬を挙げる。また、中国本土における競馬の成長について、ざっくばらんに語った。さらに、インフラが投資家の信頼を引き付けるほど十分しっかりしているかぎり、この成長が実入りの良い英国・アイルランドのサラブレッドの輸出市場を作り出す可能性があることにも言及した。

 ホン氏はこう語った。「弊社は1万5,000人もの富裕層顧客を持ちます。私たちはライフスタイル投資に対して彼らの関心を引き付けようとしており、競馬はその1つです。人々は投資することを望んでおり、英国での体験は素晴らしいものです。フランスや香港でも馬を所有して走らせることはできますが、ロイヤルアスコット開催などの英国の伝統ある競馬開催に勝るものはないでしょう」。

 中国本土における競馬については、香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club)が4月に完成したばかりの従化競馬場(広州市)で初めて競馬を開催した。一方、海南島で競馬を開始する計画も4月上旬に発表されている。

 賭事合法化に向けての動きは依然として敬遠されているが、ホン氏はこの賭事全面禁止が急成長すると見込んでいる産業の発展を妨げるとは考えていない。

 ホン氏はこう続けた。「中国には11の競馬場が建設されています。賭事が合法化されてもされなくても、優良馬を購買したいと考える人は増えていくでしょう。人々は互いに競うために一層優秀な馬を購買することを望んでいます。そして、これらの馬を見つけるのに絶好の場所が英国なのです」。

 ホン氏の予測は、サラブレッドで生計を立てている人々に自信を持たせるはずである。

 しかし、サラブレッド市場は広範囲の経済変動や政治的変動から(少なくとも最上級層については)免れ続けているが、この安定性は主に少数の中東の大規模投資家によりもたらされているのが事実である。

 そのため、ホン氏のメッセージと近代化へのアピールは、変化を後押しする立場の人々にとって、核心を突いていると思われるはずである。一方、サラブレッド取引の観点から、英国・中国の双方にとって有益な関係の発展を見たいという純粋な欲求の中に、同氏の全体的なエートス(性格・気質)を見出すことができる。

 ホン氏はこう語った。「他国での中国の投資を考えてみれば分かるように、サラブレッドへの投資は大きなものとなるでしょう。これまでの投資は氷山の一角にすぎず、もっと多くの投資が行われるでしょう。人々はただ、公平な取引ができ、規制を行う管理体制が整っていることを実感したいと思っています」。

 ホン氏は将来について、こう上手くまとめた。「調教師、馬売買仲介業者そして馬に関わる全ての人々に言いたいと思っていることは、私たちがサラブレッド産業を近代化すれば、この産業に入ってくる資金の規模はもっと大きく膨れ上がるということです」。

 確かに、これは考慮するに値するだろう。

By Chris Humpleby

(1ポンド=約140円)

[Racing Post 2019年5月1日「'What you have seen so far is the tip of the iceberg―there is plenty more to come'」]


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