世界で最も不思議な競馬10選(国際 後編)【その他】
⑥ パーリオ(イタリア)
一度見たら、二度と忘れられないだろう。パーリオ・ディ・シエーナ(シエーナのパーリオ)を観戦すれば、馬上槍試合・野外歴史劇が行われ、数世紀にわたり隣人同士が激しく対立していた中世にタイムスリップしたような気持ちになる。絵葉書のようなトスカーナ州シエーナの中心にある外周わずか334フィート(約102 m)の広場で開催される"あり得ない"競馬の中に、その中世の情景は詰まっている。
シエーナの17のコントラーダ(地区)を代表するファンティーニ(騎手)は、鞍を装着していない混血馬に乗り、カンポ広場を猛スピードで3周するのだから何でもありだ。このレースのために、凸凹の敷石道には土とマットの層が敷かれる。
数日間の予選の後に出走馬10頭が選抜されて、地元の教会で無事が祈願される。これらの馬は、コルテオ・ストリコ(歴史行列)のパレードに続いて現れ、パーリオでは数千人もの熱狂する観客を前に危険なコーナーを猛スピードで回る(2つのコーナーは緩衝フェンスが付けられているものの直角である)。
贈収賄はありふれている。鞭や拳で叩くことも明らかに多い。実際、見たところ積極的に促されているようで、ファンティーニは騎乗馬だけでなく他馬に対して鞭を使うことができ、放馬となった馬もまだ勝つチャンスがある。このスリリングなレースは年2回(7月2日と8月16日)施行されている。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=3_yGZhZItVo
⑦ レイク・チェイス競走(ドイツ)
ドイツでは障害競走は年25回未満しか施行されていない。しかし、そのような切り詰められたプログラムの中に、"水濠障害競走(シージャグドレネン)"もしくは"レイク・チェイス競走"と呼ばれる奇抜な固定障害競走が含まれている。その競走において、出走馬は水壕を走り抜けるかあるいは泳がなければならない。
レイク・チェイス競走は年4回施行される。中でも、7月にバートハルツブルグ(ニーダーザクセン州)のフェスティバルで施行される2レースがよく知られているようである。とは言うものの、出走馬は通常水壕をわたるときに水しぶきを上げるだけである。ハンブルク競馬場のほうが水壕が深く、ドイツダービー(7月第1日曜日)の時期には、馬は水壕をわたるのに少し犬かきをしなければならない。クヴァーケンブリュック競馬場でも9月のポイント・トゥ・ポイント競走開催日にレイク・チェイス競走が施行されている。
レイク・チェイス競走の結果は公式の過去成績に記載されているが、率直に言えば、それが通常のレースの成績とどのように関連するのか誰にも分からないだろう。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=N8oOSoR2l6Y
⑧ ビーチレーシング(アイルランド・スペイン)
これまで何度もビーチレーシングを見ていたとしても、プロ騎手と普段から活躍するサラブレッドが参加する本格的なビーチレーシングがルールに則って施行されているのを見れば、驚きで息をのむだろう。
ダブリンの約30マイル北の海岸にある町レイタウンは、1868年から有名なビーチレーシングを施行している。現在年に1度行われている現実離れしたビーチレーシングは、柵・ウィニングポスト・ハロン棒が水面と陸地の境界に立てられ、コースがどこからともなく現れるようだ。隣接する場所にブックメーカー・テント・飲食店が設置され、活気のない漁村はこの独特なレースを見るために来た数千人もの熱心な訪問者により活気づく。今年は9月11日に開催予定。
また、オメイ島(コネマラの西端)のビーチでは、10代の騎手によるポニー競馬が施行されている。アイリッシュタイムズ紙はこの競馬を、"ピンヒールよりもサンダル、ロゼ・シャンパンよりも素朴なピクニックを好む人々のためのゴールウェイにおける格好のレジャーである"と表現している。
スペインでも、レイタウンのビーチレーシングに匹敵する競馬がサンルカール競馬場で施行されている。この競馬場は、カディスから52 km、グアダルキビール川の左岸(ドナナ国立公園の反対側)に位置する。ここでは本格的な競馬開催(3日間)が2回行われ、大勢の観衆がビーチを埋めつくす。これらの競馬開催は毎年、太陽が干潮時に沈む8月の2週目と4週目の金曜日から日曜日に施行される。
【レース映像】
(レイタウン・アイルランド) https://www.youtube.com/watch?v=DJNxW2gwAWE
(オメイ島・アイルランド) https://www.youtube.com/watch?v=2K3i3AL3ik0
(サンルカール・スペイン)https://www.youtube.com/watch?v=HxX5-8OW16s
⑨ ドゥネン干潟競馬(ドイツ)
泥が目に入ってしまう!ビーチレーシングも見ものだが、実際に干潟で行われるレースはいかがですか?それは、ドイツの港町クックスハーフェンの郊外、北海に臨むリゾート地であるドゥネンで行われている。国際的な航路である壮大なエルベ川の河口をバックに、年に一度、混合競馬プログラム(繋駕競走も行われる)が引潮となっている干潟で開催される。約3万人もの観客が7月のこの競馬開催に訪れ、近くにある堤防から素晴らしいスペクタクルが繰り広げられるのを観戦する。
泥の跳ね返りがかなりあるので、騎手たちは用心が必要である。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=Ea0YNiPLTA8
⑩ キプリングコーツダービー(イギリス)
1519年に始まった英国最古のレースとされるキプリングコーツダービーは、毎年3月の第3木曜日に、イーストライディング・オブ・ヨークシャーの小さな町マーケットウェイトンに近い村落で開催されている。午前11時までに馬と一緒に現れ、参加費4.25ポンド(約595円)を支払った者は誰でも、140ポンド(約63.5kg)以上の体重があるかぎり、出場が認められる。
このレースは廃止鉄道駅の近くを発走地点とし、見る限り真っ直ぐで根気のいる4マイルの道のりを走る。コースの傍らには、農場の畑や小道などがある。キプリングコーツダービーのルールには、「何らかの理由でキプリングコーツダービーが中止となったとしても、その年に代替開催が行われることはない」と記されている。これは、コースが浸水しやすいからである。2018年に悪天候の影響を受けたとき、地域の農家の人はレースを施行できるかどうか歩いて確かめに行った。
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=2zxWOdB8YVo
番外編
2頭に馬車を引かせるベンハー・スタイルの競馬の動画を紹介するチャンスを逃すわけにはいかない。これは米国ユタ州ソルトレークシティの北部、オグデンのゴールデンスパイク・イベントセンター(Golden Spike Event Center)で施行されている世界カッター&チャリオットレーシング・チャンピオンシップ(World Cutter & Chariot Racing Championship)である。たしかに競馬というより繋駕競走に近いかもしないが、一見の価値はある。皆様も同意してくれるでしょう!
【レース映像】https://www.youtube.com/watch?v=mQMeMfz8rMk
By Nicholas Godfrey
(1ポンド=約140円)
[Thoroughbred Racing Commentary 2019年3月17日「Are these the world's ten strangest horse races?」]