世界で最も不思議な競馬10選(国際 前編)【その他】
世界のあらゆるところで、競馬は多種多様な形態で実施されている。しかし、この「世界で最も不思議な競馬10選」に入ったレースの多くは、極めて異様な競技である。それでも、いくつかの例外はあるものの、正規ルールの下で施行されているか、もしくは一応は"従来の"競馬番組に含まれている。これらの競技はれっきとした競馬であり、インディアンリレー(④)などは、エメラルドダウンズ競馬場やカンタベリーパーク競馬場のような従来の競馬場で開催されている!もちろん、他のレースはそうではない。だからと言って、パリオディシエナ(⑥)をこのリストから除くことを本当に望みますか?
① スキージョーリング(スイス)
凍った湖の雪上で行われる平地競走に飽き足らないのであれば、毎年2月にサンモリッツで行われる"ホワイトターフ(雪上競馬)開催"において、思いも寄らない形態で施行されるもう1つの競馬、スキージョーリングを観戦することをお勧めする。この競走では、スキーを履いた"騎手"が馬に引っ張られながらも、舵取りを行う。水上スキーを考えてみてほしい。それが、水上ではなく雪上で、ボートではなく馬を使って行われているのだ。
競技名「スキージョーリング」はノルウェー語から派生したもので、「スキードライビング」の意味である。1901年ノルディックゲームズ(ストックホルム開催)では、トナカイがその場の雰囲気を盛り上げる中、この競技は正式種目として開催された。
米国で施行されるスキージョーリングは、開拓時代の米国西部地方を思わせる騎乗スタイルとスラローム(スキーの回転競技。多数の旗を二本ずつ立て、その間を通り抜けて時間を競うもの)を組み合わせたようなものである。これも様々なウィンタースポーツの開催場で人気を博しており、ミネソタ州のカンタベリーパーク競馬場では直線レースが行われている。
しかしサンモリッツでは、平地競走と同じサーキットに置かれた発馬機から各馬はスタートし、手綱に掛けられた旗(馬主ごとに色が定められている)によって見分けられる。2010年には、英国最多勝トレーナーのマーク・ジョンストン調教師の管理馬リュベロン(Luberon)が3着となっている。この競走結果はどうしたわけか、リュベロンの生涯競走成績には記載されていない。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=J6Pw353tNnI
② ばんえい競馬(日本)
ばんえい競馬は、1世紀以上前の馬による農作業が起源である。この競技は、"世界最強の男(World's Strongest Man 毎年恒例の世界最強の男性を決定する力自慢大会)"などでよく用いられている"トラック引き"を、奇妙なことに馬が行っているようなものだ。
ばんえい競馬は、日本の"ホース・アイランド"である北海道の帯広市郊外の競馬場でしか施行されていない。体重がサラブレッドの2倍あるドラフトホースが、2つの山がある200mの砂の直線コースを重いそりを引きながら進む摩訶不思議なレースである。騎手は平地競走で着るような勝負服を身に付け、そりの上で馬をコントロールする。競技馬は発馬機の幅の広いゲートを出て、レーンに沿って歩き続ける。負担重量は、通常の競馬と同様の方法で割り当てられ、牝馬や若年の馬にアローワンス(減量特典)がある。競技馬は、このレースのために生産されたペルシュロン・ブルトン・ベルジアンの純血種あるいは混血である。
スピードよりもパワー・持久力が重視される。競技馬は通常、第1号障害(山)を越えた後、第2号障害、すなわちばんえい競馬の見所として知られる急な山に挑戦する前に一休みする。レースは約2分間に及び、観客はコースのそばを歩きながら観戦することができる。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=x8cHMzgUt3c
③ オマック・スイサイドレース(アメリカ)
オマック・スイサイドレースは、毎年8月にワシントン州のオマック・ロデオ大会(Omak Stampede)における競技の1つとして開催され、"世界的に有名なスイサイドレース(World Famous Suicide Race)"として宣伝されている。この"カウボーイとインディアンのレース"は、険しい山を猛スピードで駆け下りる見所があることで有名だ。競技馬はその傾斜62度の急坂を約225フィート(約69m)駆け下りてオカノガン川に向かい、その川を渡ってから、ロデオ会場までの道のり500ヤード(約457m)を猛スピードで走り切る。
乗り手はヘルメットとライフジャケットの着用を義務付けられる。このレースはネイティブアメリカンの土地で開催され、その文化保護の観点から特に重要視されている。第1回開催は1935年。先住民のエンデュランスレースから着想を得ており、馬に乗る戦士の伝統を反映している。
このレースの精神的な側面に熱心な乗り手たちは、スウェット・ロッジ(ネイティブアメリカンの儀式のための小屋)で祈りを捧げ、騎乗馬に神聖な鷲の羽根を置く。しかし、かなり頷ける理由により、スイサイドレースは動物愛護団体によって好まれるレースではない。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=ei9C4-h8iow
④ インディアンリレー(アメリカ)
ワシントン州からミネソタ州までの地域で行われる様々なネイティブアメリカンフェアの中でも極めて重要なイベントであるインディアンリレーは、"先住民居住地での最もエキサイティングなレース"と言われてきた。チームは1人のライダー(rider 先住民の身なりで髪飾りを付ける。顔にペイントすることもある)と馬3頭、2人のホルダー(holder 次に走る馬を押さえておく人)および1人のマガー(mugger 走り終えた馬を捕まえる人)で構成され、名誉と賞金を手に入れるために戦う。
ワイオミング州のシェリダンロデオ(Sheridan Rodeo)で開催された"ワールドチャンピオンシップ"では、満員のグランドスタンドの前で発走し、裸馬に跨った騎手は1周すると馬から飛び降りて、次の馬に飛び乗り、3頭で合計3周を回るまでその動きを繰り返す。他の有名なインディアンリレーには、モンタナ州ビリングスのクロウフェアで開催されるものや、ワシントン州ワラワラのチャンピオンシップオブチャンピオンズがある。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=6TWUwy6_KNI
⑤ モンゴルダービー(モンゴル)
チンギス・ハーンが1224年に開発した馬の伝達システムをモデルにしているモンゴルダービーは、"地球上で最も長くて過酷なレース"と言われるエンデュランス競走である。
このレースは、"ジ・アドヴェンチュアリスト(The Adventurist)"と名乗る英国の慈善団体によって2009年に創設された。10日間続くこのレースは、モンゴルのステップ草原の1000kmにも及ぶ古い馬の伝達ルートを再現する。このコースの特徴は、山岳路・谷・河川横断・湿地帯・砂丘・平原が豊富にあることだ。
1日13~14時間を馬上で過ごす"特権"のために1万1,375ポンド(約159万円)を支払い、モンゴルの半野生馬の一団とコンビを組み、道中のさまざまな区間に位置するホースステーションで騎乗馬を替える。完走できるのは参加者の50%ほどである。
2009年、英国障害競走界のレジェンドであるリチャード・ダンウッディ氏はこのレースを完走できなかった。発走したものの、BBCのダンスコンテスト番組『ストリクトリー・カム・ダンシング(Strictly Come Dancing)』への出演のために呼び戻されて、早い段階で離脱しなければならなかった。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=PK3SpdIXvD4
By Nicholas Godfrey
(1ポンド=約140円)
※「世界の最も不思議な競馬10選(国際 後編)」は次号に掲載予定。
[Thoroughbred Racing Commentary 2019年3月17日「Are these the world's ten strangest horse races?」]